軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第251話 交渉

一般的な魔術師としての才能を持つ者はBプラス級が限界だと言われている。

その先のA級は一握りの『天才』と呼ばれる者が入る場所だ。

さらにその天才すら越えたS級は『人外』『化け物』『怪物』と呼ばれる存在である。

この異世界にS級は5人しかいない。

妖精種族、エルフ族、『氷結の魔女』。

竜人種族、『 龍老師(ロン・ラオシー) 』

魔人種族、『腐敗ノ王』。

獣人種族、『 獣王武神(じゅうおうぶしん) 』。

そして人種族、『 万軍(ばんぐん) 』、 始原(01) 団長、アルトリウス・アーガー。

『世界と1人で戦える男』と言われる、人種族最強の魔術師である。

そんな魔術師S級の男が、まるで最初からそこに居たように立っていた。

「ッ!?」

甲板に出ていたオレ、スノー、ギギさんが咄嗟に動く。

オレとスノーが、エル先生と子供達を守るように背後へと隠す。

ギギさんはアルトリウスへといつでも攻撃を加えられるように戦闘態勢を取る。

しかし、アルトリウスはまったく動揺をみせず、尋ねてくる。

「…… PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長、リュート・ガンスミスとは君でいいのか?」

スノー、ギギさんを順番に見て、最後にオレに声をかけてきた。

情報として PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長は人種族だと聞いているのだろう。警戒心を露わにしている者達のなかで人種族はオレしかないため、消去法で判断したらしい。

どう返答するべきか逡巡したが、素直に答えることにした。

「ああ、オレが PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長、人種族、リュート・ガンスミスだ」

「やはりか……できれば話し合いをしたいのだが、時間は今大丈夫か?」

「じ、時間って……ッ」

こちらの警戒心を本当にまったく気にせず、アポなしで尋ねて来た知人のように問いかけてくる。

「ははははは! 良いではないかリュート、話をしても! 折角、あの魔術師S級殿がわざわざ尋ねてきたのだからな!」

声に振り返ると、船内から旦那様が姿を現し、勝手に話を決めてしまう。

旦那様の背後からリースが姿を現しお茶会の準備を始める。

「では、子供達よ! 我輩達は大切な話をするから、皆は船内に入っていいなさい! エル殿、引率を頼むぞ!」

「は、はい! それでは皆さん、外はもう寒いですから中に入りましょうね」

エル先生が小学校の遠足を引率する先生のように子供達を船内へと入れて行く。

今になって旦那様の意図を理解した。

もし今すぐ、彼と戦った場合、背後にいた子供達を巻き込むことになる。怪我で済めばいい。大抵の傷はエル先生が治癒で治してくれる。

だがもし死んでしまったら……。

少し考えれば分かることじゃないか。

アルトリウスの登場に、自分が想像するよりずっと混乱していたようだ。

それを見抜いたから、気持ちを落ち着かせるためにも旦那様が相手の話に乗ったのだろう。

リースが甲板に『無限収納』からテーブル、椅子を出す。

「…………」

リースがオレを一瞥し、船内へと戻って行く。

……どうやら、すでにクリス、シアの戦える人材には武器を手渡し済みのようだ。

恐らく旦那様の指示だろう。

「はははっはっはあ! アルトリウス殿、遠慮無く好きな席に座ってくれたまえ!」

旦那様が勝手にホスト役を担当する。

いや、ありがたいからいいけど……

オレ、旦那様、アルトリウスが席に座る。

スノーとギギさんは、オレと旦那様の背後にボディーガードのように立つ。

席に座ると、シアが待ち構えたように盆に香茶と茶菓子を持って姿を現す。

まさかとは思うが、お茶に毒とかいれていないよな……。

オレの心配をよそにアルトリウスは何も気にせずにお茶に口をつける。

続いて旦那様もカップに手を伸ばした。

「はっはははははは! 相変わらずシア殿の淹れるお茶は美味いな!」

「恐れ入ります」

シアは旦那様の言葉に一礼してから背後へと控える。

てか、地味に旦那様とシアは仲が良いな。

「……それで、今回の突然の来訪はどういった理由ですか?」

オレは旦那様達から視線を外し、アルトリウスへと問う。

彼は一度、甲板に居るオレ、スノー、旦那様、ギギさん、シアの順番に見て回り、考える素振りをしてから口を開く。

「……ガンスミス卿は魔物大陸で魔王を復活させたな」

「…………」

暫しの沈黙、互いの眼光が重なりあう。

先にアルトリウスが手の内を明かす。

「無理に誤魔化さなくてもいい。この情報は精度の高いものだ。でなければわざわざ突然、押し掛けたりなどしない」

「精度の高い、ですか……誰から聞いたのかだいたい予想は付きますよ」

オレは背もたれに体を預けて、足を組み替える。

アルトリウスはこの返答を予想していなかったのか、表情を変える。眉根を寄せた程度だが。

オレはさらに優位を得るため切り込む。

「情報を持ち帰ったのはハイエルフ王国、第1王女、ララ・エノール・メメアですね」

「……いや、違うが……どうしてここでララ嬢の名前が出るんだ? 彼女はずいぶん前に失踪してまだ行方が分からないはずだが?」

アルトリウスはこの場で出るとは考えもしていない名前が上がったようで、困惑した表情を浮かべる。

次に彼は、ララ失踪にオレが関与しているのかといった視線を向けてきた。オレは誤解をとくため『黒』についての話をする。

詳細は省き、『黒』という組織とそしてそれを実質運営していたのがララだと教えた。

話を聞き終えたアルトリウスは、顎に手を当てオレからもたらされた情報を精査していた。

「……なるほど合点がいった。ララ嬢が『黒』に付いていたのなら、我々がどれだけ手を尽くしても奴らが捕まらないのも納得できるというものだ」

ララの精霊の加護『千里眼』と『予知夢者』の二つを持っているのは有名な話らしい。

しかし、まったく違う人物の名前をドヤ顔で言うとは……数分前のオレを殴ってしまいたい!

恥ずかしさに身悶えしそうになるオレを気遣ったのか、アルトリウスが話を切り出す。

「ガンスミス卿については『紅甲冑事件』以降、念のため身辺を調べさせてもらっていた。いつかは 神鉄(オリハルコン) に到達する可能性を秘めている 軍団(レギオン) だと、うちの若い奴が言っていた」

始原(01) の獣人大陸外交・交渉部門を担当している人種族、セラフィンさんあたりが言っていたのだろうか?

「最初は疑っていたが、いつのまにか 静音暗殺(サイレント・ワーカー) 率いる軍団レギオン、 処刑人(シーカー) を撃破し、魔王まで復活させるとは……。あの時、もっと話を聞いておくべきだったと少々後悔もした。もし話を聞いていれば、 処刑人(シーカー) に釘の一つでも刺せたのだがな……」

アルトリウスが香茶を飲み干すと、シアがそつなく新たにそそぐ。

「まあそれも今更の話だがな……だから今度は将来の話をしにきた。単刀直入に言わせてもらう。……自分達の仲間にならないか?」

『戦闘になるだろう』と思っていたのだが、意外な要求をされる。

こちらの表情を見て警戒心が強いのを察したのか、アルトリウスはさらに語る。

「ガンスミス卿の恩人であるエル嬢と接触しようとしたのも、戦闘で人質にするためではない。あくまで冷静な話し合いをするため仲介を担ってもらおうと思ったんだ。だが、少々礼を欠いた行動であることは確かだ。先に謝罪したい。すまなかった」

オレが文句を付ける前に、アルトリウスが先を取る。

さすが世界最強の 軍団(レギオン) といったところか。

そして彼は次に条件を提示してきた。

「魔王と黒残党の引き渡しをお願いしたい。折角、『五種族勇者』という神話で民衆が纏まっているんだ。世界にいらぬ混乱を広めて傷つく人々を出したくはない」

『五種族勇者』という神話はこの世界に多大なる影響を与えている。

たとえば 冒険者斡旋組合(ギルド) だって、五種族勇者達によって作られている。

子供達に読み聞かせる絵本にも、五種族勇者が題材として使用されている。

だが、実は『五種族勇者』は、恩人であるアスーラを裏切った卑怯者共だと知られれば、子孫であるアルトリウス達が非難、軽蔑されるだけではすまない。

冒険者斡旋組合(ギルド) の民衆による求心力低下、そして『五種族勇者』をブランドに掲げている商品のイメージ損失。

その他様々に、多大な被害が出るだろう。

アルトリウスは話を続ける。

「もちろん魔王と黒残党を口封じに殺害するつもりはない。だが、真実を広められても困るため、我々が指定する屋敷に生涯軟禁させてもらう。軟禁と言っても見張りを付ければ外へ出る事も可能だし、欲しい物があれば遠慮なく与えるつもりだ。まぁ維持費と考えれば安いものだ。彼女達の生活が心配なら、定期的に見に来られるよう善処しよう」

「……どうしてそこまで譲歩するんだ? それにオレ達だってすでに知っているんだ。彼女達と一緒にオレ達も軟禁するつもりなのか?」

オレの返答に、アルトリウスが首を横に振る。

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を軟禁するつもりはない。むしろ我々、 始原(01) と一緒にこの世界を守る側について欲しい」

アルトリウスの声音に熱が篭もる。

「我々は PEACEMAKER(ピース・メーカー) が所持する魔術道具に興味がある。あれは、自分のような魔術道具の門外漢でも分かる技術革命だ。だが、同時にあまり広まっても困る代物でもある。誰でも簡単に魔物や魔術師を殺害することができる魔術道具が世界に広まれば、権力者達はこぞって量産し、全民衆を兵士にするだろう。そうなれば過去、妖精、人種、獣人種族連合対魔人種族のような争いを引き起こす火種になりかねない。だから我々で適性に管理すべきだと考えている」

彼の指摘は正しい。

前世、地球のアフリカでは、大人は少年達にAK47を手渡し、少年部隊を作り出した。

たとえAK47を持つのがギリギリの年齢(9、10歳)の子供でも、撃てれば大人や歴戦の軍人でも殺傷することができる。

さらに子供なら孤児や浮浪者ならば多数いるので集めやすく、若いため無茶を簡単にする。また相手に子供を殺させることで、士気低下も狙える。

オレ達が持つ銃器が広まれば、この世界でも必ず起きる出来事だろう。

「どうだろうか? 条件としては大分いいと思うが?」

「――例えばだが、もし一般市民がオレ達と同じように『五種族勇者』についての真実を知ったら、どうするんだ?」

「……残念だが消すしかない。だからこそ PEACEMAKER(ピース・メーカー) と手を組み、そのようなことが起きないよう尽力していきたいと考えている」

深い溜息を漏らし、アルトリウスへ返答を返す。

「なるほど、分かりました。なら……」

オレは『H&K USP』を抜き放ち、アルトリウスへと銃口を向ける。

「これが PEACEMAKER(ピース・メーカー) の答えだ!」

そして、迷わずアルトリウスへ 引鉄(トリガー) を絞った!