軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95.祝勝会と……

ジュウジュウと音を立て肉が焼ける。溢れる肉汁が食欲をそそるね。肉汁は後でソースに使うつもりだ。今日はデミグラスソースにしてみようかな。

『ま、まだか! まだなのか!』

「あはは、まだだよ。もうちょっと焼かないとね」

待ちきれないといった様子で、シロルが僕の足に纏わり付く。それはいいんだけど……。

「うわぁ……。シロル、口元がよだれでベトベトだよ」

『仕方がないだろ、匂いだけでも美味しそうなんだ!』

確かに暴力的と言っていいほど食欲をそそる匂いが部屋に充満している。だからといって、よだれ塗れの顔をこすりつけられるのはちょっと困るんだよね……。僕のズボンまでベトベトになってしまう。まあ、もう手遅れな気もするけど。

「今日は他にも何品か作るからもうちょっと時間がかかるよ。我慢できないなら、ローウェルと一緒にパールさんの手伝いをしておいでよ」

『むぅ……、そうするか』

シロルは渋々と言った様子で台所を出て行った。

パールさんの家の庭には大きな薬草園があるんだけど、品質を保つにはこまめの手入れが必要みたい。お世話になっている身の上だから、僕たちも時間があればその手伝いを買って出ている。

今日は料理コンテストの優勝&準優勝のお祝いだ。ハルファたちの獲得した竜の肉はシロルのリクエストに従い、ハンバーグになった。具材には竜の肉にプラスして、ストラーヌという植物の根を使っている。ストラーヌは一時的に筋力を上昇させるパワーアップポーションの素材として使われる植物なんだよね。つまり、このハンバーグは薬膳料理として作ってるんだ。

薬膳料理スキルはわりと自由度の高いスキルだった。ストラーヌみたいなポーション素材にも使える植物を調薬スキルで適切に処理した後は、ほとんど普通に調理するのと変わらない。ストラーヌを使えば筋力を一時的に増強する料理ができるし、他の薬草を使えば別の効果を持つ料理ができあがる。

ポーションとの違いは上昇幅と持続時間……かな。ポーションに比べると薬膳料理は上昇幅が控えめで、代わりに持続時間が長い傾向にあるみたい。もちろん、作成者のスキルレベルに大きく左右されるけどね。

面白いのは、薬膳料理の場合、食べた人の満足度によってバフ性能が変わるということかな。つまり、食べる人の空腹具合や好みに影響を受けるんだ。もちろん、料理の美味しさにもね。

例えば、ストラーヌはちょっと癖があるので、それを使った料理を苦手に思う人もいると思う。そうなると、得られるバフの効果も下がっちゃうんだ。まあ、その辺りはいかに美味しく食べて貰うかという調理者の腕の見せ所だね。

つまり、作成者の調理技術とセンスが大きく影響する。実際、薬膳スキル自体にはレベルがなくて、調薬スキルと調理スキルによって出来が左右されるんだよね。

「うわぁ、すごい綺麗に盛り付けたね!」

「えへへ、そうかな?」

向こうのテーブルではハルファとスピラが付け合わせのサラダを作りながら話している。簡単な料理はハルファたちも手伝ってくれるんだよね。料理自体は嫌いじゃないから負担だとは思っていないけど、たくさん作るとなると時間が掛かるから手伝ってもらえるのは助かる。

そう言っている間にハンバーグがいい感じだ。外はかりっと、中はふわっと……になってるはず! ハンバーグは一旦お皿にのせて収納リングに収納。こうしておけば、冷めることはないから便利だ。あとは、ソースを作ればメインディッシュは完成だ。あとは、薬膳料理を何品か作ろうかな!

「ハルファとスピラ、優勝をお祝いして、乾杯!」

「乾杯!」

『食べるぞ!』

僕の宣言で食事会が始まった。シロルはすでに猛然とハンバーグにかぶりついている。いつもなら念動でナイフとフォークを使って器用に食べるんだけど、よほど我慢できなかったのか、直接いったね。まだ、熱いはずなんだけど大丈夫なのかな?

『あっついぞ!』

やっぱり大丈夫じゃなかったみたい。

シロルは涙目になってベロを出してひぃひぃ言っている。仕方がないから、ファーストエイドをかけてあげよう。

「もう、熱いに決まってるでしょ」

『が、我慢できなかったんだ! 今度はゆっくり食べるぞ!』

今度は慎重になったみたい。ナイフとフォークで切り分け、ふぅと息を吹きかけてから、ぱくりと口に入れる。

『うまい!』

よほど美味しかったのか、尻尾が今までにないぐらいのスピードで振られている。気に入ったみたいだね。僕も食べてみよう!

口に入れた瞬間に肉の旨味が広がる。味が濃い……というと語弊があるよね。なんていうか、肉の存在感が凄いんだ。噛みしめるごとに強烈な旨味が押し寄せてくる。ソースも作ったけど、これはもっとシンプルな味付けの方がよかったかもしれない。

同時に身体の底から力がわき上がってくる。これは薬膳料理としての効果だ。竜肉という高級素材を使ったせいか、効果がずいぶんブーストされている感じがする。ただの食事として消費してしまうにはちょっともったいなかったかもしれないね。まあ、野暮なことを考えるのはやめておこう。お祝いとして作ったんだからね。

「ほぅ……。竜肉を使ったとはいえ、なかなかの効果じゃないかい」

パールさんからの反応も悪くない。味と言うよりは薬膳料理としての評価だけどね。師匠であるパールさんにそう言ってもらえればひと安心だ。今回の食事会は、パールさんに薬膳料理の上達を見てもらうという目的としていた。というのも、料理コンテストも終わったので、そろそろ王都を離れようと思っているんだ。そのことはパールさんにも伝えてある。検定試験というわけではないけど、この機会に成果を見せろというのはパールさんからの指示だったんだ。

「まあ、たいていのレシピも教えたし、あとは腕を磨くだけだ。本業というわけじゃないから難しいかもしれないが、できるだけ腕を鈍らせないように定期的に調薬スキルを使うようにするんだよ」

「はい!」

うん、どうにか及第点はもらえたみたいだ。これで憂いなく旅立てるね。