作品タイトル不明
第108話 甲冑
リュート、15歳
装備:S&W M10 4インチ(リボルバー)
:AK47(アサルトライフル)
スノー、15歳
魔術師Aマイナス級
装備:S&W M10 2インチ(リボルバー)
:AK47(アサルトライフル)
クリス、14歳
装備:M700P (スナイパーライフル)
:SVD (ドラグノフ狙撃銃)
リース、ハイエルフ181歳
魔術師B級
精霊の加護:無限収納
装備:PKM ( 汎用機関銃(ジェネラル・パーパス・マシンガン) )
:他
獣人大陸は、時計でいうと8時の辺りになる。
飛行船で約1ヶ月の旅だ。
純潔乙女騎士団が待つ街は、獣人大陸の港街――港から入った物資を陸地奥の街々へ輸送する中間地点に存在する1つだ。
そのため都市――ココリ街は中規模だが、流石に飛行船を停泊させるための専用区間など存在しない。輸送も基本は陸路だからだ。
オレ達はハイエルフ王国でしたように、街の側に飛行船を止める。後日、雨露を凌ぐ屋根を設置する予定だ。
到着は夜だったため、このまま純潔乙女騎士団が本部としている建物には向かわず、街の宿屋で一泊する。
「ふわぁ~、久しぶりの地面だな」
オレは飛行船から下りると、大きく伸びをする。
後から嫁3人が下りてくる。
「地面はいいよね、揺れなくて。土の感触が気持ちいいよ」
「スノーさんは飛行船が苦手なのですか? そんな素振り全然なかったのに」
体躯に合わない巨乳を揺らし、リースがスノーに尋ねる。
スノーは苦笑いを浮かべ返答する。
「苦手ってほどじゃないけど、飛んでいる時、揺れると『ビクッ!』ってしちゃうよね。それに慣れないと揺れで酔っちゃいそうになるし」
『それは分かります。私も最初は揺れに慣れずに酔っちゃいましたから』
クリスがミニ黒板を掲げて微苦笑する。
マジかよ、2人ともそんな素振りはなかったから、平気かと思っていたのに……。
「慣れてしまえばどうということはありませんよ」
「シアさんの仰る通りですわ。慣れてしまえばどうということはありませんわよ」
さらにメイドのシア、弟子のメイヤが続いた。
今回、 軍団(レギオン) ―― PEACEMAKER(ピース・メーカー) として参加したのはこの6人だ。
リースの実妹、オレの義妹に当たるルナも参加したいと騒いだが、無理矢理抑え込んだ。
さすがに軍事訓練などをまったく行っていないルナを、今回のクエストに参加させる訳にはいかない。また誘拐されても大変だ。
オレ達が今居る場所は、街を守る城壁から数百メートル離れた草原。徒歩でぐるりと周り、街の入り口へ向かう。
「ん?」
だから最初にこちらへ向かってくる人影を見つけた時――街を守る兵士だと思ったが、様子が変なことに気付く。
まず相手が1人だという点だ。
周辺に危機が無いか見て回る場合、通常は2人1組、またはそれ以上で行動する。それは転生前の世界の地球でも、この異世界でも常識だ。
次に全身を鈍い銀色の甲冑で覆っていたからだ。
兵士でなければ冒険者かとも思ったが、向かってくる相手は身長が2メートル半ほど。
手には戦斧。
甲冑で全身を覆い肌が露出している箇所は一切無い。甲冑も分厚いのか、全体のシルエットがどこかずんぐりむっくりしている。
分厚くすれば防御力は確かに増すが、その分質量が増える。
とても人が来て動ける重さではない。
まるでオークなどが甲冑を着ているようだった。
夜、全身を覆う甲冑姿で、身長ほどはある戦斧を手に真っ直ぐ向かってくる人影。『警戒するな』という方が無理な相談だ。
「っ!?」
その警戒が功を奏したのか――突然、甲冑姿の何者かが肉体強化術で身体を補助! 戦斧を振りかぶり襲いかかって来る!
「な、なんだよアイツは!?」
「リュートくん、逃げて!」
甲冑は一番前を歩いていたオレに狙いを定めて、戦斧を振り下ろす。
スノーの指摘前に、オレも肉体強化術で身体を補助。甲冑の一撃を回避する。
相手が怪しさ全開で、正面から歩いて来たから何時でも逃げられるよう注意していたお陰だ。
だが、甲冑の攻撃はそれだけでは終わらない。
地面に突き刺さった戦斧を力任せに引き抜き、オレへ向けて横一線。
バックステップで避けるが、甲冑は追いすがってくる。
下手に狙いを嫁達などに向けられるよりずっとマシだ。
それにオレが引きつけている間に、ただ指をくわえて眺めている彼女達ではない。
「我が手で踊れ氷の剣! 氷剣(アイス・ソード) !」
スノーが威力より速度&正確さを優先した魔術を使用。
彼女の頭上に10本の 氷剣(アイス・ソード) が生み出され、オレと甲冑の間を遮るように放たれる。
数本は甲冑の持つ戦斧で叩き落とされる。
だが、時間稼ぎとしては十分だ。
「リュートさん! スノーさん! 離れてください!」
リースの大声。
彼女へ視線を向けると 汎用機関銃(ジェネラル・パーパス・マシンガン) ――既にPKMが発射準備態勢に入っていた。
彼女の背後に、クリス、シア、メイヤが隠れている。
リースは妖精種族、ハイエルフ族。
ハイエルフ族は100歳になると『精霊の加護』という特別な力を得る。
彼女の場合は『無限収納』と呼ばれる力だ。
非生物ならほぼ無限に収納出来る。
そこからリースのお気に入りであるPKMを取り出す。
すでにスタンバイ状態で収納しているため、引き金を絞れば発砲可能だ。
リースは銃身を楽に交換するために付いているキャリングハンドルを掴み、銃口を甲冑へと向けている。
オレは慌てて、甲冑から全力で退避する。
「ッ!?」
急いでいたせいだろうか。
微かに耳鳴りがしたような――
そんな違和感を塗りつぶすようにリースが発砲する。
「行きます! ファイヤー!!!」
リースが掛け声と共に 引鉄(トリガー) を絞る!
ダダダダダダダダダダダダダダダダンッ!
ライフル弾にも使われる7.62mm×54Rが650発/分の速度で発射される!
甲冑は戦斧を地面へ突き立てると魔術を発動。
正面に土壁を作り出す。
それに構わずリースは発砲を続けるが、約20秒ほどでマガジンボックスを撃ち尽くす。
土壁はすでにボロボロで、風が吹くと脆くも崩れる。
その場には突き立てられた戦斧があるだけで、既に甲冑は背を向け逃走していた。慌てて追いかけようともしたが、その逃げ足は速い。
あっという間に街に背を向け、夜の草原へと姿を消してしまう。
念のため、皆は他に仲間が居て追撃があるかもと警戒するが――しばらく待っても何も起きなかった。
「……いったい何だったんだあれは?」
オレは皆を代表してぽつりと台詞を口にする。
夜空に輝く星達は答えを返してはくれなかった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
場面が変わり、街の一角。
今にも崩れそうな家屋の一部屋で、1人の少女が行儀悪く机に乗って足を組み替える。
彼女が着ている衣服はレースやフリルがゴテゴテとついていた。運動機能性など完全に無視した衣服だ。
もしその場にリュートが居たら前世の地球、ネットやテレビで観た『ゴスロリ』『甘ロリ』といった衣服を連想しただろう。
「あれが例の 軍団(レギオン) 、『 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 』? 全然、大したことないじゃん。あんな反応鈍い奴ら、ノーラだけで皆殺しに出来ちゃうよ」
『くすくす』と、棒についた飴を美味そうに舐めながら失笑を漏らす。
彼女の他にリュート達を襲った全身甲冑に似た甲冑が側に立っている。だが、こちらの方が一目で上等な作りだと判別出来る。
色も紅色で、背には巨大な剣を背負っていた。
少女が1人捲し立てる。
「『黒』に逆らう奴らが居るっていうからどんな凄腕かと思ったけど、あの程度の実力で喧嘩を売るなんて。死体希望の自殺志願者なんじゃない?」
「…………」
紅色の甲冑は少女の言葉に反応しない。
少女は棒付き飴を口から離し、タクトのように揺らす。
「折角だから例の計画に必要な魔術師に PEACEMAKER(ピース・メーカー) の3人、スノー、リース、シアを加えてあげようかな」
少女は無垢で、残酷な笑顔を浮かべる。
「『黒』に逆らったことを心底後悔させてあげないとねぇ」
深夜の家屋。
部屋に少女の楽しげな笑い声が響いた。