軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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この首に賞金が掛けられた。

恐らくそう安くはない金額のはずだ。しかし周囲から向けられる視線には普段との差を感じることはなく、あまり実感はわかない。正規の依頼ではない賞金首という扱いだからか、もともと各所に恨みを買っているような生き方をしているせいかは、意見が分かれるところだ。

「……ふむ」

何とはなしに太い首を撫でながら周囲へ視線をやる。

ジグと目の合った街の住人はそそくさと顔を背け、関わらないように身を小さくしている。偶然目の合った子供が半泣きになり、母親らしき女性の後ろに隠れた。

岩を削ったようなジグの顔つきと、誰が見ても分かるほどに暴力的な体格。それらに加えて巨大な武器を背負った姿は、一般人からすれば相当に近づき難いもの。

まるで川の中にある岩のように、かき分けずとも人混みは左右に分かれていく。

いつも通りの、変わらない日常であった。

「ジグさん? どうかしましたか?」

拍子抜けだという顔をしていたジグの気配を感じ取ったのか、前を行くシアーシャが振り向いた。

ツヤのある黒髪が頭の動きに合わせてカーテンのように広がる。彼女の美しい黒髪は毛先に至るまで乱れた所は一つとしてない。

こんな仕事をしている上に特別なケアなど何一つしていないのに、どうしてこうも整っているのだろうか。

彼女にせがまれて櫛で梳いてやる度に覚える疑問だが、本人に聞いても明確な返答は返ってこなかった。隠しているといった様子ではなく、昔からずっとこうだから考えたこともないのだろう。

思えばスラムに住んでいたシャナイアも服装こそ薄汚れていたものの、紫紺の髪だけは美しさを保ったままだった。きっと魔女という種の性質なのだろう。

ジグは手刀で自分の首をトントンと叩きながら、シアーシャに賞金のことを話した。

「金を払ってでも俺に死んで欲しい奴がいるらしい。酔狂なことにな」

この街での依頼人は表にも裏にもいる。受けた依頼のどれかが恨みを買っていたとして、自分一人を殺したところで何も変わらないと思うのだが。まあ、恨みとは理屈だけではない。

シアーシャは目を丸くした後、ころころと笑いながら口元を手で押さえる。

「あらまぁ……ジグさん人気者ですね?」

「むさくるしい男どもに好かれてもな……」

肩を竦めたジグが溜息をついた。

しかしふと思い返してみると、この大陸に来る切っ掛けとなったシアーシャを始め、見目の良い女性とは大抵まず敵対関係から始まったような気がする。むしろ男の方が比較的話の分かる者が多かった。

まあ、これは一部の偏った結果だ。イサナやエルシアたちのような頭のおかしい女性陣と比べられては、一般の女性はいい迷惑だ。

過去を思い出して遠い目をしていると、シアーシャが歩く速度を緩めて近づいて来た。

ジグを見上げて手を伸ばし、細い指先で首に触れた。

「ジグさんの太い首を落とすのは……きっと、とても大変ですね」

指先が滑り、首の筋を撫で上げる。ひんやりとした感触と共に筋を伝って、喉仏の山頂を優しくつついて離れていった。

「おいくらで?」

くすぐったいような、ゾワゾワするような感覚に触られた場所を掻いていると、蒼い瞳が見上げていた。

「……おそらく、四百」

ジグは少し考えた後、推測を交えた額を告げる。違法な依頼で四十だと安すぎるし、四千だと逆に高すぎるため、そう遠くはないはずだ。

「四百……? ぷっ」

賞金の額を聞いたシアーシャは小さく噴き出すと、機嫌良さげに足を弾ませる。

歩調に合わせて黒髪が絹のように左右に揺れている。恨みの篭った金とは言え、自分の護衛に対する評価額が高いのが嬉しいのかもしれない。

「それはまた……随分と割に合わない仕事ですね。四百は魅力的ですけど、私なら絶対に受けませんよ?」

ジグと戦った時のことを思い出したのか、シアーシャは苦笑しながら笑っている。

地を裂き、空を穿つ。まさに人外の力を持つ魔女であるシアーシャが、この程度の額では足りないと言った。随分と高く評価してくれているらしい。

「そうか?」

「そうですよ」

「そうか」

他愛のない話をしながらギルドへ向かう。傍から見れば物騒な話も、二人にとってみれば取り立てて珍しいことではなかった。

機嫌良さげに歩くシアーシャを見て、”さて沈黙の魔女様の討伐報酬はいくらで受けたんだったか”と思いだそうとしたが、どうしたことか全く記憶にない。フリーランス(当時はもう槍兵ではなかったが)なので自分で依頼内容を聞き、その報酬に納得して受けたのは間違いない。しかしどのくらいの報酬で引き受けたのか全く思い出せなかった。

細かい金額まではともかく、受けてきた依頼の報酬額を大体覚えているジグにしては珍しいことだ。

まあ、その後におきたことの衝撃が大きすぎて忘れているのも無理はない。結局元の依頼は失敗扱いになっているので受け取っていないし、シアーシャの依頼に舵を切ったこともある。

「……そういえば、別れもまともに告げていなかったな」

所属していた傭兵団や、付き合いのあった情報屋。コサックだけは最後に会えたが、他の知り合いには誰にもここへ渡ることを伝えていない。

そもそも、ジグは死んだものとして扱われているはず。コサックにそう噂を流してくれと頼んだのもあるが、まさか魔女と取引して新大陸に渡ったなどとは思うまい。

あの凄惨な戦場から個人の死体を探すのも一苦労だが、それ以前に正規兵ならともかく、いち傭兵の安否を気にするほど暇な奴など居るはずもない。

「行きましょうジグさん」

「……ああ」

昔のことばかり思い出していても仕方がない。ジグは思考を切り替えると先を促すシアーシャに続いた。

近頃、ギルドに入るたびに久しぶりだなという感覚を覚えるような気がする。ほとんどが止むに已まれぬ事情があったのだから仕方がない……そう言ってしまうのは簡単だが、シアーシャの護衛兼冒険業の手伝いとして雇われている身としては、もう少し考えて行動するべきかもしれない。

ギルドに入った二人はいつものように分かれようとしたが、今日はそれより早く声を掛けられた。

「ジグ、シアーシャさん。久しぶりだね」

赤毛の四等級冒険者、アランがパーティーメンバーを引き連れていた。

アランは挨拶をしながらこちらの身を案じるように尋ねてくる。

「ここ最近見かけなかったけど、何があったんだい?」

「……仕事で少しな」

言葉を濁すのは依頼だからというだけでなく、色々とあり過ぎて一言では説明できないせいもある。

彼らはジグの口が堅いことをよく知っているため、それ以上踏み込むようなことはしない。

「……そうか。無事だったんならいいんだ」

「アランさんもお元気そうですね。冒険業は順調ですか?」

「四等級の依頼は思ってたよりもキツイけど、なんとかやれているよ」

シアーシャが調子を聞くと、アランは表情に苦労を滲ませる。

四等級に上がってからのアランたちはそれまでの勢いを減じさせてはいたものの、順調に依頼をこなしていた。大型魔獣はともかく、魔獣の群れが苦手という欠点はそのままだったが。

「シアーシャさんの活躍は聞いているよ。刃蜂からの救出作戦はあなたがいなかったらもっと被害が出ていたって」

「ああ、あれは肝が冷えましたね……やっぱり数って恐ろしいです」

「俺の知り合いのパーティーがそれに巻き込まれていてね。底なしの魔力を持った女性と、鬼みたいな大男に助けられたって言ってたんだけど、君たちの事かな?」

「ああ! ゲロゲロ撒き散らしてた女の人と、ジグさんに蹴られてた人!」

「……ははは、やっぱり」

シアーシャとアランが冒険業について話す傍ら、弓使いのリスティがジグの装備を上から下までじっくりと見ている。弓使いというのは職業柄か、特有の目つきをしている者が多い。前衛と比べて広い視点で見通すことが多いせいか、どこか遠くを見る様に目を細めているのだ。

「ジグは見るたびに装備が変わっているけど……お金、大丈夫?」

「走るのを止めたら死ぬかもしれんが、今のところは平気だ」

「本当に困ったら相談、してね?」

「……頼らずに済むことを願っているよ」

見かけるたびに装備の変わっているジグを心配してくれたようだ。相変わらず面倒見の良いリスティの気遣いに礼を言っておくと、アランとの話が終わったのかシアーシャが依頼を取りに行ったようだ。

彼らと別れたジグはいつもの端にある丸テーブルに腰かける。

置いた手に違和感があったのでテーブルを見ると、細かい穴が幾つも開いており、さらには端の方が窪んでいた。ふと思いついて窪みを握ってみると、見事にジグの指がぴったりと嵌ってしまった。

いつぞや、澄人教徒に襲われた時にクロスボウを防ぎ、投げつけた丸テーブルで間違いない。

「フッ」

その傷跡を見ていると、不思議と笑ってしまった。一所に長居すると、こんなこともあるのだなと。

街に馴染むという、馴染みのない感覚。

それがどこかおかしくて、ジグは一人、小さく笑った。