軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話:転生王子は錬金術を学ぶ

この世界には魔力を持って生まれる人間がいる。

血筋によっては、その確率が高まるが、例外的に一般家庭から生まれる場合もある。

魔力があれば、術式を知る魔術を使えるほか、ごく稀に魔法という固有の力を持つことがある。

そして、俺はその魔法を手に入れた。

【回答者】。

それこそが俺の魔法の名前。

発現と同時に、その力の正体が把握できた。

・回答者

術者が目にした物質に関しての望む情報を得ることが可能。

使用した魔力量に応じて、情報量が増加

使用制限:三十日に一度。

便利な能力だ。

さっそく試してみよう。

「【回答者】、肥料の作り方を教えてほしい。可能な限り効率がいいもの、なおかつ俺が作成可能なものがいい」

魔力依存で情報量が変わるらしいので、ほとんど全魔力をぶち込む。

三十日に一度しか使えないのだ。ケチりはしない。

やせた土地でも、十分な収穫量を得るために肥料がほしい。

それに肥料自体は見たことがあるはず。前世でも視界に畑なんて何度も入っている。

肥料だって撒いているに決まっている。

『回答します。主成分はN:P:K:Mg、必要な材料は……』

懇切丁寧に脳裏に材料と製法が浮ぶ。

驚いたことに、材料の入手法まで。

売っている店や、採取できる場所などが把握できる。

そして……。

『……魔力消費量極大を確認、特例としてAランク情報の開示。通常の生成法では時間がかかります。短時間で終わらせたい場合は、錬金魔術の習得を推奨。錬金魔術を習得するには東南、約二十四キロ先、座標を脳内転写実行。そちらに伝説の錬金術師クロネル・カイザルの遺産があります。そちらの回収を推奨。錬金魔術を使用すれば、作業時間を二百分の一まで圧縮可能』

錬金魔術?

数百年前にすたれたはずの魔術。いや、廃れたわけじゃなく【教会】によって悪魔の技として禁止され、破棄された魔術体系。

今でも教会から世界各国に関して錬金魔術に関する資料の破棄と使用の禁止が通達されている。

その遺産が、この国に隠されているというのか。

喉がからからに乾く。

錬金魔術は禁忌の魔術。

だけど、それでも、それがあればすべてが変えられる。

この国を、この世界を。

【回答者】で望むものの製法を知る。それはこちらの世界でもいいし、前世で見たものがでもいい。

それを錬金魔術によって実現する。

救うだけじゃなく、豊かな国へ作り変えることすらできる。

「俺は禁忌を恐れない」

外套を取り出す。

着替えた。一般市民に紛れ込むための服装へと。

そして城を抜け出す。

錬金魔術を得るために。

俺は禁忌の力を得る。そう決めた。

夜道を進む。

【回答者】の答えた場所に向かって。

そこは崖だった。

かなり高い崖で、そこから飛び降りれば無事にはすまない。

そんながけをロッククライミングの要領で下っていく。

すると変色した壁があり、叩くと音が軽い。

そこを蹴破る。

隠された横穴が確認できた。

先へ進む。

分厚い壁がある。材質は鉄ではない、詳細はわからないが魔法金属の類。

攻城兵器でも砕けないもの。

どうしたものかと周囲を探ると、パズルがあった。ルービックキューブをより複雑にしたようなもの。

これを解けば扉が開けるような気がするが罠の可能性もある。

「覚悟を決めるか」

ルービックキューブを解いていく。

昔から、いや前世からこういうのは得意だ。

それにこの体は非常に性能がいい。頭の回転が速いし、一度見たものは忘れない。

加えて、直観力、構造把握能力、立体視、そう言ったものが備わっている。

数分で、ルービックキューブを解き終わる。

すると、目の前の扉が開いた。

中に入ると同時に、明かりがともり、周囲が照らされる。

十畳ほどの部屋に、ところ狭しと資料が積み上げられ、何に使うかわからない不可思議な道具たちが並んでいる。

そして、部屋の中央には椅子があり、鉄でできた人形があった。

……あれは、錬金術の中でも禁忌の中の禁忌。

仮初の命を鋼に宿す、神への冒涜。

ゴーレム。

そのゴーレムの目が光り、関節から異音を立てながら、立ち上がる。

「ようやく、我が錬金術を受け継ぐものが現れたか。百六十年と三十二日。ずいぶんと待たされたものだ」

「……あなたが伝説の錬金術師クロネル・カイザル」

「いかにも。いや、違うな。我はクロネルの記憶を写したゴーレムに過ぎぬ。ここで、後継者を待っていた。あのパズルを解けるのは、その資格があるものだけだ」

錬金術とはそこまでできるのか。

教会が神への冒涜といった意味がわかる。

「若者よ、時間がない。仮初の命。我の命はこの身に宿した魔力が尽きるまで。あと五日……というところか」

ゴーレムは製作者の魔力を動力とすると聞いたことがある。

おそらく、このゴーレムは扉が開かれると同時に起動する仕組みであり、今この瞬間も魔力を消費し続けている。

そして、一度起動すれば五日で役割を終えてただの鉄くずになってしまうのだ。

そう考えると、これからは一分、一秒が惜しい。

「ご教授願います」

最低限の保存食と水を念のために持ち込んで良かった。

五日なら死にはしまい。

魔力で回復力をあげれば、五日ならぎりぎり寝ないで済む。

……問題は五日も俺が城を不在にすることだ。

一応、一日で帰らないことは想定していたので、書置きはしているが、五日はまずいな、大騒ぎになる。

だけど、それよりもこちらを優先するべきだ。

一度、帰って事情を伝えるなんて時間はない。

「話が早くて助かる。我が錬金魔術の深淵を五日で叩き込もう。……とは言っても五日で教えられるのは入り口だけだがね。五日あとからは、この部屋の資料で学びたまえ」

基礎と思想を覚えて、あとは自習か。

実に効率的だ。

「お願いします。師匠」

「……師匠か、懐かしい響きだ。では、始めよう。君の名前はなんという」

「ヒーロ・カルタロッサと申します」

「カルタロッサ、ああ、そうか、そうなのか、よりにもよって、あの血脈か。その眼はたしかに、あの子の……いかん、これは君には関係ないことだ。授業を始めよう」

そうして、授業が始まる。

どうやら、カルタロッサを知っているらしい。

この国に遺産を隠したのだから、知っていてもなんの不思議もないのだが、もっと個人的な何かを感じた。

気になるが、おそらくは聞いても教えてはくれないだろう。

五日が終わった。

日に日に、クロネルの魂を宿したゴーレムの動きは鈍くなり、ついには動かなくなり、かろうじて声を出している状態だ。

「君に錬金魔術の基礎は叩き込んだ。君で良かった。君でなければ、基礎だけとはいえ錬金魔術を叩き込むことはできなかった」

「似たものを知っていますから。錬金魔術は俺にとって、最高に相性がいい」

魔術というのは、術式の集合体。

各国、その術式の構築に膨大な予算と人員と時間をかけて独自の発展をさせている。

そのせいで術式の表現の仕方や、規則性、それらが国ごとにまったく異なり、開発した成果を他国に奪われないようにそれぞれが秘匿している。

発動方法も様々だ。

空中に陣を描くもの、印を作るもの、詠唱するもの、ありとあらゆる形で式を表現する。

そして錬金魔術は少々特殊だ。

特殊な青い宝石に、次々に波長を変えた魔力を流し込む。

波長を変えた魔力はコード。青い宝石はコンパイラ。

コードの規則性などもプログラミングに近い。

前世ではプログラマーだったこともあり、あっという間に理解できたし、応用も考えつく。

まさか、関数やポインタ、配列、引数、そういった概念を魔術に求められると思っていなかった。

……さすがにこれらの概念を一から説明されても、数日では理解が追いつかなかっただろう。

「錬金魔術に似たようなものなどあるわけがなかろう。ありとあらゆる魔術の中で、もっとも合理的かつ無駄がない。美しい魔術なのだから。しかし、安心した。これでようやく逝ける。確かに我は受け継いだ。我が託され、我が育てた叡智を最高の天才へ。ありがとう、ヒーロ。願わくば、この叡智が君の手によってさらに育ち、次の世代に繋がることを」

礼を言う間もなく、ゴーレムの目から光は失せた。

身に宿した魔力を使い切った。

もう、二度と動くことはないただの人形だ。

「ありがとうございました。師匠」

感謝と尊敬を込めて、礼をする。

基礎は覚えた。

概念と思想を把握した。

そして、ここには伝説の錬金術師クロネル・カイザルが残した資料の山。

あとは、己の力で学べる。

俺は力を得た。

禁忌とされて、この世界から消え去った錬金術。

この力があれば、すべては変わる。

いや、変えて見せる。

「ここの資料と、師匠をどうにかしないとな。師匠、いつか俺が起こしますから」

本来、ゴーレムは作った本人の魔力でないと動かない。

だけど、そんなルール、俺が捻じ曲げてやる。

そのためにも錬金魔術の勉強だ。

そして、最初にやるべきことは……。

「五日、城を留守にした言い訳を考えないとな」

まずは俺は城に戻ることにした。

錬金魔術を勉強する環境と時間を作らねば。

しばらくは、ここに通うことになるだろう。