軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第247話 ノーラとの距離感

「ぐぬ……ッ」

ギギさんとお酒を飲んだ翌日、朝。

ギギさんは自室の布団から起き上がれないほどの二日酔いになっていた。

オレに『女心とは』と持論を展開し、聞かせている最中、ツマミも食べずずっとウィスキーをロックでパカパカと飲んでいた。あれだけ飲めば酷い二日酔いにもなるか。

クリス曰く――『リュートお兄ちゃんと酒精が飲めたのがよっぽど嬉しかったんですよ』と言っていた。

それじゃまるで久しぶりに会った親戚のオジさんのようじゃないか。

だが、もしそうだとしたらオレ自身、なんだか嬉しい。

水を持っていくと、ギギさんは頭を押さえながら礼を言う。

その日は、午後過ぎまでギギさんは自室から出てくることはなかった。

数日後、オレは訓練も兼ねて街の外へモンスターを狩りにでかけることにした。

今回のメンバーは――

「みんな! 今日は一緒に頑張ろうね!」

『ノーラちゃんもよろしくお願いします』

「は、はい、クリス様達の足を引っ張らないよう努力したいと思います。はい」

オレ、スノー、クリス、そして元黒のメンバーのノーラだ。

今回は名目上、訓練ということになっているが、本当の目的はノーラのクリスに対する苦手意識を克服するためだ。

ノーラが一時的に PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーに加入して、すでに1ヶ月以上経っている。

しかし一向に馴染む気配をみせない。

クリスへのトラウマもあるが、仲良く話などをする子がいないのも問題だろう。1人でもいいからまず、彼女が心を開けて話が出来る人物が居れば、それを切っ掛けに他のメンバーとも仲良くなるのはそう難しいことじゃない。

黒の下部組織を解散させるまでの付き合いとはいえ、今は同じ組織にいるのだ。互いに距離を置くよりも、仲良くした方がいいに決まっている。

オレにはノーラも心を開いているが、シャナルディアを通した歪んだ信頼だ。

ノーラからすればオレは『黒』の枠内に入ってしまうため、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーと仲良くなるための玄関口にはなれない。

そのため今回のメンバーは、基本すぐに誰とも仲良くなれるスノー。

トラウマ相手ではあるが、歳が一番近いクリス。

このメンバーで自分達の組織とは関係ない、魔物という共通の敵を倒す共同作業をおこなうことで一体感を出し、仲良くなろうという計画である。

またクリスへのトラウマも解消できれば一石二鳥だ。

「それじゃまず、 冒険者斡旋組合(ギルド) へ行ってクエストを受注するか」

オレが先を歩き、後ろをスノー、クリス、さらに後をノーラが続く。

スノー、クリスには今回の目的を話している。そのため2人は積極的にノーラへ話しかけるが、彼女の反応はいまいち悪い。

たまにオレへ助けを求めるような視線をチラチラと向けてくる。ここで助け船を出したら、元の木阿弥だ。

ノーラには悪いが、気付かないふりをしよう。

冒険者斡旋組合(ギルド) に入ると、いつも通り数字番号が焼き印された木札を受け取る。

番号が呼ばれるまで待つ。

5分ほどでオレが持つ木札番号が呼ばれた。

カウンターへと皆で移動する。

「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「!?」

オレは思わず驚きで椅子に座ったまま器用に後退ってしまう。

オレだけではない。

スノー、クリスも小さな悲鳴を上げてオレの背後に隠れた。

なぜこれほど怯えているかというと……今回、オレ達の担当をしてくれたのが、いつもの受付嬢さんだったからだ。

彼女は営業スマイルとは思えない聖母のような微笑みを浮かべたまま、驚き後退ったオレに対して小首を傾げる。

「どうかなさいましたか?」

「い、いや、どうって……どうしてアルバータで受付嬢をしている貴女がここにいるんですか!?」

「実はハイディングスフェルト 冒険者斡旋組合(ギルド) で突然、欠員が出てしまって、なので急遽臨時で私が応援要員として送られたのです。私はまだこちらに来て日が浅いので異動させやすいというのもあったのでしょう」

彼女はオレの言葉に対して理性的に応対してくる。

な、なんだこの違和感は……。

最後に見たのは、ギギさんに事実上ふられ絶望していた姿だった。

いつもなら魔王すら凌駕する黒いオーラを垂れ流している筈なのに、今はまるで聖母のような慈愛の光を全身から放っている。

逆にそんな状態の受付嬢さんを前にすると、安堵するより底知れない恐怖しか感じない。

受付嬢さんがオレの顔色を読んだのか自ら話し出す。

「リュートさんが怯えるのもしかたないですね……。昔の私はカップルや恋人、既婚者を前にすると可愛らしく嫉妬しちゃったりしましたから」

いや、あれは『可愛らしく嫉妬』のレベルを超えています。

今にも邪神が降臨するんじゃないかと疑う程の恐怖しか感じませんでしたよ。

オレがツッコミを入れそうになるのをグッと堪えていると、彼女は話を続ける。

「でも、ギギさんに振られて気付いたんです。私には1人の男性を幸せにするより、皆さんの笑顔をもらえるこの『受付嬢』という仕事が合ってるって。だから、これからは結婚を諦めて、仕事に生きようと決心したんです」

どうやら、ギギさんに振られたのがショック過ぎて受付嬢さんは明後日の方角に壊れてしまったらしい。

ま、まぁ本人が仕事に生きると言うのであればこちらが止める権利はない。

実際、性格はあれだが、仕事は丁寧で確実、冒険者の実力を見抜きクエストを勧める技量は実体験で理解している。

とりあえずオレは席に座り直し、改めてクエストの依頼をする。

「そうですね。最近はずっとこの周辺に魔物が近付かなくなったせいで、討伐クエスト系はやる人が激減しちゃって……」

旦那様とギギさんが狩りまくったせいですね、分かります。

「でもまた最近、魔物達が集まりだしてるみたいですよ。ただどんな魔物が集まっているのかまだ調査中なので、はっきりと分かるまではやらないほうが無難かもしれません」

「大丈夫です。もし無理そうなら逃げますから」

「それなら、特定の魔物を狩るのではなく、周囲の調査クエストを受注してはいかがでしょうか? これなら仮に魔物がいなくても安いですが報賞金は出ますし、リュートさん達レベルの方が受けてくださるなら 冒険者斡旋組合(ギルド) としても心強いですし、安心です」

調査といってもそれほど難しいことではない。

向かった先の状況がどんな風になっているのか、戻ってきたとき報告してくれればいいらしい。

その先で魔物を退治し素材を持ち込めばもちろん買い取る――というものだ。

あまり冒険者レベルが低い者が向かった場合、レベル以上の魔物と対峙する可能性がある。そうなったらほぼ死亡は確定。

だから、ある程度、冒険者レベルの高い者がやってくれたほうが 冒険者斡旋組合(ギルド) 側も安心するらしい。

今回の目的はお金目当てではない。

別にこのクエストを受けても問題ないだろう。

「分かりました。では、受けさせていただきます」

「ありがとうございます。それでは皆さんのタグをおかしください」

オレ、スノー、クリスが受付嬢さんにタグを渡す。

ノーラは冒険者登録をしていないらしい。

まぁ登録してなくても、一緒に戦うことはできるからいいか。

「後、こちらが過去、周辺に出た魔物の種類と剥ぎ取り部位の一覧表になります。よかったら持っていってください」

クエストの受注をすませると、受付嬢さんから紙を渡される。そこには過去、港街ハイディングスフェルト周辺で確認された魔物の名前、特徴、注意点、剥ぎ取り部位が簡単ながら書かれた紙だった。

そしてオレ達は 冒険者斡旋組合(ギルド) で角馬を1人1頭借り、街を出た。

向かう先は街から2時間ほどかかる森の側だ。

平野に魔物が居なくても、森の中には居るだろうという目論見があったからこの場所を選んだ。

角馬で移動中、オレとスノーはノーラに色々話しかけた。

彼女に怖がられていないオレを通して、スノーと仲良くなってもらおうとしたが、互いに共通する話題があまりなくいまいち話は盛り上がらなかった。

無難な受け答えをしていると、気付けば目的地に着いてしまっていた。

これから戦う魔物退治で、帰り道の話題を作れればと思っていたが――

ある意味、予想通り平野には魔物の姿が全くなかった。

しかし、オレ達の姿に気付いたのか、森の中から魔物の群れがすぐに姿を現す。

魔物は大きな蛙だった。

大きさは成人男性ほどで、色はグリーン。

体格に似合わず意外と素早い。それだけ跳躍力があるようだ。

森の奥からゲコゲコと100匹近く姿を現す。

受付嬢さんから貸してもらった魔物一覧で確認すると、特徴から『 風船蛙(バルーン・フロック) 』と呼ばれる魔物だと分かる。

街周辺に出る魔物としてはほぼ最弱。

恐らく旦那様とギギさんが、街周辺の魔物をあらかた倒してしまった。そのせいで風船蛙がこれほど数を増やしたのだろう。

注意点は毒を吐くのと、膨らんでいるときは攻撃をしてはいけないことらしい。

膨らんでいる時、攻撃してはいけない――の意味が分からないが近付かなければ脅威ではない魔物のようだ。

なのでオレ達は早速、攻撃を加える。

試しにAK47を発砲すると、銃弾が柔らかそうな皮膚を突き破り簡単に風船蛙を倒してしまう。

ちなみに風船蛙の剥ぎ取り部位は、毒腺だ。

それからオレとスノーがAK47で、クリスがSVD(ドラグノフ狙撃銃)、ノーラが簡単な魔術で攻撃をする。

特に苦労することなくサクサクと倒していくが、オレ達の誰かが恐らく毒を吐き出す為に体全体が膨らんだ風船蛙を倒してしまう。

瞬間、風船蛙が名前の通り膨らんだ風船を針で刺したように粉々に弾け飛んだ。それだけならまだいい。

さらに鼻を突く悪臭が襲ってくる。

一番最初に反応したのはスノーだ。

「くさぁい! リュートくん、これ臭すぎるよ!」

彼女はAK47から両手を離し、スリングだけぶら下げる。

その両手は鼻を押さえ、大きく後ろに後退った。

人であるオレですら臭さで目に涙を浮かべるほど臭い。

獣人種族で、白狼族のスノーはたまったものではないだろう。

クリス、ノーラもスノーほどではないが、鼻を押さえ後退っていた。

だが、 風船蛙(バルーン・フロック) 達はチャンスと判断したのか、ゲコゲコと突撃してくる。

意外と素早いため、臭さを我慢して反撃。

だが、臭さで手元が狂い膨らんでいた風船蛙を撃ち抜いてしまう。

破裂。

オレですら堪えきれず、吐きそうになる悪臭が広がる。

しかし、非難を受けている暇はない。

風船蛙はそれでも構わず突撃してくる。

今度はクリスか、ノーラかは分からないが迫りすぎた敵に反撃。

膨らんだ風船蛙を破裂させ、さらに酷いことになる――というループを繰り返してしまった。

膨らんだ風船蛙を攻撃してはいけない理由がこれか!

確かにこれは毒と同じように注意する点だ!

この場で一番鼻の利くスノーは、悪臭に耐えかねすでに後方へ退避。

オレ達も倒した風船蛙の回収を諦めて、全力でその場から逃げ出した。

逃げる際、角馬に乗り走ったせいで、悪臭+乗り物酔いコンボにオレは途中で吐いてしまう。

スノー、クリス、ノーラ、女性陣は髪や衣服などに風船蛙の匂いが付いたと滅茶苦茶落ち込んでいた。

まだ帰るまで時間は大分あったが、オレ達は体についた悪臭に耐えきれず街へと戻ることを決意する。

帰り道、魔物退治で一体感を持つ筈が、誰1人口を開かないお通夜モードで帰還することになってしまった。

こうして、オレが計画した『ノーラ、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に溶け込む企画』は失敗に終わってしまった。