軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「どういう意味です?」

アイザックが応じた。正解だったという手応えを感じて、アイリーンは頷く。

「あの魔竜には聖剣がききません。ということは、人間にとりついているということです。そして、魔竜が後宮から離れないことを考えると、そのとりつかれた人間はこの場にいるのかもしれません」

ざわっと周囲に動揺が走った。

混乱を防ぐためその情報を伏せていたバアルに横目で批難されるが、かまわない。アイザックの目を見て、自分の正しさだけを確認する。

「何をおっしゃりたいんです? 皆が一丸となって戦わねばならない今、そのような推測は疑心暗鬼をうむだけですよ」

アイザックの瞳が笑っている。だから笑い返した。

「わたくしは心配しているだけですわ。魔竜にのっとられた人間や接触のあった者達が、完全に力を取り戻した神剣を前に無事でいられるのですか? 魔竜にのっとられた自覚が本人にあるとは限りません。今まで操られた襲撃者達も自覚はなかったでしょう?」

アレスが目に見えて動揺した。その周囲にいる護衛達――おそらくアレスの企みや魔竜の監禁にかかわった者達も、目を泳がせている。

「神剣の力で、魔竜に接触した人間も一気に焼き払われてしまうのではないでしょうか」

――魔竜に接触した人間全員にとって神剣は危険だとあおれ。

それが走り書きの内容だ。そうすれば、必ずこの場から逃げようとする。

(まあ目を光らせるまでもなく、あからさまだけれど)

実際、神剣がきくのは魔竜にのっとられた人間だけだ。

だがそんなこと、ゲームの知識でもなければわからない。ここに残っている知識は、何百年と古い伝説でしかないのだ。

アレスが神剣を振るう言質は既にとった。これで辞退すれば、かかわっていたと自白するようなものだ。逃げ出せば致命的な失態になる。

「もちろん、ただの可能性です。……ですが魔竜にあやつられるような方が、神剣で魔竜と戦うこの場に残っているわけがありませんものね。邪魔をしました」

にこやかに締めくくる。アレスの顔色が悪いことなど無視して、サーラに告げた。

「では、サーラ様。修復を」

サーラが黙ったまま神剣を震えた手でにぎる。アレスがそれを見て、唇を震わせた。

頭の中でどう言い訳して神剣の使用を撤回するか考えているのかもしれない。アレスの連れてきた兵士達もそわそわしている。これでアレスが英雄になることだけは防げる――……。

「――嫌よ、できない!!」

思わぬ声と、神剣が転がる音に、まばたいた。サーラだ。

神剣を投げ捨て、首を振りながらうしろにさがるサーラに、アレスも驚いた顔をしている。

「ど、どうしたサーラ。できないとは」

「い、嫌よ、死ぬなんて」

「死ぬ?」

「そうよ! ――神剣を直したら、私、死ぬんでしょう!?」

まるで狙い澄ましたように上空が再度光った。バアルの結界が魔竜の攻撃を防ぐが、周囲が白で染まった隙に、サーラが駆け出す。

逃げ出したのだ。

「まっ――待ちなさい、ちょっと!」

「サーラ!!」

「追え、つかまえろ! な……何かサーラは誤解をしているんだ!」

アレスに命じられ、真っ先にオーギュストがサーラを追って走り出す。命令こそ出したものの、アレスは呆然としていた。

誰もが唖然としている中で、くすりと小さい笑いが響く。

「やっぱりだめね、神の娘なんて言っても半端者だわ」

「リリア様、あなた……っ!」

何をサーラが吹き込まれたのかわかって、アイリーンはリリアをにらんだ。

ゲームの選択肢だ。

魔竜と対峙したヒロインに、命をかけても神剣を修復し魔竜を斃すか否か問うもの。実際、そこは命をかけるの一択だ。それ以外正解はあり得ない。使命から逃げれば死に、使命に立ち向かえば生き残る。ゲームのお約束である。

だがそれを実際に生きている人間にわざわざ突きつければ、一択などではない。

「何を考えているの、神剣の修復はわたくしでもあなたでもできないのよ!」

「大丈夫よ。私の考えが正しければ――セレナ」

セレナが、名前を呼ばれて振り向く。ぼろぼろの神剣を拾い上げたリリアが、目を細めた。

「あなたの出番よ。――まだ神剣は生きてる」

「は?」

セレナがわけのわからないという顔をしているが、アイリーンもついていけていない。

その顔を見て、リリアが可愛らしく笑った。

「アイリーン様は2のFDは未プレイだものね。ふふ、でも駄目よ。2をプレイした時点でちょっとは気づかなきゃ」

「どういう……」

「セレナは聖剣を借りるでしょう?」

そうだ、そしてオーギュストを聖騎士にする。オーギュストに聖剣をわたすのだ。

(……ちょっと待って)

――そんなこと、普通の何の能力も持たない人間に、可能だろうか。

「あとづけっぽい設定だけどFDで解説されるの。リリアはセレナの能力を見抜いて、聖剣を貸したんですって。――正確には、聖剣の力の、ほんのひとかけらを」

「ちょっと、なんの話よ」

「でもセレナはそれを聖剣という形に増幅させてオーギュストにわたす」

リリアがセレナの手をつかんで、神剣を持たせる。そしてセレナの顔をのぞきこんだ。

「さあ、ゲームどおり私があなたに教えてあげる。大丈夫、フラグは立ってるわ。よく頑張ったわね。オーギュストは十時間、あなたを待ってくれたんでしょう?」

「何、何の話よ! いったい、オーギュストに何の関係が」

「あなた自身は何もできない。でもあなたは、他人の力を増幅させる。もちろん一番大事なのはあなたの気持ちよ。でも、体液でもドーピング程度にはなる」

そう言ってリリアは、隠し持ったナイフで神剣を持つセレナの腕を斬りつけた。

薄い絹と一緒に皮膚を薄く切られたセレナの腕から、赤いものが小さく飛び散る。

「魔力だろうと、聖なる力だろうと」

呆然としているセレナの腕を伝い、ぽたりと赤い玉が、神剣の錆びに落ちた。

「滅びかけの神剣だろうと、まだその力が残ってさえいれば」

瞬間、神剣が光り輝いた。