軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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慌ただしく準備をすること二日。

僻地に向かうため早朝から出立した三台の馬車が列をなして進んでいた。

運が良いのか悪いのか、当日集まったのは顔見知りばかりであった。

ジグと魔女二人、ワダツミからはベイツとグロウ、アランたち四人組、イサナ、ノートンとその仲間四人の計十五人。戦闘要員以外は御者四人とギルドからアオイが付き添っている。

ストリゴの時よりも大分数が少ないが、街の機能がほぼ麻痺していたあの時とは状況が違う。

今回は数ではなく質を揃えたということなのだろう。シアーシャを除けばアランたち四等級が一番低いということからもそれが察せられる。

基本はパーティー単位で乗っているため、この馬車にはジグたち三人以外にイサナとワダツミ二名の少人数組が居た。冒険者の装備も考慮して馬車は比較的大きめなのだが、男性陣が軒並み大男のため些か狭く感じる。

「おうジグ! 一緒に仕事するのは初めてだな?」

「期待、しているぞ」

ワダツミの古株冒険者、ベイツとグロウ。

この街に来てすぐ知り合った冒険者が彼らだったが、確かに二人が戦っているところを見たことがない。三等級という肩書からも彼らが実力者であるのは間違いないが、立ち居振る舞いを見るだけでもそれは分かる。

「こちらも先輩冒険者様の胸を借りさせてもらおう」

「よろしくお願いしますね」

「あいた……ま、適当にヨロシク」

我関せずと本をめくっていたシャナイアの肘を小突き、軽い挨拶を済ませておく。

その様子を見ていたベイツたちが怪訝そうな顔をした。

「えーと、そちらさんは?」

「増えた、な?」

「色々あってな……冒険者ではないが、腕は保証する」

シャナイアのことはとても複雑で、一口には説明できない。

冒険者でない彼女はハリアンに置いていくつもりだったのだが、どこで話を聞きつけたのか当日しっかり準備を整えて現れたのだ。追い返してもよかったのだが、アオイが”戦力になるのならば歓迎”と許諾してしまえば文句も言えない。

「……お前さんも大変そうだな」

「浮気は、よくない」

「誰が浮気だ。まあ、精々こき使ってやってくれ」

流石に冒険者として長く世慣れている二人は話が早い。こちらの事情を察したのか深くは聞かずに軽口で流してくれた。

「……」

二人の間に挟まれたイサナだけは不満そうに鼻を鳴らすと、ジグの方を一瞥した。

先日ギルドで睨み合ったイサナはシャナイアの存在についてあまり納得がいっていない様子だ。尋常でない力量を窺わせる魔術師が突然現れたのだから無理もない。

ベイツとグロウが呆れ顔を見合わせ、同時に肩を竦める。

「いつまでもヘソ曲げてないでよ、説明してくれや。ラクシャナ出身のゲイホーンさん?」

「……別にヘソ曲げてないわ。むさ苦しい野郎二人に囲まれてうんざりしてるだけ」

ちなみに馬車内の配置は三人二列となっている。

対面にはベイツグロウに挟まれたイサナ、こちら側はジグを中心に魔女二人。

「しょうがないだろ、野郎だけで固まったら馬車の重心が崩れちまう」

「武器のことも考えると、仕方ない」

男三人は体も大きければ得物も大きい。

言わずと知れたジグの双刃剣、ベイツの戦斧、グロウの大盾と大槍。

女性陣の無手二人、細身の刀一本とは比べるのも烏滸がましいほどの重量差となっている。

魔獣の素材と技術向上により武器性能が上がった結果、昨今の流行りとなる取り回しと軽量化を重視した装備とは真逆を行く古い男たちであった。

イサナも多少納得がいかないだけで本心から文句を言っているわけではない。

気を取り直した彼女は一つ咳ばらいをして景色へ目をやろうとし……どっちを向いても厳つい中年の顔しか目に入らないことに辟易すると、自分の膝に手を置いてこれから向かう場所について話し始めた。

「ラクシャナは複数の部族からなる多民族同盟みたいなものよ。同盟って言っても実際はお互いの領地を奪いたくてしょうがないけど、迂闊に動いて漁夫の利をされないよう牽制し合ってるような関係ね」

「物騒だなあ……魔獣がいるってのに人間同士で争っている場合かね?」

戦争を知らないベイツが呑気なことを口にする。

この辺りにジグがいた大陸との違いを意識させられる。あちらに魔獣は居なかったが飢餓や疫病など対処しなければならない問題はいくらでもあった。

「……」

しかし人間とはどんな状況でも争い合い、奪い合う生き物。たとえ自分たちが存亡の危機に瀕していようと、他者から奪うことを止められない性を持っている。

そのことを経験しているジグは無言で目を細め、ここが違う場所であることを改めて認識した。

「あそこは広い山岳地帯だから、危険な魔獣の住処が限定されているの。特定の場所を避けていればそうそう滅多なことは起きない……はずなんだけど」

商人が運んでいたという書状が脳裏を過ったイサナは言葉を濁す。

魔獣が増えて対処が難しくなったという救援要請は、彼女の言う”滅多なこと”が起きたために出されたのだ。

「ふむ……」

ジグは顔を動かさずに視線だけで魔女二人を見やる。

以前ストリゴで起きた魔獣襲来は彼女たちが激突したことによる異常な魔力上昇が起因となっていた。今回がそうだとは言い切れないが、もし原因が同じだとすれば別の魔女、ないしはそれに類する魔獣が存在することになる。

もちろん他の要因である可能性の方が高いので決めつけるのは早計だ。

それにもし魔女がその力を本気で振るっていたのならば、求められているのは救援ではなく救助になっているはず。集落がいくつか消滅し山の形くらい変わっていてもおかしくはない。

「随分昔の話だけど、私が居た頃にはそういう話はなかったわね」

ベイツは眉を顰めながら禿頭をガシガシと掻いた。狭い馬車内で肘を動かすので横にいるイサナが迷惑そうにしている。

「ストリゴの件と言い、どうにも最近おかしなことばかり起きやがる」

「きな臭い、な」

自身の連れたちが原因の一端であるジグは無言を貫き、魔女二人は素知らぬ顔をしている。

「にしても、民族間の争いってそんなに凄いのか?」

「確か、代表者同士が腕比べをする……だったか」

しかし起きてしまった原因をいつまで考えていても仕方がない。

二人が事前にギルドから聞いていた内容を思い出すと、イサナはにたりと笑って指先を顎に添える。

「そうね、部族一の腕利き同士が剣を競う。負けた側は勝った側の要求を吞まなければいけない……けどね、戦いに絶対はない。今日の勝者が次も勝てるとは限らないの。だからまた争い合う事態になった時のことを考えて、邪魔者は排除しておくに限る……そうは思わない?」

「……なるほど、随分と行儀のいい争いのようだ」

イサナの言わんとするところを察したジグはある意味、安心したように呟いた。

直接的な殺し合いでないにしろ、 事故(・・) は付き物ということだ。代理決闘の際に運悪く致命傷を負わせてしまうことくらいは日常茶飯事、あるいは暗殺くらい平気で行われているのかもしれない。

それでも腕比べに影響のない一般人に累が及ばないだけ、ジグからすれば穏便な代理戦争に感じる。しかしその感覚はベイツたちにないらしく、げんなりした顔で馬車の天井を仰いでいた。

「無駄に潰し合わないとは効率的ですね」

「意味のある殺しなだけ理性的だねぇ」

かたや戦乱渦巻く大陸からの移住者と、無法地帯に潜んでいた浮浪者。

シアーシャとシャナイアはラクシャナの凄惨な紛争事情を聞いてもどこ吹く風といった様子だ。

三者三様の反応をする彼らを他所に、イサナは膝に置いた手を静かに握って続ける。

「私……私たちは……ラクシャナの”ジィン”の一族は二十年前……故郷を賭けた戦いで負けて、その地を追い出された」