軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第267話 祝賀会

始原(01) との戦闘後、彼らは『負けた方が、勝った方の条件を無条件に受け入れる』の約束通り、今のところは PEACEMAKER(ピース・メーカー) の指示に従ってくれている。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) の戦力を見せたのと、 始原(01) の象徴であるアルトリウスが未だに行方不明だからだろう。

戦闘後の翌日も PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーで捜索したが、どこを探しても見付からなかった。

そのため現状、彼は行方不明扱いになっている。

アルトリウスのいない 始原(01) についてだが、現在ミューアに出向してもらいっている。

テン・ロンに協力を仰ぎ、ミューアが主導する形で今まで 始原(01) がやってきた5種族勇者関係の隠蔽、協力者や被害者の洗い出しなどをおこなっている。

今後はアスーラのためにも、魔王の誤解や5種族勇者がひた隠しにしてきた真実など時間をかけて明かしていく予定だ。

オレ達としても、急に5種族勇者の件を公表して、市場やこの世界を混乱に陥らせるつもりはない。

その辺の情報公開の塩梅も、今後ミューアや 始原(01) 暫定団長であるテン・ロンなどと話をしていかなければならないだろう。

また 始原(01) を倒して以後、面倒なことが増えた。

その面倒事とは――オレに会って是非挨拶がしたいと、お偉いさん達の訪問申し込みが激増したのだ。

特に挨拶をしたいとひっきりなしに連絡を寄こすのは、天神教会と 冒険者斡旋組合(ギルド) 本部だ。

まさか 始原(01) が敗れるとは夢にも思わなかったのだろう。

寄こされる手紙には PEACEMAKER(ピース・メーカー) やオレを持ち上げ、褒め讃える文章がうんざりするほど並び、贈られてくる品々はどれも『超』が付く高級品ばかり。

彼らも 始原(01) を打破した PEACEMAKER(ピース・メーカー) の牙が、自分達に向かないよう必死なのだろう。

もちろん五種族勇者の件に関しては、天神教会や 冒険者斡旋組合(ギルド) 本部のやり方に腹は立つ。

しかし、だからといって秘密を知った奴を殺そうとした 始原(01) のように、即行動を起こし断罪するほど自分達は凶暴ではない。

第一、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は 始原(01) を打破したと言っても、メンバーは全部で40人いないのだ。

もし天神教会や 冒険者斡旋組合(ギルド) が敵に回ったら、オレ達だってただではすまない。

だから、真っ正面から喧嘩を売るつもりはない。

また今まで 始原(01) がおこなっている業務を奪うつもりも、引き継ぐつもりもない。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) と 始原(01) では、やはり 軍団(レギオン) として規模も、格も違い過ぎる。

なのに無理をして 始原(01) の立ち位置を奪っても、デメリットしかない。

もちろん、今までの仕打ちは忘れていないため、何かしらの罰は与えるつもりだ。

その罰はまだ考え中である。

なぜなら 始原(01) との戦後処理が山積みでまったく終わっていないため、そこまで手が回らないからだ。

あまりに手が足りないため、すでに引退して 始原(01) 戦にも参加しなかったガルマを呼び戻そうかと考えるほどである。

「くそ、仕事が多すぎる……。あー、休みたい……」

そして今日もオレは PEACEMAKER(ピース・メーカー) 本部執務室で、書類との格闘をおこなっていた。

なぜ勝った側の自分達がこんな苦労をしなければならないのか?

これならまだドラゴン100匹と戦っていた方がまだ楽というものだ。

扉がノックされる。

返事をすると、シアが書類を手に顔を出す。

「失礼します。今、お時間よろしいでしょうか? 始原(01) 、アルトリウスに関しての調査報告書が上がってきたのでお持ち致しました」

「ありがとう。すぐに目を通すよ」

オレが手を伸ばすと、シアはすぐに書類を差し出す。

始原(01) 戦の事後処理をしつつ、オレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は消えたアルトリウスの行方を引き続き調査していた。

報告書によると、アルトリウスが 燃料気化爆弾(FAEB) に飲み込まれた場所を再調査。詳しく調べると、その地面に彼が逃げ込んだらしき痕跡が発見された。

そのため彼が生きている可能性は極めて高い。

なのに未だ 始原(01) 本部や支部に姿を現していない。

周辺の都市、街などにも姿を現した痕跡はなし。

完全に行方をくらませている。

他にも信憑性の低い目撃情報や噂、彼が潜んでいる可能性が高い国や地域などなど――色々な情報が書かれてあるが、どれもあてにならないものだった。

オレは溜息をついて報告書から顔を上げる。

「有力な手がかりはなしか……こりゃまだ当分、エル先生の護衛は外せないな」

「部下の護衛メイド達には、より一層警戒するよう伝えておきます」

始原(01) 戦後、エル先生に囚われていた時の話を詳しく尋ねた。

もし 始原(01) に囚われているあいだ酷い目に合っていたのなら、こちらとしてもそれ相応の態度を取るつもりだった。

しかし、黒エルフのシルヴェーヌの誤解から暴力を振るわれたが、それ以外はとても大切に扱われた――と、エル先生本人から言われて、酷いことはしないように釘を刺されてしまう。

そのためエル先生に暴力を振るったシルヴェーヌにすら、オレは手を出すことができなかった。

オレはその時、思わず悔しさに歯噛みしてしまったほどだ。

さらにエル先生に話を聞くと、どうもアルトリウスが彼女に執着していることが判明。

シルヴェーヌや他 始原(01) 幹部からも話を聞き、『アルトリウスがエル先生に懸想している』可能性が非常に高まる。

あの鉄仮面が、エル先生に部屋へ入れてもらえず部下の目の前で雄叫びをあげ、 始原(01) 本部の壁を破壊していたらしい。

彼の入れ込みレベルは、執着、妄執の域に達している可能性がある。

そのためエル先生を 始原(01) 戦後、妖人大陸にある孤児院には戻せなかった。

1人で居る時にアルトリウスに襲われ、連れ去られる可能性があるからだ。

それ故、彼の所在が確認できるまで、エル先生はシアの直部下である護衛メイド達に警護してもらっている。

始原(01) に勝ってエル先生を奪われたら――試合に勝って、勝負に負ける状態になってしまう。

しかし、いつまでもエル先生を新・純潔騎士団本部に置いておくわけにはいかない。

個人的には側に居てくれた方が心強いし安心なのだが、本人が子供達を心配して帰りたがっているのだ。

その声を無視し続けるのは難しい。

「とりあえず、引き続きアルトリウスの調査を継続して、居所を掴むしかないな」

「それまではエル様は我々が護衛しますのでご安心を」

「頼りにしてるよ。それから――」

「? 若様?」

オレはシアに声をかけた後、背もたれに体を預け考え込む。

一応、念は入れておいた方がいいか……。

突然、考え込むオレにシアが首を捻り声をかけてくる。

彼女の声に反応するように視線を戻し、指示を出す。

「シア、もう一つ頼みがあるんだが……」

「なんでしょうか?」

そしてオレは念のための保険として『ある物』をシアに用意しておくよう指示を出す。

彼女は話を聞き、珍しく口元を悪戯っぽく弛ませ了承。

一礼し部屋を退出した。

シアが部屋を出た後、オレは再び背もたれに体を預ける。

「さて、一応の保険はかけておいたが、上手くいくかどうか……」

オレは溜息を一つして、再び書類作業に戻った。

――それから約一ヶ月後。

一通りの戦後処理が片付き、ようやく終わりが見えてきた。

そのため、延期していた 始原(01) 戦の祝勝会を開くことができた。

ミューアが 始原(01) 本部から一時的に戻ってきたため、そのタイミングに合わせたという理由もあるが。

前回、ココノの歓迎会を開いた時のように、普段なら食堂で夕食を摂る時間、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバー達がグラウンドに集まっていた。

グラウンドにはテーブルが並び、その上に料理やお酒などが山ほど並んでいる。

前世、地球のようにビュッフェ形式で食べ物を取り、好きな席に座って食べてもらおうという趣向だ。

皆がグラウンドに集まっているのを確認してから、オレは挨拶のため声をあげる。

「えー、本日は参加して頂きまして本当にありがとうございます! 始原(01) との戦いに勝ち、恩師であるエル先生を傷1つなく救い出せたのも一重に皆様のお陰です。ささやかではありますが、祝勝会ということで料理やお酒、ジュースなどを用意したので存分に楽しんでください。……では話が長くなると煙たがられるので挨拶はこの辺で」

挨拶が終わると、皆が皿を手にテーブルへと並ぶ。

そこに並べられた料理や酒などを好きなだけ取っていく。

料理の準備はシアの部隊である護衛メイドが勤めた。

これも訓練の一環だとかで。

現在もシアは自ら指揮を執り追加の料理などを製作している。

彼女達もある程度、作業が終わったら祝勝会に参加する予定だ。

ラヤラが両手の皿に料理を山盛りに載せ、席に着くと美味しそうに食べ始める。

「ハフ、ハフ、フヒぃ、か、唐揚げ美味しい」

ラヤラは唐揚げの他に、ステーキ、肉の串焼き、焼き鳥、ハンバーグ、竜田揚げに、トンカツ、チキン南蛮――兎に角、肉系の料理を皿に盛って嬉しそうに食べている。

本当に肉が好きだなラヤラは……。

しかも、ラヤラは小柄の割りに、食べる量が旦那様とほぼ変わらないのだ。

あの小柄な体のいったいどこに、あれだけの食べ物が入るのだろうか……。

「むぐぅ! うぐぅッ!」

不思議がっていると、ラヤラが口に食べ物を入れ過ぎて喉を詰まらせる。

彼女は料理しか手に取らず、飲み物を確保していない。そのため胸を自分で叩くぐらいしか方法がなかった。

オレは呆れながらジュースを手に取り、彼女の前に置いてやる。

ラヤラはコップに注がれたジュースを一息で飲み干し、詰まった食べ物を押し流すことに成功した。

「ふ、フヒ、ありがとうございます。あ、危なくち、窒息死するところでした、フヒ」

「どんだけ口に詰め込んでるんだよ。誰も取らないからちゃんと噛んで食べるんだぞ。消化にも悪いし」

「き、気を付けます、フヒ」

「でも、ラヤラには感謝しているよ。ラヤラのお陰で無事にエル先生を助け出すことができたんだから」

「い、いえ、ウチはウチの出来ることを、フヒ、やったまでですから」

でも、と彼女は話を続ける。

「エルさんとギギさんを、フヒ、助けて飛び上がった後、 燃料気化爆弾(FAEB) をギリギリで回避出来ましたけど、フヒ、とても熱くてウチが焼き鳥になるかと思いました。た、タカ族だけに」

精一杯のコミニケーションとしてギャグを言ってくれたんだろうが、その冗談は笑えない。

ラヤラによる救出が間一髪だったとの報告を聞いて、後からオレは少々背筋が寒くなったものだ。

『ラヤラちゃん、追加の料理お持ちしましたよ』

「みんなで一緒に食べよー!」

「ラヤラ様のお好きなお肉の他に、体によさそうなサラダもお持ちしましたよ」

ラヤラ渾身のギャグを、オレが乾いた笑いで流していると、背後から声をかけられる。

追加料理を手にしたクリス、ルナ、ココノが姿を現す。

さらに背後にはカレン、ミューア、バーニーのクリス幼なじみ三人組も居る。

『リュートお兄ちゃんも酒精だけではなく、ごはんちゃんと食べてますか?』

「もちろん、ちょこちょこ食べてるから大丈夫だよ」

「お肉や揚げ物だけではなく、ちゃんとお野菜も食べてますか? よかったらリュート様も一緒に食べてください」

オレを見付けたクリス&ココノ嫁コンビが、かいがいしく世話をしてくれる。

両手に花とはまさにこのことだ。

ルナも興奮気味に、話しかけてくる。

「リューとんも、あのチキン南蛮とか、トンカツとかもう食べた!? あれ、滅茶苦茶美味しくない!?」

もちろん食べたさ。

だって、その料理を最初に作ったのはオレなんだから。

どうやらルナは新メニューを気に入ったらしく、いかに美味しかったか語りかけてくる。

今回 始原(01) 戦でのルナの功績は、とてつもなく大きい。

もし彼女がいなければ 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 、MVT信管、 燃料気化爆弾(FAEB) 、他、戦いに間に合わずこちら側が負けていただろうな。

そんな彼女が喜んでくれるなら、新料理を作って本当によかった。

カレン、ミューア、バーニーとも会話をした後、席を離れる。

次に旦那様やアスーラ、ノーラなどと挨拶を交わす。

そして次に向かったのは、スノー、リース、メイヤ、エル先生、ギギさんが居る席だ。

オレを見付けると、スノーが声をかけてくる。

「リュートくん、ちゃんとご飯食べてる?」

「大丈夫、ちゃんと食べてるよ。ていうか、さっきもクリスとココノに同じことを言われたよ。そんなに食べてないイメージがあるか?」

「確かにそういうイメージがちょっとありますね。リュートさんは食事を摂るより、挨拶回りや皆がちゃんと食べて問題ないか確認しているイメージがあるので」

オレの台詞に、リースが優しげな笑みを浮かべながら返答する。

席順としてはエル先生の隣にスノー、正面にメイヤ、リース、下座にギギさんが座っていた。

立っているのも何なので、オレは空いている上座に腰を下ろす。

「リュートは線が細すぎる。だから、あまり食べていないイメージがついているのではないか? 正直、もう少し食べて肉を付けた方がいいと思うぞ」

「そうですか? これでも結構、食べて筋肉がついた方なんですが」

ギギさんのアドバイスに思わず腹を触る。

事務仕事は増え、運動量が相対的に減ってしまったが、筋トレなどは欠かさないため昔に比べて筋肉量は増えているのだが……。

「リュート君、食べたと言ってもまだ余裕ありますよね? 遠慮なく、こっちのお皿のを食べていいですからね」

「ありがとうございます、エル先生」

オレは彼女に勧められるまま、フライドポテトや唐揚げが乗った皿に手を伸ばす。

そんなオレにメイヤは席を立ち、わざわざ背後から回り込んで皿を突き出してくる。

「リュート様、ささ、こちらもお食べください! あぁ! お飲み物も無くなりそうですわね。すぐにお持ちしますわ! 果実の酒精でよろしかったですわよね!」

「あっ、うん、それじゃお願いしようかな」

「はい! お任せください! リュート様の一番弟子にして、右腕、腹心、次期正妻候補のメイヤ・ガンスミス(仮)が痒いところまで届くお世話をさせて頂きますわね!」

メイヤは喋りながら、ちらちらとエル先生に視線を飛ばし終えるとビュッフェテーブルへと突撃する。

どうやらかいがいしくオレの世話を焼くことで、正妻・嫁アピールをエル先生にしているようだ。

エル先生もさすがに気付いているらしく、曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。

リースが気を利かせて、話を振る。

「ですがエルさんが大きな怪我もなく、無事で本当によかったですね」

「これもリュートくんやスノーちゃん、リースさん、みんなのお陰です」

「えへへ、エル先生のためだもん。これぐらい当然だよ」

スノーはエル先生の隣に座り、娘のように甘えていた。

そんなスノーの頭をエル先生は愛おしげに撫でる。

「それと……私が無事なのは、ギギさんが助けに来てくださったお陰です。本当にありがとうございます」

「いえ、自分はただリュートの作戦を実行したにすぎません。自分一人では何もできませんでしたよ」

「それでもありがとうございます。……でも、もうあんな無茶はしないでくださいね。もっとギギさんは自分を大切にするべきです」

「……善処します」

「絶対ですよ?」

「はい、なるべく」

エル先生が笑顔で念を押すと、ギギさんは『頭が上がらない』という態度で返事をする。

はっ? 何この『妻には逆らえない旦那』のようなやりとりは?

ギギさんも、『尻に敷かれるのは悪くない』雰囲気をぷんぷん出している。

あぁあ~あ! なんだか急にAK47やパンツァーファウスト、対戦車地雷や 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 、 燃料気化爆弾(FAEB) の整備をしたくなってきちゃったな。

滅茶苦茶、整備したくなってきたなぁぁあぁあッ!

「リュート様、どうかなさいましたか? まるで親の敵を目の前にしたような表情をして」

飲み物を取りに行ったメイヤが戻ってくる。

スノーやリースは、オレの胸中に気付いたのか『大人になりなさい』とでも言いたげな視線を向けてくる。

大丈夫、分かってる。

ほんと分かってるから。

オレは酷く冷静だ。

円周率だって言えるぞ、3.1415――

「ギギさん……」

「エルさん……」

2人はいつの間にか見つめ合い、まるで恋人同士のように互いの名前を呼び合う。

はっ? 今、祝勝会中なんですけど。

なのになんで2人は2人の世界に突入してるの!?

「リース、ちょっとAK47だして分解整備したくなったから。あとマガジン10本一緒に出してくれ」

「駄目に決まってるじゃないですか。大人しくしていてください」

リースは呆れながら釘を刺してくる。

ギギギギィッ!

どうしてオレはこの日に限って、サイドアームすら部屋に置いてきたのだろうか!

後悔の念が胸を渦巻く。

そんなオレの怨念――ではなく、執念――でもなく、願いが届いたのかエル先生がギギさんから距離を取る。

「すみません、ちょっと失礼しますね」

「エル先生、どちらに行くんですか? 食べ物ならオレも一緒に取りに行きますよ」

「え、えっと、リュート君、その……」

オレは一緒に席を立つ。

この申し出にエル先生が困った表情を浮かべる。

その態度に首を捻っていると、スノーに窘められる。

「リュートくん、リュートくんはいいからここに座っていて」

「いや、でも、取ってくる量が多かったりしたら、エル先生一人じゃ大変だろ? だったらオレも一緒に――」

「いいから座ってて」

「……はい」

スノーの妙な迫力に気圧され、席に座り直した。

エル先生はスノーに目で礼を告げ、笑顔を浮かべる。

「申し出ありがとうリュート君。でも、1人で大丈夫だから」

「エル先生がそう言うなら……」

「それじゃちょっと失礼しますね」

エル先生は笑顔を浮かべてテーブルを離れる。

彼女が向かった先は本部建物だった。

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「ふぅ……少々飲み過ぎてしまいましたね」

席を離れたエルは新・純潔乙女騎士団本部へと戻ってくる。

彼女は暗い廊下を歩き、1階のトイレへと向かう。

彼女は廊下を歩きながら、先程のやり取りを思い返す。

「リュート君は興味のある分野は洞察力や研究熱が高い子なんですが……それ以外だととっても察しが悪くなる時がありますね」

危うくギギの前で『トイレへ行く』と言わされそうになった。

ギギ自身、リュートとのやり取りで、エルがどこへ行こうとしたのか察しただろう。

思い出すだけで顔が羞恥心で赤くなる。

エルは頬を赤く染めたまま、女子トイレへと入っていた。

――そんな彼女の背後。

廊下の曲がり角で、女子トイレに入るエルを見詰める影。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

顔は火傷を負ったのか、汚れた包帯を巻いていた。

全身を覆う鎧も傷だらけで、一部破損していたりと見る影もない。

一見、すぐに息絶えそうなほどボロボロだが、目だけが獣のように爛々と光り輝いている。

彼こそ、 始原(01) のトップ、人種族最強の魔術師S級、アルトリウス・アーガーだ。

彼はエルがトイレに入ったのを見送ると移動開始。

今度は女子トイレ出口に近い場所に身を隠す。

そして、エルが出てくるのを待ち続けた。

どれぐらい経っただろう――女子トイレの扉が開きピンク髪の女性が出てくる。

アルトリウスは音も立てず、背を向け歩き出す彼女の背後へと近付き――背後から抱きつく。

右手で逃げられないよう腰を、左手は叫ばれないように彼女の口元を押さえる。

「……ッ!?」

彼女は突然のことに振り返ろうとするが、アルトリウスが手で押さえているため首を動かすことすらできない。

「エル嬢、助けに来たぞ。さぁ、我と一緒に邪悪な魔王の城から抜けだそう」

彼は爛々と光る目で、背後から告げる。

「我が準備した2人で暮らす家に――一緒に行こうじゃないか……ッ!」

窓からさしていた星明かりが、雲に隠れる。

同時に2人の姿も暗い闇の中へと消えてしまった。