軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第141話 クリス、14歳――『クリス14 シシギを撃て! 前編』

ある日の昼頃、 冒険者斡旋組合(ギルド) から使者が来る。

なんでもクリス指名でクエストの依頼が来ているらしい。

依頼内容は 冒険者斡旋組合(ギルド) で、依頼主から説明したいとのことだ。

そのため是非、 冒険者斡旋組合(ギルド) に来て欲しいと懇願される。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) や新・純潔乙女騎士団ではなく、クリス個人を名指しで指名というのが気になった。

運良くオレ、そしてクリスも午後は簡単な事務仕事しかない。念のためオレも一緒に同行していいなら、という条件を付けたらあっさり快諾。

ならばとオレ達は午後、 冒険者斡旋組合(ギルド) へ向かうことを約束する。

事務仕事はガルマへ押し付けよう。

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「しかし珍しい……てか、初めてじゃないか? うちの誰かを名指しで依頼をしてくるなんて」

『ですね。一体どんなクエスト内容なのでしょう』

制服姿でオレとクリスが並んで歩く。

彼女はミニ黒板を付きだし、同意してくれた。

冒険者斡旋組合(ギルド) でクエストを受注しこなすことはあっても、名指しで指名されたのは今回が初めてだ。

いったいクリスに何の依頼をするのだろう?

冒険者斡旋組合(ギルド) に顔を出すと、いつもの魔人族の受付嬢が応対してくれた。

すでに依頼主は個室で待っているらしい。

彼女に案内され、いつもの個室へ入る。

「おおッ! お待ちしておりました!」

ソファーでオレ達を待っていたのは、1人の老人だった。

頭部から獣人特有の耳や腰の辺りから尻尾が伸びている。

白髪で、皺が目立つが足腰はしっかりしているようだ。オレ達が姿を現すとすぐさま立ち上がり、握手を求めてくる。

だが、目の下、クマが濃い。

まるで1年以上寝ていないようにくっきりと浮かんでいるのだ。

オレとクリスは握手を交わすと、依頼主の正面ソファーへ腰掛ける。

受付嬢がオレ達の分の 香茶(かおりちゃ) を置いてくれた。

そして、邪魔をしないように下座へと腰を下ろす。

それを合図に依頼主が口を開いた。

「改めてお越しくださってありがとうございます。本来ならこちらから出向くのが礼儀ですが、突然押しかけてもご迷惑かと思い 冒険者斡旋組合(ギルド) を通しご連絡差し上げた次第です。私は獣人族、虎族のハッターと申します」

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 代表のリュート・ガンスミスです」

『妻のクリス・ガンスミスです』

互いにまずは挨拶を交わす。

その後、ハッターが切実そうな表情で依頼内容を語り出した。

「実は私の孫娘が『シシギ病』という世界でも稀な奇病にかかってしまったのです」

『シシギ病』とは――全身に青い羽のような痣が浮かび1年後命を落とす病気だ。ほとんどの人はこの病気にかかることはない。数百年に1度全世界で1人出るか出ないか、という珍しい病気だ。

しかし、奇病の割に『シシギ病』を治癒するのは、ある意味では簡単らしい。

シシギと呼ばれる鳥の肉を食べればいいのだ。

問題はシシギと呼ばれる鳥がとても小さく、ジグザグに飛ぶため仕留めるのがとても難しい。

さらにシシギは1撃で頭部を吹き飛ばし絶命させなければ肉が劣化し、『シシギ病』を治すことが出来なくなる。そのため罠は使えない。

攻撃魔術も肉に影響を与えて劣化させてしまうので使用は不可。

シシギは警戒心が強く、どんな生物も近づくことが出来ない。そのため接近して剣や槍などで捕らえるのも不可能。

唯一の方法は、弓や投げやり等で頭部を一撃で破壊し、絶命させるしかない。

そのためシシギを捕らえた弓使いなどは、超一流の扱いを受けるらしい。しかし、そんな人物はなかなかおらず、居ても多額の報酬金を要求される。

一般人であるハッターではとても払える金額ではない。

分割での支払いを願ったが素気なく断られてしまった。

途方にくれていると『自分ならシシギを捕らえることが出来る』と話を持ちかけてきた冒険者や狩人達が現れたが、もちろん捕らえることなど出来ずお金を騙し取られてしまったらしい。

また質の悪い者になると、雇った冒険者が『シシギの肉』と偽り、普通の鶏肉を持って来たりしたこともあった。

藁にも縋る思いだったとはいえ、時間と資金を無駄にしたと――ハッターは涙を浮かべる。

「そして私は縋る思いで 冒険者斡旋組合(ギルド) に相談したところ、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 様とクリス様のお話をお聞きました」

魔術師でもないクリスは――

曰く、飛行するツインドラゴンの目を射抜き頭部を内部から破壊して倒した。

曰く、石化の魔眼を持つバジリスクを、範囲に入る前に目を射抜き頭部を内部から破壊した。

クリスは『冒険者、 軍団(レギオン) でも有数な弓使い』だと教えられたらしい。

いや、弓じゃなくて 狙撃銃(スナイパーライフル) なんだけど……。

訂正する前にハッターがテーブルに額を擦りつけて哀願してくる。

「私の娘はすでに亡くなり、家族と呼べるのは孫娘だけなのです! あの子のためならほんの僅かではありますが全財産! 私の命を差し出しても惜しくありません! なのでどうかお力をお貸し下さい! お望みの物、私に差し出せる物は全て差し出しますから! もし成功報酬が足りないのであれば時間がかかりますが、必ず約束の金額をお支払いします! ですから、どうか! どうか!」

なるほど……唯一の肉親である孫娘の余命が尽きそうになっていたら、不安で目の下のクマも濃くなるというものだ。

オレが口を開く前に、クリスが立ち上がり、テーブルを迂回。

ハッターの側へ歩み寄る。

そっと、その手を握り締めた。

「が、んばって……しし、ぎ、とります。任せて、ください」

「あ、ありがとうございます……! ありがとうございます!」

ハッターはクリスの両手を握り締めるとぼろぼろと涙を零す。

彼女はオレへ視線の向け、『受けても良かった?』と伺ってくる。もちろん断る理由はない。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) の理念『困っている人、助けを求める人を救う』。今回の依頼はまさに理念通りとも言える。

そのためハッターには、『成功報酬金も支払える範囲で構いませんから』と口添える。再び彼は涙を溢れさせた。

オレ達が納得済みなのを確認して、受付嬢が用紙を取り出す。

「それではクエスト承諾ということで宜しいですね?」

「お願いします」

「クエストは PEACEMAKER(ピース・メーカー) で受注いたしますか?」

軍団(レギオン) として仕事を受けようとしたが、ハッターにシシギについて詳しい説明を受ける。

シシギは敏感な鳥で、大勢で押しかけた場合すぐに飛び立ち姿をくらますらしい。

そうなったら見つけ出すのは不可能。

そのためシシギ狩りは1人、多くても2人でおこなうものらしい。

だったらということで、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) でクエストを受け、オレとクリスの2人でシシギ狩りに行くことになった。

他にも受付嬢とハッターから細々とした『シシギ』についての説明を受け、必要そうなものをメモしていく。

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オレ達はクエストを受注すると準備のため本部へと戻る。

そんなオレ達を、ハッターは何度も何度も頭を下げ見送ってくれた。

「ありがとうございます、ありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」

「いえ、まだ成功したわけではありませんから。それでは急いで準備をして『シシギ』狩りに向かいますね」

「はい! よろしくお願いします!」

オレとクリスは本部へ向け歩き出す。

ハッターはオレ達の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。

オレとクリスは本部へ戻りながら、準備について打ち合わせをする。

「ここから馬車で1日の森に、ちょうど居てくれてよかったよ」

シシギは定住先を持たない。獣人大陸各地の森を移動しているらしい。

今回は運良く近くの森に居ると目撃情報があった。

これを逃したら、また獲物を一から探さないといけないらしい。

「馬車は純潔にあるのを借りよう。装備一式や食料なんかの手配は今日中に終わらせて明日の朝には出発するけど、クリスもそれでいい?」

『大丈夫です』

「今週は2人とも大した仕事が入ってなくてよかった。これなら仕事に支障を出さず、クエストが出来そうだな」

『でも事務仕事はありますよ?』

「大丈夫だって、事務仕事はガルマ顧問にお願いしておくから」

魔術師殺し事件等で彼には色々貸しがある。

これぐらいの仕事負担はしてもらわないと。

『お仕事でも、お兄ちゃんと2人っきりで馬車旅に出られて嬉しいです』

クリスが恥ずかしそうに耳を赤く染め、ミニ黒板で口元を隠しながら主張する。

『旅のあいだ甘えてもいいですか?』

「もちろんだよ! むしろ旅のあいだだけじゃなくて今すぐ甘えてくれていいんだぞ。今夜ベッドの中とかでどうだい?」

『お兄ちゃんはえっちです……ッ』

でも、と彼女は続ける。

『……おねがいします』

「よし、任された!」

クリスは頭部から煙が出そうなほど照れながら、同意の文字をミニ黒板に書く。

明日の朝は早いからやり過ぎはよくないが、自身の理性が抑えられるか怪しいな。

「ちょっと待ちな」

イチャイチャしながら歩いていたオレ達の前に、数人の男達が遮るように立つ。

代表者らしき男が一歩前へ出る。

人種族らしく、背丈は2メートル近い。髭がもじゃもじゃで胸毛もある。頬に魔物の爪らしき傷痕があった。

もし旅の最中に出会ったら山賊か盗賊だと思い発砲命令を出している所だ。

男は切り出す。

「俺は人種族のパウックってもんだ。冒険者、レベルⅣだ。あんた達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) だろ?」

「……そうですが、何か?」

パウックはタグを出し、冒険者レベルを告げた。

オレは一応警戒してクリスを庇うような立ち位置を取る。

腰から下げているリボルバーをいつでも抜けるよう右腕を弛緩させる。

「さっき 冒険者斡旋組合(ギルド) から『シシギ狩り』のクエストを受けただろ? もしシシギが獲れたら俺に売ってくれないか? 報酬は2倍出す」

まさかの交渉。

「えっと、パウックさんにも『シシギ病』にかかっている身内とか居るんですか?」

「いやいや、『シシギ病』にかかるなんざ晴天に雷を浴びるような不運な奴さ。『シシギ病』に効果あるほど新鮮な肉は、この世の物とは思えないほど美味いらしい。だから高値で取引されているんだ。俺が知っているルートで捌けば報酬金を軽く越える。どうだい、あんた達ならシシギを確実に獲れるだろ? ルートを紹介するから山分けしないか?」

アホかこいつら……人の命がかかっているのに金の話をするなんて。

相手にするのも馬鹿らしい。

「悪いけど、先にハッターさんから依頼を受けているので」

「いやいや、依頼失敗なんて 冒険者(俺達) にとっては日常茶飯事だろ?」

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の名前に傷はつけられませんから」

取り付く島もなくきっぱりと断る。

相手は表情を歪めた。

「後悔することになるぞ……」

先程までのある種友好的な態度から一変、暴力的な雰囲気を匂わせるものに変わる。

だが、それは彼らの死亡フラグでしかない。

パウック達は唾を吐くと、背を向け雑踏へと消える。

今回の一件、少々焦臭くなってきたな。