軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.一緒にお勉強

食事時にアダレットが一緒にと言ってくる回数は減らなかった。だが、ヴィクトリア様とデルウィシュ王子のやりとりもまた変わらない。むしろ、以前よりも親密度が増しているのがあからさまにわかる。

デルウィシュ王子がヴィクトリア様を気遣い、そこに優しく微笑む。

何度となく繰り返されるその風景に、周囲の視線は同情が入り交じるようになった。

私としてもいい加減諦めようと語りかけたくなる大惨事だった。

二人を分かつためには本人の気持ちなどといった隙のない、外交としてのものが必要だろう。

だがそうなってくると疑問も浮かぶ。

アダレットは頭は悪くないのだ。こうやって関わることが多くなり、他の場でも彼女に目をやることが多くなってきた。

間違いなく、頭は悪くない。

悪くないのになぜこのような手段を取るのか?

もしや、これすらも何かの計算の一部なのだろうか、と。

そんな折、朝の訓練の帰りに王子の護衛、チェリクに呼び止められた。

「少し話をしたいのだが……」

「はい、構いません」

私たちは周囲からも護衛として認識されている。

男女ではあるが、どこか人気のないところで話しているところを見られても何ら問題はないだろう。

少し道を逸れて建物の陰へ。

「ごめんね。少し主から相談事があって」

「相談、ですか」

王子から私にいったい何だろう? と思う暇もなく、チェリクが言葉を続ける。

「実は王子がかなり気にしてらして、アダレット嬢のことだ。国の情勢のこともあるし、先日の負い目もある。ヴィクトリア王女殿下狙いだったとはいえ、他の生徒たちも巻き込もうとしていた。そう思うと無下に扱うこともできない。ただ、その……」

そこでチェリクは言いよどみ、軽く咳払いをする。

「ヴィクトリア王女殿下と親しく過ごす時間を阻害されていて少々、苛立っている」

噴き出すのをこらえるのにかなりの労力を必要とした。

「先日のこと王子の態度を見ていただければわかるだろう? あれは、演技でも何でもなく、純粋にヴィクトリア王女殿下をお慕いしていらっしゃるのだ」

以前の私の記憶がムクムクと湧き出てくる。

学生の青い恋、いや、完全にお相手として認識しているならば、それは恋というよりは愛なのか。

頭の片隅の方で、可愛いなぁなどといった不敬なことを考えていた。

中学生男子、好きな子とは一緒にいたいだろう。

「もちろん二人きりなどはお望みではないが、せめてもう少し関わる時間を増やしたいと仰せなのだ。どうしても学園の休日は城に戻ってしまわれて、会う時間がない」

つまり、放課後デートをお望みだ。

「それで、セラフィーナに相談したのは、君は婚約者殿と時間を見つけては勉強を一緒にしていたとか」

「座学が壊滅的だったので教育されていた感じですね」

「今の貴方をみるとそのようには思えないが……まあとにかく、どのような場所で二人で会っていたのだろう? 我々の中には学生時代この学び舎で過ごした者がおらず、あまりそういったことに詳しくないのだ」

ああ、理解した。

逢い引きの場所を知りたかったのか。

だが、私の経験は彼らには難しかろう。

「残念ながら、私たちも婚約者同士とはいえども二人きりは問題がありましたので、主に騎士希望の者たちがいる鍛錬所の隅で、いつも勉強をしていたのです。あそこには机と椅子がありましたから。ただ、これを王子と王女でというわけにはいかないかと……図書室は基本話をすることは許されておりませんし、お二人が一緒にいて問題ない場所ならば、中庭のガゼボとか……」

「すでに邪魔をされているのだ。あと、屋外はやはり護衛に不向きだ」

「ふむ……ならば、談話室でしょうか。小規模中規模いくつかございますが、小規模なものは教師に許可を申請します。ただ、お二人で頻繁に小規模な、護衛以外を排除した小部屋で過ごすことは、何を言われるかわかりませんね」

「あまりよろしくないな……」

「ならば思い切って、人目のあるところでお会いになるのがよろしいのでは?」

ということで、大きな共通談話室をオススメしました。

談話室には大小たくさんのテーブルがある。そのうち一番小さなものに座ってしまえばいいのだ。椅子も二脚、護衛がその周りに控える。

王子はすぐさま私の提案にのったようで、もうすぐ試験もあるし一緒に少しだけ勉強をしないかと王女を誘った。

正直、座学で王女がつまづくことはない。

つまり、一緒にお勉強デートなのだ。

最初お誘いが来たとき王女は戸惑っていた。

王女もまた、デルウィシュ王子が勉強の必要などないことを知っていたからだ。

だが、初めての談話室デートを終えたあとはたいへん機嫌がよく、終わり際に明日もと約束したことを嬉しそうに話していた。

恋する二人を見るのは実に楽しい。

とまあ、ここまでなら良い話なのだ。

それで終わるわけがない、アダレット。

次の日、王女たちが放課後また一緒に勉強をしていると、アダレットが現れた。

「ごきげんよう。試験勉強ですか? わたくしもご一緒させていただいてよろしいでしょうか」

アダレットはいつも通りどこか尊大な態度でやってきた。色々と自信があるのだろうが、今日の王子はひと味違う。

「すまないがテーブルの上がいっぱいでね、あちらに席も空いているしあちらでご友人方と一緒に勉強をするとよい」

一番小さなテーブルをオススメした理由がこれなのだ。

資料や教科書ノートを広げておけば、他の者が入ってくることはできない。

断られることなど想定していなかったのだろう。アダレットは大きな目をさらに開いて唇をふるふると震わせていた。

「し、失礼します、デルウィシュ様、その、少し今使っておられない教科書をまとめていただければ、わたくしどもは構いませんのでアダレット様はご一緒できるかと」

そう言ったのはグローリア。

私は感心してそちらを見る。

たいした根性だ。いつも金魚の糞がごとく付き従っているだけだと思っていたのだが、こんなあからさまな拒絶をものともせずに食い下がるその姿に感動すら覚えた。

だが、今の王子は、昨日の二人でお勉強がたいそう気に入った、好きな子と二人でおしゃべりできたことに浮かれている男の子である。

そう、チェリクからこっそり朝報告を受けている。

この幸せな空間を邪魔する者はすべてが敵なのだ。

「すまないが、どれも必要な資料なのだ。勉強なら別に私たちと一緒でなくとも構わないだろう?」

こんなとき、王女はにっこりと笑ったままである。