軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 ルキウスの苦悩

『金色の鷹』本部にいるルキウスの下に、驚くべき知らせが届いた。

ジルに関する問題が一段落ついたと思った頃だった。

「なんだと!? ラモンが『魔法樹の守人』を追放された!?」

(くっ。せっかく多大な労力と時間をかけて、モニカを引き抜くための資金を用意したというのに。ラモンが追放されたとあっては交渉のチャンネルが断たれたも同然じゃないか)

今後は、ロランやリリアンヌと直接交渉しなければならない。

引き抜き工作は失敗に終わったも同然だった。

(くそっ。なぜこう何もかもうまくいかないんだ)

ルキウスは頭を抱えた。

彼の頭を悩ませるのはモニカ達のことばかりではない。

ジルが早くも再び造反の兆しを見せていた。

ルキウスが先日、次のダンジョンの攻略方針について計画書の提出を指示したところ、反発してきたのだ。

「私は部隊長就任の要請を受けただけで、あなたの命令に従うと言った覚えはない!」

ルキウスとジルの緊張関係は続いた。

さらにジルはロランの復権を画策しているようだった。

「『金色の鷹』がおかしくなったのはひとえにロランさんを追い出してからだ。彼を再び迎えれば、『金色の鷹』は再び育成を主眼に置いた健全なギルドに生まれ変わるだろう」

ジルはルキウスに反感を持つ連中にそう吹き込んで地道にロラン復帰の地ならしをしていた。

始めは理解されなかったジルの活動だったが、だんだんとロランのことを思い出す人間も現れ始め、「そうだ。あいつは確かにいい奴だった」とか、「あいつは確かに有能だった。なんでルキウスはロランを追放したんだ」などと言い出す会員が増加していった。

このようなこともあって、ジル派に変わりロラン派と名乗る集団が着々と形成されつつあった。

ルキウスはジルの一連の行動を苦々しく思うも状況が状況だけに下手なことをするわけにもいかなかった。

今、この問題が表沙汰になれば、いよいよ『金色の鷹』に対する出資者達の目は厳しくなる。

彼らは何よりもリスクを恐れるのだ。

ルキウスは止むを得ず、一時凌ぎのため、ジルにロランの復帰を約束するのであった。

しかしジルはロランが本当に復帰するまでは、決してルキウスに与しないと返した。

ロランが復帰する目処など立つはずもない。

ルキウスにとってジルに関連する一連のいざこざは終わりの見えない問題になりつつあった。

また、ルキウスは再び街の錬金術ギルドに『精霊の工廠』と取引を停止するよう圧力をかけたが、これについても反発された。

すでにルキウスのやり方にウンザリしていた彼らは、一致団結して反発した。

「ふざけるな! これ以上振り回されてたまるか!」

彼らはルキウスに頭ごなしに命令されればされるほど反発し、『精霊の工廠』との契約関係を固守するのであった。

(なんとか、なんとかしなければ……)

明日には銀行家がルキウスに引き抜き工作の成否について尋ねに来ることになっていた。

そこでなんらかの成果を示せなければ、ルキウスの立場は危うくなるばかりだった。

ロランはダンジョン攻略に向けてクエスト受付所に赴いていた。

(今回はモニカ達だけでなく、リック達のクエストも準備しなきゃいけないからな。やれやれ。人が増えると大変だよ)

「ロランさん? あなたはロランさんでは?」

「はい? そうですが?」

「やっぱり。お久しぶりですね」

「その声、ひょっとしてクラリア!?」

「ええ、そうです」

ロランはクラリアの姿に目を疑った。

以前の華やかさはすっかりなりを潜め、うらびれた姿になっている。

そればかりか、受付嬢だった頃の清潔感は見る影もなく、服はクタクタ、髪はボサボサ、一歩間違えれば浮浪者と見紛うほどの姿であった。

「どうしたの? そんな姿になって」

「それが、ロランさん聞いてください!」

クラリアはロランに縋り付いて、涙ながらに事の顛末を訴え始めた。

彼女はロランによって告発された後、受付嬢をクビになってしまった。

さらに給与3ヶ月分の罰金を裁判所によって科され、財産は差し押さえられた。

前職で懲戒解雇されたことからなかなか新しい職も見つけられず、家賃も払えなくなり、すっかりドン底生活に身をやつすことになってしまった。

「そうして仕事をクビになった上、罰金も払わなければならず、 二進(にっち) も 三進(さっち) もいかなくなって先日、宿の方も追い出されてしまいましたぁ」

「宿も追い出されたって……、君、貯金とかしてなかったの? ……してなかったんだね」

ロランは受付嬢だった頃の彼女の身なり、イチ受付嬢が身に付けるにしては高価すぎる装飾品を思い出した。

身に付けるもの一つとってもそうなのだから、その他の暮らし向きについても、さぞや身の丈に合わない派手な生活を送っていたに違いなかった。

「もうここ数日間、お風呂にも入っていませんし、ロクなものを食べていません」

「そ、そうなんだ。それは気の毒だったね。あっ、そうだ。僕はこれから急ぎの用事があるんだった。それじゃまたね」

「待ってください!」

クラリアがロランの腕をがしっと掴む。

「聞きましたよロランさん。『魔法樹の守人』の出資者になられたそうですね」

「え、ええ。まあ」

「私を雇って下さい」

「えっ!? 君を?」

「ズルイですよロランさんだけ出世して。私のことも助けて下さいよぅ」

「助けてって言われても……」

ロランはクラリアをスキル鑑定してみた。

アイテム鑑定B→B

スキル鑑定C→C

(う、うーん……、微妙……)

「クラリア。悪いけど君のスキルでは……」

「うわぁーあん。お願いです。見捨てないでください」

クラリアはますますロランにしがみついてきた。

「ちょっ、クラリア!?」

道端の人達がロランとクラリアの方を見てヒソヒソと話し始める。

身を落とした若い女性に哀訴されながらしがみつかれて、これではロランが彼女を酷い目に遭わせたように見えた。

「私はただ上司の指示に従っただけなのにこんな風に食い詰めるなんて、あんまりじゃありませんか」

「落ち着いて。分かった。分かったから」

ロランは彼女を落ち着けて、体から引き離す。

彼女は地べたに座り込みながらメソメソと泣き続ける。

「うう……」

「えっと、じゃあ僕の秘書やる?」

「やります。やりますとも。秘書でも、なんなら愛人でもなんでもなりますからぁ」

「……何言ってんだよ。さ、バカなことは言わずに、まず身だしなみを整えようか。そんな格好じゃ仕事にならないよ」

「『魔法樹の守人』のトップが変わったそうだね」

重々しい調度品の置かれた客間で、銀行家が葉巻を灰皿に押し付けながら言った。

ルキウスは黙り込むほかなかった。

「引き抜きは失敗した……。そういうことだね?」

「……」

「どうするつもりかね。今月も『魔法樹の守人』に遅れを取るようなら、私としても資金を引き上げざるを得ないよ」

「ご安心下さい。必ずや巻き返してみせます」

「巻き返す? この戦力差でかね?」

銀行家は呆れたように言った。

「……」

「まあ、君がそう言うなら最後のチャンスをやろう。しかしこれが本当に最後だ。もし今月、目に見えた成果が出せないようなら……分かっているね?」

「ええ、もちろんです」

「本当に分かっているのかね? もはや言葉や態度だけで済む問題ではないぞ。行動で示してもらう必要がある」

「……と言いますと?」

「君にも責任をとってもらう。『金色の鷹』ギルド長の地位は剥奪。役員は一新。さらには我々出資者の 被(こうむ) った損害についても賠償してもらう」

「かしこまりました」

ルキウスは渋々承諾した。

傍でそれを聞いていたディアンナは愕然とした。

(なっ、役員の一新ですって? まさか、私までクビになるの?)

ディアンナは顔面蒼白になる。

『金色の鷹』をクビになって平凡な労働者になればどうなるのだろう。

日がな一日あくせくと働き、そうしてもらえたなけなしの給与の中から、賠償金を工面して、残った雀の涙のようなお金をやり繰りして慎ましい生活に身をやつす。

それは彼女にとって考えただけでもゾッとする未来だった。

(冗談じゃないわ。ルキウスの巻き添えに私までクビになるなんて、そんなの真っ平御免よ。どうにか自分だけでも助かるように手を打たなければ……)

ルキウスは銀行家への公約を果たすため、早速動き出した。

『金色の鷹』本部にてダンジョン攻略会議が開かれる。

しかし、今やセバスタはおらず、ジルも部隊長としての仕事をサボタージュしているため、その場にいる部隊長はアリクだけだった。

(くそっ。なんてことだ。あれだけ強力なメンバーのいたこのギルドが、今や使えるのはアリクだけとは)

そういうわけで会議はアリクの独壇場だった。

「今月もこの街には三つのダンジョンが出現するようだ。だが、もはや我々に戦力を分散している余裕はない!」

セバスタがいなくなり、ルキウスも政治力を失っている中、アリクに反論できるものはいない。

「今や、『金色の鷹』と『魔法樹の守人』の立場は完全に入れ替わってしまった。一方で『魔法樹の守人』には有望な冒険者がわんさかと出現している。我々の優位は完全に消えたのだ。この状況で、三つのダンジョンにギルドの戦力を分散させるのはまさしく愚挙としか言いようがない。我々が『魔法樹の守人』に勝利する方法はただ一つ! 全ての戦力を『鉱山のダンジョン』に集中する他ない! 『鉱山のダンジョン』さえ手に入れれば、離れていった錬金術ギルドの心も取り戻せるはずだ。さすれば我々は再び最強の冒険者ギルドとなるだろう」

アリクはそう熱弁した。

実際、金属の沢山手に入る『鉱山のダンジョン』を攻略すれば、また錬金術ギルドは『金色の鷹』に頼らざるを得ない。

「ゆえに『鉱山のダンジョン』にはギルド内最強の冒険者、最強の部隊を当てるべきかと思う。僭越ながら、『金色の鷹』唯一のAクラス冒険者である 私(わたくし) アリクと、その麾下の部隊が『鉱山のダンジョン』を担当したい。まさか異議のあるものはいまいな?」

会議の場は静まり返った。

誰もアリクに対抗したり、反対したりする者はいない。

皆、アリクの言うことに唯々諾々と頷くのみである。

流石のルキウスも反論する余地は無かった。

(まさかアリクに頼るほかなくなるとはな)

ルキウスは数ヶ月前と比べ、自らの境遇を思い、情けなくなるのであった。

『金色の鷹』でアリクが熱弁をふるっている頃、『魔法樹の守人』でもダンジョン攻略会議が開かれていた。

「セバスタがいなくなり、内部で対立が起こっている今、『金色の鷹』で警戒が必要なのはアリクの部隊だけだ」

ギルド長の席に最も近い場所から、ロランが発言した。

「なるほど。つまりアリクの部隊さえ押さえれば他は取るに足りない相手だと。そういうことですね?」

ギルド長の席から、リリアンヌが確認するように尋ねた。

「はい」

「では、アリクの部隊に『魔法樹の守人』も最強部隊をぶつけましょう。『金色の鷹』は錬金術ギルドを再び支配下に置きたいと考えているはず。アリクの部隊は『鉱山のダンジョン』に向かうと見てよいでしょう」

「そう思います。もし違っていたとしてもアリクの動きを見て、こちらも合わせればいいだけです」

「そうですね。それで……、『魔法樹の守人』はどの部隊をアリクにぶつけますか?」

「ギルド長はまだ就任して間もないので、しばらくは本部に残っているべきかと」

「なるほど。では『鉱山のダンジョン』には……」

「僕が行きます」

ロランが静かに、しかし決然と言った。

(トドメを刺す。『金色の鷹』に、そしてルキウスに!)