軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第290話 別行動

ランスは自室で溜息混じりでララの手を借り、公務用の衣服へと着替える。

「まったく、どうしてこう王族や貴族というのは建前やメンツを重要視するのかね。僕から言わせれば非効率も甚だしいよ。まったく」

本来ならメイド達の手を借りるが、今回はララに手伝ってもらっていた。

彼はこの後、朝から約1週間かけて妖人大陸第二の国力を誇るザグソニーア帝国第一王女、ユミリア・ザグソニーアと一緒に周辺地区を回らなければならない。

そのためララとの会話はこの着替えの時間しかとれないのだ。

まさか公務で婚約者と一緒に愛妾(と勘違いされている)を連れて回るわけにはいかない。

ましてララは行方不明になっているハイエルフ王国、エノールの第一王女。

もし彼女がランスの愛妾扱いされていることが知られたら、問題になるのは確実だ。

そのことを理解しているララは、ネックレスで容姿を替え、人目がある場合は外套を頭からすっぽりと被っている徹底ぶりだ。

だが、今回はランスの私室で人目もないため、外套はとっている。

「元王族としては耳が痛いですね」

ララは幸せそうな微笑みを浮かべながら、ランスの愚痴に付き合う。

彼は彼女の台詞に反応して慌てて否定した。

「ララを非難しているわけじゃないよ。僕はあくまでうちのメルティア王国のやり方について疑問を提示しているだけだから」

「もちろん、分かっていますよ」

今のララにはリースや敵対者に向ける鋭い気配はない。

まるで童女のような朗らかな空気をまとっていた。

ランスはララの言葉に息を漏らすと、愚痴を再開する。

「ならいいけど。しかしわざわざユミリア王女を帝国に送るついでに、メルティア王国城下をパレード形式で通り、そのまま一緒に僕が領内でした事業の視察を彼女とおこなうなんて。もちろん狙いは分かるよ。一緒にパレード形式で通ることでメルティア国民に僕とユミリア王女の仲を強調。それを通して王国と帝国の仲が強固だということをアピールする、という狙いだって。視察もその一環だと」

ランスはさらに深い溜息を漏らす。

「しかしあまりに面倒で不毛だ。転移を使えば一瞬で行き来出来る距離をわざわざ馬車でいかないといけないし、パレードで見せ物にされるなんて……。だいたい両国の関係が強固だと主張するならもっと効率的な方法があるだろう。どうしてわざわざこんな面倒な手間をかけるのかね。予算と人員、時間の無駄だと思わないかい?」

「確かにランス様の仰るとおりですが、そうやって資金や人材を使用することで市場は回り、モチベーションのアップもはかれます。さらにランス様は民衆達の人気がありますから、機会があれば表に出したいのですよ。そうすることでより人気を得て、体制を盤石に出来ますからね。使えるのもは使っておかないと、ということでしょう」

「まったく次期国王とかもてはやされているけど、体の良い人気取り道具か」

ランスは冗談っぽくオーバーリアクション気味に肩をすくめる。

だが、すぐに瞳を鋭く尖らせた。

「だがこの公務が終われば時間が取れる。そうすればよいよ妖人大陸最北端へと行けるわけか。エサは十分撒けているか?」

「はい、問題ありません。全て計画通りに進行しております」

「堀田くんも多々策を練ってくるだろうが、ララの『予知夢』や『千里眼』の前じゃ丸裸同然。彼のやろうとしている行動、策、全てが見通せる。こちらはそれを利用してやればいい。まったく楽な作業だよ。ララの精霊の加護は本当に便利だな」

「……はい、ありがとうございます」

ララは褒められたが、すぐに反応を返さず一瞬の間を作ってしまう。

ランスは気づかず話を続けた。

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ララはランスを公務へ見送りだした後、一人あてがわれている私室へと向かう――と見せかけ外出するための通路へと足を向ける。

その彼女の足を止める存在が立ちはだかっていた。

「あら、偶然ですね愛妾さん」

「…………」

ザグソニーア帝国第一王女、ユミリア・ザグソニーアがメイドを背後に従え立っていたのだ。

ララの存在を目立たせないように、彼女の私室は人が良く通る場所から離れた場所にある。

そのため意図的に待っていなければ、今回のように会うことなどありえないのだ。

「ランス様とお会いしていたようですが、もしかしてわたくし達の公務のため準備をお手伝いしてくれていたのですか? ご苦労様です」

ユミリアは朗らかな笑みを浮かべて話しかける。

「来年の今頃にはわたくしとランス様は結婚し、正式な夫婦になっています。そうなればわたくしもメルティアへ移り、ランス様を妻としてお支えすることになります。その時は愛妾さんも一緒にランス様を仲良く陰ながら支えましょうね」

言葉は前向きで、ララを認めて一緒にランスを支えようと告げている。

しかし、言外に自分があくまで正妻。ララは妾なのだから立場をわきまえるようにという意図が込められていた。

妾の分際で正妻である自分を差し置いてランスに取り入ろうとするな、と。

ランスは大国メルティアの次期国王。

そして、妻となるユミリアは帝国の第一王女。

血統、地位、美貌、年齢、国力――全てに置いてこれほど理想的な結婚相手はいない。

端からララはお呼びではない。少しでも自分達の間に入り込めるとでも思っているのか――と、ユミリアの背後に居るメイド達がくすくすと笑い告げてくる。

もちろんララ自身、彼女が何を言わんとしているのか理解している。

その上で愚者を前にしたように溜息を漏らした。

その吐息はとても小さなものだったが、ユミリア達の耳には確かに聞こえた。

彼女達の友好的な態度が一瞬で変化し、不快感を表すものへと変わる。

背後に控えるメイド達が、不快感を露わにララを口撃する。

「なんですか、その態度は。ユミリア様の前ですよ」

「まったくこれだから出自も分からぬ卑しい者は……」

「いくら貴女がランス様の愛妾でも、ユミリア様が一声かければ即座に捨てられるのですよ。ユミリア様と貴女、どちらがランス様に愛されているのかも分からないのですか?」

「黙りなさい、小鳥ども……ッ」

ララが告げる。

大声を出したわけでもないのに、一瞬でユミリアとメイド達は喉を掴まれたように黙り込む。

彼女達は無意識に半歩だけ後ずさっていた。

「貴様達にランス様の何が分かるの。彼を真に理解しているのは私だけ。オマエ達はただの歯車にもなれない捨て駒。捨て駒なら捨て駒らしく、黙って口を噤んでにこにこ笑っていなさい」

帝国の第一王女に対して聞く口ではないが、誰もララへ反論することができなかった。

彼女達はまるで喉元を剣で撫でられているような寒気を覚える。

ララが再び歩き始める。

「ひぃッ……!」

ユミリアとメイド達は壁際へと後ずさり、ララのために道をあける。

王族としてのプライドより、生物としての本能が勝った結果だ。

ララはそれ以上何も告げず、一瞥も向けずただ目的のために動き出す。

最初からユミリア達などと目に入っていなかったという態度で――

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ララはユミリア達と分かれた後、一人メルティアの城下街へと出ていた。

彼女が向かうのはスラムに近い裏側。

娼館や妖しげな薬屋、違法品でも買い取る道具屋など妖しい店が並んでいる。

まだ昼間ということもあり人通りはほとんど無い。

もうすぐ表の大通りでランスとユミリアのパレードが行われるためという理由もあるが。

彼女は外套を頭からすっぽりと被ったまま、さらに奥へと進む。

進んだ先。

スラムにほぼ入りかけているぼろい宿。そこが彼女の目的地だ。

ララは中に入る。

一階は酒場としても利用され、昼間から飲んでいる客も居る。

ララはすでに千里眼で彼らの位置を把握していたため、迷わず昼間から飲んでいる客のテーブルへと腰を下ろす。

「随分と早かったな。もう少し時間がかかると思っていたんだが」

「…………」

入れ墨の男、人種族、レグロッタリエ。

そして同席する人種族の男、エイケントが酒場で昼間からだらだらと酒を飲んでいた。

「無駄口はいいわ。もうすぐランス様が妖人大陸最北端へと出発する。貴方達の準備はいい?」

「もちろん今すぐ出発できるほど完璧さ。なぁエイケント」

「…………」

レグロッタリエに話を振られたエイケントだが、反応せずただ黙って腕を組み続けている。

「ところでちゃんとあの金髪野郎には気づかれていないんだろうな?」

「ええ、大丈夫。細心の注意を払っているから」

「はぁっ! だとしたらとんだ間抜けだな! これだから高いところを見ている奴は。自分の足下がどうなっているのかも理解してないか――」

レグロッタリエの台詞が途中で止まる。

先程のユミリアへの殺気など生ぬるい殺意の視線に最後まで話すことができなかったのだ。

「ランス様をおとしめる発言は許さないわ」

「すまん、失言だ。悪かったって。だから、そう怖い顔で睨むなよ」

レグロッタリエは両手を上げ降参とアピールする。

その態度にララは殺意を霧散させた。

「俺様達はあくまでギブアンドテイクの仲だ。ビジネス相手を怒らせる趣味はないよ」

「分かっているならいいの。今後は気を付けて」

「へいへい」

レグロッタリエは酒精を飲み干すと、席を立つ。

エイケントも後に続いた。

「それじゃ俺様達は予定通り動く。そっちもしくじるなよ」

「分かっているわ。そっちこそ失敗しないでね」

ララの釘刺しにレグロッタリエは鼻で笑って奥へと消える。

荷物を取りに行ったのだろう。

ララは最後まで彼らを見送らず宿屋件酒屋を後にする。

こうしてランスも知らない話し合いが終わり、それぞれが動き出した。