軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第157話 白狼族からの依頼

白狼族は北大陸の奥地に住む少数民族だ。

現在、 冒険者斡旋組合(ギルド) に懸賞金をかけられ、理不尽な迫害を受けている。

そのため白狼族達は、協力者の助けを借りて必要物資を買い込み現在拠点とする村へと運んでいる。

オレ達は、今北大陸最大都市ノルテ・ボーデンを秘密裏に脱出して、必要物資を運ぶための白狼族先遣隊と合流した。

オレ達は雪のブロックで作られたイグルー(かまくらの巨大版)の中で、朝食をご馳走になっていた。

食べ物は保存食がメインだ。

干し肉、何かの野菜を酢漬けにした物、ちょっと硬いカンパンのような物。食後に謎果物のジャムをタップリと入れた 香茶(かおりちゃ) を振る舞ってもらった。

『美味しいです』

甘味奉行のクリスが微笑みを浮かべて美味しそうに 香茶(かおりちゃ) を飲む。

点数は付けない。

どうやら魔人種族的にはジャム入り 香茶(かおりちゃ) は、お菓子の分類には入らないようだ。

イグルーの中は思ったより広い。天井にある魔術で作り出した光が室内を照らす。床には絨緞が何枚も敷かれているため、まったく冷たくない。室内は人の体温が篭もるせいか、とても暖かかった。

白狼族としてもイグルーは使い勝手いいらしい。

材料となる雪はその辺に大量に積もっているし、不必要になったら簡単に壊せる。

なのに吹雪に耐えられるほど頑丈だ。

オレ達が、車座になって 香茶(かおりちゃ) を飲んでいると、アイスがイグルーに顔を出す。

彼女は先程まで先遣隊の責任者に報告をしていた。

彼女は早速、話を切り出す。

その内容とは……

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) にクエストを依頼したい。トルオ・ノルテ・ボーデン・スミスの長子、アム・ノルテ・ボーデン・スミスを誘拐してきて欲しい」

室内に緊張が走る。

そりゃそうだ。突然、北大陸最大都市の上流貴族の長男を誘拐して欲しいと言われたのだから。

オレとしては、『誘拐』という物騒な単語よりも『アム』という名前がややひっかかった。最近どこかで聞いたような……。

オレ達の反応を予想していたのか、アイスはすぐに言葉を継ぎ足した。

「まず誤解しないで欲しいけど、私達は犯罪を犯して欲しい訳じゃない。まずアム様と私達、白狼族とは昔から交流があって友好的な関係を作っている」

「ならなぜ誘拐だなんて物騒な依頼をしたんだ?」

「彼の周りを警護する兵士達にトルオの息がかかっているからよ。全員では無いでしょうが、誰がトルオ派かなんて判別できないから。そんな彼らが、アム様と面会させてくれるはずがないわ」

確かにわざわざ懸賞金までかけて追っている白狼族を、素直に会わせるはずがない。

「だから、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) にアム様を連れ出してもらい、私達と話をする場を作って欲しいの。 軍団(レギオン) を立ち上げるぐらいの実力者達なら、無駄な血を流さずアム様を連れ出すぐらいは出来るでしょ? 正直、私達がやったら大量の血が流れると思う。私達にそういった経験なんてないから」

「僕達だって城からの要人誘拐なんて経験ないぞ。大人数に囲まれたらどうするんだよ」

クリスの母、セラス奥様が城に監禁されているのをスノーと一緒に助け出したことはあるが……あれは城内部を知っていたのと隠し通路があったお陰だ。

それに 軍団(レギオン) 立ち上げ前だからノーカンだ。

アイスは『予想通りの反応』という顔で切り返してくる。

「私達もそんなに無茶をお願いするつもりはないわ。第一、アム様は魔術師学校を卒業した後、世界中を回っているし。でも、もうすぐアム様が帰ってくるという情報を手に入れたの。そして付き合いのある友人達が、ご帰還を祝う席を設けるという話よ。その行きか、帰りの馬車移動時に襲って欲しいの」

なるほど、馬車を襲撃して連れ出すならそこまで難しくはないか?

相手が魔術師なのが面倒だが殺さず無力化する方法はいくつかある。

「……でも、仮に誘拐が成功したとしてその後、どうするつもりだ? まさか交渉が決裂したら、その長男さんを人質にするとか?」

「いいえ。むしろ、人質になんてしたら、私達の立場が本当に悪くなるから出来ないわ」

アイスが誘拐後の計画を話して聞かせる。

「アム様に白狼族の娘を1人、妾として貰ってもらう予定よ」

「……はっ?」

「アム様に白狼族の娘を娶ってもらって、私達一族の後ろ盾になってもらうの。それにいくらトルオでも、長男の妾の一族に懸賞金をかけ続けるのは不可能でしょ?」

この世界で一夫多妻制は別に珍しいことではない。

しかし面と向かって、『一族の後ろ盾になってもらうため娘を妾として差し出す』と言われると面食らう。

スノー達はなんだかんだで納得している。この世界では珍しいことでもないのだろう。だが、オレはやや引っかかりを覚える。

個人を犠牲にして、多数を助ける――という考え方。

まるで神の怒りを静めるため、生きた人間を生け贄に捧げるような後味の悪さだ。

思わず、尋ねてしまう。

「……後ろ盾を得るという意味では有効な手段だと思うけど、嫁がされる娘は納得しているのか? 一族を助けるためとはいえ、自身の意思を無視して犠牲にするやり方を」

「ええ、納得しているわ」

「それは本人に確認したのか?」

「確認も何も、嫁ぐのは私だし」

「アイスが?」

目の前に座る彼女は、長いストレートの毛先を指で弄りながら語った。

「ええ、そうよ。アム様とは昔から知り合いで、一緒に何度も遊んだことがある幼なじみ同士よ。知らない子が嫁ぐより、気心が知れている幼なじみの方がアム様も了承しやすいでしょ? それに私がアム様の妾になることで、一族の皆が助かるなら本望よ。一族を助けるためならしかたないわ。白狼族は仲間を見捨てることが出来ないの。そういう一族の血を私も引き継いでいるから」

アイスはクルクルと指先で落ち着かなさそうに弄り続ける。

『一族の皆が助かるなら本望よ』と口では冷静に言っているが、瞳は恋する女子の熱を感じる。もう完全に雌の顔じゃないですか!

あぁ、あれだ。アイスは幼なじみであるアムって奴に惚れてるんだ。

口では幼なじみ同士の方が気を遣わないとか、一族のためとか言っているが……。むしろ、種族や地位といった障害があって、叶わぬ恋だと諦めていたが、大手を振って嫁ぐ理由が出来た。

アイス的には自分の恋心も成就出来るし、一族も救える。万々歳な展開なのだろう。

なんか色々心配して損した気分だ。

オレの溜息を何と勘違いしたのか、アイスは条件を提示する。

「もちろん、 冒険者斡旋組合(ギルド) は通さないけどクエストとして依頼するから、正当な報酬金を支払うわ。必要な物資、手が足りないなら可能な限り融通するし、手伝う。それに――」

彼女は切り札を出す。

「もし無事にアム様を連れてきてくれたらスノーの両親について、教えてあげるわ」

「!?」

おいおい……アイスは確か『白狼族の村へ行けば知っている人が居るかもしれない』と言っていなかったか? なのになぜここですでに情報があるみたいに断定してきた。

恐らくだが、先程の先遣隊責任者にオレ達のことを報告した時、スノーの両親について知っている人物が隊の中にいたのだろう。

それを交渉材料の切り札として出してきたのだ。

まいった……そんな条件を出してくるとは。しかし、いくらスノーの両親の情報を得るためとはいえ、上流貴族誘拐に手を出してもいいものか……。

オレはスノー達に視線を向ける。

「……申し訳ないが、少し仲間と相談させてくれ」

「構わないわ。外に居るから話し合いが終わったら声をかけて。お茶のお代わりはいるかしら?」

オレは皆に視線で問う。

いらないらしい。

「大丈夫だ。途中で欲しくなったら声をかけても?」

「構わないわ。その時は遠慮無く声をかけて」

そう言ってアイスは外へと出る。

イグルー内には、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーのみが残る。

「それでどうする? アイスの、というか白狼族からの依頼を受けるか?」

「もちろん受けましょう! 我ら PEACEMAKER(ピース・メーカー) は、助けを求める者に手を差し伸べ、不義に鉄槌を下す正義の使者なのですから! それにリュート様のお力があれば、たかだか貴族1人の誘拐など訳ないですわ!」

意外にもいの一番でメイヤが声音を上げる。

彼女の勢いに負けない気概で、クリス達も賛同する。

『メイヤさんの言うとおりです。スノーお姉ちゃんのためにも受けるべきです!』

「私も賛成です。スノーさんのご両親の情報も確かに欲しいですが、彼女の一族が困っているのです。見過ごすことなど出来ません」

「メイドに意見など……若様達のお答えが自分自身の意思です」

スノーはこの答えに涙ぐむ。

「みんな、ありがとう! わたし、みんなと出逢えて本当によかったよ!」

クリスとリースが、涙ぐむスノーの手や肩を抱き締める。

まるで姉妹のような美しい光景だった。

一方、メイヤはスノーに長々と語りかける。

「お礼など必要ありませんわ、スノーさん。わたくし達は同じ 軍団(レギオン) に所属する大切なメンバー……いえ、それ以上にリュート様を崇め尊敬し愛する同士ではありませんか! わたくしも昔は、む・か・し・は! リュート様のご威光に触れていなかったせいで、世界の真理・真実に気付くことが出来ませんでした。しかし! 現在はリュート様の素晴らしさを理解しております! 骨の髄、魂の欠片ひとつにまで! わたくしのような新参者とは違い、スノーさんは誰より早くリュート様の素晴らしさ、偉大さ、天才性にお気づきになった大先輩! そんな貴女の助力になれるのならこのメイヤ・ドラグーン、たとえ湖の水でも飲み干してみせますわ!」

「ありがとう、メイヤちゃん……」

スノーはメイヤの熱烈な台詞に、涙を流す。

「ぐす、昔はリュートくんに酷いことをいう嫌な人だと思っていたけど、わたしの勘違いだったんだね。ごめんね、今まで冷たい態度とっちゃって……」

「いえ、むしろ当然の態度ですわ。もしわたくしが過去に戻って、同じような態度を取られたら躊躇いなく過去の自分に銃弾を叩き込み、あるだけの対戦車地雷をぶつけてやりますわ」

メイヤはハンカチを取り出すと、スノーへと差し出す。

「なのでおきになさらず。そして、どうかリュート様の一番弟子にして、右腕、腹心のメイヤ・ドラグーンに微力ながらお手伝いをさせてください」

「うん、一緒に頑張ろうねメイヤちゃん!」

そして今度は4人でがっしりと抱き合う。

オレは本来感動的といってもいい場面をどこか冷静な目で見ていた。

なぜだろう。

メイヤの一連の行動が微妙に黒く見えるのは……。

まるで外堀を一つ埋められたような気分だ。

抱き合うメイヤの背後から、策士の空気を感じる。

今、彼女の背中しか見えないが悪い笑みを浮かべていそうな……いや、オレの気のせいか?

とりあえず、こうしてオレ達は『アム・ノルテ・ボーデン・スミス誘拐』のクエストを白狼族から受けることが決定した。