軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第131話 事後処理

ルッカ襲撃を未然に防ぎ、彼女の身柄も無事抑えることが出来た――その翌日、午後。純潔乙女騎士団本部に住人達が詰めかけていた。

いつのまにか住人達に、『魔術師殺し』の主犯がルッカだと知られてしまったからだ。

なぜ知られたかは分からない。

だが夜中に対戦車地雷を手榴弾のようにバカバカ使っていたら、音に気付いて目を覚ますのは必然。

暗闇で片付けをする訳にはいかず、日が昇ってすぐではあったが甲冑軍団の破片や塊拾いを住人や小ココリ街へ向かう商人達に見られている。

そこから話題が広まり、さらに様々な目撃証言が集まり、広まっていく。

勘が良い者はすぐに気付くだろう。

情報が命の商人達の耳を完全に塞ぐことは不可能だ。

結果として今の騒ぎが起こっている。

そんな荒れ狂う人々を説得し、場を収めたのはオレ――リュートだった。

騒ぎの一因である純潔乙女騎士団団員達に現状を押し付けたら、狼の群れに子羊を放つようなものだ。街の不満が爆発してしまうだろう。

嫁達に任せて怪我をされても嫌だ。

それに今のオレの立場は、純潔乙女騎士団に代わりココリ街を救った若き英雄――という扱いらしい。

そんなオレが直接顔を出したお陰で、場は思いの外スムーズに収まってくれた。

だが、その足ですぐ純潔乙女騎士団顧問室へと向かわなければならない。

部屋に入るとすぐ、ガルマが苦渋しきった顔で出迎えてくれる。

「すまない、リュート殿。徹夜明けの上、面倒事を押し付けた後、すぐ呼び出したりしてしまって」

「いえ、流石に寝ている訳にはいかないみたいですからね」

オレは肩をすくめて答える。

これだけの事態の中、寝ていられるほど肝が太くないだけかもしれないが。

先に休んでおくよう言っておいたスノー、クリス、リース、メイヤ、シアもオレの用事が終わるまで起きているらしい。

まったく健気な嫁と弟子とメイドだ。

「――ルッカ団長、いや元団長の件、本当にすまなかった。純潔乙女騎士団顧問として謝罪させてくれ」

ガルマは深々と頭を下げる。

それこそ床に額がつくぐらいだ。

オレが慌てて止めるも、頑なに頭を上げない。

心情は理解出来る。

『魔術師殺し事件解決』を依頼したら、身内――しかも団長が主犯の1人だったなんて目も当てられない。

しかもオレ達が対処しなければ、団員達全員が皆殺しにあっていたのだ。

気にするな、という方が無理だ。

頭を下げ終えると、ガルマが切々と語り出す。

「今回の一件で儂自身の見る目の無さ、顧問としての力不足を痛感した。ルッカの変化にもっと早く気付いてあげていれば、こんなことにはならなかったのに……」

当の本人であるルッカは、純潔乙女騎士団本部地下の牢屋に入れられている。

彼女の精神は未だ正常に戻らず、別の世界へと旅立っている。そのためぶつぶつと呟くだけで、騒いだり、暴れたりしないため楽と言えば楽だ。

ちなみに前に立て籠もり事件を起こしたヨルムも、牢屋に入れられている。もう少ししたら、裁判可能なもっと大きな街に移送され判決を下される。

ガルマは謝罪を終えると、呼び出した用件を切り出す。

その表情は心底、辛そうだった。

「今回の一件で住人達からの信頼は壊滅的。もう純潔乙女騎士団が街の守護者を続けるのは不可能だろう」

そりゃ街を守る側が、実は街を脅かす側でした――じゃ、住人だって信頼など出来ない。

しかも、ココリ街は獣人大陸奥地に物資を送る重要な輸送地点。その責任はとても重い。

さらに悪いことに、純潔乙女騎士団は他 軍団(レギオン) に助けを求めるほど窮している。子供でも彼女達が現状のまま過ごせるとは思わないだろう。

「だが、儂は純潔乙女騎士団顧問を引き受けた者として、団員達――彼女達の今後について責任を持たなければいけない」

ガルマの表情は今まで見た中で最も真剣だった。

まるで手塩に掛けた娘を嫁に出す父親――といった感じだ。

「純潔乙女騎士団解散は確実だ。住人の信頼を失っただけではなく、今回の一件で 冒険者斡旋組合(ギルド) から 軍団(レギオン) の資格を奪われてしまうだろう。そうなったら団員達はクビ。仕事を失うことになる。出来れば、儂は彼女達に次の仕事先を見付けてやりたいんだ」

純潔乙女騎士団の団員達は殆どが貧しい農民や商人・貴族などの出身で、特別な技能も無い。知り合いのツテやコネがある者はいいが、そうでない者は騎士団を放りだされたら、かなり大変なことになるらしい。

さらに最悪をあげるなら、騎士団で培った技術を使って追いはぎ、スリ、野盗――犯罪に手を染める者が出るかもしれない。

さすがにそれはあまりに不憫すぎる。

「それで僕達にどうしろと? さすがに全員を雇えなんて言われても無理ですよ」

メイヤというスポンサーもいるし、蓄えもあるが、30人以上居る団員達の給金を継続して支払うほどの余裕はない。

前世の日本でたとえたら、月収15万の人材を30人以上雇えと言っているようなものだ。突然、毎月450万以上払い続けろと言われても無理というしかない。

仮に雇ったら1、2ヶ月ぐらいならなんとかなるが、半年、1年と払い続けなければならなくなる。

それを支払い続ける定期的収入源なんて、いくらオレ達でも持っていない。

ガルマももちろん理解している。

だから、問題を解決する名案と言いたげに告げた。

「よかったらココリ街の守護役を純潔乙女騎士団に代わって、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) が務めないか?」

「……やっぱりそう来ますか」

ある程度予想していた言葉に、オレはソファーに深く身を預ける。

ココリ街を守護するのと引き替えに得られる税収。定期的に入ってくる収入はなにかとお金がかかる 軍団(レギオン) からすれば、とても魅力的だ。

その魅力に取り付かれて、ある程度無理をしてでも手に入れようと 狼剣(ウルフ・ソード) や 百合薔薇(リリ・ローズ) が、街に入り込んだのは記憶に新しい。

さらにガルマは畳みかけてくる。

「これは儂の独断だけではない。住人達が望んでいることでもあるんだ。それに団員達もリュート殿達の元へ行けると分かったなら手放しで喜ぶはずだ。リュート殿達とは2度の実戦を共にくぐり抜けている。戦友と言っても差し支えない相手だからな」

確かに彼女達も PEACEMAKER(ピース・メーカー) に入り、代わらず街を守護する仕事につけるなら不安は一気に消えるだろう。

街の住人も、最初は元純潔乙女騎士団団員ということで色眼鏡で見るだろうが、誠実に仕事をこなしていけば、いずれは不安も払拭される筈だ。

さらにガルマは、暗に『戦友を見捨てないよね?』と言い出している。これだから歳を取り老獪になった相手をするのは嫌なんだ。

気付けば逃げ道を塞がれているから。

「……さすがにすぐには返答しかねます。ただでさえ戦闘後の徹夜明けなので。返答は嫁達とも相談して後日でも宜しいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。忙しい所、本当に申し訳なかった」

ガルマはこれ以上の会話がマイナスにしかならないと判断したようで、すぐに頭を下げる。

オレは了承を得て、挨拶をしてから部屋を後にした。

部屋を出るとすぐ、副団長のラヤラ・ラライラが立っていた。

彼女の視線はオレへと固定されている。

彼女はぺこり、と可愛らしく挨拶をする。

「……ラヤラ副団長、どうしましたこんなところで。休まなくてもいいんですか?」

「あ、あの、フヒ、リュートさんにお話があって……」

いつもの落ち着きのない態度だが、彼女の要求は手に取るように分かる。

「これからの、フヒ、純潔乙女騎士団の件です」

やっぱりな。

溜息をつきそうになるのをギリギリで堪える。

彼女はこちらの反応には気付かず、話を切り出す。

「多分ですけど……このままだと、純潔乙女騎士団は解散になりますよね?」

彼女の問いに答えるか迷ったが、相手は実質現在のトップである副団長だ。

話しても問題は無いだろう。

「さっき顧問ともその話をしてたところだったんだ。解散は確実だろうって……」

「あ、あの……その件について、フヒ、お願いがあって」

「お願い?」

「どうにかして、ふひ、純潔乙女騎士団を残すことはできませんか?」

ガルマとは似ているが、違う願い。

ラヤラは落ち尽きなく、おどおどしながらも訴えてくる。

「ルッカ団長ではありませんが……ウチも純潔乙女騎士団を大切に、フヒ、思っているんです。自分のような落ち零れを受け入れてくれた純潔乙女騎士団を……だから、その恩返しのためにも存続させたくて」

対人との会話をあまり得意としていないラヤラが、懸命に言葉を紡ぎ訴えてくる。

それだけ純潔乙女騎士団が大切なのだろう。

さすがに無下にする訳にもいかず、オレは頭を掻く。

「……分かりました。こっちでも純潔乙女騎士団が何とか存続出来る方法を考えます。上手く行くかどうかは別ですが。それでいいですか?」

「あ、ありがとうございます!」

ラヤラは現状出来る精一杯の解答に、嬉しそうに頭を下げる。

その表情には希望が満ちていた。

あんまり希望を持たれてもこまるんだが……。

まったく……敵を倒したからといって、問題が解決する訳じゃない。

事後処理というのは本当に面倒だな。