作品タイトル不明
エピローグ① side ルミナス
全てを捨ててリアを追いかけ、再びこの地を踏んでから半年が経った。
リアとの新生活や、商会を立ち上げる準備がようやく整い、やっとこの国に馴染んできた。
王族籍を抜けて平民になった俺は、仕事以外では取り繕うことを一切やめ、素の自分で過ごしている。
口調も随分と粗野なものになったと思うが、「嫌か?」とリアに聞けば、頬を染めて「男らしくてドキドキします」なんて言うもんだから、昼間から押し倒してしまったのは仕方ないだろう。
真っ赤な顔をして涙目で怒っていたが、それもまた猫みたいに可愛くて 滾(たぎ) る。
お互いに長い間拗らせた想いが、時空を超えてやっと実ったんだ。多少浮かれても大目に見てほしい。
なんのしがらみもない素のリアと向き合えば、彼女は可愛くて仕方ない女性だった。
今までリアには酷い態度ばかり取ってきた。そのせいで彼女は俺が優しく接することに慣れていない。
それが申し訳なくて心が痛むが、事あるごとに真っ赤になったり、嬉しそうにはにかむ彼女の姿に、いちいちやられて欲情している自分がいる。
ガキかと思うほど盛って彼女を疲れさせている自覚があるが、リアもリアで無自覚に煽ってくるのだから、お互い様だと思っている。
こんな幸せな日々を送れるのも、私が国を出ることを許してくれた両親のおかげだ。
◇◇◇
『廃嫡だと? 気でも触れたか。馬鹿なことを言うな』
『私は元々失脚して王家を窮地に追い込んだ人間です。今生きているのはただの偶然に過ぎない。前世で私が死んだのも、国を救う為じゃありません。ただ辛い現実から逃げただけだ』
『だがお前は前世を乗り越えて、今は国のために立派にやっているではないか。しっかり功績も残して──』
『乗り越えてなんかいません。回帰した後もつくづく自分は視野が狭く、 政(まつりごと) に向いていないと思い知りました。外交で得た今の功績だって、オリヴィアを探す過程で得た副産物です』
私が一切聞き入れるつもりがない様子に、父の顔が怒りで歪む。
『──女のために王族を辞めるか。無責任だとは思わぬのか。お前の尻拭いのために王太子の道を歩くことになった弟の治世を、支えようとは思わぬのか!』
『だからこそです。弟のためにも私は瑕疵のある王子のままでいなければならない。この国は一枚岩ではありません。派閥が乱れれば国は前世のように一気に傾く。そのうち私を担ぎ上げる者たちも必ず現れるでしょう。私の存在は新たな謀略を生むだけだ。だからその前に身を引きたいのです。──……ですが』
『……なんだ』
『あちらの女王陛下に、何かしらの爵位を賜れるよう進言していただけると助かります。王子としては無理ですが、商人としてなら、生涯をかけて父と弟の治世を支えると約束しましょう』
この四年で各国の王族と友好関係を築き、様々な条約を結んで我が国の経済を発展させてきた。
そこで築いてきた人脈を腐らせるつもりはない。
オリヴィアがいる国は大陸の東側にあり、その周辺国はまだ国交がない国がほとんどだ。
元王族で女王陛下とも面識があり、大陸西側の情報にも明るいとなれば、それなりにあの国で重宝される存在になれると自負している。
我が国にとってもあの国にとってもメリットは多いはずだ。
『なるほど──王位争奪の争いを避け、我が国とあちらの国を繋ぐ商人となり、両国の外交の礎を築くと?』
『ええ。私の能力は外交にこそ生かされると、この四年で証明出来たかと』
『はっ、物は言いようだな。いろいろ御託を並べているが、結局はオリヴィアの尻を追いかけるための後付けだろうが』
『そうですよ。私はもう、オリヴィアのいない世界は耐えられない。だから前世から彼女を追いかけて来たんです。女の尻を追いかける王子など不要でしょうから、どうぞ廃嫡して下さい』
悪びれもせず肯定すると、父はため息をつき、母はクスクスと笑い出した。
『陛下、私たちの負けですわ。ルミナスの願いを叶えてやりましょう。それが前世で息子とオリヴィアを守れなかった私たちの償いですわ』
『──わかった。女王陛下に書簡を出す。ただし、一年間は出国を許さん。弟がつつがなく立太子出来るよう、お前が前世で得た教訓を引き継げ。同じ過ちを繰り返さぬように』
『御意』
◇◇◇
そして俺は、一年で弟の周りの環境を整え、オリヴィア──リアの元に訪れた。
想いが通じてから、俺たちは一緒に暮らしている。
リアの職場の近くで、二人暮らしにちょうどいいくらいの邸を借り、通いのメイドを雇って仕事に支障がないよう手配した。
でもたまにリアが、一人暮らしで培った手料理を振る舞ってくれる。朝起きれば愛しい彼女が隣にいて、夜寝る時は彼女を抱きしめて眠る。
本当に毎日が幸せだ。
そして幸せだからこそ、怖くなる。
この幸せが、本当はすべて夢だったら──
朝起きて全て消えていたら──
時々そんな不安が溢れて、叫び出したくなる時がある。
俺は彼女しか経験がないが、彼女は俺以外の男に抱かれたことがある。その事実は鉛のように胸の中に巣食って、時々悪夢となって襲ってくることがあった。
隣国の貴族で、本当にリアを愛してくれた男らしい。結婚を考えていたと言っていた。
傷つけることしかしてこなかった俺とは違って、きっとその男はリアを可愛がり、慈しみ、深く愛したのだろう。
だからこそ再会したリアは、誰もが見惚れるほどの美しい女になっていたのだ。
思い出すたびに嫉妬で気が狂いそうになる。
一刻も早くリアを妻にしたい。
他の男に取られたくない。
「ん……ルミナス様」
目覚めてベッドから出ようとするリアを腕の中に取り戻し、愛らしいその口を塞ぐ。
同じ石鹸で髪も体も洗っているのに、なぜ彼女はいつも甘い香りがするのだろう。
彼女を愛でれば愛でるほど、その魅力に溺れていく。
「おはよう、リア。今日も愛してるよ」
「私も愛してます──でもダメ」
今まさに彼女の体を弄ろうとしていた手を止められる。
「仕事に行く準備をしなきゃいけないので、もう起きますよ。ルミナス様も今日は商会立ち上げの手続きをしに行くんですよね?」
「……ああ」
朝の甘いひと時が一瞬で消え失せ、すっかり仕事モードのリアに俺は不貞腐れた。
「じゃあ早く起きましょう。役所は営業開始前に並んでおかないと、すごい待たされるんですよ」
そう言ってベッド下に落ちているガウンを羽織り、早々にベッドから出ていってしまう。
(湯浴みするんだよな? よし、俺も入ろう)
良いことを思いついたとばかりに、俺もベッドから出て彼女の後をついていくと、振り返ったリアが悲鳴を上げた。
「ルミナス様! なんで何も羽織ってないんですか!!」
真っ赤な顔で狼狽えるリアを抱き上げ、浴室に向かう。
「ちょ、何して……っ」
「湯浴みするんだろ? 俺も入ろうかと思って」
「じゃあお先にどうぞ! だから降ろして下さい!」
「やだよ。リアと一緒に入る。その方が効率がいいだろ?」
「朝ですよ!? 嫌です!全部丸見えじゃないですか!」
目のやり場に困るのか、リアは両手で顔を覆って俺の体を見ないようにしている。
何度も体を重ねているのに、未だ初々しい反応を見せるのが可愛くて仕方ない。
「別にもうリアは俺の体の隅々まで知ってるだろう? だから見てくれていいよ。俺もリアの全部を知ってるし、これからも見るから」
耳元で囁くと、体を震わせた。
耳まで真っ赤だ。本当に可愛い。
その後、浴室で結局我慢できずに彼女を一度だけ貪ってしまい、もう平日の朝は一緒に入らないと怒られた。