軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第197話 メイヤ、怒る

「リュート様、これは一体どういうことですか?」

「いや、これはその……」

オレは新・純潔乙女騎士団本部の自室、床で正座していた。

珍しく……というより初めてメイヤがオレに対して本気で怒り、腕を組んで見下ろしてくる。

彼女は再び問いかけた。

「わたくし、約束しましたわよね? 『嫁に娶るなどというご乱心を起こさない』と。なのにどうして彼女が、本部に泊まっているのですか?」

天神教使者との話し合いを終えた夜。

司祭を務めるトパースはココリ街宿へ宿泊。

巫女見習いのココノは客間へと案内した。

明日から一ヶ月間、バイトとして働いてもらうことになっている。

昼間、仕事で席を外していたスノー、クリス、リースも、帰ってきて初めてココノを一ヶ月間バイトとして雇ったことを知った。

天神様のお告げで、オレに嫁として娶って欲しいと押しかけてきた少女をだ。

メイヤの隣には同じように腕を組むリースが立っている。

彼女はメイヤに同意する。

「私も知りたいですね。どうして『妻にしてください』と迫ってきた女性を、一ヶ月もお側におくのか」

「さ、最初は半年って迫られたけど相手が妥協して一ヶ月になって、さすがにそれを断るのも申し訳なくて……あ、後、妻じゃなくて、短期のお手伝いとして雇ったわけで。決して、妻として娶ろうとは思っていないというか」

「問題はそこではありませんわ! リュート様が『妻にして欲しい』と迫って来た女性を一ヶ月とはいえお手伝いに採用したのが問題なのですわ! わたくし達の知らないところで逢い引きしているかもしれないと思ったら。きえぇぇぇぇえッ!」

メイヤがアマゾンに住む怪鳥のような声音を上げる。

オレは慌てて弁解した。

「まさか逢い引きなんて! 本当にそんなつもりで雇ったわけじゃないよ!」

弁解するが、リースとメイヤの表情は変わらない。

しかし今にして思えば、トパースの交渉は『ドア・イン・ザ・フェイス』を利用したものだった。

『ドア・イン・ザ・フェイス』とは、『人は断ることによって罪悪感が生まれ、次は願いを聞いてあげたいという気持ちになる』という人間心理を利用したテクニックである。

この人間心理を応用して、本命の要求を通すため最初に過大な条件を提示し、相手に断らせて小さな要求(本命)を出すという方法だ。

よく考えれば、前世の知識があったのだから対処できた筈だ。いきなりの事態に慌てすぎていたのだろう。

ココノの押しが強かったというのもあるのだろうが……。

リースは腰に手をあて、顔を寄せてくる。

「でも、メイヤさんの仰る通り、私達に黙って裏でそういうことをするつもりかもしれないと疑われてもしかたないことをリュートさんはしたのですよ」

「はい、すみません……」

正論のため反論できず、オレは素直に謝罪する。

一方、ソファーに座っているスノー、クリス組は楽観的な意見を述べる。

「二人共、心配し過ぎだよ。リュートくんがわたし達を裏切るマネするはずないよ」

『私もリュートお兄ちゃんを信じています』

「ダメですよスノーさん、クリスさん、そうやってリュートさんを甘やかしては。もちろん、私もリュートさんを信じています。しかし、妻である私達にとっても重要な案件を一言も相談なく決めてしまったのが問題なんです。そこはきっちりと指摘しないと」

「はい、その通りです。すみませんでした!」

再びオレは謝罪を口にする。

これにリースもようやく表情を弛めた。

「しかし、もう同意してしまったのなら仕方ありませんね」

「な! 何を仰るのですか! リースさん! 今からでも遅くありませんわ、あの少女を早急に追い出すべきですわ!」

興奮するメイヤをリースが落ち着かせる。

「ですが、もうすでにリュートさんが……夫が決めたこと。だったら妻である私達は従うだけです。相手が誰であろうと私情を挟まず、一ヶ月間しっかりと面倒をみます。リュートさんもそのつもりで」

「はい! よろしくお願いします!」

「メイヤさんも、それでいいかしら?」

「ぎぎぎぎッ……しかたありませんわね。リュート様が一度お決めになったことですから……」

メイヤも歯ぎしりしながらも最後は同意してくれた。

オレは『ほっ』と安堵の溜息を漏らす。

そして改めてココノに担当してもらう仕事を話し合う。

彼女は体が弱いため、重い荷物を運ぶなどの重労働は避けることになった。下手に無理をさせて怪我をされては困る。

いくら治癒魔術で治療できると言ってもだ。

そのため彼女の主な仕事は掃除、洗濯、料理、馬の世話などの雑務を担当してもらう。

これらの雑務はオレ達を含めて、新・純潔乙女騎士団の団員達が持ち回りでやっていることだ。

その手伝いをココノには担当してもらうことになる。

また明日、事務を担当するバーニーと相談の上、一ヶ月の給金を決めることになった。

こうして、妻公認でココノの受け入れ準備が整っていった。

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「ふ、不束ものですが、よろしくおねがいいたします」

「ああ、よろしく。さっそく行こうか」

翌朝、バーニーの所へオレとココノで向かう。

ココノは頬を染めながら、少しだけ早足でついてくる。

「無理しなくていいから。自分のペースで、な」

「はい。ありがとうございます」

歩く速度を緩めると、ココノはオレの方を向いて恥ずかしそうに微笑む。

オレはそんな一生懸命なココノを微笑ましく見ながら、バーニーの所に向かう。

そこで一ヶ月分の給金を提示し、ココノにサインをしてもらうつもりだ。

事務室にはバーニーの他に誰もいない。

今まで事務仕事を担当していたガルマは、彼女が来たことでようやく激務から解放。現在は久しぶりの休みを堪能している最中だ。

「バーニー、おはよう。例の契約書は出来てる?」

「おはようございます、リュートさん。はい、もちろん大丈夫ですよ」

昨日のうちに契約書作成を依頼しておいた。

バーニーは事務机から契約書を差し出し、ココノに雇用条件を説明。彼女が納得するとサインを求めた。

彼女がサインを書いている間、オレはバーニーと会話をする。

「バーニーはどう。仕事にはもう慣れた?」

「はい、お陰様で。ガルマさんも優しくてくれるし」

そりゃ、彼女に逃げられたらまた激務に逆戻りになる。絶対に逃がさないように優しくもなるだろう。

バーニーもあの戦場を求める性格は収まり、いつもの彼女に戻っていた。

「でも、昨日ようやく PEACEMAKER(ピース・メーカー) の書類チェックが終わったんですけど、色々ミスがあって修正しないといけないんですよ」

「ミスって?」

「 冒険者斡旋組合(ギルド) に提出する書類で、こことここが経費として計上出来るのにやっていないとか。細かいミスですよ。なので書類の修正をしたいので、時間を作ってもらっていいですか? この書類に代表者の訂正サインと同意サインが欲しいので」

バーニーは机の引きが出しから、広辞苑のような書類束を取り出す。

これ全部にサインを書かないといけないのか?

「これって僕が担当しないとダメなの?」

「はい、だってリュートさんが 軍団(レギオン) の代表者じゃないですか」

バーニーは当然とばかりに頷く。

「だって今までこんなにサインしたことなんてないぞ!」

冒険者斡旋組合(ギルド) や商工会などに提出する書類にサインをしたことはなんどもある。

その時の枚数は多くても十数枚。

これはその数倍はあるだろう。

「当然です。経費削減できる箇所を割り出し、書類を新たに作り直したんですから。出来れば明日中には提出したいので、チェックも含めて今日中に終わらせてくださいね」

バーニーは有無を言わさない迫力で念を押してくる。

今日は机仕事で拘束されるのが決定してしまう。

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ココノが書類にサインを書き終えると、オレ達は事務室を後にする。

オレは後程戻って来ないといけなくなってしまったが……。

さて、気を取り直してこれでココノとの契約は、完了だ。

手続きを終えたことで、早速仕事に取り掛かってもらう。

基本的に新・純潔乙女騎士団では掃除、洗濯、食事準備、他雑務は本部で待機中の部隊が持ち回りで担当する。

ココノにはその手伝いをしてもらうつもりだ。

今日やる仕事は、角馬の世話だ。

ココノの自己紹介で、彼女がもっとも得意なことが角馬の世話だと言っていた。だから、まずは自身の一番得意な分野をやってもらうことで慣れてもらおうと考えたのだ。

早速、彼女を角馬小屋へと案内する。

本部にも数は少ないが角馬がいる。

今日の本部待機はクリスのスナイパーライフル部隊だ。

訓練に取り掛かる前に、角馬の世話を終わらせるため角馬小屋へ来ている。

「獣人大陸天神教支部から来ました人種族のココノと申します。短い間ですがよろしくお願いします」

『この部隊の分隊長を務めます、魔人種族、ヴァンパイア族のクリス・ガンスミスです』

クリスの挨拶の後、他のメンバーがそれぞれ挨拶をする。

挨拶が終わると、二人一組に分かれて早速角馬の世話を始める。

ココノは組む相手がいないので、一人で角馬の世話を始める。

しかし、その手際は誰よりよく丁寧で、早い。

さすが角馬の世話には自信があるとアピールしてくるだけはある。

他のメンバー達もそつなくこなしている。

一番、手際が悪いのは……

「ふ、フヒ! く、クリスさん、が、頑張ってください!」

『ラヤラさんこそお願いします!』

クリス&ラヤラペアはおかっなびっくりで、角馬の世話をしていた。

獣人種族タカ族、ラヤラ・ラライラ。

彼女は元純潔乙女騎士団の副団長だ。

魔力の量だけならS級だが、攻撃魔術――というか攻撃が一切出来ない。

呪いにかかっているんじゃないかと疑うほど攻撃が出来ないのだ。

しかし目は鷹だけによく、現在はスナイパーライフル部隊で観測手を務めている。

二人とも実家が金持ちで、角馬の世話は未経験。

さらに二人とも一般的に見ても背が低く、台にのってやらないと角馬の背に届かない。しかしおっかなびっくりやるので、その手つきは本当に危なっかしい。

「あ、あのよかったらお手伝いしましょうか?」

ココノはすでに自分の角馬の世話を終わらせていた。そのため手間取っているクリス&ラヤラに声をかけたのだ。

「角馬は繊細な動物ですから、こちらが怖がると相手も怖がってしまいます。だから、怖がらず優しくしてあげれば危ないことはありませんよ」

ココノも彼女達と同じぐらいの背丈しかない。

台に乗り背中や首などをブラッシングしてあげる。

先程まで挙動不審だった角馬が気持ちよさそうに鼻息を漏らした。

「はい、どうぞやってみてください」

「あ、ありがとう、フヒ、ございます。そ、それじゃやってみるね」

『頑張ってください!』

クリスの応援のもとラヤラがブラッシングを始める。

先程に比べて角馬も怖がらず、気持ちよさそうに身を任せている。

上手に出来たのが嬉しかったのか、三人はそれを切っ掛けに楽しそうに会話を始める。

ココノが上手く馴染めるか不安だったが、これなら問題ないだろう。

オレはとりあえず、彼女に角馬の世話が終わったら次の仕事の指示を出す。

オレ自身はというと、書類の片付けのためにバーニーが待つ事務室へと重い足取りで向かった。