作品タイトル不明
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「ということで、ルシェル様を見つけて協力を取りつけたわ! これで魔物も使えるわよ。あと、アレス様も戦力として捕獲したわ!」
会議室に入るなり宣言したアイリーンに、先に待っていたゼームスが目を細め、地図を広げていたレスターが首をかしげた。
「……いったいどうやって?」
「無駄な質問をするな」
きっぱり断言したゼームスに、レスターが眉間にしわをよせる。
「無駄な質問ではない。信頼できるのかという非常に大事な質問」
「無駄な質問だ」
「そうそう、人間が神の思惑なんて考えるのは無駄だよ!」
ぱっと突然空中に現れたルシェルに、レスターがぎょっとして腰を抜かしそうになる。ルシェルが持っているプリンの皿に、アイリーンは目を細めた。
「お義父さま! プリンは明日だと言ったでしょう!?」
「えーだっておいしそうだったんだもん」
「もう! 護衛につけたウォルトとカイルはどう――」
「ルシェル様見つけたあぁぁ、よっしゃ行動パターンはクロード様と同じだなんとかなる!」
「護衛を置いて勝手にふらふらするところからだな!」
ものすごい勢いで部屋に飛びこんできたウォルトとカイルは息を切らしているが、ある意味で通常運転である。ルシェルのほうが驚いて目をぱちぱちさせていた。
「うわー見つけるの早いねえ……」
「ええまあね、慣れてますからね!」
「逃げられると思わないでいただきたい、我々はクロード様にきたえられてるんです!」
「……な、なんかごめんね、親子で。はい、あーん」
ルシェルがふわふわ浮いたままスプーンですくったプリンを、一口ずつウォルトとカイルにわけている。妙になごんだ空気を引き締めるべく、アイリーンは手を叩いた。
「遊んでいる時間はありませんわ。準備にかける時間も考えると、今日か明日にはもう策を立てておかないといけません。作戦会議を始めますから、お義父さまは出て行ってくださいな」
「やだ」
「やだって――」
文句を言いかけた口に、プリンを放り込まれた。ごくんと飲みこんでしまったアイリーンの前に、ふわりとルシェルが降り立つ。
「僕の息子と奥さんの話だ。僕もちゃんと参加させてもらうよ。かまわないだろう? 僕の可愛い 義娘(アイリーン) 」
「……!」
クロードと同じパーツでできた顔と声色に勝手に上気しそうな頬を引き締めたせいで、変な顔になってしまった。動揺を見透かしたように、ふふんとルシェルが笑う。
「僕の義娘ってばかーわいー」
「……っクロード様に言いつけますわよ!」
「どうぞどうぞ。あの子、僕の言うことちぃっとも聞かないしーお父さんって呼んでくれないしー冷たいしーあっなんか腹立ってきた、生意気じゃない? 息子のくせに」
唐突な手のひら返しをしながら、ルシェルがぱくりとプリンを食べる。
「僕のこと完全になめてるみたいだから、おしおきしないと。僕のかわりをしようだなんて、百年早いんだから」
「それはお義父さまがへたれだったからじゃ……」
「そういうこと言うとこの顔で迫るよ。言っとくけど、あの奥さんだってこの顔にだけは弱かったんだからな!」
それはまさか自慢なのか。
呆れている間に、ルシェルはこの会議室で一番あたたかいだろう日の差しこむ窓際に椅子を置き、自分の場所を確保してしまった。
「いちおー、俺も概要は把握しときたいからね」
「邪魔はしない」
そう言ったウォルトとカイルが、ルシェルを挟むようにして立つ。こうなるともう出て行かないだろう。
「アイリーン。動ける奴は、全員呼ぶべきだ」
「ゼームス? でもまだ、何も決まっていない状態で……」
「私も全員参加に賛成しますよ、皇太子妃殿下」
振り向くと、レスターが眼鏡を持ちあげて肩をすくめた。
「誰がどんな顔をしていて何ができて何を考えていそうか、発言するか、私にはそれがわからない。それでは非常に困るものでね。アイザック・ロンバールがそちらをまとめて私と打ち合わせする、というなら別ですが」
「……アイザックは……」
「もちろん、それはあなたの手の内をこちらにさらすことになりますがね」
レスターの口端が持ちあがっている。だがレスターの意見はもっともで、たとえ少しでもアイザックの役割を負ってもらうならしかたがない。
深呼吸しようとしたそのとき、ゼームスがすっとアイリーンをかばうようにして立った。
「少し時間をもらいたい。今からこちらで検討する」
「……。その場での判断保留は、政治屋の常套手段だな」
「魔王が見つかったことを報告する相手がいるだろう? ハウゼル女王国はどうだ」
顔をあげたアイリーンの前に、ゼームスが腕を出して制する。
「必要な交渉だ。万が一負けたときに、セドリック派だけでも生き残るようにしなければならない」
「でも向こうはわたくしたちだけではなく、リリア様も狙って……!」
「そうだ。だからこいつは、私達に味方するだろう。負けると決まる、その直前までは」
だが、最悪はさけなければならない。
レスターが深く息を吐き出し、眼鏡の真ん中を軽く押さえる。
「勝つのが最善だ。だが、負け方も考えなければならないのですよ、皇太子妃殿下」
「……そうね。でもそれは不要な心配よ。万が一にもクロード様を元に戻せなかったらどうするか、わたくしは決めているもの」
少し意外そうな顔をするレスターに、アイリーンは晴れやかに答える。
「わたくしが斃す」
ぎょっと全員がこちらを見た。それにアイリーンは笑い返す。
迷いなく、凛と顔をあげて。
「妻だもの。当然でしょう?」
がしゃんと何かがうしろでわれる音がした。
振り向くと、まず絨毯にしみを作っている紅茶とカップとお盆が目に入り、次にぶるぶると震えているリリアの姿が見えた。嫌な予感しかしない。
「……やだ……アイリーン様が……アイリーン様がかっこいい……!」
あとずさるより前に、リリアが胸に飛びこんできた。