軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第217話 メイヤ、やさぐれる

昼。

昼食を済ませてから、メイヤの私室を訪ねた。

ここ最近、彼女とまったく顔を会わせていないため、心配して訪ねたのだ。

メイヤの私室はオレ達の隣で2階、別の客室を使用している。

階段を上がり、彼女の部屋、扉の前に立つ。

「メイヤ、居るか?」

扉をノックし、声をかけるが反応無し。

再度、ノックして声をかける。

「…………」

しかし、部屋から扉の開く気配はまったくない。

オレは扉に手をかける。

鍵は内側からしっかりと閉まっていた。

「まさか中で倒れてるとかないよな……」

念のため事務室から、全室の扉を開くマスターキーを借りてきた。

鍵穴にマスターキーを差し込み、解錠する。

「うッ……!?」

扉を開くとまず最初に酒精の濃い匂いが鼻を突く。

オレは思わず手で鼻を覆ってしまう。

床には酒精の陶器瓶が無数に転がり、衣服が脱ぎ捨てられ、丸められたゴミが無造作に転がっていた。

さらに視線の先にはベッドがあり、シーツはしわくちゃで掛け布団は床に落ちている。

窓の鎧戸は固く閉じられ、カーテンもひかれて日光を完全に遮断していた。

唯一の光源は天井から照らされる魔術光のみ。

その光の下、1人の女性がソファーに腰掛け足をテーブルに投げだし、コップに注がず酒精の陶器瓶をラッパ飲みしていた。

「んぐんぐ、ぷっ、はぁぁぁあッ!」

ちょうど一瓶飲み干したらしく、濡れた口元を豪快に腕で一拭いする。

竜のような角が頭に生え、長い艶やかな髪が肩口からたれさげている。

竜人種族の伝統的衣装であるドラゴン・ドレス(見た目はチャイナ服)ではなく、やぼったいシャツに下はパンツ一枚姿だった。

お陰で胸はシャツを下から突き上げ、その大きさを誇示。

モデルのように長い足は隠す物が一切ないため、魔術光の下で艶めかしい色気を惜しげもなくふりまいている。

会社の上司にセクハラを受け、ストレス発散のためやけ酒をする女性――メイヤ・ドラグーンらしき人物と目が合う。

「……あんっ?」

「間違えました。すみません」

オレは思わず反射的に扉を閉めた。

ドアノブを握ったまま、自分に言い聞かせるように呟く。

「いやいや、ないない。あのメイヤがオレに田舎ヤンキーみたいにメンチを切ってくるなんてありえないって」

恐らくここ連日、色々働いていた疲れが脳に来て幻覚を見せたのだろう。

オレはドアノブから手を離し、その場で大きく深呼吸をする。

頬を両手で叩き意識をしっかりと保ち、再び扉に手をかけた。

「よし! それじゃ行くか! メイヤ、入るぞ!」

オレは部屋に聞こえるほどの大声をあげ、再び扉を開いた。

扉を開くと先程と同じで酒精の濃い匂いが鼻を突き、ソファーにはほぼ下着姿のメイヤが胡座をかいて座っていた。

彼女は酒精瓶を右手に掴み、ビーフジャーキーのようなものをもぐもぐと噛んでいた。

扉が開いたことに気付き、酒精のせいか赤くなった頬でオレを睨み付けてくる。

「……あぁんっ?」

「失礼しました」

再度、オレは扉を閉めてしまう。

部屋は間違えていない。

なかに居た女性には竜人種族を示す角も生えていた。

つ、つまり錯覚か、幻だと思っていた先程の殺人鬼のような目つきをしたやさぐれた女性があのメイヤ・ドラグーンなのか!?

「め、メイヤがぐれたぁぁぁぁ!」

オレは思わず大声をあげ、扉の前から走り去ってしまった。

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「それでは第1回、『メイヤがぐれてしまったけどどうしよう?』会議を始める!」

会議場所はオレ達が使っている私室のリビング。

メンバーはスノー、クリス、リース、ココノ、そして皆の世話のためシアが部屋に集まってくれた。

彼女達の仕事はオレが各方面に頭を下げ、一時代わってもらった。

お陰でメイヤの私室から走り去って約1時間後という短時間で会議を開くことが出来たのだ。

シアが人数分の香茶を淹れ終わった後、オレは厳かに見たままの状況を皆に話して聞かせる。

「――というわけでメイヤが部屋でぐれているんだ! だから、この会議で『どうしてメイヤがぐれてしまったのか?』の原因を皆で考えて、その問題をどうすれば解決できるか話し合いたいと思う!」

『…………』

オレの危機感を持った態度とは裏腹に、女性陣の反応は薄い。

その態度に困惑していると、スノーが最初に口火を切る。

「メイヤちゃんがぐれる……というか、やさぐれるのも当然だよぉ」

「と、当然ってなんでだよスノー」

『本当に分からないのリュートお兄ちゃん?』

次にクリスが呆れた表情でミニ黒板を掲げる。

オレが言葉の意味を聞き返すより早く、リースが告げた。

「私が言えた義理ではありませんが、『ココノさんがメイヤさんより早くリュートさんと結婚した』から拗ねているに決まってるじゃありませんか」

「うっ……!」

リースのド直球な発言に、反射的に心臓を押さえる。

シアに視線を向けると、言葉にはしないが目が如実に語っていた。

もちろんオレだって、候補の1つとして考えた。

しかし、まさか『オレの嫁になれないから拗ねている』と自惚れた台詞を自分で言えるはずがない!

だが、やっぱりそれしか原因はないよな……。

部屋が沈黙に包まれる。

最初に沈黙を破ったのはココノだった。

「……やっぱりわたしのような者がメイヤ様のような才色兼備な方を差し置いてリュート様の妻になったのが間違いだったんですね」

『それは違うよ! ココノちゃんは悪くないよ!』

「そうです。どちらかといえば、はっきりとした態度を取らないリュートさんの責任です!」

ココノの台詞に隣に座っていたクリスがミニ黒板を掲げ主張する。

そして、リースがクリスの言葉に加勢して、声をあげた。

「あ、ありがとうございますクリス様、リース様。そのお言葉だけでとても嬉しいです」

ココノは2人の言葉と態度に感動して、瞳に涙を浮かべお礼を告げる。

2人はさらにココノを慰め、言葉をかけあう。

その間にスノーがオレへ問い詰めてくる。

「それで実際の所、リュートくんはメイヤちゃんをどう想っているの?」

「ど、どうとは?」

「好きか、嫌いかに決まってるでしょ!」

スノーはオレのとぼけた返答に頬を膨らませぷんぷんと怒る。

メイヤを好きか、嫌いかでいえば……そりゃ……

オレは絞り出すように答えた。

「そ、そりゃどちらかと言えば好き……だけど」

「けど?」

「『結婚するほど大好き、愛しているか?』と言われたら踏ん切りがつかないというか……メイヤはちょっと色々重いというか……」

オレだってあそこまであからさまに好意を向けられたら気付くし、悪い気はしない。

しかし、彼女はオレのことが好きすぎる。

正直、メイヤの想いが重い。

重すぎていつかブラックホールが形成されるんじゃないかというぐらい重いのだ。

だからつい、二の足を踏んでしまう。

この返答に女性陣は、マンモスでも凍り付きそうな冷たい視線を向けてくる。

オレは慌てて追加した。

「いや、だって! いくら相手が本気で好意を抱いていても、そんな曖昧な気持ちで結婚するほうが不誠実だろ? みんなもそう思うよね? よね?」

『…………』

オレの必死な訴えは、冷たい視線によって黙殺される。

こういう時、女性陣の一致団結ほど強固なものはない。

まだ素手で『ダン・ゲート・ブラッド伯爵の防御を突破しろ』という方が達成できる可能性がまだ高い気がする。

「では、まずもう一度、若様のお考えをメイヤ様にお聞かせしてはどうでしょうか? そしてお2人でよくお話をすれば互いに納得できるお答えが出ると思います」

見かねたシアが助け船を出してくる。

オレはすぐさま彼女の言葉に乗っかった。

「そうだな。シアの言う通りまずは互いの考えを伝え合うことが先決だよな。と、いうわけでオレはもう一度、彼女の部屋に行ってくるよ!」

「……リュートくん、今度は誤魔化したりしないでメイヤちゃんと話してあげてね」

スノーは妻達を代表して、意見を告げてくる。

「わ、分かってるよ」

オレは彼女の言葉に返事をするが、これから起きる話し合いを想像し緊張でどもってしまう。

そしてオレはソファーから立ち上がると、スノー達を部屋に残して廊下へと出た。

向かう先は、隣のメイヤ私室だ。

メイヤの部屋は隣のため、すぐに扉の前へと辿り着く。

オレは咳払いをして、気持ちを落ち着かせてから扉をノックした。

さらに扉の外から声をかける。

「メイヤ、リュートだけど話がしたいんだ。入ってもいいか?」

1分ほど待つが部屋から返事がない。

再度ノックするが、室内から物音1つしない。

オレはドアノブに手をかけ、回す――鍵はかかっていなかった。

「メイヤ、入るぞ!」

扉を開き部屋へ入ると酒精の匂いを鼻だけではなく、全身で味わう。

匂いだけで酔いそうだ。

オレは顔をしかめながら、さっきメイヤが座っていたソファーまで歩み寄る。

彼女はそこにはなかった。

さらに室内をぐるりと見渡すが、メイヤの姿はどこにもない。

「トイレか?」

さらに室内の奥にある扉へと向かおうとしたが、その足を一枚の紙が引き止める。

テーブルの上には酒精の陶器瓶やツマミ、衣類、ゴミなどがごちゃごちゃと積み上がっている。先程よくこれだけの物をさけ、あの長い足を乗せられたと感心したものだ。

それらの上に、一枚の紙が置かれていたのだ。

その紙には綺麗な文字でこう書かれていた。

『竜人大陸へ帰らせていただきます。メイヤ・ドラグーン』と。

オレは目を擦り、もう一度――と言わず二度、三度、四度、五度と紙に書かれてある文字列を読み返す。

そしてようやく言葉の意味を脳みそが理解すると、思わず――

「め、メイヤさぁぁあぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁあぁあっぁんッ!!!」と絶叫してしまった。

この日、メイヤ・ドラグーンは書き置きを残し1人家出(?)してしまった。

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一方、家出(?)したメイヤ・ドラグーンはというと――。

彼女はすでにレンタル済みの飛行船に乗り込み、空の人になっていた。

飛行船にはメイヤしか客はいない。

なぜなら、彼女がこの船を全て貸し切っているからだ。

彼女はソファーに座りながら、メイドが淹れてくれた香茶に口を付ける。

(リュート様にお会いして、その天才性に触れてからずっと忘れていましたわ。わたくしも、リュート様の足下に及ばないながら天才だったということ! 天才とは例え恋愛の駆け引きでもその才を発揮するものなのですわ! なぜなら天才ですから!)

そうリュートにずっと会わないようにしていたのも、やさぐれた姿を見せたのも、汚い部屋の姿を見せたのも、冷たい態度を取ったのも――全てはメイヤの計算だ。

(殿方は追いかければ逃げ、逃げれば追いかける生き物……ずっと押せ押せだったわたくしが、突然冷たくすればきっとリュート様は追いかけて来てくれるはず! そこに気付くとは! 流石、わたくしはリュート様に次ぐ天才ですわ!)

メイヤは自分の天才性に思わず身震いしてしまう。

しかし、もしあの場をスノー達女性陣が目撃していたら、メイヤの演技に気付いただろう。

部屋は汚く、酒精を浴びるように飲んでいたのに肌は荒れておらず、髪はつややかだったことに。連日、こもって飲んでいる筈なのに身なりが小綺麗なんて本来ありえないからだ。

(計算外があったとしたら、思いの外リュート様に冷たい態度を取るのが辛かったことですわね……)

メイヤは冷たい態度を取って、リュートを追い出した後、ストレスと後悔で胃に穴が空きそうになり、その場で少年漫画の主人公が攻撃を受けたように吐血しそうになったのだ。

今でも胃の辺りがしくしくと痛む。

(しかし、これも全てリュート様の寵愛を受けるための試練ですわ!)

彼女の予想では今頃、リュート達は慌てて自身を追いかけるため飛行船レンタルに走ったり、ココリ街守護の仕事を長期開けるためその引き継ぎなどに時間を取られている。そのため今から彼らが追いつくことはまずありえない。

そして、自分は自宅へと籠もり追いついたリュート達を最初は冷たくあしらう。

しかし、最終的には温かく迎え入れ、自然とリュートの妻に収まるつもりなのだ。

(今度こそ、リュート様の妻の座を手に入れてみせますわ! メイヤ・ドラグーン、一世一代の計画ですわ! そしてリュート様の妻になった暁には! わたくしがリュート様の血を後世に伝えるという偉業を達成してみせますわ! 是が非でも!)

そしてメイヤは、まるでどこかの暗黒街ボスのような悪い顔で爛々と燃えるような笑みを漏らす。

こうして飛行船はメイヤ・ドラグーンを乗せ一路、竜人大陸を目指した。