軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96.荒野の都市?

目の前に荒野が広がっている。

ここはリーヴリル王国のお隣に位置する、サザントグルナという国。リーヴリル王国の東部に広がるセガーラ平原を更に東に進めば、サザントグルナとの国境にぶつかる。と言っても、この二国間に明確な国境というものがないんだよね。一応、平原側がリーヴリル王国で、その東がサザントグルナという認識みたいだけど。

「話には聞いていたが、ここまではっきりと環境が変わるとはな……」

「本当だね」

ローウェルの言葉に同意する。

こういう平原と荒野の境界って普通なら徐々に変わっていくものだと思うんだけど、くっきりと境界線が引けそうなくらいに環境が激変しているんだよね。僕らが今いるあたりはまばらとはいえ草木が生えてるけど、更に東へ進んでいくと完全に不毛の大地になるらしい。農地としてはとても使えないし、有望な鉱床があるわけでもない。そんな場所だから、リーヴリル王国側が領土的な野心を抱くことはないし、サザントグルナ側も細かい国境にこだわったりはしないみたい。

そんな感じで、サザントグルナはあまり人が住むのに適した環境じゃないんだ。それなのに、なぜ国ができたかというと、何らかの理由によって祖国を追われた人たちの集合体が元になっているのではないかと言われている。といっても真相がわからないほどには古い国だ。森人という長寿種族がいるにも関わらず、起源がわからないっていうのも凄い話だよね。

でも、この世界だと建国から数百年という国家は少なくない。その割には文明が進んでいない気がするけど、それは魔物被害が原因だ。過去に何度か魔物の大発生が起きていて、そのたびに文明が崩壊しかけているみたいなんだよね。

一応、道らしきものはある。まあ、整備されているわけじゃなくて、荷馬車や人が通った跡が残っているだけだね。歩きやすいわけじゃないけど、街がある方向が分かるだけでも有り難い。

しばらく歩くと、周囲の様子も変わってきた。本当に草木すら生えない荒れ果てた大地だ。砂煙が巻き上がるので視界もよくない。

『むぅ。こんなところに街があるのか?』

「たしかに、ちょっと心配になってくるよね。もうそろそろのはずなんだけど……」

見渡す限り土と 石塊(いしくれ) しかないような環境だ。普通なら人里を見落とすこともない。とはいえ、僕らが目指しているアイングルナは普通の街とはいえないんだけどね。

「どんな街なの? ダンジョンがあるんだよね?」

ハルファが小首を傾げて尋ねてくる。目的地は僕とローウェルで相談して決めたから、ハルファは街のことについて詳細は知らないんだ。

「ダンジョンがあると言うのは間違いじゃないけど、正確でもないかな?」

「んー? どういうこと?」

「せっかくだから秘密にしておこうかな」

「えぇ? もう、気になるじゃない!」

ハルファはちょっと怒ったようなそぶりを見せるけど、すぐにクスクスと笑い出す。

「そこまで言うなら楽しみにしてるね!」

「きっとビックリするよ」

僕も、街の存在を知ったときには驚いたからね。

さらに、歩いていると岩場が見えてきた。ゴツゴツとした大きな岩石が転がっているのがわかる。特に目を引くのが巨大な二本の石柱だ。まだ距離があるので規模がわかりにくいけど、明らかにでかい。道はその二本の石柱の間を抜けるように続いている。

「え? どうなってるの?」

「なんだろう……、不思議な感じだね」

ある程度近づいたところで、ハルファとスピラが戸惑いの声を上げた。というのも、雲一つない晴れ空なのに、二本の石柱の間には 靄(もや) のようなものが掛かっているんだ。そのせいで道の先が見通せなくなっている。明らかに自然現象ではない。

そろそろネタばらしの時間かな。そう思ったときにシロルが正解を言い当てた。

『街に行くんじゃないのか? この先はダンジョンだぞ?』

「ああ、うん。間違ってないよ。だって、目的地はダンジョンの中だから」

そう、目的の都市――アイングルナはダンジョンの中にあるんだ。ビックリだよね!

石柱の近くには小さな小屋がある。いや、石柱に比べると小さく見えるだけで、ごく普通の小屋だ。それだけ石柱が巨大だってことだね。小屋の前には二人の冒険者のような格好の男性が立っていたんだけど、ある程度近づいたところで、そのうちの一人が声をかけてきた。

「やあ、旅人かい? ここはアイングルナのゲートだよ。もちろん、知ってるよね?」

「はい。えっと、何か検査みたいなものがあるんですか?」

「あ、いやいや。そういうわけじゃないよ。俺は案内係のようなものだね。こんな何もない荒野を歩いてくるんだから、たいていの人はアイングルナを目指してやってきた訪問者さ。だから、これがゲートだってことは普通知ってるんだ。でも、ゲートがこんなだろ?」

案内係の男性は振り返りもせず後方を指し示す。

その先は、巨大な二本の石柱に挟まれた不思議な空間だ。不思議な靄がかかって先が見通せない。『こんな』というのは、そのことを指しているんだろう。

「この先に目的地があるとわかっても、初めて足を踏み入れるときは抵抗があるらしいからね。慣れてしまえばなんてことはないんだけど」

男性は小さく苦笑いを浮かべた。

確かに、アイングルナの情報を知っていたとしても、よくわからない空間に足を踏み入れるのは抵抗がある。せめて、先の光景が見えていれば心情的にも楽になるんだけどね。

「そんなわけで、俺が案内役として先導することになってるんだ。まあ、はぐれるようなこともないから気軽についてきてくれればいいよ。問題がなければ、さっそく案内するけど……大丈夫かい?」

男性に問いかけられて、僕たちは顔を見合わせる。戸惑いはあっても、忌避感はなさそうだ。むしろ、未知の体験にワクワクしているみたい。実は僕もなんだよね。こんな風にゲートで隔てられたダンジョンというのは珍しいんだ。

「はい、大丈夫です」

「よし、それじゃあ、ついてきてね」

穏やかに笑って、先を行く男性。僕たちは慌ててその跡を追った。当たり前かもしれないけどゲートをくぐっても特に違和感はない。あいかわらず靄がかかったような状態だけど、男性の背を見失うほどではなかった。

そのまま少し歩いていると、不意に靄が晴れた。ゲートの向こう側に出たんだ。

さっきまで荒野のど真ん中にいたとは思えないほどに、周囲の様子は一変していた。そこにあったのは間違いなく街だ。中央に大通りが走り、その左右にはしっかりとした建物が幾つも並んでいる。通りを歩く人々も活気に満ちあふれていて、魔物の恐怖に怯えた様子もない。さすがにリーヴリルの王都であるガロンドに比べると見劣りするけど、大都市と言っても差し支えない。

ここが、アイングルナ!

ダンジョンの中とは思えないような光景だね!