軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第144話 シアのメイド指導

新・純潔乙女騎士団本部応接間。

午後、昼食を終えたオレとリースは、2人揃って 香茶(かおりちゃ) を飲んでいた。

別にサボっている訳ではない。

これも仕事だ。

メイド服に身を包んだシアが鋭い叱責を飛ばす。

「動作が遅い。主の次の行動を予想して準備しなさい。そして待機中は休憩時間ではない。後ろに控えて主から見えないからと言って気を抜かないよう、常に優雅を心がけなさい」

シアの叱責はオレとリースに向けられたものではない。

彼女の直接の部下である新・純潔乙女騎士団団員達10人に向けられたものだ。

今、彼女達はメイド服に身を包み、シアの指導の元で接待技術を勉強している最中だった。

オレとリースの役割は、彼女達の接待を受ける主役だ。

シアの部下10人は護衛メイドとして育てている。

シアは現在でもハイエルフ王国、エノールから派遣されているリースを守護する護衛メイドという立場だ。

彼女としてはリースだけではなく、夫である自分や他妻であるスノーやクリスの守護、世話も自分がやらなければと思っている節がある。

しかしシア1人では物理的に限界がある。そのため10人もの団員メンバーを求め、譲らなかった。

護衛メイドの仕事はメイドとしての基本的な家事、育児、接客等の他に主の護衛任務が入る。そのため基本的な訓練もメイド服を着たままでおこなっている徹底ぶりだ。

ちなみに彼女達が着ているメイド服は、前世の秋葉原によくある丈の短いフリルスカートのメイド服ではない。

スカートの裾が長いクラシックな正統派メイド服だ。もちろんオレがお金を出して、ココリ街の仕立屋に作ってもらったものだ。

一応丈が短いスカート、肩、胸、おヘソが露出するタイプのメイド服を作りシアに提案したが……

「若様が着ろと仰るなら着ます。着ろと仰るなら」

苦虫を百万匹噛みしめたような顔で言われた。

さすがに、そんな顔をされて強行する勇気はオレになかった。

最近は訓練日になるとグラウンドで室内戦や野外戦、護衛者の警護訓練などを行っていたが、今日はメイドとしての立ち振る舞いの訓練らしい。

お茶の淹れ方、出し方、待機している姿勢すらシアは厳しく躾けていく。

オレは接客を受けるだけの役割だが、気疲れしてしまう。

同じ 主(あるじ) 役のリースは、元ハイエルフ王国のお姫様だけあり傅かれ慣れている。主としての立ち振る舞いにも年期を感じさせた。

一方のオレはというと――執事見習い経験ならあるが、主として傅かれるのは未だに慣れない。

シアは新人メイド達を前に滔々と護衛メイドとして心得を説く。

新人メイド達も真剣な表情で耳を傾けている。

オレは思わずテーブルから身を乗り出し、リースに声をかけた。

「なぁシアの奴、随分と気合いを入れてないか?」

オレの問いにリースは 香茶(かおりちゃ) をソーサーに戻し、微笑む。

「やっぱり嬉しいんでしょうね。部下とはいえ同じ護衛メイドの仲間が出来ることが。それにずっと私の元で働く護衛メイドが自分1人しかいないことを気に病んでいたみたいですから」

「1人だと何か問題でもあるのか?」

「私は気にしないのですが、ある程度の身分の人物が世話をするメイド1人しか連れていないというのは体面上あまりよろしくないのです」

なるほど……リースは嫁いだと言っても元ハイエルフ王国のお姫様。現在はペンダントで瞳の色を変えて、ただのエルフのお嬢様――として周囲に認知させていた。

ハイエルフは観光資源になるほどの人気があり、その王族ともなれば色々面倒事が起きる。そのため、リースはペンダントで偽装し、普通のエルフとして今まで過ごしてきた。

それでもシア的には、リースに付き従うメイドが自分1人だけというのが歯痒かったらしい。だから、人材分配の話し合いの席で珍しく人数を要求し、決して譲らなかったのか。

普段は影のように付き従い多々世話をして、自身の考えを口に出したりはしない。言い訳になるが、そのせいでまったく気付かなかった。

今回、純潔乙女騎士団の元団員達を PEACEMAKER(ピース・メーカー) の下部 軍団(レギオン) として採用し、人数が増えた。それを最も喜んでいるのはシアなのかもしれないな。

リースが微笑みを浮かべながら告げる。

「なので傅かれるのは未だ慣れておられないようですが、シアのため新人メイドの訓練と割り切って我慢してくださいね」

「なんだ、気付いていたのか?」

「ふふふ、リュートさんは感情が顔に出やすいですから」

言われて思わず手のひらで顔を撫でる。

それがさらにリースの微笑みを深めさせた。

「若様、失礼いたします」

指導を受けた新人メイドの1人が、空になったオレのカップに 香茶(かおりちゃ) のおかわりを注ぐ。

シアの指導が良いのか、オレ視点ではかなりさまになっている気がする。

「ミーリア、手だけを突き出して淹れるのでなく、体全体を動かしなさい。動作はもっと優雅を意識して」

「はい」

ミーリアと呼ばれた妖精種族、フーリ族の少女が指示通り修正を加える。

シアはさらに淹れ終わったらその場に一時待機を命じる。

「若様、訓練のご協力をお願いしてもかまいませんか?」

「ああ、いいぞ。何をすればいいんだ?」

「今からミーリアの臀部を撫でてください」

「よし、分かった――って、オマエは何を言ってるんだ?」

シアが真剣な表情でセクハラを推奨してくる。

彼女は至極真面目に説明をしてきた。

「護衛メイドたる者、お茶を淹れている最中に臀部を触られたからといって粗相をしてはお話になりません。これは耐えるための訓練です。なのでどうか遠慮なさらず撫でてやってください」

「いや、撫でてって……」

ちらりと側に立つミーリアに視線を向ける。

彼女は妖精種族、フーリ族出身で歌と踊りが得意な一族だったはずだ。踊りが得意なだけあり、彼女のお尻はメイド服の上からでも分かるほどキュッと引き締まっている。

男なら『大金を払ってでも撫で回したい!』と思えるほど素晴らしい。

訓練とはいえ、本当に触って良いのか?

本人であるミーリアも嫌そうな顔どころか、まんざらでもない態度を取っている。心持ち触りやすいようにお尻を突き出している気がしなくもない。

メイド服がよく似合う、可愛らしい少女のお尻を訓練として触れるなんて!

マジ役得だよ!

「く、訓練じゃしかたないよな~。いや、本当にしかたないよな! それじゃ触る――」

ベキ――ッ。

カップの取っ手が砕ける音が室内に響く。

別に大きな音という訳じゃない。

なのにその場にいる全員の視線が1人の人物に注がれた。

「……シア、替えの 香茶(かおりちゃ) を」

「かしこまりましたお嬢様」

シアは音も無くリースに近づき、取っ手の壊れたカップをソーサーごと受け取る。

どうやらリースは無意識に肉体強化術を発動。コントロールを誤り取っ手を握り潰してしまったようだ。

リースはさらに冷え冷えとする声で告げる。

「それとシア、ガンスミス家の品位を落とすようなマネを主にさせないよう。いくらこの場に身内しかいないとはいえ、軽率ですよ」

「大変失礼しました、お嬢様。少々訓練に熱くなり――」

「言い訳は必要ありません。今後、このようなミスがないよう心がけなさい」

「はっ、申し訳ありませんでした」

シアは一礼すると、再び音もなく下がった。

替えの 香茶(かおりちゃ) がリースの前に置かれる。

「これから私はリュートさんとお話があります。なので今日は下がりなさい」

「かしこまりました」

そして、リースの命令しなれた指示にシア達は一礼。

完璧な立ち振る舞いでオレとリース、2人だけを応接間へと残す。

「さて、リュートさん……」

「……はい」

「少し、お話をしましょうね?」

2人っきりになるとリースは、その微笑みの度合いをさらに深めた。