軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

212.銀の異形兵

銀の腕は、指の一本が人と同じくらいの大きさだ。あんなものに叩きつぶされたら、無事ではすまない。だから、僕たちは少し距離をとって、観察していたわけだけど。

「……なんだ? まさか攻撃か!?」

異変に気づいたローウェルが叫ぶ。

銀の腕がゆらりとこちらに手のひらを向け、わなわなと震えだしたんだ。

直後、周囲の空間が揺らめき、何かが姿を現した。それらは、腕と同じく不気味な銀色。腕や足、翼といったパーツを適当につなぎ合わせたような異形の存在だった。

「――――! ――――!」

「うぐっ……」

「アバルムさん!」

異形の存在が発する不快な音が心を乱す。意味も無く不安に陥りそうな、そんな感覚。僕らは苦しいなりに耐えられなくもないけど、アバルムさんが蹲ってしまった。

「ら~♪」

だけど、すぐに響いたハルファの歌声によって、少しだけ楽になる。彼女が歌っているのは勇猛のうた。基本的には攻撃力を上昇させる歌だけど、精神的なダメージを軽減する効果があるらしい。咄嗟の判断で歌ってくれたみたい。

「すまない、助かった。こいつらは、邪神の手勢なのか?」

「ううん、違うと思う。もっと、異質な……別の何かだよ」

アバルムさんの言葉をスピラが否定した。僕も同意見だ。

邪神の手先とは何度か戦ってきたけど、気配が違う。こいつらがもたらすのは不理解に対する不安。決して相容れないと、本能が理解しているが故の拒絶感。そんな感じがする。

もっとも、そんな感情を抱いているのは、僕らだけじゃなくて、奴らも同じみたい。銀の腕によって産み落とされた異形たちは、数が揃うと一斉に襲いかかってきた。

「〈クリエイトゴーレム〉」

さすがに、まともにやり合うには数が違いすぎる。いつものように、巨大ゴーレムを作り壁になってもらう。聖地を荒らしてしまうことになるからアバルムさんには申し訳ないけど、そんなことを言っている場合じゃないからね。

道幅の狭い峡谷をゴーレムで塞いだので、異形の存在は大渋滞を起こしている。それでも数体が、ゴーレムの隙間から僕らの方へとやってきた。

「……何!?」

「馬鹿な!」

迎え撃ったローウェルとアバルムさんから驚愕の声が上がる。彼らが放った斬撃はたしかに異形の存在を切り裂いたように見えた。しかし、奴らは何ごともなかったかのように動き回り、その体には傷一つ残っているようには見えない。

「手応えはあったが……」

「そうだな。精神体ではあるまい。だが……」

物理攻撃を無効化する相手には、ゴーストのような精神体の魔物がいる。だけど、それらの魔物とは違うみたい。現に、スピラの氷の蔦に絡め取られた異形兵は身動きがとれなくなっている。

「シロル、雷撃は?」

『駄目だ! 全然効いてる感じじゃないぞ!』

物理的な攻撃だけじゃなくて、魔法攻撃も無効化しているってことか。異形兵の動きは俊敏とは言い難いけど、攻撃が効かないとなると厄介だ。数を減らせない以上、いつかはこちらが倒れることになる。迂闊に逃げれば、こんなヤバそうな奴を峡谷から解き放つことになってしまうし。

そんなことを考えているうちに、異形兵の一体が僕にも襲いかかってきた。その攻撃を躱したあと、無駄だと思いながらも手にした短剣でひと突きする。短剣は抵抗もなく、異形兵の体に沈み込んだ。

「――ガァ!?」

突如、異形兵は短い叫び声を上げた。さきほどの不快な声とは違って、おそらく、それは命の灯火が消える間際の断末魔。絞り出した叫び声とともに異形兵は銀の砂粒に代わり、風に攫われたかのようにサラサラと流れて消えていった。

「トルト! いったい、何をしたんだ?」

「え? 何もしてないよ!」

ローウェルが驚いた声で聞いてくるけど、そんなこと、僕にもわからない。僕はただ短剣で攻撃しただけだ。特別なことは何もしていない。

と言ってる間に、次の異形兵が襲いかかってきたので迎撃。そして、あっさりと塵になるそいつ。

「なるほど、いつものか。よし、俺たちはサポートに徹する! トルトは奴らを殲滅しろ!」

いつものって何さ。

ちょっと言いぐさに納得できないものを感じるけど、僕の攻撃だけが異形兵に通じるのは確かみたい。だから、ローウェルの言葉に従って、異形兵を一体ずつ短剣で刺していく。

あまりにもあっさりと消えるので、ちょっと騙されているような気分。でも、あいかわらず、ローウェルやアバルムさんの斬撃には平気で耐えるんだよね。いったい、どうなってるんだろう。

ともかく、異形兵を一体ずつ確実に砂に変えていたんだけど、さすがにちょっと面倒になってきた。なので、ゴーレムの向こう側にシュレッディングストームを放ってみる。短剣と違って無効化される可能性もあるけど、物は試しだ。

巻き上がる旋風。風の刃が異形兵を切り裂いていく。そのたびに、サラサラと流れる銀の粒がキラリと光る。なんだか、思った以上に綺麗な光景だ。

風が消える頃には、異形兵は全て砂になったみたい。さっぱりと綺麗にいなくなっていた。

「いったい、どういうことだったのだ……」

僕の攻撃だけが何故有効だったのか。理解不能という表情で呟くアバルムさん。

正直に言えば、僕も同じ気持ちなので、それには何とも……。