軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第167話 初めての嘘

オレは村へ戻っていくスノーの両親を見送り、呆然と佇む。

色々突飛な話が続いたため、未だに頭の整理が追いつかない。現実感もない。

しかし、夢ではなかった証拠に、手の中には『 番(ツガイ) の指輪』なんて物が残っている。

オレは頭を掻きむしり、意識を立て直す。

まずは状況を整理しよう。

・まずオレは歴史と伝統だけが売りの妖人大陸にあった小国、ケスラン王国の王子だったらしい。

・スノーの両親は、オレの父親に命を救われ、ケスラン王国に仕えていた。

・妖人大陸の最大の領土を持つ大国メルティアが、ケスランに戦争を仕掛ける。結果、ケスラン王国は滅亡。

・スノーの両親は、産まれたばかりのオレとスノーを連れて逃亡。

・オレの父親は城内に残り戦死。母親は逃げる途中ではぐれた。

・王であったオレの父親から『番の指輪』を託されていたため、オレへと渡す。

・オレは亡国の王子のため、もし大国メルティアにその存在がばれたら、スノー両親と同じように追い回される可能性がある。

確かにスノーの両親としては、生き別れて再会を絶望視していた娘と再び出会うことができた訳で、二度と離れたくない気持ちも、最愛の娘に自分達が味わった苦労をかけたくないのも理解出来る。

しかし、だからといって素直にスノーと別れられるか?

ありえない!

いくらスノー両親の願いだからって、彼女と別れるなんて絶対に嫌だ!

それに、スノーが他の男といちゃついているのを想像するだけで胃がムカムカする。もしそんな2人を前にしたら、オレは男へありったけの銃弾を叩き込む自信がある。

それに白狼族と一緒に北大陸内部にいれば安全かと思ったが、大国メルティアは10数年間も2人を追いかけて来たのだ。そんなメルティアが、簡単に2人を諦めるとは到底思えない。

白狼族は巨人族の行動をある程度把握し、一方的に楯として利用している。

そのため他の都市や大陸にいるよりは安全だが、何時突破されないとも限らない。

当面は問題は無いかもしれないが、将来は分からない。

しかし、根本的な解決方法があるかというと……

①スノー両親を大国メルティアへ売り飛ばす。

うん、出来るわけがない。却下だ、却下!

②大国メルティアを叩きつぶす。

これも無理。

妖人大陸でもっとも大きな領土を持つ大国だ。前世の世界でいうならアメリカを潰すようなものだ。出来るはずがない。

③大国メルティアが諦めるまで、オレ達が白狼族についてガードする。

ある意味、一番現実的な方法に思えるが、その間、獣人大陸の新・乙女騎士団や PEACEMAKER(ピース・メーカー) の行動が制限されてしまう。

少々難しい……。

「さて、どうしたもんやら……。はぁ、まさかスノーの両親の手がかりを求めて北大陸へきたら、自分の過去を知ることになるなんて」

前世、オレは友達を見殺しにした。

その結果、イジメ主犯格に殺され、生まれ変わったら両親に捨てられ、さらに才能もない。

しかもここに来て、大国メルティアに命を狙われる『亡国の王子』という地雷まで追加される。

いくらなんでも今生はスタート地点が色々ベリーハード過ぎやしないか?

「一応、スノー達に現状を話しておかないといけないか?」

『ほう・れん・そう』は社会人として嗜みだ。

しかしもし、オレの現状を聞いて妻達から別れを切り出されたらどうしよう……。

想像しただけで、寒気が全身を襲う。

ゾッと、臓腑が冷える。

彼女達がそんなことを言うはずないと頭では理解しているが……。

「リュートくん、そんなところで何してるの?」

「す、スノー!?」

突然、声をかけられ顔を上げる。

そこには村で焚き火を囲んでいたスノーが立っていた。

彼女はどこか不安げに眉根を下げている。

「お父さんとお母さんと話してたみたいだけど、何かあったの?」

「――いや、なんでもない。なんでもないよ。ちょっと昔の話……孤児院のこととかを話して聞かせていただけだよ」

「そうなんだ。リュートくんが、落ち込んでるみたいだから何か深刻な話があったのかとおもっちゃったよ」

「……そんな訳ないだろ」

オレはスノーを安心させるため、いつも通りを心がけ声音と笑顔を作る。

彼女はオレの心情に気付かず、笑顔で納得してくれた。

「なんだ。そうだったんだ。わたし、早とちりしちゃったよ」

「それじゃみんなが心配する前に村へ戻ろうか」

「ちょっと待ってリュートくん、村へ戻る前にちょっとふがふがさせて!」

「って、おい! スノー!?」

彼女はオレへ抱きつくと、首筋に顔を埋め『ふがふが』『くんくん』匂いを嗅いでくる。

「さ、最高だよぉ。まだ服を着替えてないから汗の匂いが濃厚だよ。ふがふが……っ」

「こらスノー! 許可無く突然、抱きつくな! 危ないだろ」

「えへへへ、なんだか懐かしいね、このやりとり」

「……そうだな。久しぶりな気がするよ」

最近は突然、抱きついて匂いを嗅いでくることはなかったな。

嗅ぐときはちゃんと一声かけるし、洗濯物を洗うときスノーがオレの服の匂いを嗅いでいるのを見たこともある。

夜、寝る時や朝起きた時に匂いを嗅がれていることもあったが……。

「リュートさん、スノーさんこちらにいらしたんですか」

クリス、リース、メイヤ、シアがスノーに遅れてオレの側へと歩み寄ってくる。

「お2人の姿がなかったので探しましたよ」

リースの台詞にクリスが続く。

『お兄ちゃん達はこんなところで何をしていたのですか?』

「スノーのご両親とちょっと色々話していたんだよ。その後、スノーと少し、ね。別にやましいことなんてしてないぞ」

「そうだよ、ちょっとリュートくんの新鮮で濃厚な匂いをふがふがしていただけだよ!」

スノーは堂々と自分をさらけ出す。

決め顔がちょっとカッコイイと思ってしまったのは内緒だ。

『お兄ちゃんはスノーお姉ちゃんだけじゃなく、私にも構ってください』

「クリスさんの言うとおりですよ、私達を忘れてもらっては困ります」

クリス、リースが左右の腕を掴み可愛らしく頬を膨らませる。

「忘れるわけないだろ、2人とも大げさだな」

オレは両腕に体を密着させる2人に微苦笑する。

「2人ともズルイよ、わたしも、わたしも~ッ」

「こら、スノー、首にぶら下がるなって!」

スノーは両腕があいていないため、背後から抱きつきぶら下がってくる。

体が後ろに倒れそうになり、すぐ前傾姿勢を取る。

スノーは顔を埋めて匂いを嗅ぐのを忘れない。彼女の髪や獣耳が頬をくすぐってくる。

「若様、奥様方、そろそろ村に戻らなければ皆様が心配なさります」

「そうですわ! リュート様がいなければ何も始まりませんわ!」

シアの注意を受けオレ達は歩き出す。

メイヤも後へ続く。

外から見ればいつもと代わらないたわいのない光景――しかし、オレは初めて彼女達に嘘を付いてしまった。