軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ:転生王子様は目覚める

生まれる場所を間違えた。

十二歳になった今、時折そう思ってしまう。

俺は転生した。ばっちり前世の記憶が残っている。

生まれたばかりのころは戸惑いもしたが慣れた。

そして、王子様に生まれたことに、一瞬喜びもしたが……。

「このままじゃ、俺が二十になるころにはこの国は消える」

自室でそんな独り言を漏らしてしまう。

カルタロッサ王国。それが俺が生まれ落ちた国であり、たった千人しかいない小国。

隣国なんて、街一つで万を超える人口があることを考えれば、どれだけ小さな国かわかるだろう。

そして、俺はその国の第三王子。

王子ではあるが、予備の予備。

とはいえ、兄二人は優秀ではあるが危なっかしい、俺の番が回ってくる可能性がある。……本来喜ぶべきことなんだが、ここまで未来がない国だと素直に喜べない。

……そう、この国は小さいだけでなく、超貧乏国なのだ。

土地は痩せていて作物はろくに育たない、これと言った資源もない、そして魔物が湧き出る魔の森に隣接しており定期的に魔物の群れに襲われる。

おまけに隣国は好戦的な大国。

なんで、この国が侵略されていないのか不思議なぐらいだ。

いや、理由はわかっている。

「こんな国、占領する価値もない」

そう、征服しても奪えるものはないうえ、占領したら最後、隣接している魔の森からの襲撃を対処しないといけなくなる。

要するに、野心的で征服大好きな国からすら、負債にしか見えないから見逃されている。

そんな絶望的な国。

「ヒーロ王子、訓練の時間です」

「ああ、行くよ」

部屋に立てかけてある剣をとる。

王子の部屋にすら、贅沢品はさほどない。

数少ない例外がこれだ。装飾は最低限、武骨だが質のいい剣。

今は寝たきりの父が、そうなる少し前にくれたもの。

それを腰にぶら下げる。

切れ味重視の片刃剣であり、重量はさほどではないとはいえ、十二歳の子供が振るうのに適しているとは言えない剣、だけどしっくりくる。

そうなるぐらいに使い込んだ。

さあ、行こう。

今日も稽古だ。

昔は何かと理由をつけてさぼっていた。でも、今は違う。

あの日、俺は誓った。

真綿で首を絞められるように、滅びに向かうこの国を救い、大事なものを取り戻すと。

中庭にある訓練場で、剣の稽古を行う。

王子である俺に剣を教えるのは、だいだい剣の指南役を務める、クルルフォード家の前当主。

ヒース・クルルフォード。

今年で、六十。髪と髭は白くなっても、その生き方のように背筋は未だ真っ直ぐ。

息子に家督を譲ってからは、後進の育成に専念している。

俺も弟子のひとり、

ヒースと剣を打ち合っていた。

ヒースは老いて筋力が落ち、反射神経は鈍り、体力もろくにない。

それでもなお、不利と不足を老練な技と経験、勘で補っている。

この国で彼に勝てるものは両手の指で足りるほどしかいない。

剣を打ち合うたびに、ヒースの動きを凝視しながら学ぶ。

力が劣るものが、それを埋める術。それは、なによりの教材になりえる。

ヒースと打ち合うたび、強くなっていく実感がある。

ヒースが隙を作った。それは誘いだ。

それに乗れば、四手後には詰まされる。

だが、その手は三か月前に一度見せてもらっている。

ゆえに、対処法は考案済み。隙を突く、しかし、ヒースが作った隙ではない。

一見隙にすら見えないわずかな綻び、見えている隙を突くように見せかけ、ぎりぎりでそちらに狙いを変更。

「ぐぬっ」

ヒースが表情をわずかに歪める。

初めてヒースの想定の上をいった。

だが、気を緩めはしない。

この老剣士は、どんな些細な緩みも見逃さない。

最後の一瞬まで最善手を打ち続ける。

俺は勝ちたい、次にヒースを戦略で上回る機会なんていつくるかわからない。

そして、五手目。

ヒースの手から剣が弾かれ宙に舞う。

「ようやく、俺の勝ちだヒース」

剣を喉元で寸止めにした。

ヒースは、皺くちゃの顔で笑う。

「成長なされたな、ヒーロ王子。よもや、たった二年で私から一本取るとは。王子には才能があります」

「ありがとう。だけど、もしヒースに往年の力があれば、こうはいかなかった」

「私はたしかに老いました。ですが、ヒーロ王子は、これから大人になっていく。条件は同じです」

「そうかもな。だが、今日のおまえの敗北はヒースのミスだ。一度見せた手を使うのは愚策だ」

「違うのです王子。もはや、私の引き出しはすべてあけきって、効かぬとわかっていてもあの手を使わざるを得なかった。ゆえに、この敗北は必然。恐ろしい吸収力です」

「その言葉信じていいのだな」

「ええ、クルルフォードの名にかけて」

褒められて悪い気分はしない。

現時点の強さはともかく、技という点ではヒースに勝るものはこの国にいない。

これは誇ってもいいことだ。

剣は好きだ。

この貧乏国でできる数少ない娯楽であり、そして、極めなければ命を落とす類のもの。

カルタロッサ王国の王子は強くなければならないのだ。

「では、稽古は終わりだ。ヒース、いくぞ」

「ヒーロ王子、毎度の忠言ですがわざわざ王子があのようなこと」

「筋力を鍛えるのであれば、あれでいいだろう。無駄に重りを上げ下げするより、よほど効率的だ」

「……ふむ、かしこまりました。お供しましょう」

ヒースと二人城を出る。

目的地は城の南の開拓地だ。

カルタロッサの領地は土地が痩せていて、育てられる作物は限られているし、面積当たりの収穫量も低い。

効率が悪い分、多くの畑が必要なのだ。

南方面は手付かずの森であり、少しずつ切り開いて畑にしているところだ。

そこには、領民たちが汗をかきながら開拓をしていた。

木を切り倒し、根を掘り起こし、ゴミや石を取り除き、大地を耕し畑にする。

……少しでもマシな明日を信じて。

俺の姿を見て、領民たちが手を振ってくる。

「おっ、ヒーロ王子、今日も来てくださったんですか!」

「今日も一発お願いしますよ」

「ヒーロ王子は馬並ですからね」

「やっかいな木があって困ってたっすよ」

親しみを込めた声音。

普通の国では、王子とそんなふうに接するものはいない。

だけど、俺はそれが嫌いじゃない。

「ああ、任せてくれ、斬るのはこれでいいか」

「そいつは、十人がかりでも、どうにもならなくて困ってたんっすよ。斧すら通らねえ」

「斬り甲斐がある」

俺は笑い、その大樹の元へ向かう。

俺が両手を広げたよりも幅は広く、高さは見上げるほど。

その大樹からは強い命の鼓動を感じる。

何十年、いや何百年もここにいて、この地を見守ってきたのだろう。

斬るには忍びない。

だが、俺たちが糧を得るため、斬らせてもらう。

深く、深く、深呼吸。

魔力を高める。

魔力、それは選ばれた血筋のものに発現する力。

魔法と言う特別な力を使えるほか、それを体に宿せば身体能力を強化できる。

そして、極めれば応用も効く。

剣を抜き、魔力を刀身にまとわせる。

そして、一閃。

魔力は刃となり、刀身以上の直径を誇る大樹を切断。

切断面からずれて、大樹が崩れる。

「おおう、ヒーロ王子がやったぜ!」

「これで、初夏までに畑にできんな。芋なら冬前には収穫ができんぞ!」

「ありがとな、王子」

領民たちが称賛してくれる。

「みんな、邪魔ものは片付いた、このあたり一帯の整地、今日中にやるぞ」

「おうよ!」

「あっ、王子、うちのおっかあが、芋蒸したんだ、食ってくれ」

「こっちにもくれよ、腹減っちまってな」

もらった芋を頬張る。

……芋は去年から、この国で出まわり始めたもの、他国に嫁いだ姉が、この国に種芋を送ってくれた。

痩せた土地でも育つ芋がやってきたことによって、この国はだいぶ救われた。

だけど、その代償は大きい。

姉にとっても、この国にとっても、俺にとっても。

暗い考えに囚われそうになり首を振る。

今は、開拓だ。

明日の糧のために。

去年は冬に餓死者を出した。今年はそうはさせない。

まだまだ、畑がいるんだ。

畑仕事が終わり、城に戻る。

城に戻ると体を清め、着替える。

そして、お勉強の時間だ。

王族として、学ばないといけないことは多い。それは、この貧乏国であってもだ。

俺の一日は、前半が剣の鍛錬、午後は国を治めるための勉強。

本来、俺に開拓を手伝う時間なんてありはしない。

あれは剣の鍛錬の中にある筋トレだと言い切ってやっているし、実際に効果がある。

そして、その勉強も終了。

そのまま夕食のために、リビングに向かう。

そこで提供されたのは、芋とスープと干し肉、王族の食事とは思えないほど質素なもの。

不満はあるが慣れた。

それに、まだ毎日食事にありつけるだけ今年はマシだ。

そんな寂しい食卓に来客が現れる。

「姉さん、どうして」

それは嫁いだはずの姉だった。

姉の顔を見て泣きそうになる。

姉はこの国にいたころでは考えられない華やかな衣装をまとっていた。

「ちょっと、忘れ物をとりにね。あの人が遠征中だから、抜け出せたの」

二十代前半で、泣きボクロが特徴的な黒髪の美人。

半分血が繋がった自慢の姉であり、憧れの人。

カルタロッサ王国の第一王女。そして、今はこの城にはいない人。

「それより、聞いたわよ。ヒーロ、最近、大活躍しているそうじゃない。あなたのおかげで、もう来年やるはずだったところまで開拓が終わってるって」

「……姉さんが送ってくれた芋を植える場所がなかったから、がんばったんだ。姉さんのがんばりを無駄にしないために」

「ありがと。本当に昔から、あなたはいい子ね」

ぎゅっと抱き寄せられて、胸に顔が埋まる。

いい匂いがする。

「やめてくれ、俺はもう子供じゃない」

「子供よ……だから、あんまり無茶はしないでね」

「しないよ。それに俺ができることなんてたかが知れている」

そう、たかが知れている。

魔力があるから、開拓では大きな力になれる。

剣の指南役に鍛えられたから強い。

でも、だからなんだというのだ?

少々畑を広げたところで、国全体でみればたいした成果とは言えない。

剣を振るって、敵を何人か切り殺したところで戦況にどれほどの影響を与えられる。

俺は、この国を救おうとしている。

幸い、前世の記憶がある。

その知識と技術を以て、何かできるかと思った。だけど、普通のサラリーマンでしかなかった俺の知識なんて、あまりにもささやかで、なにより……知識を形にする術がなく、なんども壁にぶつかりうまくいかない。

それでも、何かをしたくて、できることをがむしゃらにしているだけ。

「また、そうやって、子供のくせに難しいこと考えて、お姉ちゃんがなんとかするから」

「……っ」

この人は、人身御供だ。

美人だったから、とあるパーティで豊かな国の王子に見初められ、嫁いだ。

嫁ぐ際に、この国への援助するよう条件を出した。

食卓に並んでいる芋も、それだ。

この国のやせた土地で育つ芋が大量にもたらせたおかげで、去年は餓死者は少なくて済んだ。

そして、そのときの悔しさは覚えている。

この人は俺の初恋で、でも、俺が救えなかったから、出て行った。

もし、俺にこの国を救う力があれば、姉は嫁ぐ必要なんてなかった。

……姉が嫁いだ王子は、好色で、評判は最悪。

姉は元気に振る舞っているが、この貧乏国でろくなものを食べてないときより痩せた。

服で隠しているところにはあざがある。

「姉さん、もしさ、俺がこの国を豊かにしたら、戻ってきてくれる」

姉が戻れば、援助が打ち切られる。

姉はそれを許さない。だから、それが必要ない環境を作り上げる。

それだけじゃ、まだ足りない。あいつが姉を取り戻すとしても、それを跳ねのけるだけの力を手に入れる。

そうすることをあの日誓った。

「あははは、そうなったら素敵ね。でもそれは無理よ。そろそろ時間切れ。会えて良かった。……愛しているわ。私の可愛いヒーロ」

おでこにキスをして、姉が去っていく。

俺にはかける言葉がでない。

何もできなかったから。

窓から外を見ると、姉は馬車に乗って帰るところだ。

きっと今日は、あの男からの援助物資を届けに来たのだろう。……姉が命を削って得た。

力がほしい。

今すぐに。

たぶん、それはこのまま努力しても手に入らない。

剣でも、勉強でもない特別な何かでないとダメだ。

その祈りが通じたのか、内側から何かが生まれ落ちた。

……それは魔法。

魔法と魔術は違う。魔術とは、術式を知り、魔力があればだれでも使えるようになるもの。でも、魔法は完全な固有能力。

ごく少数の魔力を持つもの、その中のさらにごく一部だけが発現しうる能力。

胸が高なる。

この魔法が今を変えてくれるそんな気がする。

教えてくれ、俺の魔法はどんなものだ。

「【回答者】。それが、俺の魔法」

脳裏に浮かんだ、俺の魔法の名を口にする。

この魔法は、俺にどんな答えをくれるのだろうか。

そんな期待をしながら、俺は【回答者】を発動させた。