軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第201話 兎リンゴ

小包を受け取った当日。

ココノは体調不良を訴え、その日は一日宛がわれている客室で休ませてもらった。

彼女はベッドに腰掛け、改めて小包に入っていた手紙と本を確認する。

「そんなまさか……天神教がこんな酷いことをしているなんて……」

手紙によると――予言をでっち上げ巫女や巫女見習いなど天神教に心酔している少女達を有力者と結婚させ、繋がりを作り天神教の地位や権力を広げ、増大してきたらしい。

早い話がハニートラップだ。

しかも送り込まれるのは天神教に従順な少女達のみ。たとえ酷い目に合ったとしても、彼女達は文句一つ言わずその身を捧げる。少女達にその自覚が無いからさらに質が悪い。

ココノ自身、将来有望な 軍団(レギオン) 、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) と関係を深めるために送り込まれた1人だと手紙には書いていた。

手紙の内容を裏付ける証拠として、一緒に本が同封されていた。

最初は自身を騙すための偽物かとも思ったが、本の中には『どこに』、『どの少女が嫁いだのか』、『嫁ぎ先の趣味、嗜好等』などが多数詳細に書かれている。

自分一人を騙すのにしてはあまりに凝りすぎている。

「でも、本当に天神教上層部がこんな非人道的な行為をおこなっていたとしたら……」

この案件は自分1人で抱えるには大きすぎる。

(誰かに相談できれば……)

すぐに1人の人物の顔が思い浮かぶ。

「ガンスミス様に……」

だが、彼女はすぐに首を横へ振った。

(もしこの手紙が真実だとしたら……。彼らを天神教の問題に巻き込むわけにはいかない)

突然、『嫁にして欲しい』と押しかけたのにもかかわらず、最終的には皆優しく接してくれた。

そんないい人達を巻き込むわけにはいかない。

これは天神教の問題なのだから。

「やっぱりここはトパース司祭様に相談しないと……」

トパースは両親亡き後、孤児院でココノの面倒を何かと見てくれた。

そのため彼女は、トパースのことを、ずっと義父のように慕っている。

ココノが知るなかで最も信頼できる人物だ。

また、もうすぐ約束の期限の一ヶ月になる。

リュートの態度から自身が嫁ぐのは無理なのを理解していた。今回に限って言えば怪我の功名かもしれない。

ココノは獣人大陸、エルルマ街の天神教支部に戻って手紙と本をトパース見せて、今後の対応を相談することを決意する。

コンコン。

意志を固めていると、扉がノックされる。

ココノは慌てて、手紙と本を隠した。

「ど、どうぞ」

「お邪魔します」

「ガンスミス様、クリス様!」

リュートとクリスが、お盆を手にココノの部屋に顔を出す。

「もう起きてて大丈夫なのか?」

「は、はい。心配してくださってありがとうございます。午前中休ませて頂いたお陰で随分楽になりました」

「そっか。でも、今日は一日休めよ。たぶん慣れない仕事をしたせいで、疲れが一気に来たんだろうから」

「……はい、ありがとうございます」

疲れは確かにあったが、ちゃんと休みももらっていた。本来なら急遽、休むようなことにはならなかった。

あの手紙と本さえ読まなければ……。

「それでご用件は?」

『そろそろお昼なのでご飯を持ってきました! 食べられそうですか?』

クリスがニコニコとミニ黒板を差し出す。

リュートが持つお盆には、果物を中心にした食事が準備されていた。

「何も食べないと体に悪いからな。でも、無理して全部食べる必要はないから。食べられるだけ食べたら、もう少し横になったほうがいいぞ」

『リュートお兄ちゃんの言うとおりです』

「あ、ありがとうございます」

ココノは涙を零しそうになる。

自覚していなかったとはいえ、もしかしたら自分はリュート達を陥れるため近づいた敵のような者なのに。

彼らは心の底からココノの体調を気遣っている。

彼女は申し訳なくなり、顔を俯かせてしまう。

そんなココノの態度に、リュート達は体調が思わしくないと勘違いして、

『お兄ちゃん、いつまでもお部屋に居るのは申し訳ないので、そろそろ戻りましょうか』

「だな。もし何かして欲しいことがあったら、遠慮無く言うんだぞ」

「はい、ガンスミス様、クリス様、本当にありがとうございます」

ココノの返事を聞くと、二人は持ってきたお盆をテーブルに置いて部屋から退散する。

ココノは部屋で1人になると、リュート達が持って来たお昼ご飯――果物の盛り合わせに手を伸ばす。

「可愛い」

盛り合わせの一つ、リンゴのような果物が兎の形に切られていた。

もちろん、リュートのアイデアだ。

ココノは添えられた金属製フォークを手に取ると、兎リンゴを一口囓る。

「美味しいです……」

甘酸っぱく、涙のせいで少々しょっぱかったが、嘘偽り無い彼女の本心だった。

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「そろそろ一ヶ月経つから、ココノをエルルマ街の天神教支部へ送り届けないといけないわけだが……誰が行く?」

仕事と夕食を終え、自室のリビングで就寝までのリラックスタイム。

オレは嫁&弟子、メイドに話を振った。

約一ヶ月前、トパースとの初面会の席で、彼は手伝いが終わったココノを自分達が迎えに来ると言っていた。

しかし、トパースが来たら延長を言いだし、最終的にはココノを嫁に――となりかねない。

その懸念から、オレは新・純潔乙女騎士団メンバーの訓練も兼ねて、ココノをエルルマ街まで送ると約束したのだ。

しかしトパースも侮れず『ガンスミス卿が直接送り届けてくださるなら、道中の安全は約束されたのも当然ですね』と言ってきた。

お陰でオレがココノをエルルマ街に送り届けるのは確定だ。

この街から、エルルマ街まで片道1週間。

往復で2週間の旅になる。

約束した手前、まさか体の弱いココノを1人で片道1週間の旅に送り出す訳にはいかない。

「それじゃみんなで一緒に行こうよ! そして、折角だからエルルマ街の観光をしてこよう」

スノーがナイスアイデアのように提案してくる。

オレは彼女の意見を却下する。

「ずっと北大陸へ行っていた手前、またオレ達全員って訳にはいかないよ」

「では、自分達の部隊などいかがでしょうか? 若様、ココノさんのお世話から、警護まで問題なくこなせます」

「道中の安全確保を考えるなら、私の部隊の火力があったほうが安全だと思いますよ」

シアの提案に、リースも提案してくる。

さらにメイヤも負けじと手を挙げた。

「でしたら、わたくしの部隊がお供しますわ! 移動中、ずっと製作が出来ますわよ!」

「いや、メイヤの部隊、ルナを入れても2人しかいないじゃないか。それに陸路の移動中でわざわざ製作なんてしなくても」

「で、ですが……だいたい! リュート様がココノさんを送り届けること自体おかしい話ですわ! いくら面会の席で約束をしたからと言って! そんなもの適当な言い訳をすれば相手も納得するはずですのに!」

メイヤは指摘を受け、我慢しきれず鬱憤を吐き出す。

彼女の言い分も理解できる。

口約束とはいえ、本当にオレがわざわざ送り届ける必要はないのだ。

送れなかった理由などいくらでも用意できる。

しかし……

「メイヤの指摘ももっともなんだが、最近ちょっとココノの様子が気になって」

「ま、まさかこの1ヶ月間でほだされて『やっぱり嫁に欲しいです!』と言いに行くために同行するつもりなのでは……」

メイヤが驚愕の表情で、震えながら呟く。

この発言にリースまで目の色を変える。

オレは慌てて訂正した。

「違う! 違う! そんなつもりはないよ! でも、みんなだって最近、ココノの様子がおかしいとは思わないか?」

「確かにリュートくんの言うとおり、最近のココノちゃんはちょっとおかしいよね。よく考え事していたり、凄く落ち込んだ表情をしていたり、急にわたし達と距離を取るようになったり」

「スノーさんの仰るとおり……確かに最近、なんだか様子が変ですよね」

「そうですか? 最初からあんな感じではなかったですの?」

リースはスノーの意見に同意し、メイヤは本気で『分からない』という顔で首を捻っていた。

メイヤ……

オレは気持ちを切り替えるため、咳をする。

「だろ? 手伝いとはいえ1ヶ月間、同じ仲間として働いて、色々助かったこともある。だから、もし何か問題や悩みがあるなら、エルルマ街に着くまでの1週間で話ぐらいは聞けるかなと思ってさ」

オレの意見に皆……メイヤ以外が納得した表情をする。

メイヤは口元を『へ』の字に曲げて動かさない。

オレが彼女の不機嫌に気付かないふりをして、視線をそらしているとクリスがミニ黒板を掲げる。

『だったら、その仕事は私の部隊が担当します!』

さらに彼女は続ける。

『今月のクエスト担当は、わたしの部隊なのでちょうどいいです!』

新・純潔乙女騎士団メンバーは月に一度のペースで 冒険者斡旋組合(ギルド) からクエストを受けている。

メンバー達に実戦訓練をさせるためだ。

クエスト内容によってメンバーだけだったり、スノーやクリス、リース、シアが監督役として付いていく場合がある。

本当はレベルⅤの冒険者が、同じ 軍団(レギオン) だからと言って、下位レベルのクエストに付いていくのは褒められたことではないのだが。

月一のクエスト訓練は持ち回りで、今月はクリス部隊の番だった。

確かに筋は通ってる。

それにココノと一番仲の良いのがクリスだ。

同い年だし、背丈が近いなど共通点も多いから仲が良い。

クリスになら、ココノも悩みを話しやすいだろう。

「それじゃクリスの部隊の訓練を兼ねて、ココノをエルルマ街に送り届けるということで。クリス、準備を含めて訓練としてメンバー達にやらせてくれ」

『はい! 任せてください!』

クリスは機嫌よさげにニコニコとミニ黒板を掲げる。

これでこの話はお終いだ。

「…………」

話が終わったのに、メイヤがジッとこちらを見ている。

「…………」

気付かないふりをしていると、顔を近づけてくる。

どんどん顔を近づけて、鼻先がオレの頬に触れるほど顔を接近させて来る。

ジッと――じぃ~と決して視線をそらさない。

「分かった! 分かったよ! メイヤも一緒に行こう! それなら文句ないだろ!」

「ありがとうございます、リュート様! このメイヤ! エルルマ街どころか、地の果てまでリュート様のお供をしますね!」

オレは根負けして彼女の同行を許可してしまう。

メイヤの無言の圧力に敗北する。

しかし、メイヤなら本当に地の果てだろうが、次元の壁だろうが構わず付いて来そうだな……。