軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第229話 ダン・ゲート・ブラッド再び

谷をおりてギギさんが見付けた洞窟へと移動した。

途中、谷の間を住処にしているプテラノドンのような魔物が数体襲って来たが、ロープを片手に掴み空いた手でAK47を向け発砲。

魔物は弾丸を喰らいクルクルと回って激流の川へと落ちていった。

そんな襲撃を受けつつ、オレ達は無事、洞窟へと辿り着く。

洞窟は出っ張った岩があるせいで上からは見えない。

それこそ川に落ちて流されないと気付くことはなかっただろう。

洞窟の入り口こそ小さいが、中は意外なほど広い。

天上は手を伸ばしても届かず、横幅も3人が並んで歩けるほどある。

ギギさんが魔術で光を灯す。

これで暗い洞窟でも問題なく歩ける。

ギギさんが先頭で次にオレ、スノー、クリス、リース、メイヤ、シアの順番に並んで進む。

暫く進むと左右に道が分かれ、ギギさんが右を選ぶ。

さらに何度か、別れ道が存在した。

「随分、別れ道があるんですね。まるで迷路だ」

「俺も散々迷った。大抵は行き止まりで、何度も引き返した。途中で人が通った匂いに気付いて、その後を辿ったら旦那様が居る場所に着いたんだ」

ギギさん曰く、その人の匂いが旦那様を買った初老男性のものだろうとのことだ。

さらに進むと階段をおりる。

ずんずん、ずんずんと――まるで地獄に通じるほど深い穴をおりていく。

場違いながら、前世の地下鉄を思い出す。

あそこの階段も駅によっては『どこまで続いているのか?』というほど深いのがある。だが、目の前のこの階段はそれと比べても比較にならない深さだ。

しかし階段があるということはこの洞窟は人工で、誰か、もしくは複数の人物によって作られた物なのだろうか?

約5時間後――ようやくオレ達は目的の場所へと辿り着く。

「……なんだここは?」

洞窟を抜けるとそこは街が広がっていた。

石を削り積み上げ作られた建物や、巨石を加工し製作したような繋ぎ目がひとつもない建物。

他にも外観が無駄に凝っていたり、壁や門などに細かい細工が施されていたり――様々な建物が建てられている。

建物だけではない。

床には石が埋められ歩きやすくなっており、街の中央には噴水がある。水は出ていないが、噴水の真ん中に置かれた石像はどれほどの芸術的価値が付くか分からないほど素晴らしい出来映えだった。

さらに不思議なことに、どの建物や道、庭などにも人が住んでいた形跡や匂いがまったくない。

長年使ってないため埃が溜まり、劣化している箇所があるが、荒れているということはない。どれもそれなりに綺麗だ。

まるで前世、地球にあるモデルハウスのようにも見える。

「旦那様はこっちにいらっしゃる」

呆気にとられるオレ達にギギさんが声をかけてうながす。

彼の後について街の奥へと進んでいく。

どうも向かっている先は、街の一番奥。

オレ達が居る場所とは反対側らしい。

暫く歩くと目的地が遠目で見えてくる。

見上げるほど高い岩肌の壁。

その壁を直接削り、柱やスフィンクスのような巨大な彫像、ギリシャ神殿のような出入り口などが作られている。

オレ達は大理石のような階段を上がる。

上がりきると、そこには――

「フン! オウ! ンン、パッワァァァァァ!」

女神の石像を両手で頭上に掲げひたすらスクワットをする人影。

上半身裸!

飛び散る汗!

背景が霞むほど昇る湯気!

まるで金属鎧を纏っているような黒々とした筋肉!

背丈は2メートル半はあり、全身の筋肉がまるでボディービルダーのように鍛えられ発達していて肌も黒い。

眉毛も濃く、髭をはやし、金髪の髪はオールバックに固めている。

こんな一度見たら忘れられない人物が、この世に2人と居る筈がない!

オレは数年ぶりにダン・ゲート・ブラッド伯爵と再会した。

旦那様はオレ達が来たことにも気付かず、トレーニングを続けている。

初めて旦那様を見るスノー、リース、メイヤ、シアはドン引きしていた。

そりゃ、オレだって最初、旦那様と出会ったときは意識が別次元に飛んだ。

しかも今は2メートル半の長身筋肉デカ盛りの男性が、石像の女神像を抱えて汗を飛び散らせスクワットしているのだ。

世界が濃すぎて窒息しそうだ。

「……ッ!」

クリスが我慢しきれず、旦那様に駆け寄る。

さすがに旦那様も気が付きトレーニングを止めて振り返る。

「おお! クリスではないか!」

「ッ!」

伯爵が女神像を床に置き汗だくの姿で両腕を広げる。

クリスは真っ直ぐ、伯爵の元へと向かう。

数年ぶりの親子の対面。

感動的な場面だ。

しかし、クリスは旦那様には抱きつかずその手前で足を止めてしまう。

どうやらさすがに数年ぶりに再会した父親とはいえ、汗が滝のように流れる状態では抱きつくことができなかったらしい。

まぁ気持ちは分からなくない。

クリスも女の子だしね。

そんなことを気にせず伯爵は豪快に笑う。

「はははははははあ! しばらくみない間に随分立派になったなクリス! ギギから話は聞いているぞ! あの後、クリスがセラス達を助けてくれたと!」

『いえ、リュートお兄ちゃんやスノーお姉ちゃん達、みんなが力を貸してくれたからです』

「そうかそうか! ははははっはははあ!」

旦那様は機嫌よさげにクリスの頭をがしがしと撫でる。

久しぶりに聞いた旦那様の笑い声。

まるで一瞬、魔人大陸にあるブラッド家屋敷に戻ってきたと錯覚し懐かしくなる。

オレもクリスの後に続いて、旦那様の側に移動する。

「お久しぶりです、旦那様。リュートです。お迎えに上がるのが遅くなって申し訳ありません」

右手を胸に、左手を後ろに一礼。

この世界で一般的な礼儀の挨拶をする。

旦那様が嬉しそうに声をあげた。

「おおぉ! リュートか! 立派になったな!」

旦那様はクリスからオレに向き直り、ばしばしと肩を叩く。

オレは笑顔を浮かべているが痛い。

めがっさ痛い。これ絶対、肩の部分が赤くなっているぞ。

「んん? その左腕」

旦那様がオレとクリスの左腕にある腕輪に気付く。

オレはクリスと目を合わせ、互いに頷き合う。

最初にオレから切り出した。

「あの事件を解決した後、クリスお嬢様と――クリスと結婚させて頂きました。ご挨拶が遅れてすみません。改めて旦那様にお願いがあります」

オレは改めて旦那様に頭を下げる。

クリスも倣って頭を下げた。

「彼女のことを絶対に幸せにしてみせます! だからオレとクリスの結婚を認めてください! お願いします!」

「はっはっははは! 何を畏まる! もちろん認めるに決まっているではないか! 2人は愛し合って結婚したのだろう? 愛は誰にも止められないからな! はははっははっはあ!」

さすが奥様と出会って即、結婚した旦那様だ。

豪快に笑い一人娘の結婚を了承する。

『他にも私の大切な人を紹介しますね!』

クリスはオレとの結婚を認められ安堵し、スノー達の紹介を始める。

旦那様はオレが重婚していることを理解し祝福し、スノー達と笑顔で挨拶を交わした。

一通り紹介を終えると、オレは早速本題を切り出す。

「それで旦那様は今でも奴隷なのですよね? 主の人にお話をさせて頂き買い戻したいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」

現在、旦那様は魔術防止首輪をしていない。

代わりに肩に魔法陣のようなものが貼り付いていた。

この魔法陣がある限り、主である人物は旦那様がどこへ行こうと位置を把握することができる。

魔術防止首輪の代わりのようなものだ。

旦那様は腰に手を当て拒絶される。

「はっはははは! 我輩は奴隷から解放されるつもりはないから気にしなくていいぞ! それより久しぶりにクリスやリュートの顔が見られて満足だ!」

「奴隷から解放されるつもりはないって……!? どうしてですか! 魔人大陸の屋敷で奥様やメリーさん、メルセさん、他使用人達が旦那様の帰りを待っているのですよ!」

「セラスには悪いが、我輩は意見を変えるつもりはない。我輩はここから動くことはできないのだ」

ギギさんに旦那様と戦うことになった――と聞かされて最初に疑ったのは洗脳や催眠などだ。しかし今、会話をしてそんな妖しげな術にかかっている様子はない。

では、なにかこの地を離れられない呪いか、魔術を受けているのか?

気になって尋ねると旦那様は笑顔で否定した。

「いや、そんなものはかかっておらんぞ! あくまでこの地に残るのは我輩の意志だ!」

いつもうるさいぐらい明るい笑顔の旦那様が一転、真剣な表情を作る。

「彼女を残しては帰れん。彼女を守ってやらねば、これは我輩――いや、この世界に住む者の償いなのだから」

どこか遠くを見るような目で、旦那様は断言する。

しかし台詞の意味がまったく分からない。

彼女? 世界に住む者の償い?

彼女ということは女性だろう。

旦那様が女性の色香に惑わされて奴隷を続けているのか?

オレは一瞬だけ、旦那様の浮気を疑ったが、すぐに頭を振り否定する。

それは旦那様の性格上ありえない。この人は女性の色香でどうなるタイプじゃないからだ。

だいたい色香で惑わされたら『世界に住む者の償い』の意味が分からなくなる。

オレ達が困惑していると、旦那様が満面の笑みを浮かべ断言する。

「前回ギギにも言ったが、もし我輩を連れて戻りたければ力で押し通すしかないぞ。それが唯一無二の方法だ!」

『ッ!?』

旦那様が背筋を伸ばし、腕を軽く広げて胸を突き出す。

全身から溢れ出る魔力。

オレ達の本能が危機感を訴えて、反射的に距離を取り腰を落とす。

どんな攻撃が来ても対応できるよう臨戦対戦をとったのだ。

いや、とらされた――という方が近い。

旦那様は笑っているが目は本気だ。

模擬戦のときも圧迫感はあった。しかし今受けているのはそれ以上のものだ!

旦那様は本気でオレ達と戦おうとしているのを態度で示してくる。

「オレに……オレ達には旦那様と戦う理由はありません。せめて、どうしてこの地に縛られなければならないのか理由を聞かせてください!」

「理由か……ふむ、やはりそれを知りたければ我輩を倒すことだ。もし倒すことが出来れば話そう。それに――」

旦那様が一拍置き、オレ達の耳目を集める。

「我輩を倒せない程度でこの地に残る理由を知ってしまったら、逃げることも出来ず死んでしまうだろうからな」

旦那様の声音には嘘や冗談、誤魔化しといった色はまったくない。

本当に旦那様を倒せない程度の実力のオレ達が知ったら、『死ぬ』と確信しているのだ。

ますます分からなくなる。

「それってどういう意味ですか!? 話してくれないと分かりませんよ!」

「駄目だ。我輩を倒すぐらいの実力がなければ知る資格すらない」

まさにけんもほろろな態度だ。

「さて……ギギから聞いたがクリスやリュートは変わった魔術道具で戦うらしいな。待っていてあげるから準備しなさい」

さらに圧力が待す。

戦う準備をしてもしなくても、例え相手がオレやクリスでも、容赦なく『叩きつぶす』と旦那様が全身で訴える。

どうやら戦いは避けられそうにないらしい……。

ある程度、覚悟はしていたが現実になると足が震える。

知り合いで尊敬する旦那様と戦うのが辛いのではない。

あの魔術師A級のダン・ゲート・ブラッドと戦うのが怖いのだ。

それでも避けられない戦いというのは存在する。

「クリス、スノー、リース、シア、戦うぞ。ギギさんはメイヤを守ってやってください。リース、装備を頼む」

「分かりました」

リースはオレの言葉に『無限収納』に仕舞っていた装備を取り出す。

オレ達は各自補給をする。

また対旦那様用に準備した装備一式を身にまとっていった。

ギギさんはメイヤを連れて階段を下り、顔だけを覗かせる。

ギギさんは魔術師Bプラス級の魔術師だが、現代兵器を使うオレ達と連携を取る練習はしていない。

居ても逆に互いを邪魔してしまうため、今回のような事態になった場合はメイヤの護衛をして欲しいと前もってお願いしていた。

またメイヤには保険として、すでにある荷物を渡している。

細長く、先端が膨れている物が布でくるまれている。

彼女に視線を向けると、メイヤは引き締めた顔で頷いてくれた。

準備を終えオレ達は旦那様と向き合う。

魔術師A級の 静音暗殺(サイレント・ワーカー) とは戦ったことがある。

しかし、相手は暗殺に適した特殊技能によって魔術師A級となった。

正面切っての戦闘ならせいぜい魔術師B級程度だろう。

だが、今回の相手はあのダン・ゲート・ブラッド伯爵だ。

しかも殺さず、無力化しなければいけないという条件付き。

本当にオレ達に出来るだろうか……。

旦那様が楽しそうに笑う。

「さぁ! 筋肉を震わせよう!」

「やるからには手加減は出来かねますから、ある程度の怪我は覚悟してくださいね!」

オレの叫びと同時に打ち合わせ通り、スノー、クリス、リース、シアが動く。

旦那様は楽しげに両手の拳を胸の前で撃ち重ねる。

まるで金属同士が勢いよく衝突したような硬質な音がする。

こうして戦いのゴングが鳴り響いた。