軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1.頭を打って思い出したこと

頭をカコンと木剣が打つ。

木剣、頭部直撃は結構痛い。痛いというか、衝撃がすごい。

私はもちろん、周囲もあっと声を上げた。

同時に、ぐわんと頭の中に衝撃が走る。

「セラフィーナ!」

対戦していた同僚たちが、慌てて私に手を差し伸べるが、衝撃に後ろへ倒れてしまう。

頭への一撃は、それはもう、驚くような事態を起こすのだ。視界がぐるりと回り、膝の力が抜けた。

目の端に、木剣が手からすっぽ抜けてしまった同僚の、青い顔が見える。

訓練中の事故に、彼が苦しまなければいいのだが、と思った瞬間。

頭の中に雪崩のように他人の記憶が流れ込んできた。突然頭の中にぱかっと扉が開いたように、どっと押し寄せる。

私のではない、私の記憶。

私は知らない、私の記憶が、怒濤のように押し寄せてきて、処理しきれずに一度己の頭をシャットダウン。

シャットダウンした。

多すぎる情報量に、一度それを止めたのだ。

そして――、

「魔法使えないなんてもったいないっ!!!」

ガバリと起き上がって叫んだ。

あまりに勢いがよく、目の前にあった顔に頭突きを喰らわせる。再びの衝撃。だがそれ以上に心が衝撃を受けていた。

「なんで私、魔法勉強してないの!?」

悲痛な叫びに、周囲の男どもが目を見開く。

「おい! 担架だ! セラフィーナが狂った!」

「団長を連れてこい!!」

「いや、レナード様に連絡しろ!!」

騒がしい中、一人の男が同僚をかき分けやってくる。

明るい茶の短髪に、青い瞳。

「セラ、頭を打ったって」

弾む息に、知らせを受けて思い切り駆けてきたのだとわかる。

「ルーカス! 私、どうして、魔法勉強してないの!?」

私の必死の訴えに、目を丸くする。

「おい!! 早く救護室に! 癒やし手へ連絡しろ!!」

婚約者のルーカス・テネリタスは誰よりも大きな声で叫んだ。

「もったいない、もったいなさすぎるよ!!」

「セラ。落ち着け。頭の打ち所が悪かったのかもしれないが、大丈夫だ。癒やし手がすぐに治してくれるさ」

地べたに座ったままの私の手を握り、そして抱きかかえた。

「もういい、俺が連れてく」

「セラフィーナすまない、本当にすまない。あんな風に手から剣が抜けるなんて」

「あれは事故だから気にしなくていいし、私は元気よ、問題ないわ」

そばに駆け寄ってきた同僚に、笑顔を向ける。

私はいたって冷静だ。

「セラ、もう黙れ。道を開けてくれ」

大変だとつぶやきながら、ルーカスは私を救護室まで運んでくれた。別にもう歩けるからと言ったのに、頑として譲らない。

今日はいつも通り午前中の訓練を終え、午後は模擬戦を行っていた。私の得意とするところだ。私、というよりも、フォルツァ家がこの多対一の戦いを得意とするのだ。小さな頃からしごかれて、だいたい私が一をやり、同僚の第八騎士団のメンバーと戦う。

それが私、セラフィーナ・フォルツァの日常だった。

なのに今、私の中にもう一人の人生を歩んできた者の記憶がある。

癒やし手に様子を見てもらっている間に、結論がでた。あれは、前世の記憶というやつだ。前世の私は……名前は思い出せない。色々曖昧なのだ。ただ、魔法がみじんもない世界で暮らしていた。やがて大病をして死んだのだ。

セラフィーナとは真逆の、運動は苦手な勉強は嫌いではない女性だった。

魔法がなかった。

それでも物語の中の魔法に憧れていた。

「そんなの、魔法勉強してないとか、使えないとか、絶望でしかないでしょうよ!!」

「すみません、まだ様子がおかしいのですが……」

婚約者のルーカスが、騒がしい患者を前に戸惑っている癒やし手に語りかける。

「ルーカス、私はもう大丈夫だよ、ちょっと頭を打って脳しんとうになっただけだよ。もう平気」

「そんな風には見えない」

言い合っても仕方ないことなのだが、おかしいとルーカスが譲らない。困った。

事実私は彼が今までよく知る私とは異なっている。だが、私は未だセラフィーナでもあった。

と、扉が勢いよく開かれる。

茶色に近い金髪に、緑色の瞳。セラフィーナと同じ色合いの、母親によく似た優男。私の二番目のレナード兄様だ。

「セラが頭を打ったと聞いたが」

「そうなんです。世迷い言を先ほどから言っていて、状態はあまりよろしくないかと」

「待って待って!! ルーカスちょっとひどいから」

「そうだぞ、ルーカス。いくら婚約者と言え、世迷い言などと、セラのことを――」

「魔法を使えないのがなぜだとか口走っていて」

「癒やし手よ、早く治しなさい」

ルーカスの言葉を聞くや否や、私の頭に出来たちょっとした傷を綺麗に治してくれた癒やし手に詰め寄る。

「お兄様! 私はいたって正常です。ただ、先ほどの衝撃で、目の前がまるで別の景色になったのです」

嘘は言っていない。

私は私ではあるが、先ほどまでの私とはまた違うものになってしまったのだ。

これまでのセラフィーナとして生きてきた記憶はすべて持っている。はずだ。だがその上でさらに、前世の記憶が押し寄せた。

魔法。

なかった特別な力が目の前にあるのに、まさかのセラフィーナは、勉強してないのだ!!

「お兄様、魔法、魔法を勉強したいです」

レナードは口元を押さえ震えている。

「セラ、お前、学園でどんなことになっていたか忘れているのか?」

試験のたびに、ルーカスにつきっきりで座学を詰め込まれていた。

魔法は向き不向きがあるので、授業はあれども試験はない。そういったものは全部放棄していた。いや、せざるを得なかった。

それほどに、座学に向いていなかった。

だが、当時の私は騎士になるのだからとまったく気にしていなかった。

どう考えても魔法も拳も使える方がいいのに!!!

学園は王宮に仕える騎士団への就職窓口でもあった。私は結婚後、子どもを産んだ後復帰する予定だったので、二年ほど婚約期間を延ばし、同僚とのつなぎを作っておくことにした。これはよくあることだ。高位の貴族でなければよくあることなので、ルーカスも、その家族も初めから了承してくれた。

領地は長兄が継ぐし、とても強い人なので任せておいて大丈夫だ。次兄であるレナード兄様は、今の私の憧れ、剣も、魔法も使えるとても優秀な人だ。その優秀さを買われ、現在すべての騎士団をまとめる将軍位に就いているヴォーアウト公爵の長女と結婚し、婿入りしている。レナード兄様は、第三騎士団の副団長を務めていた。

「お前の卒業を、座学の教師たちに泣いて喜ばれたのを忘れたのかっ!?」

ルーカスが私の肩を揺さぶる。癒やし手が慌てて止めた。

うん、わかってる。教師陣の苦労以上に、座学の試験を落として退学にならないように尽力してくれたのが、婚約者のルーカスだった。

「ごめん、ルーカス。あの頃の私が間違ってた。やっぱり、魔法って大切よ」

「いまさらだろう、セラ」

兄が困ったように首を傾げている。

いまさら……いや、学ぶのに、遅いことなんてないっ!!

「私は、魔法を勉強します」