軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話:転生王子は海を見つける

海と聞いてヒバナが目を輝かせている。

「すごいわね。海にさえ出れれば塩が作り放題よ。隣国だって、岩塩を採掘して塩を作っているのでしょう? けっこうお金がかかっているみたいだし、塩が作り放題になれば、逆にこちらが売る立場になるわ」

騎士というのは剣が振るえればいいだけでなく、教養もいる。

そして、ヒバナはそれを持ち合わせている。

おかげで話が早くて助かる。

「そうだ。だから、本当に海があるのか、海があったとして、どうやって安全な道を整備するのかが重要だ」

俺とヒバナのような強者ならともかく、一般兵が護衛程度では不十分だ。

なにせ、魔物がいる上に足場も最悪。

それどころか……。

「コンパスも使い物にならない」

持参したコンパスはぐるぐる回転している。

磁場が異常で使い物にならない。

目印らしい目印がない、この場で方角がわからないのは痛い。

それに周囲に満ちている瘴気は、平衡感覚を狂わせてしまう。

どれほど卓越した能力を持つ探検家であろうと魔の森では無力。強い魔物がでることでなく、こうしたことも魔の森に入ることが自殺行為と呼ばれる所以。

「……けっこう、歩いているけど帰れるのかしら?」

「ああ、そっちは大丈夫だ。魔力針がある。ついになる魔石がある方向を示し続けるし、大まかな距離もわかるから現在地がわかる。今日の探索はこいつの試験も兼ねてるんだ。コンパスもまったく効かないことを確認するために持って来たようなものだ」

「安心したわね。ここで遭難なんて考えたくないわ。魔物も怖いしね。そんな話をしたら来たわよ」

「そうだな。いい機会だ。ヒバナに俺の戦いを見せよう。手を出さないでくれ」

「了解、あなたを守るものとして是非知りたい情報だわ」

俺も魔物の気配に気付いていた。

野生の獣が生まれ持って身に着けている、天性の気配の消し方、そこに不備はない。

それでも、それを見抜ける。

俺はそういう道具の力で、ヒバナは剣士としての研ぎ澄まされた五感で。

「【魔銀錬成:伍ノ型 魔弓】」

錬金魔術を使用する。

腕に巻き付けてある、ミスリルのリングが弓へと変化し、銀糸がピンと張る。

さらに、上着から矢を取り出す。

爆矢:紅蓮。

「【解析】」

錬金魔術はありとあらゆるものを生み出し、改良する。

そしてそれは物質だけにとどまらない。

人体すらもその対象。

俺は錬金魔術を効率よく行うために、自らの右目を魔眼へと錬成した。

魔術付与は、眼という物体の本質である【看破】の強化。

ゆえに、この眼はすべてを見通す。

魔力を込めれば、千里眼と透視能力の両立が可能。

茂みに隠れ、気配を消している野犬型の魔物が死角にも関わらず見える。

その魔物の構造、筋肉のたわみ、重心のかけ方、心拍の速さから、次に何をするかまで。

見ているのは魔物だけじゃない。

【看破】の概念強化があるから、風の流れすら視覚的に捉えられる。

矢を番え、放つ。

狙い通りに爆矢は飛んでいく。

重力に引かれ、風に流されながら。

魔物が動く、その動きはありとあらゆる些細な予兆から予測できていた。俺はこの眼で見抜いた未来位置へと矢を放ったのだ。

その矢は突き刺さり、内側から爆発。

これは錬金魔術で作った爆矢:紅蓮の能力

生命力が強く、心臓を射抜かれても動く魔物だろうが、これを喰らえば一溜まりもない。

そうして、矢を放った俺の頭上から猿の魔物が石を持ち、襲い掛かってくる。

頭上からでも、とっくに気付いていた。

「魔銀錬成:弐ノ型 魔槍」

魔銀の弓は槍へ形を変え、落下する猿の速度すら威力に変えるカウンターで貫く。

「ふむ、こんなものか」

武器をリングに戻して、腕に巻きつける。

「弓や槍なんて使うのね。あなたは剣士じゃないの?」

「俺は錬金術士だ。剣も使うが使えるものはなんでも使う」

俺がミスリルのリングを愛用しているのは、状況に応じた武器を振るうため。

遠距離では弓に、中距離では槍に、近距離では剣に、さらに近づけられればナイフ。

守りが欲しければ盾に、破壊力が欲しければ槌に。

千の顔を持つ武装。それこそがミスリルであり【魔銀錬成】。

圧倒的な性能を持つ、単一の機能しか持たない武装より、性に合っている。

……もっともそういうとっておきの武器も腰に吊るしてはいるが。

「俺の剣士の腕は所詮、一流程度。だが、有利な間合いと、適切な武器を使えば、ヒバナにだって後れを取らない」

「そうかもね。でも」

ヒバナは俺に背を向けて、三歩先を歩く。

ヒバナの目の前には大樹。

それがめきめきと音を立てて倒れる。

力任せにへし折られたのだ。

その犯人が姿を現す。三メートルは越える巨大熊。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

その爪は異様なまでに肥大し、鋭利で、一本一本が日本刀のようなもの。

丸太のような腕からそんなものを振るわれれば、人間なんて一瞬で途切れ飛ぶ。

その殺意の一撃がヒバナを襲う。

助けには入らない、その必要がないからだ。

爪がヒバナに届く前に、肘から先が切り落とされ、くるくると宙を舞う。

「ギャアアアアアアアアア」

熊の魔物が悲鳴をあげるが、まったく同時にヒバナは距離を詰め、足を切り落とすと、熊の魔物が倒れてくる。そこで首を刎ねた。

あまりにも滑らかで、息を飲む暇すらなかった。

ここまで美しい剣を俺は知らない。

ヒバナは息を乱さず、汗一つかいていない。

「あなたの武器は便利よ。状況に応じての使い分けは効率的で頭がいい。でも、私はこう思うの、磨き上げたたった一つですべてを斬り伏せるほうがカッコいいわ」

「価値観の相違だな。だけど、それはそれで悪くない」

「ありがと」

俺たちは微笑み合う。

お互いの強さを確認できた。

それだけで、ここに来た意味があった。

「キナル公国はおまえみたいな化け物ばかりなのか」

「前にも言ったでしょう。私より強いのは八人だけよ」

……それでも脅威的だな。

「どうしてそんなことを気にするのかしら? 別に、キナル公国と戦いになることなんてないと思うわ」

「今はな。今のカルタロッサ王国には何もない、支配したって赤字でなんの魅力もない国だ。だけど、俺がこの国を豊かにしたら話は変わる。この国が成長する前、弱いうちに潰して、俺が生み出した技術ごと得ようとするかもしれない。国を豊かにするのと同じぐらいに強くすることも重要だ。そのための指標が欲しかった。キナル公国に勝てるぐらいに強くなれば、どこにも負けないだろう」

「さすが、王子様、いろいろと考えているのね」

「まあな。それが必要だ」

……ことを起こす前には自分に相談しろといったアガタ兄さんのことを思い出す。

あの人、あれで優秀だからな。

ちゃんといろいろと話したほうがいいかもしれない。

「それはそうと、この爪持ち帰っていいかしら? 鉄なんかよりずっと切れ味がいいわ」

「こいつに詰めてくれ。瘴気よけの袋だ。それがないと、帰るまえに瘴気にやられてぶっ倒れる」

「私の剣のように、この場で処置をしたほうがいいんじゃない?」

「それなりに魔力を使う。魔の森で魔力切れなんてのは勘弁したい」

「簡単にはいかないものね」

そういいつつ、ヒバナは器用に爪を根元から切り裂き、袋詰めして背負う。

一本一本が日本刀のように鋭利かつ頑丈な爪で、3kgはある。

それを十本背負っているのに、まるでしんどそうに見せない。

魔力持ちでも、これだけ無茶な身体能力を持っているものは少ない。

「じゃあ、行こう。まだ調査は終わってない」

「ええ、次はもっと強い魔物がいいわね」

「知っているか、あの熊は、ブレード・ベアと呼ばれてな、あいつが出る度、死人がでると言われている、超要注意魔物なんだ」

定期的に魔物が魔の森からはい出てくるが、種類によってまったく危険度が違う。

ブレード・ベアは危険度Aランク。

「そう、でも、私のほうが強いわ」

「本当におまえは頼りになる騎士だ」

彼女がいる限り、俺が夢半ばで殺されることはないだろう。

それから、半日歩き通して魔の森を抜けた。

十一種の魔物に遭遇しデータが取れたし、めぼしい素材は入手した。

十一種の中には、今までカルタロッサ王国で確認されていなかったものもいて、非常に有意義なデータが取れた。

そして……。

「潮の香、波の音、これが海なの!」

「ああ、そうだ。これが海だ!」

魔の森を抜けた先には、青い海が広がっていた。

美しく、涙がこみ上げてくる。

海!

つまりは塩だ!

これを持ち帰れば、もう隣国に金をせびられることはなくなる!

塩を買うための金を他に回せるんだ。

あの地図は正しかった。

小麦の栽培を可能にするプランも進行中だが、こちらのほうが即効性がある。

カルタロッサ王国は変わり始める!

「ヒバナ、あとどれぐらい荷物を担げる」

「そうね、魔物の素材色々で、今、50kgぐらい背負っているから、あと50kg。ちゃんと背負えるならって話よ。あなたを守るために両手を塞ぐわけにはいかないわ」

「わかった、なら100kg塩を作って持ち帰る。半分は俺が持つ」

「……塩なんて、この場で作れるの」

「俺は錬金術士だ」

海を確認するだけでも良かったが、せっかくだ。

土産に持って帰ろう。

そのほうが、いろいろと今後動きやすくなる。

そして100kgの塩というのは馬鹿にならない。

一人当たりにおける塩の年間消費量はおおよそ、1.5kg。

つまり、わずか千人の我がカルタロッサ王国は国民すべてで1.5トン塩があればいい。

十五回、持ち帰ればそれだけで国の一年分が補える。

そうできなくても、それだけ量を持ち帰るだけでだいぶ助かる。

そのためなら、少々無茶をしてみせよう。