軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第154話 地下道へ

「いやぁぁぁぁあ! わくしとリュート様の 飛行船(愛の巣) が、燃えてるぅううぅッ!!!」

愛の巣って……メイヤはそんな認識だったのかよ。

とりあえず彼女の絶叫は脇に置いて――飛行船が6人の魔術師による無詠唱魔術で大破した。これで空を飛んで逃げるという選択肢は潰されてしまった。

赤々と燃える飛行船の火に魔術師達が照らされ、細かく観察することが出来た。

全身を白い鎧で覆っている。ゴテゴテとした感じではない。鎧にデザインとして彫り物も無く、極限まで無駄を無くし体にフィットするレベルまで削ぎ落としたシンプルさが目立つ。 面頬兜(フルフェイス) など、視界確保だけの穴が2つ開いているだけだ。

左右の腕から魚のヒレのようにギミックの刃が飛び出てている。見ようによっては、陸に上がった半魚人っぽい。

(どうする? ここで奴等と戦うか?)

相手は魔術師と言ってもたった6人。

汎用機関銃(ジェネラル・パーパス・マシンガン) のPKMを2丁ぐらい取り出し、乱射すればいくら視覚を強化しても回避出来るとは思えない。

それとも手榴弾や対戦車地雷をあるだけ投げつけたりして、殲滅するという手もある。

しかし、それで本当にいいのか?

敵は目の前にいる6人だけとは限らない。雪原にまだ予備戦力として身を潜めている可能性の方が高い。

この場で足止めしている間にも、増援が到着するかもしれない。

さらにこの魔術師達は、今まで出会ったどの魔術師より異常だ。

銃器の攻撃方法を知っていれば、肉体強化術で身体を補助し、視力を強化すれば回避はできない訳では無い。

しかし、魔術を使用する際、魔力を感知することが出来なかったのだ。

魔術師は魔力に反応する。

そのため魔術師を魔術で襲撃、奇襲をかけて殺害するのは難しい。

襲う前に魔力の流れに気付かれてしまうからだ。

飛行船が破壊された時、無詠唱とはいえ攻撃魔術を発動する直前まで気づけなかった。これはとても異常なことだ。

今まで培ってきた常識が揺らぐ。

さらに気配察知に長けているシアの警戒網をかいくぐり飛行船側まで近づいた。オレが彼らの接近に気づけたのは、運が良かっただけ。

魔術にしろ、気配にしろ――なにかしらのギミックやトリックがあるはずだ。相手の手の内を知らずにことを構えるのは得策ではない。

……しかし、ここで取り押さえることが出来れば、背後関係を吐かせることが出来る。重要な情報を得るまたとない機会だ。

戦闘か、逃走か……どっちが正しいんだ?

「アナタ達!」

オレが迷っていると、フードを被った人物が1人声をかけてきた。

その場に居た全員の耳目がフードの人物へと向けられる。

昼間、 冒険者斡旋組合(ギルド) を出た後、オレ達をジッと見ていた人物だった。フードの汚れ具合に見覚えがあるからから、間違いない。

オレ達が新手かと警戒しているのを肌で感じ取ったのか、相手がフードを取る。

下から姿を現したのは獣耳と銀髪だった。

その少女は一目で白狼族だと分かる特徴を晒す。

奥地で暮らして居るんじゃないのかよ!?

まさかこんな所に白狼族が居るとは想像すらしていなかった。

「早く、こっちへ来て! この場から逃げるわよ!」

「わ、分かった! みんな、行くぞ!」

彼女が背を向け街へと走り出す。

オレ達は彼女の言葉に従い後を追う。

白い鎧達は、狙いをオレ達から白狼族の少女へと変え、風のように走り出す。

もちろん後を追わせるつもりはない。

オレはAK47を白い鎧達へとむけ発砲。

ダン! ダダダダダダ!

彼らはAK47の弾丸を回避するため足を止め、身を低くしたり、後退したりする。

さらに足止めのため、

「リース! 爆裂手榴弾!」

「はい、爆裂手榴弾ですね!」

リースは精霊の加護で無限収納から爆裂手榴弾を取り出し、手渡してくる。

オレは受け取ると口でピンを抜き、肉体強化術で身体を補助。白い敵に全力で投げつけてやる。

爆発! 雪がカーテンのように舞い上がる。

「今のうちに彼女の後を追え!」

シアを先頭に皆が続く、オレは一番最後で再び爆裂手榴弾を後方へと投げつけてやる。

再び、雪のカーテンが舞い上がった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

彼女――白狼族の少女は都市の街中へ入ると、裏路地へと駆け込む。

マンホールのような丸い金属の蓋を開け、その暗闇に体を滑り込ませる。

オレ達も後へ続く。最後尾のオレは、改めて蓋を閉めた。

蓋の先は階段になっていた。

光源は無く念のため残り少ない魔力で夜目を強化しておく。

地下下水道――かと最初は思ったが、どちらかというと抜け道や鉱山トンネルのような地下道だった。

穴の高さ、横幅どちらともあまり無い。

オレが腕を伸ばせば天井に届き、腕を横へ広げれば指先が両壁に触れる。

地下道の先も、後ろも終わりが見えないほど延々と続き、さらに進むと二手に分かれていたり、三つ叉だったり、左折や右折しかない道だったりと節操が無い。

そんな道を先導する白狼族の少女は、迷わず進んでいく。

地下道に入って30分ほど歩くと、広場に出る。

小学校教室程度の広さの場所だ。

もちろん光源は無い。

「魔術、使える人居る? 居るなら火、ちょうだい」

ややぶっきらぼうな口調で、白狼族の少女はフードの下からランタンを取り出す。

スノーが代表して、ランタンに火を灯した。

辺りが明るくなり、魔力で夜目を強化しなくても互いの顔を見分けることが出来る。

「安心して、ここまで来ればもうあの白い奴は追ってこないから。アイツ等はこの地下道をまったく把握してないから、こんな奥まで追って来られないの」

確か……ノルテには地下道が街中に張り巡らされている。

この地下道は巨人族対策の名残だったはずだ。まだ小さな村や町時代、一般市民はこの地下に逃げ込み避難していた。そして街が大きくなるにつれ増築工事を繰り返した結果、気付けば誰も全容を把握しない巨大迷路になってしまったらしい。

どうやらこの白狼族の少女は、この地下巨大迷路の道順を把握しているらしい。

「あの白い魔術師達を知っているんですか?」

「この都市を治める上流貴族お抱えの秘密兵士隊よ。約1年前ぐらいから、あるトップ 軍団(レギオン) に所属する魔術師を軍事教官として招いて、訓練を積ませてるって話」

オレの質問に白狼族の少女は、素っ気なく答えて、上着下に押し込んでいた長い銀髪を掻き出す。

二、三度首を振り、絡まった髪をほぐし、獣耳の筋肉をほぐすように動かす。

改めて彼女を観察する。

長い銀髪の髪はストレートで、背中の中程まで伸びている。獣耳にはピアスを付けていた。

身長はスノーより高く、メイヤと同程度ある。胸は圧倒的にないが……。

歳はオレとスノーと同じぐらいだろうか。美少女だが瞳が大きく鋭いせいで、冷たい印象を与えている。

スノーが柔らかな美少女なら、彼女はすらっとしたクールビューティーといった感じだ。

スノーとは方向性が真逆の美少女である。

オレは皆を代表して自己紹介とお礼を告げた。

「助けてくださってありがとうございます。皆を代表してお礼を言わせてください。僕はハイエルフ王国、エノール、ハイエルフ族、国王から名誉士爵を授与された人種族のリュート・ガンスミスです。 軍団(レギオン) 、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の代表も務めております。差し支えなければお名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「ふーん、妖人大陸の貴族ね……私は獣人種族、白狼族のアイス」

アイスは素っ気なく名前を告げる。

「アイスさんは白狼族ですよね。懸賞金がかかっている筈なのにどうしてここに?」

「アイスでいいよ。敬語もいらない。私は――というより私達にはノルテの外側に仲間が居て、私は必要物資を買うため都市に来たの」

塩や香辛料などは、大陸奥地では手に入り辛いためどうしてもこの近隣最大の都市、ノルテで購入するしかないらしい。

オレは彼女の言葉通り、『さん』付けと敬語を止める。

「でも、危なくないか。白狼族には多額の懸賞金がかかってるんだろ?」

「平気。皆が皆、私達の懸賞金を狙っている訳じゃないから、特に古い付き合いのある人とか、雪山で遭難して助けたりした人なんかは私達を売ったりしないから」

白狼族は昔から雪山で遭難したり、魔物に襲われている人達を発見したら、助け手厚く介護した後、家へ送り届けるらしい。代わりに白狼族がノルテで助けを求めたら、救いの手を差し伸べてもらうらしい。

まさに共存共栄だ。

さすがに懸賞金に関しては、都市を治める上流貴族が始めたことなので抗いようがないらしいが……。

「それに一応、普段は変装するし、髪も魔術塗料で黒く染めたりしてるから」

今回はオレ達を説得するためわざと獣耳と銀髪を晒したらしい。

アイスの視線がスノーへと向けられる。

「必要物資の買い付けも終わって帰る途中、 冒険者斡旋組合(ギルド) が騒がしくて。中から出てきた冒険者に話を聞いたら、『白狼族の女の子が貴族に連れられて姿を現した』って知って驚いたわ。普通に 冒険者斡旋組合(ギルド) から出てきたから、捕まったりはしてないみたいだったけど……心配になって様子を見守っていたの。そしたら……」

「僕達が襲撃を受けていることに気付いて助けてくれたのか」

「そう」

彼女はクールに同意する。

「でもまさか深夜までずっと様子を窺っててくれるなんて……お陰で本当に助かったよ。改めてお礼を言わせてくれ」

「白狼族は少数民族、過酷な雪山の世界で生きるから同族を助けるのが殆ど本能に近いの。だから、もう気にしないで。それにしても……貴女、見たことのない顔だけど、白狼族よね?」

「はい! わたしはリュートくんの妻! 獣人種族、白狼族、スノー・ガンスミスです!」

スノーは初めて出逢う同族に元気よく自己紹介する。

「わたしは妖人大陸の孤児院に赤ん坊の頃に預けられて……ここにはわたしのお父さん、お母さんの手がかりを探しに昨日着いたばかりだったの。だから、白狼族に懸賞金がかけられているなんて知らなくて……」

「なるほど、そういうこと。どうりで見たことのない同族だと思った」

「アイスちゃんはわたしのお父さんやお母さんのこと、妖人大陸に出て行った同族がいたって話を聞いたことないかな?」

「…………」

アイスは口を開き、一度閉じる。

何かを思案している顔だ。

「……白狼族の村へ行けば知っている人が居るかもしれない。買い付けた品物の準備が終わるまで後数日、その後だったら村まで案内するけど、どうする?」

スノーは一度、皆を見回しオレへと視線を向けてくる。

両親の手がかりを得るチャンス。『白狼族の村へ連れて行ってもらってもいい? もし無理なら大人しく引き下がるけど……』と瞳で訴えてくる。

もちろん、オレ達の答えは決まっている。

「僕達も白狼族の村へ付いて行ってもいいの?」

「構わないわ。だって、彼女の夫と友達なんでしょ? だったら信用出来るわ」

「なら、お願いします」

「ありがとう、リュートくん! みんな! そしてアイスちゃん!」

スノーは満面の笑みをこぼし、全員にお礼を告げる。

「それじゃこのまま地下道を通って、城壁を越えましょ。付いて来て」

「悪い、ちょっと待ってもらってもいいか?」

「どうしたの?」

アイスが疑問を尋ねてくる。

オレは一度、皆を振り返り――

「寝ているところを襲われたから、みんな殆ど寝間着姿で……ちゃんと衣服に着替えさせる時間をもらってもいいかな?」

オレとシアは歩哨に立っていたため、しっかりと装備を調えていたが、スノー達は薄手の襦袢姿で飛び起き応戦したため、着替える暇すらなかった。

メイヤなど、オレが無理矢理ベッドから連れ出したため、靴すら履いていない。

リースの精霊の加護『無限収納』から、予備の衣服と装備一式を取り出す。いざという時のため予備の装備や衣服などは複数用意して収納していた。

アイスにリースがハイエルフ族だとばれるが、こちらを信用してくれたんだ。オレ達もアイスを信用して秘密の一端を知らせるべきだろう。

改めて装備を調え、オレ達はアイスを先頭に地下道を歩き出した。