軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.ウィンドサーチ改

中はさらに多くの、本来ある通路を防ぐ土壁が存在した。

私は気づきながらもその誘いに乗る。

わあ、とまた声が聞こえる。今回は近い。

たぶんこの先、すぐそこにいる。

問題は相手が土魔法の使い手ということだ。こういった地面が土の場所でとても力を発揮する。もしすでにこの下の地面が相手の手のうちにあるとしたら。きっと熟練の魔法使いなら私が近づいた時点で確保しているだろう。穴を掘って沈めてしまえばいい。今回の判定レベルはきっとそれで捕縛とするだろう。

だが、相手はまだ私がここにいることに気づいていないのだ。たぶん、きっと。こうやって罠を張り相手を待ち構える戦法を編み出すくらいには己の魔法を熟知しているのだが、そこから先がまだ発展途上ということか。

ふむ。

これは先達として相手を増長させないよう、私が頑張らなければいけないところ。

くるりと後ろ斜め上方に目をやり、力強く頷く。

目が合ったウェント先生は顔をしかめていた。先生の気配はちゃんとわかっている。だが確かにこの強固な土壁の向こうの生徒の位置ははっきりとはしない。

「ウィンドサーチ」

私は自分を中心に風の円をぐるぐると描き始めた。

これは決められた魔法陣の法則で、当たるとぐにゃりと曲がる。すると術者にはそこに障害物があるとわかるのだ。

この風の魔法の糸は相手には目視できない。自分だけしか見えない探索の糸だった。ただし、接触すればその存在を知らしめる。

糸。

糸と言えばクモの糸。

この世界には、粘度の高い糸を吐いて人を捕まえ体液をすする、恐ろしい魔物もいる。

ふむ。

この風の糸も、ただ探るだけでなく触れた生き物を捕らえて放さないなどの機能があればいいのに。まあ、さすがに今は無理だろうが。

しかし、別の考えが浮かぶ。

「ウィンドサーチ」

場所を変えてさらに探索の糸を伸ばした。

この場にいないのは先のウィンドサーチでわかっている。

「ウィンドサーチ」

次々探索の糸を伸ばす。

やがて、最初の糸に相手の体の一部が触れた。

「アーストレンチ!」

糸の先は元の場所に置いて来た。その場所が沈む。今はそこから真反対にいる。

そして第二陣が触れた。

「アーストレンチ!! なんだ?」

二番目の場所。

優秀な土使いは北西の方角の一部に陣取っていたようだ。そちらに誘導されていたなとあらためて思う。

そしてしばらく糸を止めて、だいたいの場所がわかった私は一気に間合いを詰めた。

「ウィンドディヴィジョン!」

風の防御壁。それの色つきバージョンを自身の前に展開する。

勝負の判定は持っている魔道具に相手の姿を捉えさせるか、相手を捕縛したとき。

私のウィンドディヴィジョン、盾バージョンは私よりも一メートルほど前方に、道の幅に広がっていた。体術で追い詰めるのは無しだと言われたが、この真っ直ぐの通路で追いかけ回すのはアリだと思うのだがどうだ。

それに、相手は恐怖を感じて私に背を向けて走り出した。

その気配を読み取った瞬間、ウィンドディヴィジョンを解除し、魔道具で相手の姿を捉える。

「そこまで!」

「セラフィーナ以外のすべての生徒を退けた君の土魔法は素晴らしかった」

フース先生が私に背を向け逃げ出した生徒に向かってそう励ましの言葉を贈る。

私もそう思います。あのフース先生の迷路を、自分に有利に作り替える手腕は素晴らしい。

「ウィンドサーチを、置いてくるなどというのは前代未聞なのだが??」

「ええと、ウィンドサーチの弱点は相手に到達したときこちらも相手に居所を知られるところです。ですから普通は他の魔法使いの補助を得ながら使うものでした。ただ、今回は一人だったので、どちらの役目も担わねばと思ったのです」

通信の魔道具でサーチした場所を逐一伝えながら探って行くのが一般的だ。そして対象に当たった瞬間魔法を解く。

「そうだ。正しい。君は正しく魔法を理解しているのだ。つまり、今回ウィンドサーチを使える風魔法使いたちは一見有利に見えて大変不利な試合を挑んでいたことになる。相手を捕縛すると言うよりも、相手の位置を正確に把握する。そして正確に把握するためにどのタイミングでウィンドサーチを展開するか、それが試験の肝だった。だが君のあれはなんだ。どうやってウィンドサーチを置いてくるなどといった非常識な真似ができたのだ?」

「ええと……ウィンドサーチは糸だと先生がおっしゃっていたので……」

「そうだ。そうだな。言った。私がそう教えた」

「糸は太い細いがあって、糸はまた細い糸になりますよね? その、つまり、最初は太い糸で魔力をたくさん含む糸で放出します。伸ばしていって、そろそろだなというところで、そこから細い糸を出します。この、元の糸の部分から。同時に私が相手に触れた瞬間相手も魔力をその糸に這わせてこちらを把握しようとするので、この太い根元の部分から細い糸を繋いで移動しました」

ウェント先生が眉間のしわをこれでもかと深く刻んで瞑想していた。

「……もう一度やって見せてくれるか」

「はい」

ウィンドサーチは渦状に広がっていく。これは決められた動作だ。ただ、含ませる魔力の量の問題だ。

「本来触れられたことに気付かれぬよう、この風の糸を細く細くするのだぞ」

「そうですね、ただ、今回はこちらの手元のその場に残すところからさらに細い糸を伸ばして、移動中の私も糸の先に相手が触れたとき、場所を確認できるようにしておかねばなりませんし、そうなっていることを悟られたくなかったので、わざと太めの風の糸で展開しました。そのくらいは魔力の量で調整できますよね?」

ウィンドカッターやウィンドショットで魔力の量の調整は上手になってきたのだ。

「たしかに、自分を中心としての索敵。場所に展開しているから移動は可能……」

だいたい三人から四人のチームを組んで索敵は行う。

騎士団でもそれが基本だった。

そんなことを考えていると私の腕に他人の魔力が触れるのを感じた。すぐさまそれに己の魔力を乗せる。

「あ、ほら、先生が先ほどいた場所の魔力が一番太いので、私は一瞬その場が先生のありかだと錯覚します」

「……物議を醸す技術になるぞ」

「そうですね。今後はこういった事象を想定して動かねばならなくなりました」

ウェント先生は考え事をし出すと長くまとめた髪を無意識に風で遊び出す。

くるくると宙に浮いた髪が渦を巻いていた。

なかなか見ることのできない光景だった。