軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

時を戻したのは

「君を追いつめて死なせた俺を、恨んでいるか?」

「…………」

まさか、ルミナス様も回帰していたなんて──

前世の悲惨な人生を振り返る。

辛い思い出の方が多い人生だった。

ずっと貴方に焦がれ、追いかけ続け、燃え尽きた人生だった。太陽に触れることなど出来ないのだと、思い知った。

「そうですね……恨まなかったかと言えば、嘘になります」

「──そうだよな」

彼が悲しそうに微笑む。

「なぜ、時が戻ったのでしょうか」

「俺が戻した」

「え?」

「俺が時を戻したんだ」

「は?」

意味がわかっていない私に、ルミナス様が前世と今世で私たちの身に何が起きていたのかを教えてくれた。

マナー教師であるサミュエル侯爵夫人の虐待。

メアリーと側近、闇ギルドの繋がり。そして側妃の謀略。

(そんなことが起きていたなんて……)

先程から驚くことばかりだ。

情報過多で混乱して何を言えばいいのかわからない。

ただ一つ言えるのは、前世でも今世でも、私は周囲のことが見えていなかったということだ。

ルミナス様のことばかり追いかけて、視野が狭くなっていた。

「前世の俺は何も気づけずに失脚した」

「私も……当事者なのに気づきませんでした……」

メアリーの件も驚きでしかない。

まさか闇ギルドと繋がっていたなんて。

「メアリー様は優秀な方だと聞いていたのに……」

「優秀だから、貴族令息相手に金を巻き上げられたんだよ。ちゃんと相手が泣き寝入りするよう堕としてね。前世の俺もすっかり騙された」

自嘲する彼に、かける言葉が見つからない。

本気で愛した人に別の本命の恋人がいて、しかもその男が犯罪組織の幹部で、彼女自身も犯罪に手を染めていた。

それを知って彼は、どれほど傷ついたのだろう。

彼女の罪が暴かれた後、私の罰が領地幽閉に変更されて釈放になったが、ルミナス様がその説明に向かった時には、私は既に死亡していたらしい。

その後、ルミナス様は議会ですべての責任を問われて王位継承権を剥奪され、第二王子が立太子するまで公務を肩代わりすることになった──

「でも俺は……自分の犯した罪に耐えられなかった。ずっと……なんで人殺しの俺が王家に守られて生きてるんだ。オリヴィアは誰にも守ってもらえなかったのにって……そんなことを毎日思ってた」

俯いた彼からポタポタと雫が落ちて、彼の拳と太ももを濡らした。

「償いたいのに、オリヴィアはどこにもいなくて……っ、毎朝、絶望するんだ。だから王家の秘術を使って時を戻した」

王家の秘術?──と口をついて出そうになったが、なんとか堪えた。

きっとその名の通り王家の秘密に関わることだ。知らない方がいい。そして一つ、すごく気になることがある。

私が回帰したきっかけは、死だった。

じゃあルミナス様は?

彼はどうやって回帰したの?

まさか彼も──

「……それで、俺も死んだ。時戻りの代償は術者の命だから」

血の気が引いた。

「なんでそんなこと!」

「オリヴィアに会いたかったんだ」

「……っ」

「どうしても会いたかった。君の声が聞きたかった。君が死んでいなくなった世界を、俺は受け入れられなかったんだ」

「そんな……──ああ、そんなっ……ごめ……なさいっ」

(なんてことを……っ)

両手で顔を覆う。

涙がとめどなく溢れて、喉が引き攣れた。

前世では、ルミナス様の地位だけでなく、命まで奪ってしまったのか。

私が謀略に嵌って、嫉妬のままメアリーの暗殺計画なんか立てたから、そのせいで彼を不幸にしてしまった。

皆を不幸にしていた。

「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……っ」

「オリヴィアは何も悪くない。悪いのはそこまでオリヴィアを追いつめた俺だ。俺の目が節穴だからあんなことになった。学力や剣術だけ優れていても、国王になるならそれだけでは足りない。王になるのに最も必要なのは、人を見る目と大局を見て判断する器だ。俺にはそれが二つとも欠けていた。だから貴族たちの支持を失ったんだ。全部自業自得だよ」

「そんなことありません……っ、私が、私が貴方を取られたくなくて愚行に走ったから……っ、私が貴方の足を引っ張ったから! だからこんなことに……っ、やっぱりこんな私は貴方に相応しくない……っ」

「リア!」

彼の両手が私の頬を包み、潤んだ金の瞳で捉えられる。

「俺はもう王子じゃない。君が欲しくて堪らないただの一人の男だ。君を捕まえるために全部捨てて追いかけてきたバカ野郎だよ。だから俺に相応しくないとか、どうでもいい言い訳は要らない。俺が不要なら、お前など愛せないと、そうハッキリ言ってくれ」

どうしてそんなこと言うの。

ズルい。酷い人。

そんなこと言えるわけない。

自分でもどうしてかわからない。

どうしても忘れられないの。

子供の頃に見せてくれた、太陽のような笑顔を見た時からずっと、ずっと私の心の中にいる人──

「…………好き……好きぃ」

「リア」

「好きなの、ずっと、好き……っ」

「ああ……っ、俺も君が好きだよ」

「他の人を見たらイヤっ……また浮気したら許さないっ……そしたら私も浮気してやるから……っ」

「それはやめてくれ。もう俺は君のものだから、君も俺だけのものになってくれ。二度と他の男に触れさせない」

「うぅ~っ……うああああぁっ」

「沢山傷つけて、ごめんな、リア……っ。これからは一生大事にするから……っ」

彼の腕の中で、子供みたいに声を上げて泣いた。

ずっとこの温もりが欲しくて、

前世からずっと焦がれて、

手を伸ばし続けた太陽が、やっと私の手を取って温めてくれた。私に振り向いて、優しい眼差しを向けてくれた。

たったそれだけで、

涙が出るほど幸せだなんて、知らなかった。

「愛してる、リア」

そう甘く囁いた後、彼は私の唇を塞いだ。

甘くて、心から満たされるキスだった。

もう、悲しくない。

「私も愛してます。ルミナス様」