軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.狼の魔物と緑の結界

残りの狼の魔物は一斉にこちらを向いた。

先ほど、寮の守りを破壊するのに結構な魔力を使ってしまった。しかし私にはまだ腕力が残っている。剣にオーラを纏わせるよりも、体に纏わせる方が扱いやすい。

まずは一匹。

私が踏み込むと魔物は一斉にこちらへと向かった。

私の知っている狼の魔物、ウォーウルフによく似ているのだが、どこか違っている。体の大きさや尻尾の太さがどうもちぐはぐなのだ。どこか普通と違う。

向かってきた中でも一番遅いものの背後に一気に移動する。この瞬歩とも言われる歩行術はフォルツァに伝わる技術だ。相手のスピードの少し先を読み、動く。

魔法も大切だが、やはり拳。拳あってこその魔法だ。

魔物の脇腹に触れるか触れないかで発動する。

「ウィンドカッター」

拳とともに無数の風の刃が魔物を襲う。

生き残れるはずがないのだ。

体をひねって返り血を避け、腕を振るうと拳の血が床に落ちる。

あと二匹。

この魔物、動きもいい。

それでも今の私の敵ではなかった。

そうなると余計なことに頭を回し始める。いったいなぜこのような場所に魔物が?

噛みつこうと横から襲って来た魔物の口を素早く横から殴りつける。さらに不意を突いて後ろから爪を振り下ろすその先に振り上げた足を勢いよく落とす。

「ウィンドサーチ」

周囲にこれ以上魔物がいないことを確認し、私はデルウィシュ王子たちのウィンドディヴィジョンを解いた。

私が倒したのはたった四匹だ。

しかしこの場にはその倍以上の狼が転がっている。

「酷い怪我ですね」

「セラフィーナ殿、ありがとう、助かった」

意識があるのはカノと王子のみだ。

「二人を医務室へ運びましょう」

「いや、その中に女子生徒もいた。そちらも……」

「ああ、そうでしたね」

そうそう、すっかり忘れていた。やはり全体を見るのは難しい。

普通より小さめに作ったウィンドディヴィジョンに、縮こまるように丸まって収まっていたハンナに手を差し伸べると、彼女は目に涙を溜めながら私の手を握る。

そして、組み伏せる。

「セラフィーナ!?」

「キャアっ!!」

腰から拘束用の魔道具を取り出し首にはめる。これで自害することもできなくなる。

「セラフィーナ、何を……」

「殿下は少し動揺しておられるようですね。女子生徒が、男子寮にいること自体がおかしいのですよ?」

私がにっこり笑うと、二人ははっと息を呑んだ。

「せ、セラフィーナ様、私、その、魔物に追われて……」

「追われて、向かい合った別の建物である男子寮の二階に現れた、と?」

「みんな混乱していましたし、私は研究棟からこちらへ入ってしまったのです」

「ああ、そうですか」

ぐいっと肩を掴み上げて無理やり立たせる。真っ直ぐ瞳を覗き込んで問う。

「お父様のお名前を聞いてもよろしいですか?」

すると、目に涙を溜めて辛そうにしていた彼女の顔から表情が抜け落ちた。

その変化にデルウィシュ王子とカノが目を見開く。

同時に、複数の足音がした。

「セラフィーナ!」

「グレイドル先生、人の手が必要です。怪我人がおります。ハンナは拘束済みです」

寮は大変混乱しているので、研究棟の医務室へ運ぼうという話になる。

意識がない者を担いでいくのは効率が悪い。

「ちょっと失礼いたしますね」

近くの部屋の扉の蝶番を殴る。

うむ、直ぐ壊れる。この程度で壊れるとは情けない。

扉を外しそこへアキンを寝かせた。

「まあ、担架を取りに行く方が時間が掛かるか」

逃げ遅れて部屋に籠もっていた生徒に手伝わせ、運ばせる。

チェリクは意識を取り戻しており、カノに肩を貸されて歩いて行った。グレイドル先生はハンナを連行し、私はデルウィシュ王子の護衛役を一時的に申し出た。

「王宮からの騎士団が直ぐに参りますので、そうしたら交代いたしましょう。しばらくわたくしでご辛抱くださいませ」

「本当に、惜しいな。あちらの派閥でなくても、君をイクターラバに招きたいと思ってしまうよ」

悪いがそれは叶わぬ願いだ。諦めていただこう。

移動中、セラフィーナが駆けつける前にあったことを王子がぽつりぽつりと話す。

「あの娘が魔物を背に走って来たのだ。この騒ぎになって、外にいて戻ってきたところだった。部屋に入る前に、魔物の声と、女性の叫び声がした。気づけば囲まれ、このざまだ」

「殿下たちが戻って来たところを狙ったのでしょうが……魔物がタイミング良く出てくることなんてあるのでしょうか……?」

「そういった魔道具があるのは知っている。イクターラバで使われた事例もある」

それならば突然寮内に現れたというのもうなずける。

「だが、どちらかというとあれはアランタ王国で開発されたものだったと記憶している」

「アランタ……よく、わからなくなってきました」

「どこも一枚岩ではないとはいえ、関わっている技術がどうも、不穏だ。ヴィクトリアは王城にいるのだな?」

「はい、そう連絡が入りました。こちらが落ち着くまで待つと」

「ならばよい」

そう言い切るデルウィシュ王子の横顔は、今までの態度と違えることのないもので安心する。

二人はこのまま上手くいって欲しいなと心底思えるのだ。

だからこのわからない状態をどうにかしないといけない。

研究棟の教員が集まる場所へ辿り着くと、騎士団も同時に到着したようで、部屋の中は人でごった返していた。

「デルウィシュ殿下!」

数名の騎士が駆け寄る。

「セラフィーナ、ご苦労だった。この後はこちらで警護を引き受ける」

「よろしくお願いします」

そして入れ替わりにレナード兄様が来る。表情が硬い。

「セラフィーナ、これを」

細く巻かれた紙だ。たぶん、魔鳩の足にくくりつけられていた文書。

「我々は直ぐに出る準備はできている」

その不穏な言葉に、紙切れを開くことをためらう。

なぜ今日は、こんな風に次々何かが起こるのだろう。

それとも、これも含めてなのか?

全部繋がっているのか?

『テネリタス領にてルーカス行方不明』

そう、書かれていた。