作品タイトル不明
第249話 死亡フラグ
現在、オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) &ギギさん、旦那様、元女魔王アスーラ、ノーラ全員は魔物大陸から、レンタル飛行船で妖人大陸へと急ぎ戻っていた。
本来なら、オレ達がレンタル飛行船を借りるのはまだ先だったが、先約を入れていた商人に結構な額を積んで頭を下げ、無理を言って順番を変わってもらった。
本当ならこういう横入り的方法は褒められたことじゃないが、現在は緊急事態のためそうも言っていられない。
オレはレンタル飛行船のリビング兼食堂のソファーに座りながら、あらためて獣人種族タカ族のラヤラが持ってきてくれた手紙に目を通す。
手紙には外交担当のミューアが、現状を端的に書いてくれていた。
なぜか 始原(01) のトップ、人種族魔術師S級のアルトリウス・アーガーが、エル先生の身柄を取り押さえるため動き出そうとしているらしい。
この情報は彼女の手駒からもたらされた、かなり精度の高い情報とのことだ。
手紙には、新・純潔乙女騎士団もエル先生の保護のためすぐに動くと書かれてあった。
距離的に考えれば新・純潔乙女騎士団の方が近い。いくら相手が 始原(01) でも、彼らより早くエル先生を保護してくれるだろう。
だから、きっと大丈夫。
「……………」
手紙を受け取った後、何度もそう自分に言い聞かせている。
だが、言葉とは裏腹に胸中では不安が渦巻いている。
「リュートくん、はい、香茶」
「スノー? いつからそこに……」
気付くと、ソファーの隣にスノーが香茶を目の前に置いて隣に座っていた。
彼女が微苦笑する。
「さっき部屋に入ったんだけど、やっぱり気付いてなかったんだね。凄く怖い顔で何か考えごとしてたもんね」
言われて思わず手で顔に触れる。
その様子がおかしかったのか、スノーが微かに笑う。だがすぐに狼耳をぺたりと倒し落ち込み、暗い表情を浮かべる。
「リュートくん……エル先生、大丈夫かな……。もし、エル先生が酷い目にあうようなことがあったら……」
スノーは想像して不安を強めてしまったのか、ギュッとオレの服を強く掴んでくる。
オレはスノーを慰めるため、彼女の肩に手を回し、抱き締める。
スノーは逆らうことなく、自身の頭をオレの首筋に埋もれさせた。
「大丈夫に決まっているだろ。エル先生は魔術師Bプラス級の凄腕だし、新・純潔乙女騎士団の皆が保護するために動いてくれてるって、手紙に書いてあっただろう? 始原(01) に捕まる前に、彼女達がきっとエル先生を保護してくれているよ」
「うん……そうだよね」
オレはスノーの頭を何度も撫でながら、彼女を励ますため言葉を並べる。
しかし、それはオレ自身に聞かせるためでもあった。
暫くそうやって抱き合っていると、リビングに通じる扉が開く。
旦那様、ギギさん、そして幼女姿の元女魔王アスーラが顔を出す。
扉の音に気付いたスノーがオレから離れ、赤くなった目元を擦る。
オレは立ち上がり、3人を出迎えた。
「すみません、旦那様、ギギさん、アスーラ様、皆さんを今回の件に巻き込んでしまって」
「ははははははあ! 気にするなリュート! それに一緒に行くと言い出したのは我輩達だ! リュートが気に病む必要はないのだぞ!」
旦那様の言葉通り、本当ならこの3人とは魔人大陸で別れて、オレ達だけでエル先生を保護するため妖人大陸に行くはずだった。
しかし、旦那様達が、『自分達も一緒に行く』と宣言。
最初はもちろん断った。
今回の一件はあまりに危険度が高い。
下手をしたら 始原(01) と正面衝突する可能性が高いからだ。
また旦那様が付いてくるなら、アスーラを1人で魔人大陸にあるブラッド家へ送り出すわけにはいかない。
必然、彼女も一緒に行くことになる。
つまり、現在進行形で彼女の命を狙っている相手が居るかもしれない場所へ行くと言うことだ。なのにアスーラは、迷いもせず断言した。
『リューの子孫であるリュートが困っておるのに、妾が動かないわけがなかろう?』
魔法核を抜かれ幼女姿のため、腰に手を当て胸を張る姿は頼りになるというより、『可愛らしい』といった感じだった。
しかし彼女の心意気は本当に嬉しく、ただただ頭が下がった。
こうして最終的には押し切られ、旦那様達も付いてきてくれることになった。
正直な話をすれば旦那様、ギギさんが付いて来てくれて本当に心強い。
あの 始原(01) と戦う可能性が高い以上、戦力はいくらあっても困らないからだ。
「……それでも、本当にありがとうございます」
旦那様のいつも通りの笑い声を聞きながら、改めてオレは3人にお礼を告げる。
アスーラは頬を染め、口元に手を当て瞳を艶っぽく潤ませる。
「あぁ、その律儀で真摯な性格……ッ。まるで昔のリューをみているようじゃ……!」
どうやら昔、結婚の約束までした相手の態度とオレが似ていたらしく、彼女は初恋をしたばかりの少女のように真っ赤になって身悶える。
……この幼女が情報操作されていたといえ、世間に広まっていた恐怖の元魔王なんだよな。
危険を顧みず付いてきてくれたのは嬉しいが、目の前で身悶える少女に複雑な感情の目をついつい向けてしまう。
そんなオレにギギさんが声をかけてきた。
「リュート、安心しろ。たとえ 始原(01) がリュートの恩師に手を出そうとしても俺がきっと止めてみせる。だから、あんまり難しく考えすぎるな。悪いことばかり考えるのはリュートの悪い癖だぞ」
「ギギさん……」
まるで弟の心配をする兄のような態度で頭を乱暴に撫でてくる。
しかし、オレは彼の言葉に安堵するより、危機感を覚えてしまう。
ギギさんの瞳がまるでブラッド家で執事をしていた時、山賊時代の両親や仲間達の弔いのため旦那様に挑む色をしていたからだ。
ギギさんこそ、自分の命を蔑ろにする癖がある。
オレの胸を嫌な予感が過ぎる。
念のため諫めようと口を開きかけるが、
「そうですわ、リュート様! 始原(01) ごとき木っ端など、このメイヤ・ガンスミス(仮)がリュート様の代わりにけちょんけちょんに叩き潰してやりますわ!」
「流石です! メイヤお姉様!」
突然、メイヤ&元『黒』のノーラが空気を読まず話に割って入ってくる。
てか、こいつら何時のまにリビングに入ってきたんだ。
まったく気付かなかったぞ!?
メイヤは瞳に怒りの炎を爛々と燃やしながら握り拳を固めて断言する。
「所詮は端役 軍団(レギオン) の分際で、神たるリュート様をお育てになった聖母にして、わたくしのお義母様でもあるエル先生に手を出そうとするとは! まさに神をも恐れぬ行為! さらに許し難いのは我が覇道(リュート様の可愛いお嫁さん♪)の邪魔をするとはぁぁぁあッ! このメイヤが絶対に許しませんわ!」
メイヤの 始原(01) に対する怒りは凄まじい。
ラヤラの緊急事態の一報で、オレが彼女へ贈る結婚腕輪の話が流れてしまったせいだ。
メイヤはその直接的原因である 始原(01) に対して、今回並々ならぬ敵意を抱いている。
そんなメイヤをノーラは、尊敬の眼差しで見詰めている。
前にノーラが所属していた組織『黒』は、 始原(01) に危険視され狙われていた。
故に彼女は 始原(01) の強さをよく知っている。
なのにメイヤはまったく恐れるどころか、力強く倒すと宣言しているのだ。ノーラの瞳に頼もしく映るのも分からなくはない。
しかし、2人とも以前とは考えられないほど仲良くなったよな……。
この2人は相性がいいらしい。
その後、メイヤの 始原(01) 糾弾大会にオレ、スノー、アスーラまで巻き込まれてしまう。
スノー達は女子らしいトークで、 始原(01) に対して非難し始める。
そしていつの間にか、旦那様とギギさんがリビングを出て行ってしまっていた。お陰でギギさんと話をするタイミングを失ってしまう。
オレは胸に嫌な予感を覚えながら、スノー達の会話に相づちをうった。
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レンタル飛行船から眼下を見下ろすと、懐かしい光景を目にする。
数年ぶりに育ち過ごしたアルジオ領ホードへと戻ってきた。
レンタル飛行船を着陸させると、オレとスノーは孤児院へ向けて駆け出す。
肉体強化術で補助されているため、まるで風のように速い。
数年前と変わらない孤児院の建物がすぐに見えてくる。
孤児院であらたに引き取ったであろう子供達が、薪を籠に入れ中へ入ろうとしている。
勢いよく走り寄ってくるオレ達に気付くと、恐怖し慌てて建物内へと入ってしまった。
新しく入った子供達のため、卒業してしまったオレやスノーのことはしらない。当然の反応とも言える。
逆にこれでエル先生が子供達に呼ばれて、外へ顔を出すかもしれない。
しかし、オレの予想はある意味で当たり、ある意味で外れてしまう。
オレとスノーが孤児院に辿り着くと、中から人が出てくる。
子供達に手を引かれ顔を出したのは、オレやスノーもお世話になった孤児院を手伝ってくれているオバさんだった。
なぜエル先生じゃないんだ……まさかもう 始原(01) に連れ去れたのか!?
緊張した表情を浮かべていたオレとスノーに、オバさんが懐かしそうに声をかけてくる。
「あら、リュートくんにスノーちゃんじゃない! 久しぶりね! 大丈夫よ、この人達はこの孤児院の卒業生だから。ほら、ちゃんと挨拶しなさい」
オバさんにうながされ、子供達が挨拶をする。
あまりにのんびりた態度にオレは毒気を抜かれた。
彼女達の態度から、まだ 始原(01) に攫われていないことを知ったからだ。
オレは気持ちを落ち着かせて、オバさんに声をかける。
「ご無沙汰してます。すみません突然、押しかけてしまって。エル先生はいらっしゃいますか?」
「エル先生なら急患が出たからって朝早く、隣町へ行ったわよ。時間的にもそろそろ帰ってくると思うけど」
隣町や大きな街に治療で行くのは珍しいことではない。
この治癒も孤児院にとって大切な収入源になる。
しかし、タイミングが悪いな。
隣町ならレンタル飛行船を使えばすぐだ。
迎えに行った方がいいかもしれない。
「リュートくんに、スノーちゃんなの?」
声に振り返るとそこにはエル先生が立っていた。
兎耳に、ピンクの髪、美人だが人々を安心させる柔和な表情をしている。
手には買い物籠を持ち、隣町でついでに買ったのか食材が入っていた。
数年ぶりにあう懐かしい姿と、エル先生の無事を確認できて涙腺が弛みそうになる。
「エル先生!」
「きゃッ、もうスノーちゃん、突然抱きついたら危ないでしょ」
スノーは思わず走りより、エル先生に抱きつく。
彼女はスノーを口では叱りながらも、母親のように優しく何度も頭を撫でていた。
オレはゆっくりと歩み寄り、ビジネスマンのように腰から頭を下げエル先生に声をかける。
「ご無沙汰してます、エル先生」
「ふふふ、リュートくんたら、そんな畏まらなくてもいいのに」
エル先生はオレの態度と言葉遣いが面白かったのか、口元に手を上品に笑う。
さすが小国とはいえお姫様!
エル先生の双子の妹であるアルさんに教えてもらったことだが、あらためて見ると確かにエル先生にはどことなく気品がある。
なのに同じ双子であるアルさんは背丈や顔は一緒なのに、高貴さが微塵も漂っていない。
どうして双子なのにこれほど差があるのだろうか?
「すみません、久しぶりあったのでどう話せばいいのか分からなくて……」
「難しく考えず、昔のように話してくれればいいの――ッ!?」
「エル先生?」
抱きついていたスノーが顔を上げ、エル先生の名前を呼ぶ。
彼女が突然、身を堅くし息を止めたからだ。
スノーがエル先生から体を離し、オレへ『どうかしたの?』と視線で問う。
オレ自身、何が起きたか分からず首を横へ振った。
「どうやら無事だったようだな。しかし、本当にアルさんとそっくりなんだな……」
声がした方へ視線を向けると、ギギさん達がようやく追いつきこちらへと歩み寄ってくる。
ギギさんはエル先生の姿を確認して、まだ 始原(01) がエル先生が触れていないと知り、のんびりと感想を告げていた。
「り、リュートくん、スノーちゃん……2人はあの方とお知り合いなの?」
「えっ?」
先程、身を堅くしたエル先生の視線がギギさんへと固定されいた。
しかも、その頬は赤くなり、瞳は少女マンガの恋する乙女のように潤んでいる。
「はっ?」
オレはエル先生とギギさんを交互に見比べる。
ギギさんはいつもの押し黙った表情。
エル先生は、心臓の鼓動を押さえるように胸に両手を重ね熱い視線を向けている。
「あっ?」
尊敬するエル先生のことだ。
オレはすぐに彼女の感情を理解するが、認めたくない気持ちが圧倒的に大きい。
なぜか知らないが、エル先生はギギさんに惚れている!?
はぁ!? どうしてなんで!?
オレは悪い予感が外れた事は嬉しかったが――頭を抱えその場にうずくまることしか出来なかった。