軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2.何がなんでも魔法を勉強したい!

「私は、魔法を勉強します」

「セラ……」

二人の声が重なった。

私は頑固だ。やると決めたらやる。それを二人は嫌と言うほど知っている。

例えば、毎朝木剣の素振りを百回やると決めた。四歳の頃から一日たりともサボったことはない。やってないのは、熱を出してふらふらなのに素振りをして完全にぶっ倒れて三日間意識をなくした時くらいだ。

「とりあえず、魔法の教科書を読み直すところから始めます。となると……騎士団に所属していると時間がなさそうだわ」

私のつぶやきに二人が顔色を変えた。

「ルーカス、もう結婚しようか!」

「引き伸ばしてきた結婚を魔法の勉強のために使わないでくれっ!!」

むう。確かにそれは失礼だった。ごめん。

「いや、結婚がいやというわけではないんだ、セラ」

「ううん。今のは私が悪い。そうね、騎士団に務めながらだって、勉強はできるっ!」

今日は皆の顔が百面相だ。驚いて恐れて不安そうな顔。

「お前は将来有望な女性騎士のなり手なのだが?」

騎士はどうしたって男性が多い。女性は子を産む。遅れをとってしまうのだ。

だが、王族にはどうしたって女性もいる。男性の騎士では護衛しきれない場所もある。

「魔法を使えればさらに優秀でしょう?」

私があくまで、自分のプライベートな時間を魔法の勉強に使うことの何が問題なのだろう?

「セラ、君は、魔法学の授業は完全に睡眠時間だったし、実技は受けてもいなかった。だからまさか知らないとは思わなかった……魔法は、教科書に書いてある程度のものでは実践で使えない。深く学ぶには学園で教師陣に師事するしかないのだ。特別な補講が毎日夕食後開かれていたではないか」

嘘だ。

魔法を学べない?

「ヤダヤダヤダヤダ、嫌です、嫌です兄様!! せっかく魔法のある世界なのに、魔法を使えないなんて、嫌だあああああ!!!」

「自業自得だろうが!!」

「ヤダー」

涙をボロボロと流す私に兄とルーカス、そして迷惑をかけまくっている癒やし手はぎょっとした。

「ルーカス、これをタウンハウスへ連れ帰る。第八の団長殿に伝えてくれるか?」

「はい」

妙齢の女性が担ぎ上げられ、しくしくと泣いてる姿は、二人を兄妹と知っていても二度見する光景だ。

私は兄の背で、嫌だ嫌だと言い、もう一回学園に行くとぐずる。

兄は、そんな私の様子にはなんとも返さず、ただ黙って何やら考え込んでいた。

その日は湯殿に放り込まれ、無理矢理湯浴みを済ませると、ベッドへ直行。その間もずっとぐずぐずしていたら、小さな頃から私付きの侍女であるアンナが、いい加減にしてくださいと切れた。

でも、誰だって魔法少女になれると知ったらウキウキするだろう。その夢が瞬間打ち砕かれ、じゃあ独学でと言ったらそれも無理だと言われて。

諦めきれなくてベッドの上を転げ回る。

その間にも私は前世の記憶をちょこちょこ思い出していた。

残念なことに名前は忘れてしまったようだ。それでも、あちらの世界の科学知識や日常なんかが、何かするごとに流れ込んでくる。

初めて、誰かに風呂を入れてもらうことが恥ずかしいと思った。同時に、当たり前だとも感じた。

セラフィーナと、名もなき前世の記憶が混じり合い、私が産まれていった。

頭を打って三日。

学園の教科書は衣装部屋の奥に放り込んであったのでそれを漁り、取り出して眺める。

ルーカスに何度も教えてもらったところだ。当時はまったくわからなかったのが、かなりすんなり飲み込めた。一年近く前のことなので、忘れているが、少し読めば理解できる。

うん、前の私、ちょっと阿呆だったかもしれない。

いや、地頭は悪くないと思うのだ。

行軍訓練などの軍の動かし方などは、今も昔もかなり出来る方だと思う。

つまり、興味だ。

まったく興味がなくて覚える気がなかったのだ。

「もったいない」

もったいなくてたまらない。だが、あのときのセラフィーナは身体を動かすこと、剣技を磨くこと、力を得ることにすべてのリソースを使っていた。仕方のないことだった。

セラフィーナは、末っ子長女だ。

兄二人は父親に厳しく育てられた。訓練も過酷なものだった。セラフィーナももちろん訓練にふさわしい年になったときから、父から指導を受けている。兄二人もセラフィーナのことを気遣ってくれていた。

だが、どこか、女の子だからと甘い部分があったように思える。

しごかれたと言っても、兄たちと比べれば甘く、それは結果に表れた。

優秀な兄二人に、決して追いつけないのだ。

記憶をほじくり返して、私はセラフィーナを責めることはできないと、思った。

彼女の普段からの鍛錬へ向かう姿勢は賞賛に値する。自分を律し、常に鍛えることに終始してきた。

ならば、ここから、魔法を習得するのは私の役目だ。

そうすれば、少しでも長兄に、少しでも次兄に、セラフィーナの望み通り近づける。

部屋の扉がノックされた。

「どうぞ」

私は行儀悪く、ベッドの上にたくさんの教科書を並べて吟味中だ。

その姿に、入ってきた次兄、レナードは驚いていた。

「少しは落ち着いたか?」

「……そうですね」

魔法への熱い想いはさらにたぎっている。

それにたどり着く道がわからなくて苛ついてもいた。

「もう一度学びたいというのは本心のようだな」

「ずっと申し上げている通りです。兄様の言うとおり、手元にあった魔法学の本は、初歩の初歩でした。しかも実践ではない。手本の通りにやってみたら、花瓶が割れました」

「魔法を発動できたのか!?」

そんなに驚かなくても、初歩でしかないのに、と思ったが、そういえばセラフィーナは初歩の魔法すら使えなかった。今考えると、使う気がなかった。剣こそ、拳こそすべてと思っている節があった。多分父のせいだ。

「ふむ」

改めて兄は考え事を始める。

「レナード兄様、用事があっていらしたのではなくて?」

「あ、ああ。これを」

一枚の紙を渡された。

紙全体に透かしが入り、中央上部には国のシンボル、三つ足のフクロウ。国王陛下からの辞令だった。

「これ……」

「侍女からお前が勉強を始めたと半狂乱で訴えられた。こっそり様子を見てみれば、確かに、本気で読んでいるようだ。先日の態度といい、魔法を学ぶことを諦めていないのだろう。なぜ今なのか、もっと早くに目覚めることができなかったのかと、詮無いことを思いはすれど、言い出したら決して諦めないのもセラフィーナだ」

私はじろりと控えているアンナを見やった。涼しい顔をしている。あれが、半狂乱になった者の姿か?

「各所に手を回した。将来王族の女護衛騎士として働くだろうお前が、魔法を使えるならばそれに越したことはない。戦術の幅も広がる。思い至るのが少し遅かったが、せっかく本人がやる気になっているのならば、と許可をいただいた」

そう言って、兄はピンと背筋を伸ばした。

「王立騎士団第八部隊、セラフィーナ・フォルツァ、ただいまをもって第三王女ヴィクトリア様の護衛に配属する。護衛としてこの秋より入学のヴィクトリア王女に付き従い、御身をお守りするよう!」

「セラフィーナ・フォルツァ、謹んで拝命いたします!」