軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第52話 ディアンナの陰謀

ゼンスをすげなくあしらった後、再び帰路についたディアンナは途中でまた声をかけられた。

「よお、ディアンナじゃないか」

ディアンナは自分を呼び止めた 斧槍(ハルバード) を担いだ男を見て、目をパチクリさせた。

「あなたは……ギルバート」

ギルバート、彼は第二部隊に所属するBクラス冒険者だ。

10年以上Bクラス冒険者の地位を維持しているベテランの実力者にも関わらず、隊長や上級会員にもならない変わり者だった。

彼いわく、責任ある立場はめんどくさいとのこと。

ディアンナとは旧知の仲である。

「どうしたんだ、ディアンナ。そんな不貞腐れたような顔をして。『私は今、上手くいってません』って顔に書いてあるぜ」

「うるさいわね。ちょっとギルド長に冷たくされてそれどころじゃないのよ」

「あー、あの新しいギルド長ね。うちの部隊長も文句言ってたぜ。隊長である自分をおざなりにして部下にちょっかいをかけただのなんだの」

「ホントにそうよ。こっちは振り回されててんてこ舞いなんだから」

「お前も大変だなディアンナ」

ギルバートはククッとイタズラっぽく笑った。

「他人事みたいに言って! あんたこそ大丈夫なの? ロランの奴、第二部隊のスキル粉飾について突っついてるのよ。事と次第によっちゃアンタもヤバいんじゃないの?」

「フン。あんな奴にシッポを掴まれるようなヘマしねーよ。このまま黙ってるつもりもねーしな」

「へぇ。そう……」

ディアンナは悪巧みの匂いを嗅ぎつけて、目を細めた。

実際、ギルバートはその飄々とした風貌、屈託のない態度に反し、強かに立ち回ることのできる男だった。

ディアンナとルキウスにとってもギルバートは、冒険者達を支配し操るために、幾度となく便宜を図ってもらい、数々の汚れ仕事をこなしてもらった共犯者でもある。

彼女が錬金術ギルドから武器を買い叩く時、気に入らない冒険者を追放する時、ルキウスの圧政を手助けする時、何かとギルバートは裏で動いてくれた。

「どうだ、ディアンナ。久しぶりに飲みに行かねーか? 新しい上司の愚痴を聞いてやるぜ」

「そうね。たまにはあなたと飲むのもいいかもしれないわね」

二人は適当な店を探しにランプの光が瞬き始めた夜の呑み屋街へと繰り出した。

「ここが良さげだな」

ギルバートはあまり人のいない、謀議をするのにもってこいな店を選んで入った。

ディアンナは席に着くと、一通り現体制への不満を愚痴り、その後自分がいかにロランに対して献身的であったか、にもかかわらず自分がいかに不当な扱いを受けているか、これらを涙まじりに切々と訴え始めた。

ロランが今の地位にいるのはひとえに自分のおかげなのに、用済みと見るや否や彼は自分を冷遇し、切り捨てようとしている。

こんなのあんまりだ 云々(うんぬん) かんぬん。

ギルバートはひとしきりこれらの茶番に付き合うと、ディアンナに同情の言葉をかけ、決して誰にも他言しないと言うのなら、権力回復の秘策について話しても良いがどうするか、と提案した。

ディアンナはそれを受け入れる。

「ロランは第二部隊の協力を必要としているはずだ」

「なんでそんなこと分かるのよ?」

「『魔界のダンジョン』を開発しようという話自体はルキウス時代にもあったんだ。しかし、それには、魔導師の多く所属する第1部隊と 戦士(ウォーリアー) の所属する第2部隊の協力が必要だと分かったんだ。結局、両部隊が張り合ったため、その話はお流れとなった。『金色の鷹』は『鉱山のダンジョン』の開発に注力する方が効率的、とルキウスは判断したんだな」

「あー、そう言えばあったわね、そんな話」

ディアンナが思い出したように言った。

「ロランが『魔界のダンジョン』を開発するに当たって、第2部隊の協力は必須。にもかかわらず、第2部隊でロランへの反感が強まっている。この好機を利用しない手はない」

ギルバートは酒の肴をつまみながら言った。

「俺が煽れば第2部隊の奴らは結束してロランとの対立を深めるだろう。それでロランを困らせりゃあいい」

「でも、それじゃあ第2部隊の幹部がクビにされるだけじゃないの?」

「そこでお前の出番さ。ギルド長室に自由に出入りできるお前のな」

「どういうこと?」

「お前はロランの内情を探ってくれ。第2部隊の命令違反をいつまで、そしてどこまで我慢できるのか。俺はそれをもとに第2部隊を操る。そうして第2部隊とロランの間で対立が臨界点まで達した時、俺達が仲裁を申し出る。両者の仲立ちに上手く立ち回ることができれば……」

「ロランと第2部隊、両方への私の影響力が高まる、というわけね」

「まぁ、そういうことだな」

「オーケー、分かったわ。それじゃ、早速、私はロランの懐を探ってみる」

「俺は第2部隊と第3部隊の連中を扇動しとくよ」

「もし成功した暁には……」

「お前は俺の契約更新時、待遇にイロをつけるようロランに口利きする」

「あなたは今後も第2部隊と私の橋渡しをする、ということでいいわね?」

「オーケー、契約成立だ」

二人はすぐに行動した。

ディアンナはギルド長室から見つかった予定表から、今月の19日までにBクラス以上のアイテム鑑定士を3名、23日までに 腕力(パワー) Bクラス以上の 戦士(ウォーリアー) を20名以上、それぞれ『魔界のダンジョン』に送り込む必要があることを突き止めた。

ギルバートは冒険者達の間で、ロランのことを『出資者の犬』と呼び弾劾した。

つまりロランは冒険者達に出資者に都合のいいスキルを覚えさせ、使い潰して利益を上げ、『金色の鷹』を無茶苦茶にした上で売り飛ばすつもりだと触れ回った。

ジルは『精霊の工廠』にある一室で『破竜鎚』を持ち上げていた。

「くっ、ぐうっ」

ジルは『破竜鎚』を持ち上げるのに難渋したが、歯を食いしばって、腕の筋肉を痙攣させながらも、どうにか肩に担いでみせる。

ロランは傍で彼女のステータスを鑑定する。

【ジル・アーウィンのステータス】

腕力(パワー) :80−110

耐久(タフネス) :80−120

俊敏(アジリティ) :80−105

体力(スタミナ) :140−200

(回復率70〜80パーセントってところか。これでも十分Aクラス相当のステータスだ。大抵の装備なら難なく身につけられるはずだが……)

【破竜槌のステータス】

重さ:96

容量:96

威力:200

耐久:200

適合率:40%

(ジルの 腕力(パワー) 80に対して、『破竜鎚』の重さは96!これでは到底満足に扱えない)

案の定、ジルはすぐ苦しそうに顔をしかめた。

「ぐっ、ううっ」

【ジル・アーウィンのステータス】

腕力(パワー) :79(↓1)−110

耐久(タフネス) :79(↓1)−120

俊敏(アジリティ) :79(↓1)−105

体力(スタミナ) :139(↓1)−200

【破竜槌のステータス】

重さ:96

容量:96

威力:200

耐久:200

適合率:39(↓1)パーセント]

(ダメだな。やはり『破竜鎚』を装備しているだけでステータスが消耗していく)

「ジル、そこまでだ」

「くっ、はい」

ジルは『破竜鎚』を傍の台に下ろして一息ついた。

台は『破竜鎚』の重みで軋んだ。

ジルは腕や肩の関節をコキコキと鳴らして、ダメージを回復しようとする。

「どうですか、ロランさん?」

チアルが緊張した面持ちで聞いてくる。

「ダメだな。『破竜鎚』のジルへの適合率40%。しかもステータスの低下に伴って下がり続けている」

「うぬー、やはりそうですか」

チアルは腕を組んで難しい顔をした。

「今のままではどうしてもステータスを消耗してしまう。ジルのステータスが万全になれば、『破竜槌』だけなら装備できるだろうけど、でもジルが装備するのは『破竜槌』だけじゃない。彼女は重装騎士だから、鎧や盾も装備する必要がある。せいぜい適合率70%ってところだろう。重さを削るか、あるいは設計で工夫する必要があるね」

「しかし、これ以上重さを減らすのは無理ですよ」

ドーウィンが言った。

「『ネオクラフト』1個の重さは16ですが、加工が非常に難しい素材なので、剣を作るにはどうしても6個必要なんです。もし、5個以下の『ネオクラフト』で剣を作ろうものなら、設計限界を超えて、ジルのスキル『剣技』Aをもってしても、命中率と威力が激減してしまいます」

ドーウィンが壁に貼られた『破竜鎚』の設計図、そしてそこに書き込まれた数値を指し示しながら説明していった。

「うーむ。となると、鎧や盾の重さを妥協して、あとはやはり素材自体をどうにかするしかないか」

「と、なると銀B+の出番ですね」

ランジュが銀のたくさん入った木箱を台車に載せて押しながら、部屋に入って来た。

「ランジュ! それってもしかして……」

「ええ、全て銀B+です。沢山掘れましたよ。これで『ネオクラフト』の軽量版が生産できます」

「よし。それじゃ早速、『ネオクラフト』の軽量版をつくって、それを基に新しい『破竜鎚』を作ってみよう」

ロランの一声で『精霊の工廠』のメンバーはワイワイと打ち合わせを始めた。

(これでとりあえず『破竜鎚』については様子見かな。あとは……)

「ロランさん」

ロランが考え事をしているとジルがやって来て、顔を覗き込んでくる。

「あ、ジル。大丈夫かい? 『破竜鎚』の装備で消耗させちゃったけど」

「大丈夫です。ロランさんこそ、良かったんですか? 『金色の鷹』のギルド長の方、お忙しいでしょう? わざわざ『破竜鎚』の調整のためだけに『精霊の工廠』まで来ていただいて」

「大丈夫だよ。君は『金色の鷹』の稼ぎ頭だし。それにSクラスモンスター討伐部隊の設立、急がなきゃいけないしね」

(Sクラスモンスターを討伐するには、この街の外にも出て行く必要がある。さしずめ当面の目標は街の外に拠点を作ることと情報網の整備……ってとこかな)

ふとロランがジルの方を見ると、彼女は頰をほんのり赤らめて物欲しそうな目でロランの方を見ていた。

ロランはちょっと困ったような笑みを浮かべる。

「あ、えっと、そうだジル。『魔界のダンジョン』で 腕力(パワー) の高い作業者が不足しててさ。もしよければなんだけど、君も手伝ってくれないかな?」

「はいっ。喜んで」

ジルはロランに仕事をもらえて心底嬉しそうに顔を綻ばせた。

彼女はロランから貰うものであれば、何であれ喜ばずにはいられなかった。

「ロランさーん。ロランさんはいますか? あっ、いた。ロランさん」

クラリアが駆け込んで来る。

「やっと見つけた。ロランさん。この工房ときたら広いのなんのって……」

彼女は色んな場所を走り回って、ロランの場所を聞き回って来たのか、頰を上気させて髪も少し乱れていた。

「クラリア。どうしたの? そんなに慌てて」

「アリクさんから伝令です。鉱石の運搬に人手が足りないから 腕力(パワー) の高い冒険者を早く派遣して欲しいって」

「あ、そうだ。ロランさん」

クラリアの話を聞いて、ドーウィンも寄って来る。

「『キメラの羽』を調達するために必要な 腕力(パワー) の高い冒険者と、『アイテム鑑定』の使える鑑定士どうなってます? 早くしないとダンジョン閉じるのに間に合わなくなってしまいますよ」

「……うん、分かってるよ」

(やっぱり第2部隊に協力を仰ぐしか……、それしかないよなぁ)

彼らとはこの後会うことになっているが、未だに対立状態は解消できていなかった。

それを思うとロランは憂鬱になった。

「ねぇ。ドーウィン」

「はい?」

「冒険者の派遣、やっぱやらなきゃダメ?」

「は? 何言ってんですか。当たり前じゃないですか」

「うう。やっぱそうだよね」

ドーウィンは肩を落として出て行くロランを不思議そうに見遣るのであった。

ギルド長室に入ってきたイスト達を見て、ロランは話を始める前から嫌な予感がした。

彼らの顔からはすでに不満気な様子が見てとれた。

「よく来たね、イスト。ところで……」

ロランはイストの後ろについて来ている者達をちらりと見た。

そこには第2部隊の幹部数名が控えていた。

「呼んだのは。君一人のはずなんだけれど……」

「ギルド長のお話を彼らにも直接聞いてもらいたいと思いましてな。どの道後で彼らにも伝えることです。こうして一度で全員に聞いてもらった方が早いでしょう」

「そうか、まあいいだろう。さて、前回、話した部隊員の装備と訓練変更の件だけども……」

(前回は施設と設備の準備不足から断られたけど、今回はクラリアがきちんと準備を済ませたはず)

「今回はきちんと準備したはずだ。ミゲル達の装備および訓練の変更、受け入れてくれるね?」

「新しい施設と装備の準備、整っていること確認しています。ですが、変更のタイミングについては、私の方で判断して、指示させていただきます」

室内に緊張が走った。

ロランとイストは数秒間にらみ合う。

「……まあ、いいだろう。それはそうと君達に新しい任務を言い渡したい」

「新しい任務?」

「ああ、『魔界のダンジョン』経営に 腕力(パワー) の高い冒険者の人手が足りない。そこで君達に行ってもらいたい」

「突然、訓練変更を指示したと思ったら今度はダンジョン経営のお手伝いですか」

「ギルド長も無茶をおっしゃられる」

イスト達はせせら笑うように言った。

「それで? 行くのか行かないのか」

「構いませんよ。ただし条件があります」

「条件?」

「はい。『魔界のダンジョン』からアリク隊を引き上げていただきたい」

「アリク隊を? いや、それは無理だよ。アリク隊には『魔界のダンジョン』にある鉱山の経営を任せているんだ。一度言い渡した任務を取り消すことはできない」

「では、我々は協力することはできませんな」

「なんだって!?」

「一つのダンジョンを担当できるのは一つの部隊のみ。それが『金色の鷹』での不文律だったはず」

「いや、確かにそうだけれど……」

ロランはまたイライラしてきた。

(冗談じゃない。今さら第1部隊の作業を第2部隊に引き継ぐなんて。それじゃアリクの面子が丸潰れじゃないか)

「不文律なんて……、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう? 『金色の鷹』そのものが立て直しの必要に迫られているんだ。部隊間の軋轢は脇に置いて、お互い協力しあってくれよ」

「そうはいきません。同じダンジョンに二つの部隊が入れば自ずと揉め事が起きます。ダンジョンの出入りから拠点の取り合い、アイテムの配分まで。どちらかが主導権を握らなければ、必ず揉め事が起こるでしょう」

「それは……確かにそうかもしれないけれど……」

「どうしても我々と第1部隊に共同で仕事をして欲しいと言うのなら、アリク隊を我々の下につけてもらいたい」

「いや、それは……」

「もし、それができないのであれば、我々はこの任務断らせていただきます。では」

「ちょっ、おい!」

ロランはイスト達の背中に声をかけるが、第2部隊の面々は止まることなく部屋を出て行った。

(くそっ、まさかここまであからさまに命令に逆らってくるとは……)

ロランは心の中で毒づいた。

「どうしましょう。まさか、ギルド長直々の命令にまで逆らうなんて」

側で聞いていたクラリアは戸惑ったようにロランの方を見る。

「かくなる上は厳しい処置が必要かもしれませんわね、ギルド長」

それまで部屋の隅で縮こまっていたディアンナが、突然身を乗り出して来て言った。

「ディアンナ……」

「向こうがギルド長の指示に従わない、と言うのなら仕方ありませんわ。こちらはこちらで相応の手段を取る他ありません。イストを第二部隊、隊長から罷免しましょう。その他、主だった隊員にも連帯責任として減給や降格、謹慎処分にして、指揮権を取り上げてしまいましょう。そうすれば、第2部隊の連中もこちらの指示に従うはずです」

「それはちょっと……、流石に厳しすぎるんじゃ……」

「ギルド長、厳しい処置やもしれませんが、このままでは示しがつきません。今は何よりもギルド長の権威を示すことそれが肝要です」

「……ダメだ。イストの罷免はもうちょっと待ってくれ」

先程の第2部隊の様子を見る限り、彼らの結束は固いようだった。

もしここで下手にイスト達を罷免すれば、第2部隊との溝はさらに深くなる恐れがある。

(彼らとの契約期間はまだ残っている。今ここで、第2部隊との仲が決定的に決裂するのはマズイ。どうにか彼らを説得して、波風立たないように事を進めないと)

「もう少し様子を見よう。話し合えば分かるはずだ」

ディアンナは肩を竦めた。

しかし、その実、内心ではほくそ笑んでいた。

(やはり、今、第2部隊と全面衝突するのは怖いようね。ここまであからさまに逆らわれても、厳罰に踏み切れないとは)

ディアンナは平静を装いながらも久し振りに自分が主導権を握っている感覚に気分が高揚するのを抑えられなかった。

(ロランは第2部隊を処罰できない。早速、ギルバートに報告しなくちゃね)

第2部隊の面々は、その結束ぶりを示すかのように、ロランの指示に従わず、全員同じ場所で訓練し、退社後も飲み屋に集まっていた。

「ギルバート、お前の言う通り、ギルド長の命令を突っぱねたぞ。これでいいんだよな?」

「ああ、順調だぜ」

ギルバートは盃を煽りながら、部隊長達に向かって喋り続ける。

「いいか。ここが肝心だぜ。弱気になっちゃダメだ。とにかくこっちの真の要求は隠し、無茶振りし続けて、向こうの譲歩を引き出す。それが交渉のコツってもんさ。向こうが出すものは何でも受け取って、こっちは何もしない。間違っても相手にこちらの要求を知られてはいけないぜ。知られれば舐められた上に値切られること間違いなしだ」

「しかし、大丈夫なのか? ここまであからさまに逆らって。もし、これでギルド長が激昂して、我々をクビにでもすれば……」

「そこは安心しな。ちゃんと向こうの懐具合を探るようスパイを放っている。向こうがキレて無茶苦茶することのねーように細心の注意を払ってるよ」

「なんと。そうだったのか?」

「相変わらず抜け目がないな、お前は」

「ロランはウチの鑑定スキルを持っている奴らを必要としているはずだ。19日……つまり二日後にまた向こうから何かしらアクションを起こしてくるはずだぜ」

ギルバートが懐中時計を操りながら言った。

「とりあえずは、それまで様子見で問題ない」

「そうか。それを聞いて安心した」

「ああ、ギルバートがそう言うのならまず間違いはない」

第2部隊の幹部らはほっと胸をなでおろす。

「いいかお前ら。今、ギルド長は就任間も無くて、まだギルド内での地位が不安定だ。強気に出るとしたらここしかない。こんなチャンス滅多にねーんだ。必ずモノにするぜ。なぁに相手は若造だ。臆することはねーよ。ギルド長の席に座っただけじゃ、俺達を操れないってこと、教えてやろうぜ」

「おお、そうだ。その通りだ」

「今こそ、我々の不遇に報い、第2部隊の悲願を叶えようではないか」

「皆で共に戦おうぞ」

ギルバートが盃を掲げると、幹部達も盃を重ねて、結束を誓い合うのであった。

(見たいものしか見ず、信じたいものしか信じない。ククッ。単純な奴らだぜ)

翌日、ロランはアリクに相談してみた。

はっきり第2部隊の下に付いて欲しい、とは言えなかった。

遠回しに、イストが第一部隊の下で働くのを不満に思っているということを伝える。

案の定、アリクは不快そうな顔をする。

「第2部隊以外から人手を集めるわけにはいかないのか? 例えば外部に募集するとか」

「それはダメだ。これ以上経費をかけるわけにはいかない。どうにか第2部隊と折り合いをつけたいんだ」

そう言うと、アリクは力無く首を振った。

「ロラン。済まないがその件に関しては俺も手助けできない。自分の力でなんとかしてくれ」

(どうする? ディアンナの言う通り、イスト達に厳罰を下すか? でも、それじゃ第2部隊との軋轢が増すばかりかもしれない。なら、いっそ第2部隊を自分の直属にして動かすか? いや、しかし……)

『魔法樹の守人』の一部隊と、『精霊の工廠』のギルド長、『金色の鷹』のギルド長。

今でも一杯一杯なのに、これ以上部隊を抱えては体がいくつあっても足りない。

(それにしても……コイツら分かってるのか? 『魔界のダンジョン』の開発に成功しなきゃ、『金色の鷹』はもう後がないんだぞ?目先のことばかり考えて、最終的に困るのは自分達なんだぞ)

「お困りのようですわね。ギルド長」

ロランが悩んでいると、妙に余裕綽々の態度でディアンナが話しかけて来た。

「ディアンナ……」

「よろしければ、第2部隊との仲裁、私がお引き受けいたしましょうか?」

「えっ? 君が?」

「はい。私は以前から第二部隊の何名かと懇意にしていて、彼らに対し今回の件について相談してみたところ、仲裁をしてもよいと言ってくれる者が現れました」

ロランからすれば、まさしく渡りに船だった。

しかし、流石にロランも不審に感じる。

(おかしい。余りにも都合がよすぎる)

ロランはディアンナの顔をじっと見つた。

(コイツ……何か知っているのか?)

ディアンナは内心でほくそ笑む。

(ここでロランが私に頼れば、今後も第2部隊のことは私に任せざるを得ない。そうしてロランからの信望さえ得られれば、ルキウス時代の権力を取り戻すことができる)

「ギルド長。決して困らせるようなことはしません。どうかこの件、私に任せてくださいませんか?」

「少し……考えさせてくれ」