軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第86話 たぶん仲間じゃなかったら殴ってる

「もう楓太君達は眠ったかしら?」

――夜。焚き火を囲みながら、ミライは静かに呟いた。

夕食後、〈百花繚乱〉と拝賀は見張りを請け負い、楓太達を先に眠らせた。

五人に見張りをやらせるつもりはない。自分達で十分間に合うし、体力の少ない五人こそ休んで欲しいと思っているからだ。

この遠征はまだ先が長い。遠征経験の少ない彼らはついてくることさえ大変だろう。今は体力のケアに努めて欲しい。

ミライの呟きに、拝賀が同じく小さい声で応える。

「眠ったみたいですね。特に小畑さんは早く眠りに入ったみたいです」

「そう。無理もないわね。眠る直前まで生産をしていたんだし」

料理を終えた後、ミライの要望により、楓太は〈百花繚乱〉の分のスライム式テント、マットレスを作っていた。

流石にマットレスまで全員分は間に合わなかったが、明日にでも作り終えるだろう。材料はいくらでもこの先手に入るし、労力もそこまで掛からないようだから。

これが手に入るだけですでに、今回の遠征の成果が出たとミライは思っている。本命はまだ先なのに、実に素晴らしいことだ。

素晴らしいこと、なのだが――

「それで、まだ遠征初日なんだけど、楓太君のことはどう思った?」

「凄いっ! 本当に凄かった!」

「うん、凄いね。特にあのマットレスは素晴らしい」

「反則ですね。凄いを通り越して、もはやズルいです」

「呪いたいです……ッ!!」

〈百花繚乱〉の面々の評価に、拝賀は何度も頷いた。納得しかないが、一人やばいのが居るなと冷や汗を掻く。

ふふっと小さく笑って、ミライは隣に座る日向の頭を抱えこむように撫でる。

「もう、仕方ない子ね。あまり妬まないのよ」

「だって……ッ! ズルいです……あれもう探索を舐め切ってますよ……ッ! 遠征をなんだと……ッ! 私が今までどれだけしんどい目に遭ってきたと……ッ!」

悔し涙を浮かべ、ギリギリと歯を鳴らす日向に拝賀は寒気を覚える。これが〈呪術師〉の素質かと、思ってもなかったところでジョブの秘密を掴んでしまった。

だが、本当にそう言いたくなる気持ちは理解できる。あれは断じて自分の知る探索ではない。

「スライムレベリングとか、流石に反則でしょう。一日でレベル3。川辺さん達に至ってはレベル4ですよ? 僕が今までやってきたことは、一体なんだったんですか?」

「あれは本当に驚きましたね……」

ぼやく拝賀につられ、刻子も頬を摩りながらため息を吐いた。

あの厄介なスライムを相手に、アイテムを使うだけで瞬殺。そして経験値の大量獲得。

スライムの群生地はデッドゾーンだっ! ラッキースポットじゃねぇぞぉ!? と叫びたくなる気持ちだった。

「だけど、あれなら楓太君があそこまでレベルを上げられるのも納得よ。あんなに安心して見てられる戦い――いえ、経験値拾いはないわ」

「経験値拾い……そう、まさにその通りですよ! あれは戦いじゃない! 採集と変わらないです! あんな方法で追いつかれたら……追い抜かれたら……僕は……ッ!」

頭を抱えて悶える拝賀に、ミライは珍しく同情した。無理もない。今までの努力を全否定されるようなものなのだから。

自分達はともかく、拝賀はまだ楓太達にレベルが近い。可能性が無くはない。

「まぁ、流石に20の壁を超えたら同じことは難しいでしょう。万が一抜かれたとしてもそんなに落ち込むことはないんじゃない? 貴方も同じことが出来るってことだし、むしろ喜んだら?」

「なに他人事みたいなこと言ってるんですか? ミライさんだって立場は同じですよ?」

「ふふっ、何言ってるのかしら。流石に30台は無理でしょ」

「本当にそう思います?」

じっとこちらを見てくる拝賀に、ミライは言葉を失った。

いや、まさかないとは思うが……しかしあのレベリングは……スライムは深層にも居るし、下手したら深層基準の経験値が……。

そこまで考え、ミライは思考を止めた。現実を直視したら頭がおかしくなる気がした。

「レベリングも凄いけど、やっぱりアイテムだよ! テントにマットレス! トイレ! これからの遠征が楽しみ!」

「特にマットレスは本当に素晴らしい。僕は今から寝るのが楽しみだよ」

快適な生活を予感しカコは純粋に喜び、睡眠にこだわる蒼は趣味を満たせてワクワクしている。

組み立てる必要もなく、勝手に建てられる丈夫なテント。遠征中で疲れた体には、それにかける労力さえ惜しい。その手間が無くなるならありがたい。

そして、とても持ち運べるはずではない厚みを持つマットレス。しかも素材は最上級。高級ホテルで眠るような寝心地を提供してくれるだろう。

更にトイレと遮蔽用のカーテン。もう慣れたとはいえ、野原で用を足し、片付けをするというのは誰しもが避けたい所だ。それを自動で分解して片付けてくれるのだからありがたい。

あの遮蔽カーテンに至っては、トイレ如きに使って良いのかと悩むほどだ。むしろ奇襲用のアイテムとして使えるものだろう。斥候職の真似事をパーティ全体で出来るとなれば、破格の性能と言える。

どれもこれも、今までの常識を覆すものだ。しかし最も優れたアイテムはどれかと言われたら、一つしかない。

「〈浄水核〉。あれこそ反則よね。あそこまで大量に新鮮な水を確保出来るとなると、遠征が根底から変わるわ」

水――それは人間にとって必要不可欠なものである。いくら探索者といえど、生物であることには代わりない。水がなければ行動もままならなくなる。

しかし同時に、水は荷物になる。可能な限り持ち込みたいところだが、持ちすぎても他の荷を運べなくなるし、重さで体力を無駄に消耗する。

だからこそ、探索者は水の扱いに細心の注意を払う。一日にどれだけ飲むのか? どこで水を補給するのか? どれだけ水を持っていくのか。

特に長期遠征をする際には緻密な計算をして、水の扱いを決める。ここをおろそかにすると魔物にやられる前に、移動の段階で死にかねない。

そして、そこまでしても上手くいかないこともざらにある。例えば、怪我の治療で水を使う必要が出てしまった。あるいは、補給するはずの水源が駄目になっていた。

特に後者はわりとよくある話だ。ダンジョンは特殊な空間であるが、自然であることには代わりない。水源が枯れたり、予想以上に水源に魔物が群がったり。様々な理由で水を補給することができないことがある。

だからこそ、水は大事なのだ。念入りに確かめる必要あるほどに。

それ、なのに……ッ!

「なんであの子達、衛生用の水も用意して当たり前、みたいな感覚なの? おかしいでしょっ! 普通は飲み水が精々なのよ……ッ!」

「あれはもう呆れましたね。どれだけぬるい探索をしてきたのか。いや、そもそも探索者になって三ヶ月程度。まともな遠征もしていないのか。探索の常識すら全く分かってないんですよね」

ミライの憤りに、拝賀は無気力な顔で返した。火山や砂漠とは違い、この渋谷ダンジョンは水源の確保自体は難しくない。じゃあ好きに水を使えるかと言われると、そうではない。

野良水には常に寄生虫、細菌、ウィルス、毒素などの危険性がある。飲まなければ良いと言うものではない。その水に体をつけるだけでもリスクがある。過去にはそのせいで重い病にかかった探索者もいるくらいだ。

携帯浄水装置を使えば飲めるようになるし、安全に水を使える。だが、フィルターの耐久回数の問題もあるため、気軽に何十リットルも使うことはできない。

飲み水を確保するために、衛生面は諦めるなんて当然のことだ。その結果、体は汚れるし臭くなる。美意識の高いミライにとってこれは苦痛だった。しかし、野望の為に受け入れた。受け入れて進むのが当然だったのだ。

当然、だったのに――ッ!

「当たり前のようにドバドバ遠慮なく使って、しかも挙げ句の果てに水を自動生成する水筒が微妙? シビアな判断なら水一リットルで抑えるのは十分選択に入る量よ。それが時間経過で手に入るのに、微妙!?」

「一度乾きの苦しみを知れと思いましたね。砂漠にでも叩き込んでやりましょうか……?」

水を担当する刻子は恨めしそうに呟いた。

〈魔術師〉の場合、魔力の使いすぎで体調不良を起こすことは珍しくない。刻子の場合、昼間の戦闘が激しすぎて魔力の回復が追い付かない時、それでも夜に水を作らなければならないというケースがある。

この時の苦しみは地獄だ。必要だからせざるを得ないが、出来れば遠慮したい。その経験を多くしてきた刻子だからこそ、聞き逃せない発言だった。

改めて考えれば、ここまででもあまりの理不尽さにしばきたくなってくる。が、ミライに決定的なショックを与えたのは、食事だった。

「アイテムだけでも十分なのに、挙句の果てにはあの料理よ。あれは本当にずるいわっ」

「凄く美味しかったねー! 明日も食べられると思うと楽しみっ!」

「あれなら毎日でも良い。飽きる時はくるかもだけど」

「それでも携帯食料とか魔物肉の丸焼きよりマシですよぉ……!」

そう、それらとは比べるまでもない。ダンジョンで料理らしい料理を食べること自体、贅沢どころの話ではないのだ。

拝賀も遠征は我慢、という認識だったので携帯食料くらいしか持ち込みをしなかったが、現地の食材であれが食えるなら話が変わる。

「猫じゃらしがあんなに美味い料理になるとは知りませんでした。同じものを作れるとは思いませんが、今度自分でも試してみましょうかね」

「そんなわけないでしょ。猫じゃらしは猫じゃらしよ」

「え? でも実際に――」

「ダンジョンから取れる食材になり得そうなものは、すでに色んな企業が研究しているわ。結果、肉を始めとした一部の素材は、既存の食材と同等、あるいは上をいく味の物もあると分かった。でもほとんどの食材が、どんな工夫をしてもまともな味にならない物の方が多かったの。猫じゃらしはその筆頭よ」

もし同じことが出来れば……と、ミライはため息を吐いて言う。

「ダンジョン食材は、スキルを使って調理して初めて価値が出るのよ。〈料理人〉か〈錬金術師〉。パーティにどちらかが居ないとあの味は再現できないわ」

というか、味がどうこう言う以上の魅力が、あの料理にはあった。

「ところで皆、身体の調子はどう?」

「それが、実は全く疲れてないんだよね。一日走っていたのに」

「私も私も! いつもならちょっとは疲れるのに!」

「私と日向はベイグルに乗っていたので、比較にはならないですが」

「前に乗せてもらった時と比べて、絶対楽になってます……」

「僕も全く疲労感がないですね。むしろ調子がいいくらいです。これは確実に――」

「料理の【疲労回復】のおかげよね」

ミライ達にとって、今日の移動はそう辛いものではない。しかし遠征が続き、この疲労が積もればキツく感じてくる。

料理の効果時間は、胃の中に残る二~四時間と言われている。そろそろ切れる頃ではあるが、ここまで効果が出ているなら十分すぎる。

もし遠征中この料理を食べ続けることができるなら、体力の消耗はほとんどない。ストレスも軽減できる。深層での活動時間がさらに伸びるだろう。

「現地素材で料理ができるなら、食料問題も一気に解決する。料理効果で疲労軽減もステータス強化も思いのまま。そして何より、栄養バランスを整えられる! なんとしてでも〈料理人〉を手に入れる価値が出てきたわ」

「何を言うかと思えば。遠征中は我慢でしょ。くだらない」

「くだらない? くだらないって言った? 食事舐めてんじゃないわよ! 美は食から作られるのよ!」

栄養バランスを完璧にしてこそ、美しい体が作られる。美を何よりも重視するミライにとって、この食事関係は衛生面以上に耐えられないことだった。

〈百花繚乱〉のメンバーも同じ想いで、拝賀を睨む。

美に取り憑かれた女は大変だと、拝賀は内心で呆れた。

「以前から考えていたけど、決めたわ。あの子――“小鈴”は絶対に私のパーティに入れる」

「小鈴……もしかして〈五匠〉の?」

日本における五人の生産職の頂点〈五匠〉。そのうちの一人――香取小鈴。

料理の新しい世界を見てみたい、という一心でダンジョンに飛び込み、女の身でありながら頂点の一人にまで上り詰めた、女傑の〈料理人〉である。

「ミライさん、あの人と知り合いだったんですか?」

「前に食材採集の依頼を受けたことがあってね。他のゴミクズ共とは違って、あの子は常識のある良い子だったわ。実際、仲間に誘ったことはあるし、本人もレベルを上げたがっていたけど、気質的に戦いには向いてない上に生産職だからね。私達の足を引っ張るのが目に見えているからって、あの子の方から辞退したのよ。それでも時々、今もプライベートで顔を合わせてるわ」

本当に顔が広いなこの人、と拝賀は感心した。このコネの広さは女性ならではか。

「私達に遠慮していたけど、本当にあの子もレベルを上げたがっているのよ。〈五匠〉だなんてクズ共と同類扱いされている上に、その中でも格下扱いで他の〈五匠〉には見下されているらしいわ。碌な料理も作れないくせに、ってね。屈辱だし、自分でも今の実力に不満があるからこそ、周りからの評価とのギャップにモニョるって言ってたわね」

「モニョるか。まぁ〈料理人〉の性質を考えると分からなくもないですけど……」

他の生産職と比べ、〈料理人〉は評価されているとは言い辛い。

それもその筈。料理を食べてバフを与えるのが〈料理人〉。だがそこには大きな問題がある。料理を遠征に持って行くことが難しいという点だ。

ようするに――腐るのである。

「こればかりはどうしようもない、〈料理人〉の弱点よね。おかげで持って行けるのは保存食だけ。もはや〈料理人〉じゃない。作業員でしかない。同じ保存食を作り続ける毎日から抜け出したいと、あの子は言っていたわ」

「鈴ちゃん、可哀そうだよね……本当に料理が好きなのに……」

「誰も作ったことのない料理を作って、食べてみたい。だからこそ狙って〈料理人〉になれた時は嬉しかったと言ってましたが、あれではね」

カコと刻子の同情する姿に、それが事実なのだと拝賀は悟った。〈五匠〉と呼ばれ生産職として栄光を掴んでいると思いきや、思ってもみなかった話だ。

「〈料理人〉は必然的にそうなりますか。とはいえ、それでも買う人が後を絶たないですよね? 生憎と僕は彼女の料理を食べる機会が無かったのですが、実際に〈料理人〉が作った保存食の効果はどうなんですか?」

「そうね……正直、有った方がいい、という程度に留まっているわ」

その程度に? と、拝賀は目を瞬かせた。

拝賀が知る限り、〈料理人〉産の保存食の評価は高かったはずだ。だからこそ買える機会がなく、取り入れることを諦めた経緯があるのだから。

「やっぱり〈料理人〉だけあって、保存食にも関わらず味は凄く良いのよね。ただ効果が小さい上に、種類も少ないの。私達も買っているけど、【攻撃力上昇】や【防御力上昇】で一つか二つ。それでも他のバフと共存できるタイプのバフだから、便利ではあるけどね」

パーティ内に別のバッファーが居れば、重ねて強化出来る。その有用性は言うまでもない。

「だけど、それも絶対的な物ではないからね。強敵と狙って戦う機会があって、少しでもバフを重ねておきたい。そういう使い方しか出来ないのよ。道中の食事全部を賄うには出費が嵩むしね。まぁ実際そういう奴らも居るけど、効率が良いとは言えないわよね。味目当てなら別だけど」

だが、それもレベルが上がれば全てが変わる。

専門家ではない楓太でさえ、あれだけの料理を作れる。では、高レベルの〈料理人〉になれば?

次元が変わる強さを得られる可能性が十分にあり得る。

「あのスライムレベリングなら、小鈴でも出来る。それどころか、他の生産職だって。上手くすれば、小畑会で生産職を独占することも可能よ。やれるならやるべきでしょ」

「……いや、無理でしょうね」

賛同したいところではあったが、拝賀は今一度考え、それを否定した。

ミライは強者だからこそ、弱い探索者の視点が抜けている。

「確かにスライムレベリング自体は誰でも出来ます。でも、スライムがそもそも低階層でもそれなりに強い魔物です。香取さんも他の生産職と同様、レベル1のままでしょう? 確実に 酔(・) い(・) ますよ」

「……そうだったわね。可能性に目がくらんで忘れていたわ。でも、諦めるのも惜しい。どうにかして低レベルの【挑発】持ちの〈戦士〉が確保できれば……」

言いながら、それも難しいとミライは感じていた。

川辺やタケのように、魔物との戦いでステータスを獲得し、死の危険を感じた直後から【挑発】を覚えるような人格者など、そう現れるものではないのだ。

どんなに良い人間に見えようと、死の前では本性が出る。信頼していた人間が他者を囮にして逃げた、などこの世界ではよく聞く話だ。

それを狙って確保するなど、不可能に等しい。

「――チッ! 悔しいわね。この最初の壁さえ突破出来れば、どうにでもなるっていうのに」

現状に苦しむ小鈴も救える。ミライとしても、多くが手に入る。

目の前にありながら、手の届かない財宝が詰まった宝箱を置かれている気分だ。諦めようとしても諦めきれない。思わず険しく顔が歪む。

【挑発】持ちのように、確実に生産職を守れる奴は居ない。レベルの高い探索者に守らせても、それでは経験値を得ることは出来ない。

生産職の代わりに戦い、なおかつ経験値を渡してくれる。そんな都合の良い存在が居れば――

「グェェ……」

「あらやだ。慰めてくれるの? ふふっ、ありがとう。もう大丈夫よ」

隣で大人しく座っていたベイグルが顔を寄せてくる。その心遣いに、ミライは思わず顔をほころばせ、頭を撫でた。

本当に可愛い子だ。最初は体罰が頭をよぎるほど困った子だったが、今では主人の気持ちを察して寄り添ってくれる頭の良い子になった。家族に迎えられて本当に良かった。

ベイグルを撫でるミライに釣られてか、拝賀も隣でウトウトしているゲロゲロの羽を撫でながら言った。

「アイテムばかりに印象を取られていましたけど、この子達もやっぱり凄いですよね。荷物を持ちながら、二人も背に乗せて僕らに余裕でついて来れるんですから。もちろん、本気で僕らが走れば遅れるでしょうけど、持久力なら十分です」

「ええ。お蔭で私も疲労せずに済みます。これで更にアップデートも可能なんですから、頼もしいですね」

「もうベイグルが居ない遠征は考えられないです……」

ベイグルに乗って移動した刻子と日向は特に賛同する。

一度こんな楽を覚えたら、もう戻りたくない。

「思ったんですが、なにも各パーティに一頭だけで抑える必要もないですよね? 前衛の体力自慢だって、走らずに消耗が抑えられるのなら当然そうした方が良い訳で。この子達が増えればそれだけ多くの荷を運べるし、むしろ一人一頭を用意してもいいくらいでは?」

「というか、自然とそうなってくるでしょうね。パーティ全員分となると出費も多いから難しいだろうけど、ローンを組んででもお願いしたいくらいよ。この子達の住む場所をどうするか、という悩みが生まれるけどね」

ミライとしても、ペット預かりサービスで、一人寂しくダンジョンにベイグルを置き続けるのも可哀そうだと思う。仲間を用意してあげればその寂しさも紛れるだろう。

……いや、そうではないか、とミライは考え直す。

「家族だものね。離ればなれは良くないわ」

「お姉様。と言うと?」

「タワマンを出ることも考えましょうか。私に相応しい住居だったけど、ベイグルを一人にするのは可哀そうだわ。これからお友達も増えることだし、広い土地を買わないとね。都内だと難しいかしらね……」

「グワッ!」

その意味を理解し、ベイグルは嬉しそうな声を上げる。その反応に、ミライも釣られて笑顔になった。

入れ込んでるなぁと、その光景を眺めながら拝賀は呆れながらも、見つからないように笑った。同時に、この流れは小畑会で続くだろうと思う。

いずれはグーフストリオが小畑会のトレードマークみたいなものになるだろう。楓太の激務がほぼ決定したような物だが、あの人の性格から言って、小畑会の集会で大量のグーフストリオを走らせる、みたいなイベントを提案すればそれだけでノリノリでやってくれそうだ。おそらく問題ない。

「そのためにも、小畑さんにはレベルを上げてもらわなきゃですね。そうすれば一日に複数体のホムンクルスも作れるようになるでしょうし」

「ええ。だけどそれだけじゃないわ。この子達と、今日見せてもらったアイテムで改めて確信した。現場で活動できる生産職。楓太君はその理想形になれる」

ミライの〈料理人〉の仲間を引き入れたい、という考えは変わらない。だが効率面で言えば、やはり〈錬金術師〉だ。

現場でなんでも作れる〈錬金術師〉。ダンジョン探索において、これほど求められる人材は他にない。楓太なら、高レベル探索者の誰もが構想していた計画を叶える可能性がある。

「ダンジョン内において絶対的な拠点の作成。誰もが考え、結局は不可能と判断したこの計画。楓太君なら間違いなく作れるわ」

「実際にやろうとした人達は今までにも居たと聞きます。ですが、結局誰も出来なかったんですよね?」

「ええ。地上から必要な設備を運んで、本格的な拠点を作ろうとした奴らも居たわ。でも出来なかった。それだけ様々な問題があったのよ」

必要な食材、水の確保。ダンジョン内で無限に生まれ続ける魔物の襲撃。それによる設備破壊。娯楽がない状況での長期間に渡るストレス。

それらの問題をクリアできず、今まで拠点作成は頓挫してきた。もし深層付近に活動拠点が出来れば、更なる躍進が約束されるほどの物だと、誰もが確信しているというのに。

「だけど、楓太君なら現地で全て作れる。それこそ簡易的な拠点ではなく、一生そこに住めるような規模だって。となれば……ふっ、ふふふっ。ねぇ拝賀、知ってる? ダンジョンは国によって管理されているけど、ダンジョン内の土地に関しては誰にも所有権が無いのよ?」

「……もしかして、街でも作ろうって言うんですか?」

「甘い甘い。その気になればもっと上を目指せるかもよ?」

ダンジョン内の土地を開拓し、街に留まらない規模まで膨らんだ人の拠点、その団体。つまりは――

「“探索者の国”、なんて出来たら面白いと思わない?」

「ミライさん……まさか本気で言ってます?」

「ふふっ。実際、探索者が全てを決められる国が有ったら、私達にとって都合が良いと思うのよね。私達を化け物呼ばわりする民意も未だに消えていない。もし排斥された時、逃げられる場所があったら安心じゃない?」

ましてやそこはダンジョン内。そこに逃げ込まれたら追いかけるのも難しいだろう。

探索者の理想郷を作るのだとしたら、ダンジョン内は都合が良い。

「まぁ、現実的ではないけどね。いつダンジョンが無くなるかなんて分からないし。サトウあたりが“ダンジョンコア”なんて存在を見つけて、壊したらダンジョンが崩壊した、なんて可能性も十分にあるしね。少なくとも、もっとダンジョンの情報が出てこないと本格的な建国は出来ないでしょうね」

「視野には入れてるんですか……。でもたぶん無理ですよ。小畑さんに建国の責任が負いきれると思います?」

「絶対に嫌がるでしょうね。今の小畑会の立場でさえ、分不相応だと思っているみたいだし」

「間違いないですよ。絶対に無理です」

そんな信頼と安心感が拝賀にはあった。

もし提案したら、焦った顔で首を横に振り続ける。そんな楓太の様子が目に浮かぶ。それを想像して、拝賀は思わず笑ってしまった。

♦ ♦

【探索のヒント! その三十六】

〈料理人〉

人は食べなければ生きていけない。とはいえ、食材をそのまま齧るだけでは芸がない。そこに一手間加えることで、人は文化を生み出してきた。

食材を調理することで、食材はより美味しく、料理という形に姿を変える。また本来有害である物を無害化することで、更なる美味を発見するだけではなく、飢えから身を守ることも出来る。そしてそれは舌の上で踊らせることにより、食した者に様々な影響を与える。

腹を満たすだけではない。一口食べれば思わず顔がほころび、喜びを得る。また、芸術のように感動で涙を流すこともある。物によっては、今までの人生観さえもひっくり返してしまうような、そんな衝撃を与えることもあるだろう。そしてそれらは精神的な物だけではなく、人に生きる活力を与える。

食事という最もありふれていながら、日常的に幸福を感じさせてくれる物。それを作り出す、食材を料理という形に変える魔法使い。それこそが〈料理人〉である。

ダンジョン食材の多くが、そのまま調理するだけでは地上の食材と同程度のレベルで収まる物。あるいはそれ以下の食材としてすら扱われない物が多い。ゆえに一部の食材を除き、地上で生きる者からは見向きもされない。

しかし、〈料理人〉が扱うのならば話が違う。

スキルを通して魔力の影響を与えられたダンジョン食材は、その潜在能力を引き出し、輝かせる。それは味の向上だけではなく、バフという形で探索者に力を与える。

戦闘から補助、日常生活に至るまで、バフの範囲は広く、その効果も〈料理人〉次第でいくらでも向上する。

現在は〈料理人〉を含めた生産職のレベルが低い傾向にある為、そこまでの力はない。しかし高レベルの〈料理人〉が作った食事を探索者が食べれば、その戦闘力は明確に変わる。

絶対に勝てないような格上のフロアボスだろうと、互角、あるいはそれ以下にまで差を縮めることも出来るだろう。ゆくゆくは高レベル〈料理人〉による食事バフが当たり前になる世界が来る。

しかし当然ながら、真に評価するべきはその味。探索者も、一般人も、天上に昇るような気持ちを抱くことになるに違いない。

一口食べれば口から光を吐き、あまりの美味に服が破れ、人の身に抑えられず自然にまで影響が出る。そんなリアクションが出ても不思議ではない。

――うぅううううううまぁあああああいいいいいいぞぉおおおおおおおお!!!!