軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第228話 アルバータ、出発

『ガタゴト』と砂塵を舞上げ、M998A1ハンヴィー(擬き)が魔人大陸を走り続ける。

現在、運転しているのはシアだ。

オレは助手席に座り、まだ不慣れな彼女をサポートしている。

他の皆は後ろの荷台部分に座っている。

両端、ベンチのように長椅子が置かれているため、互いに向き合って座っていた。この姿勢は意外と体力を消耗するため、こまめに休憩を入れつつオレ達は移動している。

オレはハンヴィーに揺られながら、アルバータで起きた事件のことを思い返していた。

数日前――魔人種族、悪魔族、ミーシャが何者かによって殺害され遺体で発見された。

首が切断していたため、事故の線はない。

アルバータの守備兵がまず最初に疑ったのはもちろんオレだ。

アルさんが働いている娼館の主に、ミーシャを当面他の人物に売らないようにオレは釘をさしていた。その事実を知った守備兵がわざわざ宿まで訪ねて来たのだ。

オレは守備兵の詰め所へと連れて行かれた。

詰め所でそのまま事情聴取を受ける。

オレは彼女を殺していないため、素直に聞かれたことに答えた。

最初、守備兵達もオレが彼女に奴隷として売られたことを知り、警戒の色を強めた。しかし、ミーシャが殺された夜、オレは宿屋の一階にある酒場で夕飯を摂り、酒精を飲んでいたのだ。

アルさんから紹介された宿は一泊だけして、すぐに中の上クラスの宿に切り替えた。

そこはお風呂がある上に一階が酒場になっている、清潔な宿と料理&酒精が自慢の宿屋だった。

料理や酒精の値段はそこそこするが、その分味はかなりいい。

途中までスノー達も一緒だったが、最終的にはギギさんと2人で飲んだ。

男2人で飲み色々昔の話をした。

偶然、その日は遅くまで飲んでいたため、酒場の店員からの証言もすぐに取れた。

ギギさんやスノー達にも疑いが向けられたが、オレと同じように第三者である店員の証言からすぐに疑いは晴れた。

ある意味、本当に運が良かった。

物理的に犯行が不可能な以上、いちおう名誉貴族であるオレをこれ以上拘束しておくわけにはいかず、その日のうちに釈放。

一応、オレからも協力できることはすると伝えてある。

そのお陰か守備兵達からは、完全に疑いが晴れたようだった。

彼らは引き続き捜査を続行――しかし守備兵達の努力も虚しく、オレ達が街を出る当日時点でも犯人の目星はまったくついていなかった。

(なんでミーシャが殺されたんだ?)

偶然、関係無い事件に巻き込まれたのか?

ありえない。

世の中そんな都合良くはできていない。

誰かが、ミーシャを狙って殺害したとしか考えられない。

では、誰がどんな目的で彼女を殺害したのか?

判断力がない、子供のような彼女を殺す理由とは?

(……そんなの殺害した犯人に直接聞かないと、犯行動機なんて分かるわけないか)

オレは彼女を恨んでいた。だが、ミーシャの死を聞かされ、最初に思ったのは喜びより戸惑いだった。

そして今、オレはやりきれない後味の悪さを感じていた。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

アルバータを出たオレ達が目指す場所は、次の街ではない。

ここから正規の行路を大きく外れる。

ギギさんは前回ここに来た時、旦那様を買ったという初老&幼女を訪ねるため次の街を目指した。

しかし、次の街に彼女達が来たという話は聞き込みをしても影も形もなかった。

詳しく調べてみると、彼女達はどうやら正規の行路を大きく外れ姿を消したらしいという事が分かり、そのためギギさんも彼女達の後を追った。

その結果、偶然にも旦那様が居る場所へとたどり着くことが出来たらしい。

今、オレ達はその場所へと向かっている。

小休憩を取るためハンヴィーを止める。

スノー達が荷台から下りると体を思い思いに伸ばす。

「座っているだけなのに疲れるね」

『ですね、腰が痛いです』

スノーが腰を伸ばし、クリスが同意してミニ黒板を持ちながら微苦笑する。

「では、疲れを取るためにも甘い物でもいただきましょう」

「そうですわね。リースさん、お手伝いしますわ」

リースの提案にメイヤが賛同し、彼女の『無限収納』に仕舞われている椅子や甘味、お茶を並べる手伝いを始める。

スノー、クリスも嬉々として手伝う。

ギギさんは1人、無言で周辺の警戒をする。

一応、今居る場所は死角のない荒野でクリスの目で見た限り、魔物は存在しないらしい。しかし、警戒しておいて損はないだろう。

さらに珍しいことにシアが、休憩のお茶会準備を手伝おうとしないのだ。

いつもなら彼女達が準備するのを止めて、シアがリースから椅子やテーブル、甘味、お茶などを受け取り整える。

なのに今回に限ってギギさん同様に、真剣な表情で周辺を気にしているのだ。

手にはコッファーを握り締めている。

さすがに気になって声をかけた。

「シア、どうした? 何か問題でも起きたのか?」

「……いえ、問題というわけでは」

また珍しく歯切れの悪い返事をする。

本当にどうしたんだ?

「もしかして運転のし過ぎで気分でも悪いのか?」

「ご心配をおかけしてすみません。ただちょっと気になることがあって……」

「気になること?」

この会話の間にもシアは周辺をキョロキョロと見回す。

「アルバータを出てからずっと、先程運転している時も誰かに後を付けられている気がして」

アルバータを出てからずっとハンヴィーに乗って移動してきた。

地面は整備されていない荒野だったため、安全を考えて時速約30km/時ぐらいしかだしていない。

確か馬車の全速力が時速約20km/時ぐらいだったはずだ。

馬車と違ってハンヴィーなら魔力が切れるまでその速度を一定時間維持できる。

そんなハンヴィーをオレ達に気付かれず追跡する存在が本当にいるのか?

しかし、シアが嘘を付くとは考えられない。

また彼女は気配察知技術がずば抜けて高いのだ。

そんな彼女の意見を無視するのは愚かな所業である。

オレも周辺を見回す。

ラヤラのように空からとも思い上空を見上げる。

魔力を目に集中して視力を上げるが、それらしいのはなかった。

「……失礼しました。恐らく知らず知らずのうちに疲れて、気が立っているだけです。若様、ご迷惑をおかけしてすみません」

「あやまることないだろう。それにここは魔物大陸なんだ。オレ達の想像や思いもつかない方法で後を付けている魔物が居るかもしれないだろ? 注意しておくのにこしたことはないよ」

オレはシアの肩を叩いて慰める。

「とりあえず暫くは、皆と協力して警戒を強めよう。シアもそれでいいかい?」

「はい、問題ありません」

シアは心なしか元気を取り戻し、丁寧に一礼してくる。

その後、彼女はいつも通りリース達の世話を甲斐甲斐しくおこなっていた。

しかし……魔王が未だに存命する魔物大陸で数十年前、失踪したはずのララ・エノール・メメアらしき人物をリースが目撃。

ミューシャ殺害がおきて、今回の尾行疑惑。さらにダン・ゲート・ブラッド伯爵がオレ達と敵対する理由。

魔物大陸に来てから色々な問題がおきている。

これら全てを『偶然』と片付けるのは少々難しい。

だが、今更、旦那様を迎えに行かず獣人大陸に引き返す訳にもいかない。

(このまま何事もなければいいんだが……)

不安を抱えながらも、スノー達が開いているお茶会へとオレも参加するため向かった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

アルバータを出発してから約半月。

途中、ツインドラゴンや 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) の群れなどに遭遇した。

ツインドラゴンはパンツァーファウストで、 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) の群れはハンヴィーで逃げながらPKMで倒しきった。

他にも魔物達と遭遇し倒し、時には逃げながら、オレ達はようやく目的地へと到着する。

「ここに旦那様が居るんですか?」

オレ達の目の前にあるのは、深い谷底だった。

底に流れる激しい川。

谷の間をプテラノドンのような魔物が鳴き声をあげて飛び交っている。

冒険活劇映画なら、この川に落ちたら次は滝がまっているだろうな。

「いや、あくまでここは入り口でしかない」

ギギさん曰く、当時彼は旦那様を捜すため、旦那様を買ったと思われる幼女と初老男性の足取りを調べていた。

正規の行路を外れて探し、途中で魔物達にも襲われた。

もっとも命の危機を覚えたのは、レッドドラゴンの群れと遭遇した時だ。

レッドドラゴンとは翼を生やし、空を飛び、炎の息を吐き出す一般的にドラゴンを指す代表的な魔物だ。魔物大陸では群れで行動する。

たまたま群れと出会い追いかけられ、ギギさんは一か八かこの谷底に流れる川に飛び込んだ。

レッドドラゴン達は、ギギさんから谷間を飛ぶプテラノドンへと目先を変え捕食を開始したらしい。

ギギさんは身体強化術で体を補助して、激流から抜け出す。

ちょうど洞穴があったため、底で外の騒ぎが落ち着くまで休ませてもらった。

しかしレッドドラゴン達は中々飛び去らず、仕方なくギギさんは洞穴がどこか出口に繋がっていないか、抜け道がないか調べるため奥へと進んだ。

そして――進んだ先に旦那様が居たらしい。

つまり、旦那様と会うためにはこの崖を下りないといけない。殆ど垂直であるこの崖をだ。

「でも、これどうやって下までおりるんですか?」

オレは感じた疑問をギギさんにぶつける。

ギギさんは腕を組んだまま断言する。

「杭を打ってロープを垂らして下へおりるつもりだ」

「ロープでですか……」

オレは改めて身を乗り出し、崖を見る。

滅茶苦茶怖いんですけど……。

しかし、ここを下りなければ旦那様には会えない。

腹を括るしかないらしい。