軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話:転生王子と戦闘王子

魔の森。

こいつはカルタロッサ王国にとって大きな負担になっていた。

森というのは本来恵みを与えてくれるありがたいものだが、足を踏み入れれば凶悪な魔物たちに洗礼を受けるため近づけない。

なら、放置しておけばいいと思いきや、湧き出た魔物が領地で暴れ甚大な被害をもたらす。

おかげで、見張りを常に置いておかないといけないし、魔物が大量発生したときは、訓練された兵士ですら、負傷者や死者がでる。

しかも、魔物の死骸は有効活用できず、魔の森に捨てるしかないというおまけつき。

……しかし、それは今までの話。

錬金魔術であれば、魔物を資源に変えられるのだ。

そのためにここにいる。

「ヒーロ王子、ここから先は危険です」

見張りの兵が俺たちを止める。

「心配しないでくれ。俺は強い。知っているだろう」

「それはそうですが」

「そして、俺の騎士は、その俺より強い。問題は起こらない。この国のために必要なことなんだ」

「……かしこまりました。どうかご無事で」

話がわかるもので良かった。

そして、先へ進もうとしたところで足を止める。

今は会いたくなかった人が魔の森方面から、騎士を引き連れ歩いてくる。

端正だが厳めしい顔立ち、筋骨隆々で背が高く、自然と周囲を見下ろしてしまう男。

泥と血に汚れた鎧に、俺ではまともに振ることすらできない大剣を背負っている。

第一王子、タクム・カルタロッサ。

カルタロッサ王国最強の武人だ。

おそらく、魔の森から溢れた魔物を討伐し、その死体を森に捨ててきたのだろう。

「こんなところで会うとはな」

「俺も驚いたよ、タクム兄さん」

「ここは戦場だ。生半可な覚悟で足を踏み込むな」

「なら、帰る必要はない。俺がここにいるのはそれなりの覚悟を以てのこと」

睨みつけてくるタクム兄さんの視線を真正面から受け止める。

「好きにしろ。俺は助けんぞ。せいぜい死なないことだ。まあ、そっちの女がいれば死にはしないだろう」

「ああ、俺の騎士は優秀だ」

「……ふん。貴様はアガタと手を組んだようだな」

……いくらなんでも耳が良すぎないか。

タクム兄さんがアガタ兄さんを警戒しているのは知っているが、数時間前の情報だぞ。

これはアガタ兄さんの仕業だな、わざと俺と手を組んだことを伝えて牽制しているのだ。

「ヒーロもアガタもわかっていない。余計なことをするな。この国は豊かになってはいけない。しかるべき時がくるまではな」

兄が言っているのは隣国のこと。

好戦的な隣国に、この国が占領されていないのは侵略する価値がないからだ。

もっと詳しく言えば、昔はカルタロッサ王国も豊かな土地を所有しており、人口も数倍あった。

隣国に侵略され、領地をどんどん切り取られていき、逃げて、逃げて最後に残ったのが魔の森に隣接した今の領地。

……もし、残された最後の土地に価値がでれば、ここすら奪いに来るだろう。

「タクム兄さんは、武力を使い、二十年前に奪われた土地を取り戻すつもりだろうけど、戦力が違いすぎるし、取り戻せても守り続けることなんてできない」

タクム兄さんも彼のやり方で、この国を救おうとしている。

そのやり方は武力。

かつて奪われた豊かな土地と民を丸ごと取り戻す。すべて取り戻す必要はない。一番近い領地だけでいい。あそこでは元々、カルタロッサ王国の食料をほとんど賄えていた。

あそこを取り戻せれば食糧生産量は三倍以上、人口も二千人増える。

この国が抱えている問題の多くは解決する。

……問題は、奇跡的に勝てたとしても辺境にある領地一つで、こちらの二倍も人口がある国と正面切っての戦争。もとはこちらのものとはいえ、敵は”報復”するつもりで一切の容赦なく攻めてくる。

まともにやれば勝てるはずがない。

タクム兄さんもそれはわかっている。それでもあの土地がなければ、この国は緩やかに滅びると判断して、勝ち目の薄い戦いをしようとしている。

ただ、完全な自暴自棄ではなく、短期的になら数倍の戦力を持つ相手に勝てるだけのカードをあの人は用意しているが。

「ひそかに力を蓄えているところだ。貴様らが余計なことをして、俺が決起するより先に、奴らに攻められれば、すべてが終わる。忠告だ。邪魔をするなら、兄弟だろうと切り捨てる。この国を救えるのは俺だけだ……ヒーロとアガタの仕事はその後にある。そっちは俺にはできん、おまえたちは賢しいし、根が曲がってるが国に必要な人材だ。だから、斬らせるな」

それだけ言い残すと屈強な部下たちと城へと戻っていく。

心臓がうるさい。

あの人、ほんとうにすごい威圧感だ。

国を豊かにするのは、戦いに勝ってから、それはある意味正しい。

タクム兄さんのしようとしていることは、アガタ兄さんも知っている。だからこそ警戒している。隣国と戦ったところで勝ち目が薄い、勝ったところで勝ち続けることはできない。

それがわかっているだけに、タクム兄さんに任せればこの国が滅びると思っている。だから、嫌っている俺と手を組んででも止めるつもりだ。

アガタ兄さんは、タクム兄さんとは別の救国をしようとしている。隣国より強い国にすりより属国になることで守ってもらうつもりだ、アガタ兄さんからしたらタクム兄さんが邪魔で仕方ない。

二人の兄は、それぞれ自分の強みを生かして、それぞれの方法で国を救おうとしているのに、敵対し合うなんて皮肉だ。

思いは同じなのに。

いや、俺もか。三人の王子、それぞれ違う道を歩いている。

それでは、この国を救うなんてできない。なんとかして、三王子の力を束ねなければ。

「釘を刺されたな。あんまりやりすぎるとタクム兄さんに斬られてしまいそうだ。もっとも、だからと言って手を緩めるつもりはないが」

あの最強の男が本気で殺しにかかってくるところを想像すると、背筋が凍る。

そんな俺とは対象的に、ヒバナが鼻息を荒くしていた。

「すごいわ、一目見たときから強いと思っていたけど、武装して、戦場にでるとこうも違うのね!」

「なにせ、この国最強の男だからな」

「たぶん、あの人、黄金騎士が相手でも武器の性能差がなければ勝てるわよ」

「そうなのか。強いことは知っていたが、そのレベルだったんだ。もし、タクム兄さんが本気で俺を殺しにくれば、ヒバナが戦うことになると思うが、勝てるか?」

「三分は持たせて見せるわ」

初めから、勝つ、負けるじゃなく、どれだけ耐えられるか。

ヒバナから見ても、兄はそこまでの規格外なのか。

「よくわかった。タクム兄さんと、正面切って武力でぶつかる展開はできないな」

「そのときは、あなたを逃がすぐらいはしてあげるわよ」

なんでもないようにヒバナは言う。そうした場合、自分は死ぬというのに。

発明品を運用し広めるのに、アガタ兄さんが必要なように、タクム兄さんの武力もまたこの国に必要。

この国が豊かになったと知られれば、隣国が攻めてくるのは確実だから。

錬金魔術によって、作った強力な武器をタクム兄さんと、彼が育てた屈強な軍に託したい。

それに、二十年前に奪われた土地を取り戻したいのは俺も一緒。豊かな国土と民はほしいが、それ以上に置き去りにしてしまった民たちを救いたい。豊かな土地であっても、もとカルタロッサ王国の民ということで、奴隷にように使われ、搾取され、生活は苦しいと聞いている。

守るにも取り戻すにも、どうしたって武力がいる。

タクム兄さん個人の力も、彼が鍛え上げた軍もほしい。

まったく、うちの兄たちは、どうしてあそこまで優秀で、なのに身勝手で扱いづらいんだろう。

タクム兄さんと別れてから、魔の森に入った。

湿度が高いうえ、広葉樹が生い茂り、ほとんど日の光が入って来ない。

当然、手入れなどされないので真っ直ぐに進むだけでも苦労する。

「これからは、有効活用できそうな魔物探しなのね」

「そうだな」

「それと、そろそろ第二の目的も教えてもらえると助かるのだけど」

たしかに引っ張り過ぎた。そろそろ話そう。

「ああ、第二目標は塩だ」

魔の森と並んで、カルタロッサ王国の悩みの種。

それが塩だ。

カルタロッサ王国の領内に海はないし、岩塩も採掘できない。

もともと岩塩がとれる土地はあったが、奪われてしまっている。

おかげで隣国から買うしかないのだが、隣国は足元を見てカルタロッサ王国との国境に関所を設け、塩に対して莫大な関税がかけられている。

高いからと言って、塩がなければ人は生きられない。

冬越しのために保存食を作るのにも塩が必要。

つまるところ、カルタロッサ王国は塩を人質にして、いいようにむしられている。

隣国にとっては小遣い稼ぎであると同時に、締め付けることで反抗の芽を潰しているのだ。

「塩、すごいわ! でも、そんなものが魔の森で手に入るの? 岩塩の採掘地点でもあるのかしら」

「いや、魔の森で手に入るわけじゃない。ただね、この森の先に海がある。手に入れた地図にそう書いてあった」

大錬金術士の遺産には、世界地図があった。

この時代、あれだけ大規模かつ正確な地図なんてものはほとんど存在しない。

それを信じるなら、魔の森を抜ければ海にでられる。

海があれば塩だけじゃなく、多くの恩恵を受けられる。

漁ができるし、いずれは港を作り、世界各国と貿易だってしたい。

陸からだと、どこへ行くにも隣国を通らねばならず、関税で締め付けられるが、海を通れば自由だ。

錬金魔術と【回答者】の力で作る船なら、どんな海も超えられる。

近い未来には、この国を世界有数の港街にできるかもしれない。

しかし、それは先の話。まずは塩。

この塩を成果とし、交渉によって二人の兄を取り込む。

ここから先は魔物の領域。気を引き締めていこう。