軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第222話 ギギさんと受付嬢さん

オレ達は、クリスの父親であるダン・ゲート・ブラッド伯爵に会うため魔物大陸へと向かうことになった。

そのため一度、獣人大陸にある本部へ戻って万全の体制を整えようと話し合った。

竜人大陸で賃貸住宅を引き払い、私物は一度メイヤ邸へと置いてもらう。その他、雑務をこなしていた。

ギギさんも一緒に獣人大陸にある本部へ行くのだと思っていたが……。

「俺はこのまま魔物大陸へ向かって、あちらですぐに動けるよう準備をしておく」と言った。

確かに効率を考えるなら、それがベストだ。

問題があるとしたら――その資金をギギさんが受け取ろうとせず自分で稼ぐというのだ。

そのために、まず竜人大陸の 冒険者斡旋組合(ギルド) でクエストを受けに行くと言い出した。

オレとクリスは先行するギギさんに改めて声をかける。

「ギギさん、魔物大陸へ先乗りにして準備を整えてくれるのはありがたいんですが、それぐらいの資金オレ達が出しますよ。だから、わざわざクエストを受けなくても」

『そうです! リュートお兄ちゃんの言う通りです!』

しかし、ギギさんは立ち止まり振り返ると――

「お気遣いありがとうございます、クリスお嬢様。リュートともありがとう。だが、心配しなくていい。俺は魔術師Bプラス級だ。資金ならクエストをこなせばすぐに貯まる」とキメ顔で告げる。

(いや! 心配しているのはそこじゃないですから!)

ギギさんは再び 冒険者斡旋組合(ギルド) へ向けて歩き出す。

ギギさんは何も分かっていない!

今、自分がどれほど危険な場所に向かっているのか!

あの魔王化寸前の受付嬢さんに生けに――げふん、げふん、見合い相手としてギギさんも候補には考えたが、尊敬する彼を捧げるなんてできない。

その案はすぐに却下した。

なのにギギさんは自ら無自覚でドラゴンの口に飛び込もうとしている。

どうにかして足を止めなければ……!

オレとクリスは目で頷きあう。

オレは護身用と言い訳して持ってきたセミオートショットガン『SAIGA12K』の安全装置を解除する。

すでに弾倉には非致死性 装弾(ショットシェル) のビーンバッグ弾が 薬室(チェンバー) に入っている。

これでギギさんを背後から撃ち、気絶させて縄&魔術首輪で拘束。

強制的に獣人大陸にある本部まで連行しよう。

これも全てギギさんの将来を守るためだ!

(ギギさん、ごめんなさい! でもこれはすべて貴方のためなんです!)

オレは胸中で謝罪の言葉を呟きながら、前を歩くギギさんの後頭部へ狙いを定めようとする。

彼に気付かれないよう細心の注意を払いながら、ゆっくりとSAIGA12Kを構えようとした刹那――!

「あれ、リュートさんとクリスさんですか? 奇遇ですね。こんなところで会うなんて」

「「!?」」

左側の道から受付嬢さんが声をかけてきたのだ!

彼女は今日、非番らしく私服姿だった。

手には買い物帰りらしく品物を抱え、なぜか背中には冒険者のように大剣を背負っていた。

「ど、どうも……」

『こ、こんにちはわです……』

さすがに無視する訳にはいかずオレとクリスは返事をする。

だが、これは逆にチャンスだ。

声をかけられた時、運良くオレ達とギギさんの間を商隊の馬車が通り過ぎた。

お陰で、距離が開いてしまう。

その時に受付嬢さんから話しかけられた。つまり、ギギさんを自然な形で遠ざけることができたのだ。

しかも、私服姿と言うことは今日、彼女はお休みなのだろう。

だったら、まだギギさんを拘束するチャンスはいくらでもあるというこだ。

そのためにもここをスマートに切り抜けなければならない。

しかし最初、受付嬢さんに声をかけられたときは再びあの暗黒オーラを浴びなければならないのかと身構えたが、今の彼女はあの時の出来事が嘘だったみたいに明るくなっている。

もしかして吹っ切れたのか?

オレは地雷を処理する爆弾処理班の心境で彼女が現在どのような心理状態なのか探りを入れる。

まずは軽めのジャブから。

「ほ、本当に珍しいですね、こんな街なかで会うなんて。買い物ですか?」

「はい。なぜか同僚から『休んでくれ』って懇願されちゃって」

そりゃあんな暗黒オーラを撒き散らされたら、業務に支障をきたすに決まってるからな。

とりあえず予想通り今日は休みらしい。

視界の端でクリスが喜びから拳を握ったのを確認する。

しかし、その喜びの表情も長くは続かなかった。

「それで折角だから、この休みを利用して準備を整えようと思って」

「準備ですか?」

「そう、準備よ。結局、誰も私のクエストを受けてくれなかったから――ダッタラ自分ノ手デ裏切リ者達ヲ始末シニ行コウト思ッテ」

再び暗黒オーラが全身から溢れ出る。

軽めのジャブなのに一発で地雷を踏み抜いてしまった!

てか、やっぱり誰もあのクエストを受注しなかったのか!

だからって、自分の手で始末を付けに行くってどこのヤクザに雇われたヒットマンだよ!?

つまり背中に背負っている大剣は、裏切り者達を始末するために買ったものらしい。

クリスが再び暗黒オーラを正面から浴びてガタガタと震える。

彼女はオレの腕にしがみつき何とか立っている状態だ。

オレは愛想笑いを浮かべて、

「そ、そうなんですか。頑張ってください、応援してますね。ではオレ達はこの辺で」

声が微かに上擦ってしまったが、ごく自然な態度でその場をやり過ごす。

オレ達は彼女に背を向けて刺激しないようにゆっくりと歩き出した。

よし! よし! よし!

後はこのままギギさんの後を追い 冒険者斡旋組合(ギルド) へ行けばいい!

――だが、そうは問屋が卸さなかった。

「2人ともすまない。先を歩きすぎた」

ギギさあぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁあぁああん!!!

先を歩いていたギギさんが律儀に戻ってきてしまった。

先程まで背後から感じていたトゲトゲしいオーラが霧散する。

逆にそれが心底怖い。

オレとクリスはまるでホラー映画の主人公達のように、ゆっくりと背後に立っている受付嬢さんを振り返る。

さっきまで新人冒険者なら心をへし折られていた暗黒オーラを放っていた彼女が――今はまるで少女漫画に出てくるヒロインのように輝いた表情を浮かべていた。

それはまるっきり恋する乙女の表情だ。

「リュートさん、クリスさん、こちらの素敵な殿方はお二人のお知り合いなんですか!?」

ヒイィィィィィィィィッィィィィィッィイッィィィィィット!

ほら、食い付いた!

絶対に食い付くと思ったよ!

「えっと、そのこの人は……」

「リュートとクリスお嬢様の知り合いか?」

オレがどう紹介すればいいか迷っていると、ギギさんが先に口を開く。

これ幸いに受付嬢さんが笑顔100%で答える。

「はい! 私、この街の 冒険者斡旋組合(ギルド) で受付嬢をやっていて。昔は妖人大陸の 冒険者斡旋組合(ギルド) にも務めていて、その関係でリュートさん達と知り合ったんです。だから、彼らとは昔からの知り合いで。リュートさん達から私は『お姉さん』として慕われてて。ねぇ、リュートさん、クリスさん?」

「ハイ、ソウデス」

『オ姉サント慕ッテマス』

受付嬢さんは笑顔だったが、底知れない恐怖をオレ達は感じて保身のため彼女が望む返答を口にする。

ごめん、ギギさん。

オレ達にもう止める術はないよ。

ギギさんはオレ達がお世話になっている相手と知ると、珍しく丁寧な口調で答えた。

「そうですか。リュートやクリスお嬢様がお世話になっています。自分は魔術師Bプラス級、獣人種族、狼族、ギギ――クリスお嬢様の屋敷に務めていて、今は訳あって人捜しをしています」

「人捜しですか? 大変ですね。でも、人捜しで家を留守にするなんて奥さんや恋人さんが困るんじゃないですか?」

受付嬢さんがクネクネと体を揺らし、糖分120%の声音をあげる。

こいつ探りを入れてきやがった!?

「いえ、自分は天涯孤独の身。そのような方とは縁がないです」

「「!?」」

オレとクリスが絶句する。

ギギさんは相手の意図に気付かず、オレがフォローを入れるより早く馬鹿正直に答えたからだ。

受付嬢さんの目が獲物を狩る肉食獣のものへと変わる!

魔術師Bプラス級で高給取りは確実。天涯孤独のため義理両親との同居や親戚付き合いを気にする必要なし。恋人、奥さんもいない。さらに性格は見た目通り実直、真面目。

超優良物件だと受付嬢さんの瞳がギラギラと輝き訴える。

「えぇ! そうなんですか! 素敵な方なのに!」

「いえ、俺はそんな大した者では……」

「そんなことないですよ! とっても渋くて、格好良くて素敵ですよ!」

受付嬢さんは目をハートマークにして、今にも押し倒しそうな勢いでギギさんを褒める。

だから彼女とギギさんを引き合わせたくなかったのに!

ギギさんは受付嬢さんのラブラブ光線に気付かず、思い出したように尋ねる。

「実は今からクエストを受けに 冒険者斡旋組合(ギルド) へ行く途中で。この街の受付嬢さんなら何か割のいいクエストを知りませんか?」

「はい! 任せてください! では、折角なので私がご案内しますね!」

「えっ、でも今日は休みだったんじゃ――ッ!?」

つい、口からぽろりと疑問を零してしまう。

すると受付嬢さんが、オレにだけ伝わるように殺気を針状にして向けてくる。

思わず息が止まる。

「休みなら、邪魔をしてはいけない。俺達はこれで失礼する」

「いえいえ、邪魔だなんて! それに半休で私もこれから 冒険者斡旋組合(ギルド) へ向かう途中だったんですよ!」

「その荷物や剣は?」

ギギさんが受付嬢さんが手にしている旅用品の荷物と背中に背負っている大剣に目を向ける。

受付嬢さんはその質問にスマイル100%で嘘八百を並べた。

「こっちの旅荷物は 冒険者斡旋組合(ギルド) の備品の買い出しで、背中の剣は護身用なんですぅ。治安のいい街ですが、やっぱりか弱い女性の1人歩きは怖くて」

この街で貴女に手を出す人なんていませんよ!

だいたいか弱い女性が、重さだけでオークの首を両断できそうな大剣を護身用に装備している時点でおかしいだろ!

思わずツッコミを入れそうになり、慌てて口を押さえた。

こんな分かりやすい嘘に対してギギさんは、

「なるほど。大変ですね」

ギギさんは彼女の説明に1人納得する。

「いえいえいつものことですから。それにこれも何かの縁ですから、 冒険者斡旋組合(ギルド) では私がギギさんの担当をさせて頂きますね。割の良いクエストを大放出しちゃいますよ!」

「それはありがたい」

「ギギさんのお役に立てて嬉しいです。それじゃ折角ですから 冒険者斡旋組合(ギルド) まで一緒に行きましょうか」

そして受付嬢さんは自然な動作で 冒険者斡旋組合(ギルド) へと促す。

ギギさんは少しも疑問に思わず彼女の言葉通り歩き出した。

オレとクリスは互いに無力な自分達を呪いながら、囚人のように2人の後に続いた。

もうオレ達の力では、受付嬢さんを止めることはできそうにない。

ギギさんもとんでもない人に目を付けられたな――とオレは胸中でひたすら同情した。