軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.素材採取のお誘い

剣技のグレイドル先生から素材狩りに行こうと言われたのは、ウィンドサーチの魔法の新しい使い方を、城の魔法使いたちに教えてからしばらくしてだった。

城の魔法使いたちは最初はわけがわからなかったようだが、従来の方法で、いつも自分の身を危険に置いているという危機感は持っていた。そのおかげか熱心に取り組み、習得後はすぐ運用し、さらに効果的な使い道について話し合っていた。

ただ、ウィンドディヴィジョンを通り抜けるのは難しいようだ。一人だけ、一瞬通り抜けたように思われたが、その後すぐ弾き飛ばされていた。皆、理屈で考えすぎなのだ。だからすべて理屈で証明できるウィンドサーチ習得はすぐにできた。

ウィンドディヴィジョンだってできるはずだ。

なぜなら私はできているのだから。

できるものはできる。

そう言い切ったときに、彼らは一様に口をもごもごさせていた。

「素材ですか?」

「ああ、サイモンがな、魔道具を作るのに必要なものを手に入れたいっていうんだ。少し峠の先の森の奥までいかなきゃならん」

「私は王女殿下の護衛なのですが……」

ほいほいついていけるわけがない。学園内でこれだけ自由にさせてもらっているのに、これ以上は無理だ。

「わかってるが、ほら、お前の魔道具に使うための素材なんだとよ。購入しようかと思っていたらなかなか入荷しないって話だ。それなら採りに行こうぜって俺が言ってやったのさ」

私の魔道具の……そうなると話がちょっと変わってくる。

私の戸惑いを察知したのか、グレイドル先生はさらに理由を並べ出す。

「普通に購入すると結構かかるらしくてな。まあ、入荷がないっていうくらいの物なんだろう。俺に一緒に行ってもらえないかって聞くくらいだ」

自分の魔道具のために先生方を危険にさらすのは本意ではない。

「うう……相談して参ります」

「おう」

ということだったのだがすでに手回しが終わっていた。

「セラフィーナが考えた魔道具なのでしょう? あなたが素材を採取しに行きたいというのは当然のことだわ」

しかも私から言い出したことになっている。

「前から言っているように、護衛としてのセラフィーナは最初から頭数に入っていないのだ。色々とあって大変助かってはいるが、本来私とゾーイ、二人でやらねばならぬ仕事だ」

後ろで普段から無表情なゾーイが、顔色ひとつ変えずに頷いていた。

「マキナ先生はとても優秀な方で王族の覚えもめでたいの。セラフィーナの素材といいつつも、素材採取は同時にいくつも行うんでしょう? 彼への恩は売れるだけ売っておきなさい」

にこりと笑うヴィクトリア様の笑顔は、王族のそれであった。

天候などを考え、王女が城へ帰る休日とプラス1日で行くことになった。

素材は魔物から採るもので、罠の仕掛け方や、同時に採取できるもの、効率を考えると朝早くから出掛けねばならない。携帯用の食事や採取道具などを持って、馬房へ行くと……人数が多い。

明らかに予定外の生徒たちが十名ほどいるのだ。

「先生?」

にっこり笑って問うと、グレイドル先生もまたいたずらっ子の笑みを浮かべる。

「良い訓練になるだろう?」

「……」

「来年から騎士団への入団希望者ばかりだ。少し早い新人訓練だと思えば間違いないだろう」

「おかしいと思ったんですよ。森への道中が予想以上に長くとってあって、マキナ先生を思ってゆっくり行くのかと考えていたのですが、彼らも含めてですね」

「そういうことだ。お前さんのやり方でいいから、しごいてやってくれ」

私のやり方。つまり、フォルツァの、か。

「仕方ありませんね」

私とグレイドル先生の話を心配そうに見ていた生徒たちの顔が華やぐ。

ふっ……そんな顔をしていられるのは今のうちだけです。

「マキナ先生も準備はいいですか?」

「はい、問題ありません」

「それでは、行軍です。行きましょう」

私は小さい荷物を担いで走り出す。

「セラフィーナ!? 馬は!」

「先生、何をおっしゃっているのですか。一兵卒は徒歩です。日が暮れてしまいます。行きます」

そう言い放ち、私は全力で走り出した。

久しぶりの行軍に、私も衰えたなと思った。毎朝稽古はしている。走り込みもだ。しかし、連日多対一の剣の稽古や、朝夕の走り込みをしていたことを考えると、体作りにかける時間は大幅に減っていた。

こういったあからさまな衰えに出会うとは、やはりもう少し運動時間を増やすべきだろうか。いやしかし、これ以上増やそうとすれば何かを削ることになり、それは魔法関係の事柄だ。そちらは今削りたくない。となると……もっと効率的な、そう、効率的なワークアウトを。

などと考え事をしながら走っていたら、急に隣から怒鳴られる。

「セラフィーナ! おい! 聞いているのか!?」

「はいっ!! ……なんでしょう?」

「なんでしょうじゃねえっ! お前後ろ見てみろ。駆け足が速すぎるんだよ。全力だろうそれは」

「もっと速く走れと?」

「そうじゃない、後ろを見ろ! 学生がまったくついてこれていない!」

どうやら考え事に没頭しすぎるあまり、かなりのスピードが出ていたようだ。

「ああ、すみません、もう少し落とさないと無理なのですね」

仕方なくゆっくりスピードを落としていく。

生徒たちの一番最初の者が追いついたところで、大きな声で後ろに向かって叫んだ。

「今の七割くらいの速さで参りますよ。この程度は余裕でこなせねばなりません」

「セラフィーナ……」

横を馬で走るグレイドル先生が小さく名を呼ぶのは聞こえたが、私はもう走り出しているのだ。

しかし本当にこれくらいの速度は当たり前に出せねば、フォルツァでやっていくことはできない。これは騎士となったら当然求められる能力だ。

これくらい出せないと、樹林の奥へと行くまでにどれだけかかるか。まだ平坦な道なだけマシだと思う。

一時間ほど遅れて、予定していた森の外までやってきた。

「それでは小休止のあと罠の候補地を探しに参りましょう。前から五人は私と、後ろの五人はグレイドル先生に従ってください」

後ろから五人の生徒がわあと声を上げていた。やはり現役の先生に習うことは糧となると思っているのだろう。だがしかし、私は今回素材となるロロノリア 鳥(ちょう) 狩りの名手なのだ。

彼の鳥は、樹林でもかなり辺縁のあたりにいて、小さな私でも上手く罠を張れば捕まえられた。

ロロノリア鳥は肉は臭みがなく脂がのって美味しく、羽根は色鮮やかで羽根ペンの高級品に使われ、胆石や嘴、爪が魔道具の材料となった。

「つまり、どれも大切な資源となるので、なるべく傷をつけずに捕獲することが必要とされます」

体を休めている間にと、私が説明しているのだが、生徒たちは誰も彼も黙ったまま下を向いている。

大丈夫か?

首を傾げていると、先生が笑う。

「今こいつらは全力で体を休めてるんだよ。耳はそっちに向いてるから大丈夫だ」

「ならいいのですが」

「さあ、そのまま罠の設置まで説明しておいてくれ。森に入ってまごつかないようにな」

「わかりました」

一生懸命説明したのだが、反応が乏しく、本当に大丈夫か不安になる。

そんな私をグレイドル先生とマキナ先生が笑っていた。