軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第166話 星の痣

「すまなかったね、歓談中に連れ出したりして」

「いえ、ちょうど話の区切りもよかったので問題ないです。それでお話とは?」

スノー両親が互いに顔を見合わせる。

『娘を末永くよろしくお願いします』という空気ではない。

スノーの母、アリルが切り出す。

「リュート君、いくつか質問させてもらってもいいかしら?」

「はい、構いませんが」

オレはすぐに同意する。

迷って、印象を悪くしたくないからだ。

アリルが話を続ける。

「ありがとう。それじゃ、貴方もスノーちゃんと同じ孤児院で一緒に過ごした幼なじみって聞いたけど……いつ頃から孤児院に居たのかしら?」

「スノーと同じ日の夜、孤児院前へ置き去りにされたので、ほぼ産まれてからずっと一緒に居ますね」

「『リュート』っていうお名前は、誰が付けたの?」

「誰、というのは分かりませんが、置き去りにされた籠の中に『リュート』と刺繍された絹のハンカチが入っていたそうです」

「――最後に、貴方の体のどこかに『黒い星形の痣』は無いかしら?」

「黒かどうかは分かりませんが、右肩に『星形の痣』はありますが……」

「……ッ」

全ての質問に答えるとアリルは、立ち眩みしたようにふらつく。

そっとクーラが妻を支えた。

オレは何か不味いことでも言ったのだろうか?

暗がりでも分かるほど青い顔のアリルは、意思力を総動員して自身の足で立つ。

状況が把握できず混乱していると、クーラが説明してくれた。

「リュート君はなぜ自分達が、スノーを孤児院の前に置き去りにしたか知っているかね?」

「はい、スノーから聞きました」

スノー両親は、命を救ってくれた恩義から、小国ケスランへ務めていた。

しかし妖人大陸で最大の国土を持つ大国メルティアとの戦争に敗北。当時、まだ産まれたばかりの赤ん坊だったスノーを連れて逃げ回る訳にはいかず、泣く泣く彼女を孤児院へと置いていったらしい。

クーラが落ち着いた声音で告げる。

「自分達の命を救ってくれた恩人、ケスラン最後の国王――シラック・ノワール・ケスラン王こそ、リュート君、君のお父上だ」

「えっ?」

突然の告白に頭がついていかない。

オレは顔半分を手で押さえ、必死に思考を巡らせる。

「ちょ、ちょっと待ってください!? 僕がケスラン王国、国王の息子? どうしてそこまで断言出来るんですか?」

「混乱する気持ちは分かる。ちゃんと説明するから、落ち着いて聞いて欲しい」

クーラの言葉に二、三度深呼吸する。

完全とはいえないが、ある程度混乱から立ち直り耳を傾けた。

――クーラがゆっくりと噛み砕くように語り出す。

オレの父親――ケスラン王国、国王シラック・ノワール・ケスランとスノー両親が知り合ったのは、北大陸でのことだった。

その時、スノー両親は自分達のミスではぐれ巨人族1体に襲われ、殺される寸前だった。

その危機を救ってくれたのが、当時はまだ王子だったシラック・ノワール・ケスランだ。

彼の趣味は歴史や考古学――特に天神や封印された5大魔王、5種族勇者についての研究に重きを置いていた。

北大陸に来たのも、奥地に封印されているといわれる魔王について調べに来たのだ。

運良く、スノーの両親の危機に気付き2人を助けた。

その恩義を返すため、2人は北大陸を出てケスラン王国に仕えるようになる。

ケスラン王国は古い歴史と伝統しか売りのない小さな国家だ。

しかし、異世界上のオレの父にとっては、最高の環境だった。

父、シラックは国王となる勉強の傍ら、趣味の歴史研究を続ける。たまに研究に熱が入りすぎて、クーラ達に叱られたらしい。

数年が過ぎ――一時、シラックの情緒が不安定になった。

長年かけておこなってきた趣味の歴史研究を全て投げ出し、酒精に溺れるようになる。

一時、王座を危ぶまれたが、妻となる女性、サーリの献身により立ち直る。

そして国王となり、彼女を娶った。

しばらくして、妊娠が発覚。

しかし、幸せは長くは続かなかった。

大国メルティアが、戦争をしかけてきたのだ。

後はスノーから聞いた話と一緒だ。

この戦争で父であるシラックは命を落とす。

オレの親類縁者も国外に脱出したが、殆どが大国メルティアの追撃をかわしきれず捕まり命を奪われたらしい。

スノーの両親は、ここからはスノーには言っていない。……悪い呼び方をするなら、『嘘』をついた。

クーラ達は2人だけで国を出た訳ではなかった。

まだ産まれたばかりの赤ん坊だったオレと、母のサーリを連れて国外に脱出したのだ。

しかし、魔術師でもない女性サーリと産まれたばかりの赤ん坊のリュート、スノーを連れて大国メルティアの追撃を逃れるのは不可能だった。

そのため苦肉の策として、オレ達をエル先生が経営する孤児院へと置いていった。

スノーの名前は彼女の衣服に、そしてオレには『リュート』という名前を縫ったハンカチを握らせた。

だが、結局、メルティア兵士に追いつかれ、運悪くオレの母親サーリと離れてしまう。

探す時間もなく危険が迫っていたため、2人はすぐさま獣人大陸へと移ってしまった。

サーリの生死は不明らしい。

そして2人は、現在まで執拗に追ってくるメルティアの追撃から逃れる生活を送っていた。

北大陸の白狼族を頼ったのも逃亡に疲れたのと、逃げ道が完全になくなったからだ。

そしてクーラ達は、その結果大国メルティアの圧力でトルオ・ノルテ・ボーデン・スミスが白狼族に懸賞金をかけたのではないか? と考えているらしい。

一族を巻き込んでしまったのは申し訳ないが、もう2人にはここ以外頼るところがなかった、と彼らは言っていた。

オレは一通り話を聞いて、反論する。

「話は分かりました。……だけど、今の話だけでオレが『亡国の王子』だっていう証拠にはなりませんよ。もしかしたら違う可能性もあるじゃないですか」

自分で言ってて苦しいのは分かる。

だが、あまりに突飛な話で、ついつい否定してしまう。

クーラさんは表情を変えず、証拠を告げる。

「君には右肩に黒い星型の痣があるんだよね?」

「……はい」

「ケスラン王国国王の血族には、等しく『黒い星形の痣』があるんだ。この痣を持たない人物が王になる資格が無い――という伝統がある。これは王族やそれに近い人物にしか知られていない秘密だがね。魔術等によるなりすましを防ぐための措置らしい。君の父は左手の甲に星形の痣があったため、常に手袋を付けていたよ」

無意識に右肩の星型の痣を左手で押さえる。

どうやら言い逃れは出来ないらしい。

クーラさんが続ける。

「もし君がケスラン王国の正統後継者、王の血を引く者と分かればメルティアは黙っていないだろう。自分達のように命を奪うまで追っ手を差し向けてくるはずだ。自分達のような思いを娘には……スノーにはさせたくない」

「つまり……」

「そうだ。リュート君には申し訳ないが、スノーとは別れて欲しい。……頼む」

スノーの両親はそろって頭を下げる。

彼らがオレとスノーが夫婦と聞いて顔を顰めたのも、複数の妻を娶っていたからではない。

オレが亡国の王子だったから、顔を顰めたのだ。

アリルが口を開く。

「私達は確かに命を助けてもらいました。だから、その恩義を返すためずっと尽くしてきたわ。けど、10数年――ずっと追われ続ける過酷な生活を、スノーちゃんには味わせたくないの。あの子まで一生つけねらわれる生活を送るなんて……私達はもう十分恩義を返したわ。だから、どうか身を引いてください、お願いします……ッ」

「オレは……ッ」

産まれたばかりの娘を互いに生き延びるためとはいえ、孤児院に置き去りにした。

そして、10数年、迎えにも行けず逃亡生活。

本当に心休まる日などなかったのだろう。

そんな思いを、折角また出逢えた娘にさせたくない気持ちは分かる。

けど、オレだってスノーと別れるなんて、想像しただけで吐き気を覚えてしまう。

……しかし、彼らの言うとおり、一生、命を狙われる生活を送るより白狼族に交じって両親と一緒に生活するほうがスノーのためかもしれない。

白狼族が北大陸奥地に生活し続ける限り、どんな手練れでもおいそれと手出しは出来ない。

前世の地球でたとえるなら、アメリカ合衆国に一生狙われるようなものだ。

想像しただけで、気持ちが落ち着かなくなる。

「……すみません。スノーと別れるつもりはありません。けど、正直、突然のことで考えがまとまらなくて。色々整理する時間を下さい」

あまりに色々な衝撃情報を告げられたせいで頭が混乱している。

絞り出すように考えをまとめる時間をもらうことしか出来なかった。

「……分かった。確かに突然教えすぎた。今夜はこの辺にしておこう」

クーラが、アリルの肩を抱き寄せ村へと戻るため歩き出す。

しかし、その足はすぐに止まった。

「そうだ。君の父、シラック国王から預かった遺品があったんだ」

彼は首から提げていた革袋を取り出し、オレへと手渡してくる。

中身を取り出すと、指輪が入っていた。

見た目はとても地味だ。

銀色で宝石は無くコインを横にして指に嵌める輪を取り付けたような品物である。コイン部分の外側は細かいギザギザが刻み込まれていた。表面には美しい女性の横顔が彫られてある。

「これは?」

「『 番(ツガイ) の指輪』という名で、自分達が国外に脱出する際、国王から預かった品物だ。『いざと言うときは、それを持って魔物大陸へ行け』と教えられた」

スノー両親も、逃亡中に魔物大陸へ行ったがあそこは魔物が強すぎて10日経たず出たらしい。

そのためオレの父、シラックが何を伝えたいのか分からずじまいだった。

そしてスノーの両親は、村へ2人で戻る。

オレは1人、林の奥へと残された。