軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話 拠点

東京都練馬区、上石神井。

近くに石神井公園という緑に溢れた公園もあり、都内でありながら自然も豊かなこの土地の住宅地にその物件はあった。

「わぁ、大きい家ですね〜!」

敷地を囲む塀を見るなり、チヨちゃんが声を上げる。俺も全く同感なので無理もない。

大人の俺が見上げるほど高い塀で、家は屋根部分しか見えない。しかしこの塀の高さと長さを見れば、敷地の広さは想像できる。

そりゃ本当に地価が高いところと比べりゃ比較的安めかも知れないが、仮にも都内でこれだけの大きさって、一体いくらするんだろ。それとも思ったより安いのか?

土地の価格なんか調べたことないから分からん。こちとら賃貸暮らしの庶民やぞ!

「高い塀は防犯上あまり良くないんだけどね。でも楓太君の場合この方がいいでしょ?」

「確かに。小畑さんの場合は秘匿性が何よりも重要ですからね。強盗対策にはいずれ護衛のホムンクルスを当てれば良いわけですし」

ミライさんの発言に、拝賀君が追従して頷く。

……というか、ここにきて今更なんだが。

「なんで拝賀君まで一緒にきているの?」

「やだな~。小畑さんのパシリをするなら、これから頻繁に連絡を取り合うことになるんだし、拠点の場所を知っていた方がいいじゃないですか。……それに、今は少しでもアイツらと離れたかったので」

そう言って、拝賀君は憂鬱そうに顔を背けた。

気持ちは分かるが、それは問題の先送りでしかないと思うぞ。誠心誠意謝るしかないと思うんだが。自業自得だし。

しかし自分から率先してこうして気を利かせようとするあたり、思った以上にパシリ適性が高い子かもしれない。

まぁ一度敵対したから挽回したいという気持ちもあるんだろうが、これは予想以上の拾い物だったか?

「さあ、いつまでも外にいないで中に入りましょう」

門を開けたミライさんに続き、中に入る。

敷地内に足を踏み入れて、俺達はまた驚くことになった。

「わぁっ! 広―い!」

「これは確かに……」

外から見えていた瓦屋根からも分かっていたが、昔ながらの和風建築。そしてその家と同じくらいの広い庭。ところどころ木が植えられており、小さいながら池まである。

流石にドッグランほど広くはないが、ここでならマルも問題なく暮らせそうだ。見て分かるくらいマルも嬉しそう。

ゆくゆくはダチョウのホムンクルスのことを考えると、この庭で飼うことも出来そうだな。

「武家屋敷……って程ではないか。古民家ってやつですかね?」

「ええ。築七十年くらいだったかしら? それをリフォームしたのよ。一時期は撮影スタジオとしても使っていたわ」

築七十年。凄いな。そんな昔からあるならこれだけ広い家があっても納得だ。

「ちょっとだけ文明から離れて、自然のある場所で暮らしたいと思った時があってね。パーティー拠点。メンバーの寮代わりになるような物件を探していた時に、私のスポンサーから譲り受けたのよ。実際、短い期間だけどここで暮らしていた時もあったわ」

「へぇ。なんで今は住まなくなったんですか? 何か欠陥でも?」

スポンサーってなんだよとも思ったが、そっちの方が気になるわ。欠陥住宅なんか借りてもな。ああでも、生産だけする拠点としてなら問題ないか?

「ええ。思った以上の欠点がね。意外と虫が多かったのよ」

「でしょうね」

思った以上にしょうもなかったわ。そんな理由でこんな立派な家を放置してたんかい。

「あとね。地面で暮らすようになって改めて思ったの。私には高い所から、下界を見下ろす方が似合っているって」

もっとしょうもない理由が出てきたわ。要するにタワマンの方が良かったってことだろ。なんだ下界って。神かお前は。

「ほう。寮としてか……」

「なるほど。寮としてね……」

「寮。寮ね……」

「寮ですか~……」

なにやら俺以外の不穏な呟きが聞こえてきた。

聞こえなかったことにするか。突っ込めば藪蛇になりかねん。

「さて。家に入る前に、楓太君にとってはこっちの方が大事よね。ついてきて」

ミライさんはそう言って、玄関ではなく家に沿うように歩いていく。家の隣には、シャッター付きの建物があった。ガレージか、あるいは倉庫かな? 流石に家ほど大きい物でもないが、それでも天井は高く、中もそれなりに広いと予想できる。

ミライさんがリモコンを操作して、シャッターが上がっていく。その中に入って、俺は思わずおぉっと声を漏らした。

「結構広いですね。なんか色々と物が置いてあるけど」

「使わない道具を纏めてしまってあるから、散らかっているように見えるでしょうね。でもこれを全部片づければ、楓太君がアトリエとして使える広さになるでしょ?」

確かにそうだな。荷物を脇に寄せるだけでも、これだけ広ければ【錬金術】には困らない。人に見せ辛いホムンクルスも、外の塀とこの倉庫でしっかりと隠せる。俺が求める環境としてピッタリだ。

「いいな。こういうのワクワクする。ちょっとごちゃごちゃしている感がなおさらいい」

「分かる。ここをちょっといじって秘密基地風にしたい」

男連中はやはり俺と同じことを考えていた。でも外から見えない小屋だもの。自然とそうなるよ。

しかし、楓太のアトリエになるってことか~。ますます〈錬金術師〉らしくなってきたな! 本当にワクワクしてきたぞ!

「片づければいいとはいいますが、ここに在る物は纏めて処分していいんですか?」

「ええ。もう使わない物しかないから捨てちゃっていいわ。貴方達だったらまだ使えるものもあるし、逆に楓太君なら壊れた物でも利用価値があるんじゃない?」

確かにその通り。ちらほら壊れた武器、防具、道具が見えるけど、【錬金術】を使えば材料として十分に再利用できる。

これからいろいろ試そうと思っている俺にとっては宝の山だな。

「それじゃあ家の方を見ましょうか」

「は~い! 見ます見ます!」

「楽しみですね」

やはり女の子二人は家の方が気になるらしい。まぁそりゃそうか。

屋根瓦はもちろん、長い縁側に畳の和室。外から見れば和風の家だという認識が強かったが、やはり撮影スタジオとして利用しただけのことはある。どこも落ち着いた雰囲気があって立派だ。

個人的に和風のこういう雰囲気は好きだが、生活するなら洋風の方が……というのが本音なのだが、中に入って見れば意外と過ごしやすそうな家だという印象だった。

もちろん和室はそのまま昔ながらの雰囲気だが、分かりやすいのはリビング。それからトイレ、バスルームなどの水回り。生活空間は和風モダンというのだろうか。色調は和の色で揃えつつ、家具はソファやらテーブルで揃えている。

俺のようなこだわりがない男には作れそうにない雰囲気だな。女性というか、流石ミライさんといったところか。俺でもセンスが良いと感じる。

「わぁ! お洒落ですね~!」

「ええ。キッチンも綺麗。こんな所に住めたら毎日楽しいでしょうね」

チヨちゃんは興奮しながらあちこち見廻しており、七緒ちゃんもキッチンや家具を見てはうっとりとしている。やはり女の子はこういうお洒落な家に住みたいと思うものなのか。

「ほう。楓太のボロアパートよりずっと過ごしやすそうだな」

「ここに普通のゲームはもちろん、ボードゲーム各種を揃えて置きたいね。いつでも気軽に遊べる感じで」

そして早速この空間を侵食しようとしている奴がいる。でも俺もそれ賛成。あそこのテレビの横とかに棚を置いて、ゲーム各種並べてしまいたい。七緒ちゃんなら景観を壊さずインテリアを考えたりは出来ないだろうか。それとも雰囲気壊すなって怒られるかな……。

「二階には会議に使えるフリースペース。それから個室のプライベートルームね。もちろんここの部屋も空いているから好きに使っていいわよ」

さっそくフリースペースを見せて貰えば、中にはホワイトボードと長いテーブルとイスだけが置かれている。なんか会社みたいでかっこいい。

では個室はどうかと覗いてみれば――

「え? 広っ。コレ、俺のアパートより広いんじゃ……」

確か俺のアパートの広さが六畳だったか?

ベッドとかの最低限の家具が置いてあるだけで、他に物はないから広く感じるのかもしれないが……いや、勘違いじゃねぇなこれ。絶対に俺のアパートより広い。

この部屋だけで、既に俺のアパートより居心地が……。

「【錬金術】用の拠点とだけ考えていたけど、これならここに引っ越すのもありかもな」

「いいと思うわよ。というか、ここに住むなら楓太君はいっそ事業化しちゃえば?」

「事業……〈錬金術師〉としてってことですか?」

俺が会社を作るのか? この俺が? イメージ湧かねぇなぁ。

「運搬用のホムンクルスを作れるようになれば、小畑会のメンバーが大金を払ってでも買うし、今だって便利な道具を作ってかなり稼げるでしょ? 事業化したらこの家の光熱費とかだけじゃなく、装備や素材も経費で落とせるし、やるに越したことはないと思うけど。というか遅かれ早かれ、探索者をしていれば法人化は避けられないし、しておかないと来年税金がとんでもないことになるわよ」

「確かに。僕も荷運びのホムンクルスなら確実に買いますね。法人化して正式に商売をするなら他のアイテムも買いやすくなるし、皆も助かるんじゃないでしょうか?」

ミライさんだけではなく、拝賀君までそう言うか。

それならやるべきなのかもな~、と気乗りはしないが考えていたところで、川辺が真面目な顔で言った。

「楓太。絶対にやれ。というか俺達の為にもやってくれ」

「え? まぁ税金もあるし、やるしかないとは思ってるけど……なんで?」

「なんでも何も、君はこれからとんでもなく稼ぐことが確定しているだろう? しかも完全に〈錬金術師〉としての事業だ。これまでと同じように報酬は山分け、なんてバカなことをされたら申し訳ないというレベルじゃないぞ」

「法人化してもらえれば、給料って形で私達も正当な額を受け取れるので」

「だから雇ってくださいっ! お給料をくださいっ!」

おっ、おう。そうだな。流石に今までのままじゃ駄目か。俺が同じ立場でも確かにそう思うわ。

上下関係が出来るようで逆に俺が申し訳ないんだが……まぁそこは満足できる給料を払えればいいか。出来る事なら、頑張ったら頑張っただけ見返りが返ってくるような会社にしたいな!

サラリーマンでしかなかった俺が一企業の社長になるのか。なんとも感慨深い……。

自分の成長にしみじみとしていると、ガシリと川辺と伊波が肩を組んできた。

「それで、だ。楓太。ここを利用するなら、社員である俺達も使っていいよな?」

「僕らもここに住んでいいよね?」

「え? ホントに住むの? 今の家の契約は?」

「そんなもん、ここに住めるのなら今すぐにでも解約するわ。というか絶対こっちの方が楽しいじゃん」

「ただ欲を言えば、僕らはパーティーメンバーだろ? 家賃とかは手心を加えて頂けると……」

「いや、もし住むっていうなら家賃は払わんでいいよ。社宅みたいなもんだし、福利厚生ってことで。その代わり他の生活費は分担して払ってもらうけどな」

「払う払う! いくらでも払うわそんなの!」

「さすが楓太社長! 期待に応える男!」

調子の良い奴らだ。まぁ気心しれてる仲だし、いつでも相談できるなら頼りになる。生産で疲れた時の息抜きに付き合ってくれるだろうし、きっと楽しくなる筈。

強いて言うなら、毎朝こいつらの寝起きで見苦しい顔を見なくちゃいけないというのがデメリットか……割と深刻では?

「家賃タダ……!? 本当に!? わ、私達もいいですか!? いいですよね!?」

「お願いします! ここならマルも一緒に住めるからぜひ!」

「えぇ……君らもぉ……?」

ワクワクした顔の二人に、ちょっと素の声が出た。隠せたかな?

「なんでそんな嫌そうなんですか! こんな美人が一緒に住みたいって言ってるんですよ!? 少なくとも冴えない男二人より華があるでしょ!?」

「流石に私も怒っていいと思いますっ!」

「むしろ俺らが怒っていいと思うんだが……」

「自覚はあるとはいえ、少し傷つくね……」

「いやだってさぁ。寝起きの姿を見せるのは正直恥ずかしいというか、朝から君らに遭うのもちょっと緊張するというか。気が休まらないかなぁって」

やっぱり異性と同居するっていうのはね。

ちょっとハードルが高いっていうかね。

「そこをなんとかお願いします! ここを逃したら物件がいつ見つかるかも分からないんです!」

「居候として炊事洗濯家事を任せてもらっても構いませんので! どうかお願いします!」

「冗談だよ、冗談。顔を上げて。部屋もあるし住んでいいから」

「――ッ! ありがとうございますっ!」

「やったー! 良かったねマル! 皆で一緒に住めるよ~!」

七緒ちゃんは満面の笑みになり、チヨちゃんはマルを抱き締めて喜んでいる。

まぁ実際、マル達の事を考えると大変だしな。こんな好条件の物件を借りられると分かって、提案しないはずがない。緊張するというのも本音だけど、仲間外れも可哀そうだし。

そんな俺達のやり取りを、ミライさんは微笑みながら見ていた。

「どうやら気にいってくれたようね。皆喜んでくれているようで何よりだわ」

「でもいいんですか? ここに住むことまで許可してもらっちゃって」

「いいのよ。家は誰かが住まないと痛むからね。ハウスクリーニングを入れる必要もなくなるし、管理してくれるなら私も助かるわ」

「それならお言葉に甘えさせてもらいま――あ。そういえば、ここを借りるのにどれくらい支払えばいいんですかね?」

一番肝心なところを確認してなかったわ。

いくら好条件とはいえ、あんまり費用が掛かるようなら借りることもできない。たとえ水を差すことになろうとも、他を探す必要がある。

「別に無料で良いわよ。使ってなかった場所なんだから。生活にかかる費用だけ自分で払ってくれればそれで構わないわ」

「無料って……いや、それは流石に悪いですよ!」

こんな良い所を貸してもらえるだけでありがたいのに、さらに金も払わなくていいなんて申し訳なさすぎる!

「本当に気にしないでいいのに。でも逆に悪いっていうなら――そうね。出来るようになってからでいいから、ハイエンドの性能を持つ人型のホムンクルスを一人譲ってくれたら嬉しいわ」

「人型ホムンクルスを一人……それならまぁ」

「「「よく(ねぇ)(ない)(ないです)!!!!!!」」」

俺でも出来るしいいかと頷きかけたところで、川辺、伊波、七緒ちゃんが怖い顔で叫んだ。

あまりの形相に、俺はたじたじとなった。

「おっ、おおっ? なんだ急に。三人揃って……」

「お前は馬鹿か!! そんな簡単に口約束してんじゃねぇよ! 自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

「自分なら作れるから、なんて考えで気軽に頷こうとしただろう!? まだホムンクルスの性能、価値すら分かってない段階だぞ!? 予想以上に高性能な人材が作れたらいくらで売れると思っているんだ!」

「人間一人を成人まで育てるのに三千万! 教育次第では五千万近い額がかかります! そして新卒の人間を雇うのだって年間数百万! 優秀な人材であればもっとです! 更に言えばホムンクルスは人間と違って仕事を辞めて他に行くってことがありません! 優秀な人材を一生雇えると考えるなら億の値を払ってもおかしくないですよ! それなら素直に家賃を払う方がよっぽどマシです!」

お、おう。確かに七緒ちゃんの言う通りだわ。反論のしようがねぇ。

そうか、俺はミライさんにサラッと騙されかけていたのか。よくよく考えれば探索者になろうとしている人材が少ない中、優秀な探索者を仲間に出来るなら相応の金がかかって当然だよな。なんてババアだ。

キッ、と七緒ちゃんはミライさんを睨み付けた。

「ミライさん。物件を紹介して頂けたのはありがたい話ですが、ミライさんといえどこれは飲めません」

「フフフッ、そんなに怒らないで頂戴。ほんの冗談よ、冗談。楓太君、七緒ちゃんがしっかりとして良かったわね」

絶対に冗談じゃねぇだろ。あわよくばそのままなし崩しで奪っていったはずだ。油断ならねぇ。

同じことを考えたのか、フンと川辺は鼻を鳴らした。だが、その不満はミライさんだけではなく、俺に向いていたらしい。

「まったく。お前は少し警戒心を持てよ。いくら仲間とはいえ、妄信するのは違うだろうに。相手が巨乳の美人だからって、四十超えたババアにいいように――」

川辺の言葉は、最後まで言い切られることはなかった。

ミライさんの斜め下から突き上げられたアッパーが川辺の左頬に突き刺さる。川辺の体重を考えると信じられぬことだが、拳の勢いで一回転半のジャンプを決め、川辺はブヒィと鳴きながら地面に転がった。

「おっ、おぉ……ッ!? えっ? まさか殴られ……? あっ、い、痛いっ……ッ! めっちゃ痛いんだけど! えっ? これ歯が折れてない? 酷くね? ここまでするか普通!?」

川辺は半泣きになりながら、手で頬を抑えてミライさんを睨む。

ミライさんは冷たく言い放った。

「覚えておきなさい。私は弱い子には手加減するわ。でも戦士職には厳しいわよ」

「うっ……うぅ、ううっ、おっ、お巡りさんに言いつけてやるっ! こんなことしてタダで済むと思うなよ!」

「警察は高レベルの探索者相手だと見て見ないふりをするわよ。暴れられたら厄介だからね」

「なっ、なんて野蛮なっ! 舐めるなよっ! 俺がこの程度で黙ると――!」

い、いかん! このままだと小畑会で仲間割れが……! ミライさんが暴れようが大人しく捕まろうが、どちらにせよ得がない!

――キュポ! ビチャッ! ビチャビチャビチャ!

「冷たっ!? なんだお前いきなり!? それが殴られた俺に対する仕打ち!?」

「殴られた? 川辺君。君は何処を殴られたって言うんだい?」

「何処って……あっ! お前ポーションで痕を!? どっちの味方だよ!?」

どっちの味方でもないよ。まぁ強いて言えば小畑会の味方かな。

「さて。本当にお金は気にしなくていいわ。なんだったらお金が貯まったら、私から買い取ってもいいしね。でもこれから何かしようとするなら、まず私に相談して欲しいわね。そうすればその恩恵を最初に預かることになる訳だし」

ん~。まぁそれくらいならいいか。どの道その時は、小畑会の誰かに相談することになる訳だし。

「それも他の小畑会の人達が聞けば不満に思う内容だと思いますが」

「拝賀。余計なことを言ったら……」

「言いませんからそんな怖い顔で睨まないでください。しかしこれで拠点が出来るということは、いよいよホムンクルスを作れるということですよね? 脚となる相棒を作ると聞いていますが、何をベースにするのです?」

まるで逃げるように拝賀君は俺に話しを振ってきた。乗っておこう。俺も怖いから。

「足となる魔物に関しては、渋谷の五階層に居るグーフストリオを考えてるんだよね」

「ほう、グーフストリオ。なるほど。確かにあれならば移動、輸送をこなせますね」

「でも、実際にそれを作る前に、【人工生命体創造】のスキルを試してみたいと思うんだ。相棒はそれからだね」

「ふむ。まぁ実際に力を把握しない事には何も出来ませんしね。何か適当に動物を作るんですか?」

「いや、実は蜘蛛のホムンクルスを作ってみようと思ってね」

「蜘蛛ですか? また意外なものを」

「楓太君。何故蜘蛛なのかしら? 何か理由があるの?」

「はい。実はですね――」

俺は前日に話しあった洗浄のスキルの可能性。蜘蛛のホムンクルスによる糸素材無限回収計画について話した。

最初は面白がって聞いていた拝賀君とミライさんだったが、話が進むにつれ、真剣な表情で考え込んでいた。

「という訳なんですよ。なので蜘蛛のホムンクルスを狙ってるんですけど」

「――拝賀。洗浄の魔物に心当たりは?」

「上野ダンジョンにアライグマ、カワウソと言った綺麗好きな動物がモデルの魔物が居ますね。そういったスキルが持っていてもおかしくないかと思います」

「いいでしょう。私が五階層で蜘蛛を採ってくるわ。貴方はそっちを」

「はい。ついでにその階層の魔物を一通り狩ってきます。今は色んな種類の素材を集めることが重要ですから。意外な魔物が有用なスキルを持っているかもしれません」

「ちょっ、ちょっとちょっと、えっ? まさか今から獲ってくるつもりですか?」

動きが早すぎない?

「当然でしょう? 着替えが要らなくなる下着なんて、探索者なら誰だって欲しがるわよ」

「僅かなりとも荷が減らせますし、洗い物が減れば水の使用量が減ります。かゆい所に手が届くというか、最優先ではないとはいえ、有るなら絶対欲しいものですよ。僕もかなり欲しいです」

どこまでも真剣な顔で二人は言った。

そ、そうか。それなら否定はすまい。下着の話というのがシュールではあるが。

「ついでに〈美肌薬〉の材料も集めてくるわ。そうね……明後日には持ってくるから準備しておいて。はいこれ、この家の鍵。それじゃあ行ってくるわ」

「僕もそれに合わせ、出来る限り素材を集めてきます。やりがいが出てきましたね」

二人は予定を伝えるなり、足早に家を出て言った。

慌ただしいというか、俺まだ何にも頷いてないんだが。

「いいんかなぁ。これで」

「まぁ僕らが頼んだ訳じゃないし、向こうの方からやると言ってきたんだ。遠慮なく受け取ろうじゃないか。それよりも、僕らにはやるべきことがある」

やるべきこと? なんだ?

何か重要なことを忘れているかと思ったが、七緒ちゃんとチヨちゃんはすぐに思い至ったようだ。そして楽しそうに手を叩く。

「引っ越し作業ですねっ! 家具はともかく、今日中に服とかだけでも運ばないと!」

「早くここに住めるようにしますっ!」

「そりゃそうだね。んじゃ、やるとしますか」

今日、明日とバタバタしそうだが、これからは今よりももっと楽しくなりそうだ。