軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第145話 リースとケーキ

その日の夜。

最後の簡単な雑務を終わらせて、自室へと帰るため廊下を歩いていた。

「ああー酷い目にあった」

リースからは昼間のこと――メイドのお尻を撫でるように言われた時のことについて、長々とお説教を受けた。

スノーやクリスは、他女性に目を向けても怒ったりはしないのだが、リースは今回のようにあからさまに嫉妬心を表に出す。

彼女は妖精種族、ハイエルフ族。

ハイエルフ族の歴史上、妾を持っていた人物も存在するが、基本的に生涯に1人としか結婚しない。

故に長寿と夫婦愛を司る種族として、人種族から絶大な支持を受けている。

その性質上なのか、リースは割とハッキリ嫉妬心を表に出すのかもしれない。

まあ嫉妬してくれるのは可愛くて嬉しいのだが、だからと言って彼女に悲しい思いはして欲しくない。

「なんにせよ。リースのようにスノーやクリスが表面上には出さなくても、内心どう思っているか分からない訳だし、自重しないとな」

「お、お、おかえりなさいませ、ご主人様」

自室の扉を開くと、なぜかリースが頬を赤く染め、恥ずかしそうにメイド服姿で一礼してくる。

しかも彼女が着ているのは、没になった露出度の高いメイド服だ。洋服棚の肥やしになっていた筈だが……

オレは震える声で尋ねる。

「り、リース、どうしたんだその恰好は?」

「シアから教えてもらいました。このメイド服はリュートさんが考えて製作した物だと。ひ、昼間メイドの子達をじっと見てましたし、こういう恰好が好きなのだと思って着てみたのですが……変でしょうか?」

「最高に似合ってるよ!」

お世辞抜きで似合っている。

リースは背丈が低いのに胸が大きく、上着部分を着込むとはっきりと肩と一緒に谷間も露出する。上着の長さは短く、可愛らしいおヘソも外に出て、くびれた腰も目を楽しませてくれる。

さらにスカートは短く、履いているオーバーニーソックスがむしゃぶりつきたくなるような絶対領域を作り出している。

しかもちゃんと頭にはメイドさんが付けるヘッドドレスまで着けているから最高だ!

オレのストレートな賛辞を受けて、リースは真っ赤に頬を染めながら、嬉しそうに微笑む。

「喜んでもらえてよかったです。昼間、少々感情的になってしまったので……そのお詫びが出来ればと思ったので」

メイドさんのお尻を触ろうとしたオレに対して、嫉妬してしまったことを言っているらしい。

「いや、あれはオレが悪いんだから気にしなくてもいいのに」

「私もちょっとだけムキになってしまいましたから……な、なので今夜は私がリュートさんにこの恰好でご奉仕したいと思います! 他の皆さんにはお話をして、今夜は2人っきりで過ごせますから、遠慮なくなんでも仰ってくださいね」

どうやらスノー達には話を通しているらしい。

どうりで部屋に居なかったわけだ。

リースは笑顔で席を勧めてくる。

「まずはお疲れでしょうから、お茶の準備をしますね。リュートさん……いえ、ご主人様、こちらにお掛けになってお待ちください」

「ありがとう、でも、その大丈夫か? お茶ぐらい自分で淹れるぞ」

「ふふふ、もうご主人様ったら、遠慮なんてしないでください。私が好きでやるんですから」

いや、そういう訳ではなく……あのドジっ娘お姫様リースが熱いお茶を淹れて持ってくるとなると、その後の展開が簡単に予想出来てしまう。

オレが熱湯を被るのはまだいい。

妻であるリースが火傷するのが耐えられない。たとえ魔術で簡単に治癒出来ると言ってもだ。

しかも、今回は自分の趣味で製作した露出度の高い服を着ている。

肌面積が多い分、火傷被害が広がる可能性が高い。

オレは席に座っていると見せかけ、いつでも動けるように腰を浮かせてリースの動向に注意を向ける。

すでにお湯と茶葉、カップ等を準備していたらしく慣れた手つきでお茶を注ぐ。この辺はオレの嫁として『家事をしたい!』と日頃頑張っている成果だろう。

だが、ここで油断していると酷いことになる。

「はい、ご主人様、 香茶(かおりちゃ) が準備出来ましたよ。お茶請けはクリスさんが太鼓判を押したお店でかったクリームを使ったケーキですよ」

「は、ははは……美味しそうだね」

リースはお盆に 香茶(かおりちゃ) とケーキを載せてこちらへ歩いてくる。

胸とお盆で足下を遮られているせいで、予想通り、ソファーに足をぶつけてバランスを崩す!

「きゃぁッ!?」

「はい! やっぱりね!」

予想通りドジっ娘姫様リースは期待を裏切らないドジを踏む!

オレは咄嗟に駆け出す!

すぐさま肉体強化術で身体を補助!

熱々のカップを掴み、尻餅をついたリースが頭をぶつけないように支える。

お盆がカーペットに落ちる。

熱々の 香茶(かおりちゃ) が入ったカップは、一滴も零すことなくソーサーごと空中で掴むことが出来た。この辺は肉体強化術で身体能力と視覚関係を強化した結果だ。

「大丈夫か、リース? 痛い所とかあるか?」

「い、いえ大丈夫です……でも」

お茶で火傷等の被害は無かったが、クリームを使ったケーキがお盆から落ちてリースの露出している胸の谷間に落ちてしまう。

強化した視覚で認識はしていたが、オレの腕は2本しかない。

カップとリースを支えるので手一杯だった。

ケーキは形を崩し、彼女の真っ白な肌にクリームと赤苺がべったりと付いてしまう。

……別の意味で美味しそうなケーキになってしまった。

ごくり、と自然と喉が鳴る。

オレは 香茶(かおりちゃ) が入ったカップをテーブルに置き、リースに尋ねる。

「折角、リースが準備してくれたケーキが落ちてしまって残念だよ。でもやっぱり食べ物を無駄にしちゃ駄目だと思うんだ。だから、オレはそのケーキを食べようと思う」

「え……あッ」

リースは意味を理解したのか、真っ白な肌を『カァー』と赤くする。

どう行動し、返答すればいいのか突然のことで対応出来ず――彼女は自身の胸をギュッと腕で寄せて崩れたケーキがそれ以上落ちないように固定。さらに潤んだ瞳で告げた。

「お、美味しいケーキを食べてくださいご主人様」

「もちろんだよ!」

オレはリースの胸の谷間に落ちたケーキのように、崩れた笑顔で彼女を寝室へとお姫様抱っこで連れて行く。

その日の夜は色々な意味で美味しく食べさせて頂きました。

今度スノーやクリスにもメイド服を着てもらえないかどうか頼んでみよう、とオレは心の中で固く誓った。