作品タイトル不明
第262話 始原、戦力
獣人大陸にある、とある平野。
普段は冒険者がここからさらに奥にある森へ 冒険者斡旋組合(ギルド) から依頼を受けて、魔物を狩りに行く。
この平野はその通り道だ。
そんな通り道であるはずの野原に、武装した兵士が隊列を組む。
しかもこの世界の5種族ではない。
異形――魔物の軍勢だ。
一般兵士のように鋼鉄製の鎧、大楯を装備し強化された 大鬼(オーガ) 部隊1000体。
巨大な弓を手にしたオーク、弓兵部隊1000体。
軽装だが、脚力に特化したゴブリン歩兵部隊1000体。
この時点で、大抵の軍隊に勝利できる戦力だ。
さらに目を引くのは巨大な動く城のような羽根の無いドラゴン。
陸竜(りくりゅう) と呼ばれる特殊な種をさらに強化した魔物である。
他にも多数の魔物達がまるでよく訓練された兵士のように毅然と整列している。
総勢、約1万。
全てをアルトリウスが特異魔術で召喚した後、さらに強化している。
これらはただ突撃させるだけで、簡単に一国を滅ぼせる戦力である。
だが、今回はそれだけでは終わらない。
ここにさらに、 始原(01) の幹部である 四志天(ししてん) が参加している。
「いやはや、何度見ても団長の魔物軍隊には味方である自分ですら畏怖を覚えますね」
始原(01) 陣地。
平野に魔術で無理矢理、緩やかな丘が作ってある。
これはアルトリウスが、丘の上からエルが観戦しやすいようにと配慮したからだ。
アルトリウスは丘の中腹に腕を組んで立ち、自分が喚び出した魔物の軍勢を眺めている。
そんな彼の元に、竜人種族魔術師Aマイナス級、テン・ロンがやってくる。
目が糸のように細く、三国志時代の軍師のような衣服を身に纏っている人物である。
「テンか…… PEACEMAKER(ピース・メーカー) の様子はどうだ?」
「我々同様、陣地構築後、戦闘準備をしているようですが、どうも今まで見てきたのとは違うようで……実際にご確認されたほうが分かりやすいですかね。『 天空座視(テイアンコン) 』」
テンは両手を広げ、意識を集中し特異魔術を使用する。
目の前に1m×1mの長方形の平たい透明な土台が生まれ、そこに同色のドームが作り出される。
そのドームに約5km先にある PEACEMAKER(ピース・メーカー) 陣地が映し出される。
これがテン・ロンの特異魔術である『 天空座視(テイアンコン) 』だ。
彼は戦闘能力は高くないが、代わりに敵軍の陣地、罠、伏兵、兵士配置などをリアルタイムで映し出し、第三者に見せることができる。
前世、地球で言うところのスパイ衛星のようなものである。
この特異魔術でテン・ロンは 始原(01) 竜人大陸支部のトップについたのだ。
「奴等は何をしているんだ?」
テンの特異魔術で映し出されたリアルタイム映像を前に、さすがのアルトリウスも首を捻る。
PEACEMAKER(ピース・メーカー) 側も 始原(01) と同じように魔術で丘を作っていた。
今度はその丘に穴を掘り、今まで見たことのない魔術道具を横に並べている。
他の団員達もまた地面を掘り返していた。アルトリウス達は知らないだろうが、塹壕を掘っているのだ。さらに金属製の棘がついた紐――鉄条網を張り巡らせ、その先の地面も掘り返して何かを埋めている。
人数は総勢で40人にも満たない。
その全員が忙しそうに戦闘開始時間に間に合うように動いている。
塹壕や鉄条網、地雷などを知らないアルトリウスやテンからすると、未開の部族が怪しげな儀式をしているようにしか見えなかった。
テンが困惑しながら、アルトリウスに尋ねる。
「団長……本当に彼らは我々に勝つつもりなのでしょうか?」
戦力比は約1万vs約40。
戦力差は約250倍である。
これで勝負を挑み勝とうというのだから正気の沙汰ではない。
「もしかしたら、意地を張りすぎて引き返せなくなっているのでは? だから自棄になり奇行に走っているのではないですかね」
「……それはないな。奴ら、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) はそれほど甘い 軍団(レギオン) ではない。だとしたら、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) あたりに潰されていたはずだ。気を抜かず監視を続けてくれ」
「了解いたしました。何か異変がありましたらすぐにお伝えします」
テンとの会話が終わると、入れ違うように魔人種族 蛇族(じゃぞく) 、魔術師Aプラス級のヴァイパー・ズミュット。
妖精種族、黒エルフ族、魔術師A級のシルヴェーヌ・シュゾン。
獣人種族、 牛族(ぎゅうぞく) 、魔術師A級のアゲラダ・ケルナーチが姿を現す。
「アルトリウスサマ、ヴァイパー隊、じゅんびガトトノイマしタ」
ヴァイパーはコブラのような外見にもかかわらず、丁寧に片膝を突き礼儀正しく報告する。
チロチロと赤い舌が何度も出る。
「ドラゴン飛行部隊の準備も整いました。いつでも飛び立てます」
シルヴェーヌもヴァイパーにならい片膝を突いて、優雅に報告をする。
アルトリウスを見上げる瞳は、今すぐ飛び立ち敵を蹂躙したい欲求と彼に女として見初めて欲しいという欲求――二つが混ざり合い独特の光を醸し出していた。
一方、牛族のアゲラダは今すぐ戦いたいという好戦的なギラギラとした光を放ち、
「大将! 早く突撃の号令をかけてくれ! 早くダンのクソ野郎と戦わせてくれよ!」
挨拶もせず鼻息荒く、声をあげる。
この態度に、礼儀にうるさいヴァイパーとアルトリウスに熱を上げているシルヴェーヌがきつい視線を向ける。
アルトリウス自身が手を挙げアゲラダの無礼を許し、二人を落ち着かせる。
ヴァイパーとシルヴェーヌが、アルトリウスの合図で立ち上がる。
彼は目の前に並ぶ 四志天(ししてん) を見回し、ゆっくりと口を開いた。
「これから PEACEMAKER(ピース・メーカー) との戦を始める。相手は 軍団(レギオン) としてのランクも格下で、戦力差は約250倍――普通に考えれば我々が負ける道理はない。しかし、相手はそんな風に奢った者達を屠り、ここまでのし上がってきた 軍団(レギオン) 。油断は禁物だ」
この言葉に 四志天(ししてん) 面々が表情を引き締める。
さらにアルトリウスが続けた。
「だがいつも通り戦えば我々に敗北はない。命令は一つ――蹂躙しろ。以後 始原(01) に逆らおうなどと気が一欠片もおきないぐらい、徹底的にだ。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を叩きつぶせ……ッ!」
アルトリウスの言葉に、 四志天(ししてん) が各々声をあげる。
そしてちょうど戦闘開始の時間近くになり、彼らはそれぞれの配置につき、事前に交わしていた打ち合わせ通り進軍を開始する。
アルトリウスはテンを連れて、丘を登る。
丘頂上には簡易ながら仮設司令部が作られていた。
その見晴らしの良い場所に魔術防止首輪をつけられたエルが、心配そうに PEACEMAKER(ピース・メーカー) がいる陣営の方角を見詰めていた。
今回、彼女がリュート達に奪われると 始原(01) の敗北となる。
なのにアルトリウスは彼女を仮設司令部に隠そうともせず、むしろ積極的に戦場を見せようとしていた。
エルがアルトリウスの姿に気が付くと、悲しそうに顔を歪める。
「……どうしてリュート君達とアルトリウスさんが戦わないといけないのですか? 話し合いをするのではなかったのですか?」
「もちろん最初はそのつもりだった。だが、その段階はすでに越えてしまった。たとえエル嬢の頼みでも止めることはできない」
それに――と彼は胸中で呟く。
( PEACEMAKER(ピース・メーカー) を蹂躙する。これこそエル嬢の目を覚まさせるために必要な行為なのだから……ッ)
彼はエルの隣に並び、同じ方角を見詰める。
その視界に広がる 始原(01) の軍団が動き出す。
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まず最初に動き出したのはヴァイパーの部隊だ。
「『 才限突破(リベラシオン) 』」
蛇族(じゃぞく) であるヴァイパーの特異魔術、『 才限突破(リベラシオン) 』は彼の配下に居る部下達の基礎能力を一時的に2倍に引き上げる。さらに部下の人数に応じて、彼自身が強化されるというものだ。
アルトリウスが召喚した多数の魔物達を部下にすれば、自分自身も魔術師S級に近い存在となれる。
このコンボでヴァイパーは 始原(01) に仇成す敵対者達を倒し続けてきた。
自分の力が、アルトリウスの下でなら100%以上振るうことができる。
それを理解しているから、彼を慕い、敬畏を払ってきたのだ。
そして今回もアルトリウス―― 始原(01) に逆らう敵対者を潰すために、ヴァイパーが動き出す。
「しょうりヲ、アルトリウスさまニササゲよ! ヴァイパーブタイ、ぜんしん!」
ヴァイパーの一声により、強化された魔物達が熟練の兵士の如く進軍を開始する。
次に動いたのはシルヴェーヌだった。
所々金属の鎧を身に纏ったレッドドラゴンに跨り声を張り上げる。
「さぁ行くわよドラゴン飛行部隊! アルトリウス様に勝利を捧げましょう!」
ドラゴン達はシルヴェーヌの声に反応し、声を高々にあげる。
ドラゴン飛行部隊、計500騎が周囲に風を舞上げ空高々に飛び立って行く。
本来、たとえアルトリウスのドラゴンといえど基本的に主である彼以外は、一部を除いて背に乗せるようなことは殆ど無い。
それだけ気位が高いのだ。
さらにドラゴン達は単騎でも特出して強すぎるため、大抵の相手は1匹出せば手も足も出さず倒すことができる。
故に、ドラゴン達は連携を余り得意とはしていない。
また主のアルトリウス以外の命令を聞くのも難しく、場合によってはまったく従わないこともある。
それはアルトリウスの呼び出したドラゴン達の弱点のひとつでもあった。
その弱点をカバーしたのが、シルヴェーヌの特異魔術だ。
彼女の特異魔術『 人形使役者(マリオネット・カンパニー) 』。
これによって、最大500匹のドラゴンを同時に操ることができる。
もちろん、操るドラゴンに対してクリアしなければならない条件はある。
しかし、相手は自身の上司であるアルトリウスのドラゴン達。彼が協力してくれれば、条件を達成するのはそう難しいことではない。
シルヴェーヌもまたアルトリウスの下にいればこそ、自身の力を十全に発揮することができるのだ。だからこそ、彼に心酔し、愛されたいと願ってしまう。
故にアルトリウスに敵対する存在全ては、彼女にとっても敵となるのだ。
「さぁ、可愛いドラゴン達。アルトリウス様に逆らうゴミ共をぐちゃぐちゃに潰してやりましょう!」
「がっはははっははは! 待っていろダン! 体という体を串刺しにして、あの日の屈辱を貴様の生き血で洗い流してやる!」
一方、アゲラダは鼻息荒く、豪快に雄叫びを上げ部下を引き連れ、ただ突撃する。
彼は馬車を改造した乗り物に騎乗し、角馬の代わりにアルトリウスが喚びだした3つ眼の暴れ牛の魔物に引っ張らせていた。
アゲラダの乗る魔物牛車の後を、アルトリウスが出した魔物達が追いかける。
そこに指揮官としての采配は微塵もない。
ただ野盗の群れのように突撃する。
アゲラダがそんな自由を許されているのは、彼の個人的戦力がアルトリウスを除いて 始原(01) トップだからだ。
攻撃方法はいたってシンプル。
彼の体に巻き付けられた鎖――その先が杭に繋がっている。
杭もただの鋼鉄製で、壊れ難いように魔術で強化しているだけだ。
アゲラダはこの杭を、膨大な魔力で強化し投擲するのだ。
その威力は一発で攻の門を粉々に砕き、ドラゴンの鱗すら楽に貫通する。
ダン・ゲート・ブラッドが防御に特化している魔術師とするなら、彼は攻撃力に特化した魔術師だ。
彼の一撃を止めようと100人の魔術師が抵抗陣を重ねがけしたが、無駄だった。それほどの威力を秘めている。
そんな戦えばどんな強国でも滅ぼせる常勝無敗の軍勢が、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に向かって迫る。
だが、途中異変に気が付く。
最初に気が付いたのはシルヴェーヌだった。
いつもなら、敵は自分達の戦力に恐れおののき、逃亡を図ったり、悪夢を視るような目でただ呆然と見上げていたりする。
しかし、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) にそんな絶望的空気は微塵もない。
皆、冷静沈着に動き、4つ並んだ巨大な魔術道具に群がっている。
刹那――4つ並んだ魔術道具が爆発したのかと錯覚するほど火を噴き出す。
シルヴェーヌが意識を保っていられたのはそこまで――彼女が最後に見た光景は視界を覆うまばゆい光のようなものだった。