軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「なるほどねぇ……ハリアンから転移によって飛ばされてきた、と」

自己紹介を済ませた二人は簡単な情報交換を行っていた。

シャナイアは朽ちた長椅子に腰かけているが、ジグが座ると間違いなく壊れるので手頃な石に腰を下ろしている。

「それにしても、飛ばされた先がここだなんてツイてないねぇ。よりによって、こんな掃き溜めをさらに裏ごししたような場所に……あー、クレイン君?」

「ジグでいい」

こちらをどう呼ぶか迷っていたシャナイアに短く伝える。彼女は何が楽しいのか、しきりに頷いて金の瞳を瞬かせる。

「ではジグ君。君、さては運が悪い方だろぉ?」

「……そうでもない」

表情は変えぬまま、ジグがスッと視線を逸らした。

シャナイアが視界の端でにんまりと笑みを浮かべるのが見えた。

「さっき誤解されるのは慣れているとか言っていた気がするけどぉ……?」

「なに、よくあることだ。人間、生きていればすれ違いもあるさ」

そう、ただ勘違いや誤解から殺し合いになったことが三回ほどあっただけだ。

些細な行き違いから戦争を引き起こした国に比べれば可愛いものだ。

国の問題と個人の問題をすり替えるようなことを考えつつ、はぐらかす。

「日頃の行いが悪いからじゃないかなぁ?」

「何を根拠に……」

言っている。そう言おうとしたジグの下を無言で指さすシャナイア。

指の先、尻を上げて見る。ジグの腰かける手ごろな石は、よく見れば捥げた像の頭部であった。天を仰ぐように物言わぬ女性を 象(かたど) った像。その顔面に尻を載せていたことになる。

ジグは無言で一つ頷くと、開き直りどっかりと体重をかけなおして腕を組んだ。

「神は死んだ」

「罰当たり者」

「下らんな。罰が当たって欲しいという弱者の妄言に過ぎん」

俺自身がまだ生きているのが証拠だと、堂々と罰当たりなことを言い切る。

シャナイアは納得いかないといった表情でジト目を向けていたが、ここ最近でそう言った視線には慣れていたジグは気にも留めない。

「話を戻すぞ。 お前(・・) は魔術師と言っていたが」

「シャナイア」

「聞いた限り、転移魔術はそう簡単に出来るものではないと」

「シャナイア」

「……記憶していたんだが、その辺りどうなんだ? シャナイア」

しつこく催促された名前を呼んでやると、シャナイアは満足気に頷き指を一本立ててくるくると回す。

「うむ、確かに転移魔術は非常に高度かつ面倒だとも。過去幾人もの魔術師が研究してもなお、未だ完全な再現にまでは至っていない。だが何事にも抜け道はあるのさ」

シャナイアは言葉を切るとジグを、正確にはジグを濡らす大量の血を指した。

時間も経ち徐々に乾きつつある血は、それでもまだ濃厚な臭いを発している。ジグは嗅ぎなれているから気にしないが、シャナイアはきっとこの環境で鼻が馬鹿になっているせいだろう。

「その抜け道と血が関係あると?」

「如何にも。詳しくは長くなるので省くが、転移魔術最大の壁は目印なんだよねぇ。どこに飛ばすのか、どこに戻るのか。ここをしっかり固定して流れを作らないと一方通行すらできないのさ。だから転移石板が必要で、かつそれに適した場所でないと機能しない」

「ふむ……」

詳しい原理までは分からないが、そう簡単にできることではないのは理解できる。

転移が現実的に利用出来たならば、それが 齎(もたら) す価値は語るまでもない。多くの魔術師や権力者が血眼になっても再現できていないということは、そういう事なのだろう。

「その点、血は目印として非常に分かりやすい。その人間の情報が詰まっているからねぇ。大量の血さえ用意すれば予め準備しておいた場所に飛ぶことはできる……ま、瀕死になるほど沢山いるから、本当に緊急脱出用にしか使えないけどね!」

仮に使用できても、これだけ血を流せば回復術をもってしても生き残れるかは怪しいものだ。

シャナイアの言うことが確かなら、奴にとっては本当に最後の切り札だったのだろう。

魔術が発動する前に死んでもおかしくない程の重傷を負い、それでも仕事をやり遂げるために賭けに出た。

「凄い執念だよねぇ。普通そこまでするかな?」

「……そうだな。見習いたいものだ」

ジグがそう漏らすとシャナイアは露骨に引いていた。

「しかし……ふむ。第一印象で分かってはいたけど、ジグ君は魔術にあまり明るくないようだねぇ」

「まあな。俺自身は魔術をほとんど使えん。身体強化が精々さ」

適当に嘘をついておく。

嘘ではあるが、実際にできることを考えればその認識でほぼ間違っていないため、ある意味で正しい。

シャナイアは疑う様子も見せずに頷いて続ける。

「しかし剣士にしては手ぶらのようだけど、武器はどうしたんだい?」

「自爆でもするのかと思って慌てて距離を取ったからな……残念ながら置いてきてしまった」

珍しく苦々しい顔でジグがこぼした。

稼ぎをつぎ込んで手に入れた高価な武器だから無理もない。

(カティアが回収してくれていることを信じるしかないな)

「それじゃあの三人組は無手で倒したのかい?」

「とどめは浮浪者に持っていかれたからな。俺が殺したのは一人だけだ」

「ふぅん……?」

彼女は意味ありげな目をしながらジグを見た。その視線が外套から覗くベルト部分に下げておいた魔具へちらりと向けられたが、気づかないふりをする。

初めて会ったばかりの相手に手札を明かすほどジグも甘くはない。腕輪型魔具が奥の手だと勘違いしてもらえるのならばそれで良い。

意図したわけではなかったが、ガントの作ったバトルグローブはぱっと見て仕掛けがあるとは分かりにくい。普通の体格の人間ならば目立つ機構も、ジグほど体格がよければプレートか何かを入れているように見えるだけだ。

なお、腕輪型の魔具を腰に下げているのは隠しているのではなく、単に嵌められなかっただけである。

「なるほどねぇ……それでジグ君はこれからどうするんだい?」

「当然、街へ戻る。仕事があるんでな」

カークから依頼された仕事は十二分にこなしたと見ていいだろう。些か以上に厄介になったのは想定外ではあるが、事前に追加報酬の話も済ませてあるので抜かりない。犯人を突き止めた先はギルドの仕事だ。

急ぎの仕事を片付けた以上、本来の仕事であるシアーシャの護衛に戻るべきだろう。

「あー、それは……少し難しいかもしれないねぇ?」

「どういうことだ?」

苦笑いしたシャナイアへ視線を戻す。

「この街のスタンスは“来る者引きずり込み、去る者足を掴んで離さない”なんだよ。権力者や商人でもない限り、そう易々とは出られない。ましてや、身元の怪しい傭兵じゃ言わずもがな……それに今はとりわけ荒れている時期だからねぇ……」

「荒れているとは?」

「頭が変わるたびに荒れるのがこの街の風物詩だったんだが、珍しいことにここ最近落ち着いていたんだ」

嫌な風物詩だなと思ったが口には出さず質問を投げる。

「大きな組織が牛耳っていたということか?」

「そういうことさ。ようやくこの街も落ち着いてきたのかと、一時は喜んだものだよ」

犯罪組織が頭をやることをまるで厭っていない、おかしな発言。しかしこの街に住む彼女から見れば、仮に犯罪組織だろうと治めてくれればそれで良いといった様子だ。

それ自体を否定はしまい。住む人間の大半にとって上が誰かなどはさして問題ではなく、穏やかな生活さえ送れればそれでいいのだ。今まで多くの戦争を見てきたが、どこの国でもそれは変わらない。

「ところが、だ。飛ぶ鳥を落とす勢いだったその組織が、少し前に大きなやらかしをした。結果大損害を受けて勢いを落とし、その機に乗じて抑えつけていた元敵対組織が大量離反を起こした……結局街は元の木阿弥、いやそれ以上に悪くなっているってわけさぁ」

「……なるほどな。それで街を出ようとする怪しい人物は片っ端からしょっ引かれるわけか」

「少し前ならお金さえ積めば何とかなったんだけどねぇ」

ジグが唸る。強引に突破ができないわけではないが、ここからハリアンまでは距離がある。無理やり通れば馬車などを使うわけにもいかず、徒歩で行くには物資的に難しい。食料はともかく水が確保できなければどれだけの強者であろうと死ぬだけだ。

(こういう時に水を出す魔術が使えればな)

シアーシャがいたので後回しにしてきたが、いよいよ考えねばならない。

それにしても迷惑な話だ。こんな時に治安が悪くなるとは、作為的なものすら感じてしまう。

「まったく……なんて組織なんだ? あと一歩で油断して間抜けを晒した馬鹿共は」

苛立ちから八つ当たり気味に疑問を投げかける。どうせ知らない組織の名前など聞いても仕方がないというのに。

「アグリェーシャ」

「―――神よ……」

ジグは生まれて初めて、神を 祈(のろ) った。