軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16

アイリーンの嫌な予感は的中した。

「アシュタルトの声明はがせの可能性も高いが、学園長の好意で騎士団の方々を警備に回してもらえることになった。それで、こちらとの仲介役が欲しいとのことなんだが」

「はい、私やります」

会議の時だけ全員そろう生徒会室で、セレナが手を上げる。ゼームスに「アヒルを庶務にした覚えはない」と蹴り出されかけて渋々着ぐるみを脱いだアイリーンは、セレナの真正面の席で眉をひそめた。

同じような顔をしたウォルトが、片手を上げる。

「俺がやるよ。警備だろう? 女性には危険だ」

もっともらしいことを言っているが、魔香の調査の関係で警備状況を把握しておきたいのが本音だろう。カイルも静かに頷いた。

「いざという時を考えると、男性の方がいい」

「ただの仲介よ。それにいざとなればクロード様が守ってくださるから大丈夫」

「でも魔王だろ? セレナ、魔物嫌いじゃんか。聖剣の乙女の敵なのに――」

「ちょっと、オーギュストやめて。まだあの人、人間なのよ」

オーギュストを遮って、セレナが立ち上がる。

「聖剣の乙女なら、魔王だって救おうとしたはずよ。だから私、魔物の味方はしないけど彼の味方にはなるつもり」

あの人。彼。親しげな呼び名に、ため息が出た。

(やっぱり誤解させたわ……あの顔、ほんとに隠した方がよくない?)

これは完全に、オーギュストからクロードに乗り換えている。たった一目でと思うが、ひとの気持ちが変わる時間など一瞬で十分だ。それに、クロードは魔性の美形である。まだ視野の狭い少女の気持ちなど一瞬でかっさらうだろう。

「……女性の心変わりっておそろしいな……」

半分あきれ顔でウォルトがつぶやく。カイルがその横から進言した。

「しかし、仲介とはいえ女生徒はまずいのではないか? 魔王には婚約者がいただろう。ドートリシュ公爵令嬢の機嫌をそこねる危険がある」

アイリーンは過剰反応しないよう、沈黙を選ぶ。ここで下手な反応を見せればウォルトあたりに気づかれてしまうだろう。

ゼームスが応じた。

「婚約者は皇都にいるんだろう。そこまで警戒しなくてもいいのではないか?」

「いやあ、会長。そこは油断しない方がいいね。なんたってあのドートリシュ公爵家だ。魔王が皇帝になるかどうかに家の進退がかかってる。間諜の一人や二人、魔王の近くに紛れ込ませて監視してると思うよ」

間諜もなにもその令嬢本人がここにいるが、素知らぬ顔でウォルトの話にのってみた。

「婚約者さんに誤解されると、きっと学園長も困りますよね」

「あら、私は平気だわ。望むところよ」

胸をはったセレナに全員の視線が集まった。ゼームスが渋い顔で両腕を組む。

「アイリーン・ローレン・ドートリシュはかなりきつい性格と聞いている。ドートリシュ公爵家からこちらに苦情がきたら厄介だ……あの家に物申せるのは皇族くらいだしな」

「乗り込んでくるかもよ? 常識はずれのとんでもなご令嬢だって噂だし」

「魔物が攻めてくるというのに、聖剣を持っている婚約者を魔王がつれてこなかったことを考えると、相当の問題人物なんじゃないのか」

きつい性格、とんでもなご令嬢、相当の問題人物。噂や評判で人物像を作るのは、本人に会えない以上、仕方のないことだ。だがしかし。

(あとで全員、覚えてらっしゃい)

オーギュストがまあまあと愛想笑いを浮かべた。

「どんな人かは会ってみないとわかんないだろ。……あ、でも姿絵が回ってたっけ」

「姿絵?」

ぴくりと眉を上げたアイリーンに、ゼームスが頷く。

「魔王がここへ就任する少し前に出回っていたな。あれが真実なら……正直、ないな」

「俺は魔王の斬新な趣味に感動したね。でも見習いたくない」

「そうか? 俺は魔物だからゲテモノ趣味なのかと納得したが」

「ど、どんな姿絵なんですか」

「どっかにあったような……あ、ああこれだ」

メモ書きの裏に使っていたらしく、オーギュストが広げて見せてくれる。奪い取るようにそれを見て、絶句した。

一言で言えば不細工だ。伸びきった鼻、さけたような口。人間かどうかも怪しい。

(……誰がばらまいたか知らないけれど、死にたいのね……?)

ジャスパーあたりに明日から探らせよう。始末しなければならない。怒りを押し殺すために丁寧に姿絵を折ってたたむアイリーンの目の前で、セレナが熱弁をふるう。

「でもクロード様はとても綺麗な方でしょ。だから私、確信したの。魔王の婚約は、きっとドートリシュ公爵家に仕組まれたものだって! クロード様、かわいそうよ。嫉妬深い婚約者のせいで自由もないなんて。だから私、力になりたいの」

「――き、気持ちは分かるけどさ、セレナ。それと学園の仲介の話は別だろ」

「私、クロード様を学園祭に誘うわ。白百合姫に選ばれて、クロード様を指名するの。本当はパートナーに誘いたいけど、学園長って立場もあるでしょう? だから――」

「あ、ぼくもうそろそろ警備隊の方へ行きます。夜の見回り準備があるので」

セレナの話を右から左へと聞き流していたアイリーンは、柱時計を見て立ち上がる。

早く日が沈むようになったせいで、もうすでに外が暗い。

「ああ、そんな時間か――今日は私も行こう」

立ち上がったのはゼームスだ。ぱちりとアイリーンはまばたく。

他の面々も目を丸くしていたが、ゼームスはいつもの表情の読めない顔で、行くぞとアイリーンに告げた。