軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30.魔晶石が呼ぶ影

驚きのあまり息を吸うことも忘れてしまい、兄様に腕を掴まれてようやく息苦しさに自分を取り戻す。

「セラフィーナ、馬は用意した。行くなら手配は済んでいる」

「……はい」

「それはこちらで騒ぎが起きたころに私宛に父上から届いたものだ」

「……はい」

ルーカスが、テネリタス領で行方不明。それは、私にこれ以上ないほど衝撃を与えたのだ。

「セラフィーナ!」

「はい、聞こえておりますよ、兄様」

「ならば直ぐに出よう。許可はもうもらっている」

だが、私は首を振る。

「いいえ、まだこちらが終わっておりません」

「セラフィーナ?」

レナード兄様が眉をひそめた。

「私は今王女殿下の護衛としてこの学園におります。今回のことに決着をつけてからでなければ移動は難しいです。色々と気になることが残っております。グレイドル先生!」

驚きに身を固める兄を置いて、私はハンナの腕を掴んだままのグレイドル先生の元へ。

「聞きたいことが色々とあるのですが」

「あ、ああ。いいのか? 何か伝えに来たのだろう?」

「問題ありません。それよりも、マキナ先生とカンデュース先生、ハンナと一緒に少し話をしたいです」

先ほど微妙に誤魔化されたところをはっきりさせておきたい。

ハンナの持ち込んだものがアランタ王国由来というところも気になる。

最近その近辺の話が多すぎるのだ。

他の先生方は生徒たちの保護に忙しい。騎士たちも己の職務がある。

人数を限定して話すことはそう難しくはなさそうだ。現場は大変混乱している。

「……隣の部屋へ」

マキナ先生とカンデュース先生、そしてハンナを連れたグレイドル先生。

さらに、レナード兄様。

「レナード殿は……」

「セラフィーナがこの状況を置いてそちらの話を聞きたがる理由を知りたい」

遠慮願いたいというカンデュース先生の言葉を遮るように宣言する。すると、私が握りしめた手紙に視線が集まる。

だがそれ以上余計なことは言わずに彼らは移動した。ハンナは、どこか楽しそうにしている。話したいのに話そうとすると首の拘束具がきゅっと締まって一瞬顔をしかめるが懲りないようだ。何度も口を開き掛けては眉間にしわを寄せていた。

隣の部屋は小さなもので、テーブルが数個あるだけだ。もちろん座る気は一切ないし、早く話を始めたい。

「グレイドル先生、ハンナに発言の許可を」

「……いいのか?」

「確かめねばなりませんので」

話をさせなければ始まらない。

「……こんにちは、皆様」

「ハンナさん、貴方があの狼の魔物を呼び寄せたのですか? アランタの魔道具で?」

回りくどい聞き方をするには情報が足りないので、直球で尋ねる。だが、彼女は微笑むだけで何も言わない。

「確かに、魔物を閉じ込める魔道具を開発して運用していると聞きましたが、このような方法ではなく魔物の研究のためにとは聞いております。しかし、アランタですか……」

マキナ先生の言葉にカンデュース先生も頷いていた。

「アランタがイクターラバの王子を襲う理由があまりわかっていないのですが……」

すると、今度は声を出してハンナが笑う。

「本当にわからないの?」

一応考えていることがあるのはある、が、材料が足りなくて繋がらない。

「先生、あの箱の件を教えてください」

鍵を掛けただのどうのと言っていた、あの箱だ。

血の結界の中で守っていたはずのあの鍵で開く小屋の箱の話だ。

「箱の中身が、魔物とどう関係があるのですか?」

私の言葉に二人の先生は押し黙り、ハンナが高笑いをする。

「そりゃ言い出しにくいわよね。そりゃ、自分たちが禁じた研究が原因なんて」

「禁じたのは、それを確かめる研究だ。あれの性質は研究者の間では知られていることだ」

カンデュース先生が低い声でハンナの言い分を押さえ込む。

そして、額を手で覆った。

「やはりローグレイルが関わっているのか」

絞り出すような声にハンナはまた笑う。

「説明を頼みたい。簡潔に」

レナードお兄様が言うと、マキナ先生は諦めたように話し始めた。

「今回、学園周辺には魔物よけの魔道具が設置されているにも関わらず魔物がやってきたのは、魔晶石のせいです。魔晶石には、魔物を引きつける作用があると研究でわかっています。地中にある分にはその効果は弱まりますが、空気に触れれば魔物を誘うのです。ですから、管理は厳しく、輸送時には密閉した箱に入れて移動します。そういった空気に聡い動物がたまにおり、魔物の多い地域では使えない。王女殿下が学園にやってきたとき、馬が暴れた原因はそれであろうという話はすでにセラフィーナさんから伝わっているかと」

「馬が魔晶石などを怖がることがあると言うことは知っていたが……魔物を引きつけるという話は初耳だ」

レナードの言葉に私も頷く。

「少し考えればわかるだろう? おおっぴらに広めてはいけないことだと言うことは。だが、魔晶石を扱う研究者なら誰でも知っていることではある。国が露出して見つかった魔晶石を厳重に管理するのもここにあるんだ。下手に流通させてはならない」

杜撰な管理で出回れば、そこに魔物が出現することとなる。

「息子のローグレイルは、その魔晶石の中にも核があることに気付いた。それを地中に埋めればまた魔晶石が増やせるという予測を立て、研究をしていたんだ。そして、実際に実験をしてみたいと。……それは許可できない実験だった。魔晶石を地中の浅い場所に設置し、魔物の集まり具合と魔晶石の成長の具合を実験したいと言い出し、やがては独断で行おうとして学園から追放された。領地の屋敷で静かにしているかと思ったのだが……二年ほど前に姿を消した」

「お父様の研究は素晴らしいものだわ! 魔道具は便利だけれど魔晶石がなければなかなか使えない。魔晶石を人工的に増やすことができれば、魔道具が作りたい放題になる。書類を何枚も何枚も書いてやっと小さな欠片を得る今のやり方が変わるわ。お父様の研究はこの世界のためになるものなのに、頭の硬い奴らはわかっていない。これがどれだけ素晴らしいことなのか。どれだけ偉大なことなのか」

「魔晶石を使えることは確かに素晴らしいこととなるのかもしれぬが、その過程でどんな事態を引き起こすかわからないことに許可など出るはずがないだろう」

カンデュース先生の言葉にハンナは呆れたような表情で肩をすくめる。

「偉業の前のちょっとした犠牲でしょう? 未来のための必要な犠牲だわ。お父様は理想を追い求めた。結果が現れた。実験は成功したとこの間連絡を受けたの。お父様の邪魔はしてもらいたくないのよ」

邪魔はしてもらいたくないという言葉に、やっとわかった気がする。

「兄様、テネリタスにさける戦力は?」

「学園の警戒に……そうか……」

私の質問で兄も理解した。

この学園には各国からの要人が集っている。そこで何かあれば国は全力で学園へ武力を回す。騎士団は必要以上にこちらにさかれるだろう。

「テネリタスで魔物が増えたのは、その核を埋めたの? それとも研究所を作ったの?」

「考え無しのセラフィーナと呼ばれていたセラフィーナ先輩らしからぬ頭の回りようです。本当にあなたはセラフィーナ先輩なのですか?」

からかうように笑うハンナが一番答えに近いのが笑ってしまう。

「兄様、テネリタス領に行って参ります。王女殿下に謝罪を」

「ふんっ、すでに殿下からは行ってこいとの命をいただいているし、私ももちろん行く」

要所要所に早馬の準備はされている。騎士団を率いる兄様は少し時間がかかるだろうが、私は最短の時間で行くことができる。

「それでは失礼いたします。あ、マキナ先生。研究室にある試作品を持ち出す許可をくださいませ」

「ああ。いいよ。実地試験だ」