軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4-8

仲間から化物を見るような目で見られて、流石のハジメも物申したい気分であったが、冷静になると当たり前かとも思う。

本来、重機関銃。それも.50に近い口径を扱う代物は分解して数人がかりで運搬し、動かすことを想定しない防御陣地に設置する物だ。

あるいは車両に載せて――それも重量があって安定した車種――使うべきであって、断じて人間が持ち上げて良い物ではない。

にも拘わらず、イケるんじゃね? と言われて煽られるままに試してみたところ、本当に持てた。

持ててしまったのである。

「お前、何かの戦略兵器みたいになってるぞ」

「それ、普通専用に調整した物をトロウルがようやく持てる代物でなくって?」

「ハジメ、すごい、もんすたー」

「うるせぇ!!」

しかし、一番恐いのは肉体の持ち主であるハジメであった。地面に固定して使うのが当たり前である銃を、自分の体がすんなりと持ち上げられてしまった時の恐怖は、実際に見舞われなければ分からないだろう。

少なくとも、このスクラップヤードに棄てられて以降、人間であり続けてきた彼にとっては大変な恐怖であった。

まるで自分が人間でなくなってしまったような。ただ性別が入れ替わったというよりも、正しく〈異形〉に成り果ててしまったような。

そういった、言語化の困難な感覚で心胆が震え上がった。

「だがまぁ、ソイツがあればイケるだろ。頼むぜガンスリンガー」

「軽く言ってくれるなぁ!?」

「ビビんなって。オレらは頼もしく思ってるぜ。なぁ?」

『ええ、ハジメ、とても強そうですよ』

「ま、ハイランダーの門衛よりはスマートですしね」

勝手なことを宣いまくる友人に、クソッタレがと一つ毒突いてハジメは重機関銃を構えて表に出た。

一体誰がどんな悪ふざけでこのようなカスタムを施したかのかは分からないが、少なくとも始末書を書かされたのは確実だろう。全く、本当に何を思ってやったのか。今時、低予算映画でもやらないぞとハジメは思ったが、それでも最後に映画を見たのは何年前かと思い、悲しくなって回想を打ちきった。

「じゃあ、とりあえず俺が前に出て撃つから……やばそうなら隔壁落とせよ」

「そこまで、する?」

「ヤバくなったら格闘戦でも何でもしてやる。お前達を巻き込んだら、俺の寝覚めが悪いだろ」

言って、彼は角を曲がり、暴風が吹き荒れたような廊下に身を晒した。

幸いにも肥大化したゾンビは、自分がミンチにした人間を囓るのに忙しいらしい。

一手目を譲ってくれるとはお優しいと思いつつ、ハジメは引き金に掛かっていたカバーを親指で弾き上げ、ボタン式のトリガーを押した。

12mm。砲の一歩手前にある銃声が吠え猛る。ほんの一瞬、試射も兼ねての発射であったにも拘わらず曳光弾混じりの銃弾は横殴りの暴風の如く吹き抜け、巨体に突き立った。

「あ、あぁぁぁアぁ、おぅぅううううう!?」

そして、背中の肉が爆ぜる。バイタルパートを狙って放った一撃、碌に試し打ちもしていないながら、正確に命中したそれは、今まで我慢を重ねていた〈悪運〉が本気を出したかのようだ。

「チッ、胴撃ちに耐えるって正気かよ」

全身を駆け抜けていくリコイル、ともすれば骨がバラバラになったのではと錯覚する震えに体を貫かれながらハジメは悪態を吐いた。

これだけの大口径弾は、普通ならば命中箇所が血煙となって消えるほどの運動エネルギーを持っている。どれだけ分厚いボディープレートを二枚重ねしようが耐えようもなく、原形など残らない。

たとえそれが屈強で知られるオーガやトロウルであっても。

正に必殺。非装甲対象への死刑宣告に等しいそれを浴びて尚、巨大なゾンビは耐えた。

のみならず、やってくれたなとばかりに振り返って、拳を地面につくゴリラのような歩みで走り寄ってきた。

「図体の割りに素早いなデカブツめ!!」

人間が走るのと大差ない速度で迫る巨体に、本能的な恐怖を抱きつつもハジメはトリガーを再び押した。

狙いは再び胴体だ。頭部は異様に盛り上がった肩に半ば埋設しており狙いづらいし、どのみち菌類が全体に行き渡って動いているゾンビ相手にヘッドショットは効果が薄い。

それならば、弾を盛大にばら撒いても〝どこかには当たる〟狙いが大事だと思ったのだ。

再び吠える銃声。援護できるように両側の廊下に散っていた仲間達が、トリニティを覗いて耳を押さえていた。然もなければ、鼓膜が破れそうなほどの轟音なのだ。

数秒の射撃ならば肉体も耐えられると思ったハジメは、先程より長くボタンを押す。

当然吐き出される弾丸の量も凄まじく増えたが、ゾンビはあろうことか両腕をクロスさせて胴体を守ったではないか。

鋼色をした拳の表面が弾け飛ぶが、胴体に届いていない。表皮が抉れ、肉が見えているものの質量は健在。であるならば、肉薄されれば殴り殺され、地面の汚れと化すだろう。

撃ち続けてはリコイルで銃身が上がり過ぎるため、ハジメは一瞬射撃をやめて姿勢を正す。その間にも敵は前進を進めて間合いを詰めており、もう双方の距離は中距離といえる間合い。あと少しで近距離戦の距離だ。

撃てるのはあと一回くらいだろう。軋む肉体も、持ち上げられるのと撃ち続けられるのは別だと抗議をしてきている。

次に狙うのはどこか。何が最適か。

ハジメは考え、小細工を棄てた。

初志貫徹。拳にダメージは通った。それならば、徹底的に撃ち続ける。

「おらぁぁぁぁぁぁ!!」

銃口を低めに構え、リコイルを考慮してからトリガーを押し、鉛の雨で肉の波濤を押し返すように撃つ。

ゾンビは両腕で再び胴体を守ったが、如何に頑強であろうと、しょせんは肉の塊に過ぎない。接近したこと、そしてハジメが最後の射撃だと長くトリガーを押して、先程よりも多く弾丸を放ち続けたそれが、遂に異形を捻じ伏せた。

腕が千切れ飛ぶ。

これで敵は文字通りのメインアームを失った。

それでも止まらない。まだ死んでいない。

前腕を銃弾に引きちぎられ、胸を幾らか抉られて尚もゾンビは殺意を失っていなかった。

そのままハジメを壁と挟んで押し潰そうとショルダータックルを見舞うが、傭兵の方がほんの辛うじて動きが早かった。

無茶な銃器の扱いに文句を言う肉体に鞭を打ちつつ、重機関銃を投げ捨てて横っ飛びで逃れる。

急造のサンダルを片一方、肩に触れたせいで失いながらもハジメは回避に成功していた。

合板の壁と肉がぶつかり合う、銃声とはまた違った趣の大音響に耳が痛い。

主に置いて行かれた重機関銃は、拉げた壁と頑強な肉体に挟まれて砕け散った。本体は圧壊し、銃身が折れ、ボックスマガジンに残っていた僅かな弾丸が散らばる。

しかし、外見どおり、あまりおつむがよろしくなかったのだろう。目の前の自分を傷付けたハジメを殺すことに容量の全てを割いたせいか、激突後のことを考えていなかったようだ。あまりの威力に体が深々と壁に突き立っており、引き抜くのに難儀している。

「しつこいなデカブツ!!」

そこに咥えられる銃撃は、アーモリー・リボルバーに装填された巨大な真鍮尖頭弾頭と60グレインもの無煙火薬による大火力。

当人が使えないなら、大火力を持て余すのも勿体ないので自分が使うと、借り受けたデルタが膝の裏にブチ込んだのだ。

「あぁぁぁうあああぁぁぁぁぁぁ!?」

撃ち方を心得ていなければ手首を痛めるような銃声。それはアーモリー・リボルバーのリコイルに慣れていないデルタの腕を跳ね上げ、2000Jを超える法外な、それこそ執念的な職人の業がなければ崩壊するほどの威力を膝の中で発揮した。

飛び散る表面の肉と、着弾時の衝撃によって生まれる真空が骨を砕き、逆側の肉を貫通時に殆ど連れていって崩壊させた。

それでも、まだ足は完全に破断していない。ばたつき、足掻き、立ち上がろうとしている。

「いい、よいしょっ!!」

だが、破壊は一度で終わらない。クインが薪を割るようにデルタから借りた斧を振り下ろしたからだ。

小柄で体重の軽い彼女であっても、長い柄と思いヘッドによる物理学の力を借りれば、殆ど千切れ、衝撃によって脆弱化した右足を完全に断つことは可能だった。

尤も、持ち主と違って地面に食い込ませず、刃をギリギリで止めると言った器用な真似はできないのだが。

しかし、足が断たれ、腕をうしなったことでゾンビは殆ど無害となった。

未だ残った膝を使って立ち上がろうとして上体を引き起こしたが、もう素早く敵を追いかけることも、叩き潰すことも不可能。

されど、万が一を常に考える傭兵達は手を抜かない。

「さぁ、死して尚も労働に就く必要はありませんわよ。ご安心なさい、わたくし、領主として首切り役人もやってましてよ」

大上段に家伝の宝剣を振りかぶったトワイラが、顔を上げたゾンビに語りかける。

そして、脳天から垂直に股下へ突き刺さっていく刃。

達人が振るう素早い斬撃と、魔法によって担い手以外には50kgもの慮外の重さを発揮する刀身は、圧倒的な物理エネルギーによって巨体を割断した。

斬撃の痕跡は半ば爆ぜるが如く、振り下ろした軌跡が伸びるように背後へと走る。

そして、心中線に従って両断されたゾンビは、そのままトワイラの体を避けるように斃れていった。

まだ菌糸のネットワークが生きているからだろう。残骸として藻掻いてはいるものの、もう動けはするまい。何物にも脅威とならぬのならば、それは死んだのと同じだ。

刃を振るって血糊を払ったトワイラは、静かに鞘に収めて、フラフラと立ち上がろうとしているハジメに手を貸した。

「大丈夫でして?」

「ああ、衝撃が凄すぎた。体中がビリビリする。全身が正座した後みたいだ」

「骨は折れてねぇか? あのリコイルなら罅くらい入ってておかしくねぇぞ」

「いや、多分大丈夫。折れてたら痛いはずだから」

どうにか麻痺しつつある体を起こしたハジメは、それでもちょっと休ませてくれと頼んだ。

「なら、警備室の中がいいな。とりあえず捜し物してる間は休んどけよ」

「悪いな……」

「ま、一番無茶したんだから、ちっと休んどけ」

扉がえぐり取るように破壊された中央警備統括室の中には死体が幾つも転がっている。拳を叩き付けて破壊された扉に押し潰された物。振り下ろした拳骨に潰されて折れた楊枝のようになっている物。

そして、胴体を握り潰されて、頭部と足以外が真面に残っていない、少し偉そうな装飾のされた服装の男性。

「おっ、コイツじゃねぇか? よし、社員証と鍵は無事……」

「よっこいせ……」

潰された死体を探っていると、どうやら偉そうな服装の死体がロジャー・コーマン警備統括主任であったようだ。デルタが挽肉まみれの樹脂ケースから汚れを払っている間、ハジメが壁際に背を預けようとしているとクインが声を上げた。

「あっ」

ばりん、と音が鳴り、彼の巨体に一瞬揺らいだ地面が傾いていたキャビネットをゆする。そして、そこから溢れたのは一本の薬液が入った薬瓶。

気付いたクインが走り寄って止めようとしたが、少し遅い。

ハジメの頭に直撃したバリンと割れたそれは、青い液体を滴らせながら浸透していく。

「またかよ!?」

「ハジメ! ハジメ! はやくふいて!」

クインが慌てるが、残念ながら遅い。瓶の欠片が僅かに刺さった頭部の傷口から薬は大量に入り込んでおり、効果を発揮し始める。

どくんと胸が鳴り、血流が早まる。

どこかで死神が賽子を振っているような幻聴を聞きながら、ハジメは頭を抑えた。

体が膨れ上がり、女にされた時と同じく体がじくじくと痛む。

クインが自分も液体に触れるのも構わずハジメの頭からガラスの欠片を抜き取り、液体を拭い去ろうとするが、効果はもう発揮されてしまっている。

「い、いい……クイン、離れろ……一度目が、コレでも、二度目が、無事とは……」

「ハジメ! ハジメ!」

「離れるぞクイン!!」

小さな体の首根っこを引っこ抜くように持ったデルタが引き剥がしたハジメの体が、更に膨張しようとしている。

既に限界一杯だったスェットが破れ、無理矢理に乳房を押さえ込んでいたシーツが弾け飛ぶ。

そして、裸体から煙が上った…………。