軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第29話 酒宴の後で

リリアンヌが『鉱山のダンジョン』を攻略した次の日、ロランは再びエルセン伯の屋敷に呼び出されていた。

ロランは一体何事かと首を傾げながらエルセン伯の屋敷へと向かったが、会食の席にルキウスがいるのを見てギョッとした。

「おお、来たかロラン君」

「エルセン伯、あの、これは一体」

「喜びたまえロラン君。ルキウスが君のギルドのために銀を供給してくれるそうだ」

「えっ!? 『金色の鷹』が?」

「うむ。まあ、座りたまえ」

ロランはエルセン伯に勧められるまま席に座り、ルキウスとテーブルを共にした。

料理が運ばれてくる。

宿敵と共にする会食というのはなんとも奇妙なもので、ロランは終始居心地の悪さを感じずにはいられなかった。

「君達の間で諍いが起こっていることは私も聞き及んでいるよ」

エルセン伯がそう言ったため、ロランとルキウスはギクリとした。

「なんでも街中の錬金術ギルドを真っ二つにして、激しく対立しているようだね。市中の供給業者にも迷惑をかけているとかなんとか」

「「……」」

「君たち双方に言い分はあろう。しかしここはお互い一旦頭を冷やして、その剣を鞘に収め、街と錬金術の発展のために、お互い協力してはくれまいかね?」

「は、伯爵からの頼みとあらばお断りするわけにいきません。我がギルド『金色の鷹』は今までのことを水に流し、街の発展のために、『精霊の工廠』と手を取り合いましょう」

ルキウスはエルセン伯に殊勝な態度を見せるべく、機先を制するように言った。

エルセン伯はロランの方を見る。

「僕は……銀鉱石を供給してくださるなら……、それで特に異存はありませんが……」

「うむ。ではこれで話はまとまったな。以降は互いに資源の分配に関して協力し合うように」

ロランとルキウスは、エルセン伯の目の前で書面にサインした。

書面には双方相手が鉱石不足で困っている時、お互い時価に合わせた適切な価格で鉱石を供給することが明記されていた。

二人はその場で内心の敵意を隠し、偽りの微笑をその顔に貼り付けながらガッチリと握手して、仮初めの協定を結んだ。

「いや、良かったよ。君達二人が和解してくれて。これでこの街の錬金術はより一層発展していくことだろう」

エルセン伯は二人の内心など知りもせずに、満足げに頷いた。

「これで『精霊の工廠』も銀細工の品評会に出ることができるね。本来、貴族の品評会では領内から一人だけ銀細工師を選んで出品するという趣旨なのだが、今回は特別に共作という形で出品することが許してもらえた。『精霊の工廠』に所属しているチアルと『金色の鷹』に所属しているドーウィンの二人の協同で出品してもらうつもりだ。品評会を成功させるためにも両ギルド、両名の奮起と健闘を期待しているぞ」

翌日から、『精霊の工廠』には銀鉱石が供給されるようになり、工房の業務は普段通り回り始めた。

豪雪に閉ざされた雪山もやがて雪解けが訪れ野花が顔を出すように、それまで隠されていた真実はやがて明らかにされ、錯綜していた情報は収束していった。

クエスト受付所は、『魔法樹の守人』が『森のダンジョン』と『鉱山のダンジョン』を攻略したことを公表した。

同時に新たなAクラス冒険者が誕生したことも発表された。

(バカな……)

ウィリクはクエスト受付所の掲示板の前で呆然としていた。

掲示板には 弓使い(アーチャー) 、モニカ・ヴェルマーレがAクラス冒険者に昇格したことを告げる張り紙が出されていた。

(ありえない。こんなことが。彼女は 俊敏(アジリティ) の低い落ちこぼれアーチャーだったんだ。何かの間違いだ。こんなこと……あってはならないんだ)

魔法樹の守人では、ロランが指導係の責任者となることが正式に決定した。

同時に『魔法樹の守人』の幹部となることも。

ウィリクはロランの下で働くことになる。

無論、事前にルキウスとの約束であった『金色の鷹』の特別顧問の話もご破算である。

ルキウスからウィリクの方には一言の連絡も来ることがなくなった。

(こんなこと、私は認めないっ!)

ロランに大見得を切って、完全敗北した上に、ルキウスにも見捨てられたウィリクは、負けを認めたくがないために、街を出て行ってしまった。

その後、ウィリクの行方を知るものはいない。

冒険者の街は、『魔法樹の守人』の話題で持ちきりになった。

今月の『魔法樹の守人』の躍進、その原動力は、今回急成長したモニカ、シャクマ、ユフィネの3人であることは、耳聡い街の人間達によってすぐに突き止められた。

モニカはすでにAクラスのアーチャーであり、シャクマとユフィネについてもAクラスに昇格するのは時間の問題であるということは、すぐに衆目の知るところとなった。

3人は無名の新人から一転、街でも有数の冒険者として突然脚光を浴びることになった。

3人はすぐに至るところで引っ張りだこになった。

街のどこに行くにしても、人々に握手を求められ、話をしてくれとせがまれた。

吟遊詩人達は彼女らの武勇を讃える歌を街中の至るところで歌い、画家は彼女らの勇姿を想像で描き、講談家は彼女らの活躍を物語にして人々に聞かせた。

錬金術ギルドはこぞって彼女らの武器を作らせてくれと申し出て、冒険者達は彼女らと繋がりを持とうと躍起になった。

ただ、彼女らの急成長の背後にいる鑑定士の存在、最近『魔法樹の守人』に加入した凄腕の育成者の存在については、一部の者によって噂されるだけに留まった。

「では、今回のダンジョン攻略を祝しまして、カンパーイ」

シャクマは盃を掲げて陽気に乾杯の音頭をとった。

「「「「「カンパーイ」」」」」

ここは街の酒場。

『魔法樹の守人』は今回のダンジョン攻略を祝して、酒場の一室を貸し切りにした酒宴を張っていた。

会場には『魔法樹の守人』の正団員を始めとして、今回のダンジョン攻略において、臨時で部隊に編入された外部の冒険者と、そしてロラン達『精霊の工廠』のメンバーも招待されていた。

ロランは一応『精霊の工廠』のメンバーと一緒に座って飲んでいた。

「では、私達も乾杯しましょうロランさん」

チアルがロランにゴブレットを差し出してくる。

「こらっ。お前はこっちだろ」

ランジュはチアルから酒を取り上げて、ジュースを押し付けた。

「えー。私もお酒飲めますよ。ランジュさん返してくださいー」

「お前に飲ませたら、ギルドが罰されるっつーの。ていうかエルフは飲酒厳禁だろ」

「うぅー。私も飲みたいですー」

「チアル。料理が来たみたいだよ」

ロランは運ばれてくる肉料理を指差して言った。

「えっ? わーい。お肉だ」

チアルはすっかりお酒のことなど忘れて料理に関心を移した。

「でも、いいんでしょうか。『魔法樹の守人』のお祝いに私達がお邪魔しちゃって」

アーリエが遠慮がちにロランに聞いてきた。

「大丈夫だよ。今回のダンジョン攻略はみんなの頑張りがあってこそのものだし。それに今後、『精霊の工廠』は『魔法樹の守人』とますます繋がりが強くなっていくんだ。みんなにとっても冒険者の話を聞くのは有意義だし、冒険者サイドでもこういう錬金術ギルドとの交流を望んでいる人も多いはずだよ。ほら早速やってきた」

「ロランさん。ダンジョン攻略の際にはお世話になりました」

ロランの部隊に所属していた者達が盃を片手に挨拶にやってくる。

「チアルちゃん。来てたんだね」

「モニカさん!」

チアルとモニカはすぐに親しげに話し始める。

「ロランさん。彼女は?」

リリアンヌ部隊の者が訝しげにロランに尋ねてくる。

「彼女はモニカ、シャクマ、ユフィネの銀製武器を作った者ですよ」

「なんと。彼女が『銀製鉄破弓』の制作者ですか?」

すぐにチアルは銀製武器に興味がある者たちによって囲まれた。

ロランは『精霊の工廠』の他のメンバーも冒険者と交流できるように配慮した。

「彼女が、今回、『霊光石』の精錬を担当したアーリエです」

「ほう。あなたが『霊光石』を」

「あなたの腕の良さは我々も聞き及んでいますよ。『金色の鷹』よりも速く『霊光石』を準備したそうですね」

「アーリエは街一番の精錬士です。『精霊の工廠』の心臓と言っても過言ではないでしょう」

「いやぁ。そんなことないですよー」

アーリエは照れながらも満更でもなさそうにしていた。

ランジュの方はロランが紹介するまでもなく、 戦士(ウォーリアー) の屈強な男達や海千山千の冒険者供と盃を片手に渡り合っていた。

「よお。お前んとこのギルドが『銀製鉄破弓』を作ったそうだな」

「俺にも銀製の武器を作ってくれよ」

「ウチの武器は高いっすよ。一振り50万ゴールドからです」

「うへぇ。そいつは手が出ねぇ」

「ちょっとした馬車が買えちまうな」

「どうだ若いの。一つ飲み比べでというのは」

「いいな、それ。もし俺達が勝ったらタダで武器を作ってくれよ」

「いいっすよ。ただし、俺が勝ったら100万ゴールドの武器購入してもらいますよ」

「やめだ。やめ。普通に飲もう」

「おい、なんだおめぇ、意気地が無えな」

その場にどっと笑いが沸き起こる。

ロランは『精霊の工廠』のメンバーが全員、きちんと宴に溶け込んでいるのを確認した後で、リリアンヌのいる席へと向かった。

「リリアンヌさん。お招きいただきどうもありがとうございます」

「あら、ロランさん。そんな他人行儀にしなくても。あなたはもう『魔法樹の守人』の一員なんですから」

リリアンヌはほっぺをほんのり赤くしながらもはっきりした口調で言った。

さして酔っ払ってはいないようだった。

彼女は先ほどからお酒をほとんど飲まず、勧められても少し口をつけるくらいに留めていた。

上役としての立場からか、ロラン同様、自分よりも他の人が楽しむように気を遣っているようだった。

「ありがとうございます。ただ、一応『精霊の工廠』としての身分もありますし」

「ふふっ。あなたも大変ですねぇ。色んな肩書きを持っていて」

リリアンヌはクスクスと笑った。

二人はしばらくの間、隣同士で座って、語らいあった。

二人で『金色の鷹』を打倒しようと誓い合ったあの日のこと。

『精霊の工廠』の立ち上げから、品評会、ロランが特別顧問に就任するまで。

「思えばここまで長かったですね」

リリアンヌが遠い昔を嘆じるように言った。

「ええ。でもまだまだこれからですよ。『金色の鷹』がこのままやられっぱなしで終わるとは思えません」

「そうですね。これからも気を引き締めていかなければ」

しばらく二人で話していると、モニカ、シャクマ、ユフィネの3人がやって来る。

「ロランさん。正式に『魔法樹の守人』の指導係に就任したそうですね。おめでとうございます」

3人は一人一人、酒瓶を持って来て、感謝の気持ちを込めてロランの盃に酒を注いだ後、側に座った。

ロランは期せずして、4人のうら若き女性に囲まれた。

「ロランさん、楽しんでいますか? えっ? 全然飲まれていないではないですか。もっと飲まないとぉ」

シャクマはすっかり呂律の回らない様子でロランに絡んで来た。

もうすでにかなり出来上がっているみたいだった。

ロランに突然抱きついてきたり、口に盃を押し付けて来たり、犬のように頬ずりしたりして、じゃれてきた。

「シャクマ。だいぶ出来上がっているようだね」

「そんらことありあせんよ。わらしは全然酔ってなんかいません」

シャクマはそう言うと急に涙ぐみ始めた。

「ううっ。ロランさーん」

「どうしたんだよ。急に泣いたりして」

「私はあなたに感謝しているんです。冒険者としてやっていけるか自信がありませんでしたが、あなたのおかげで一躍Bクラスに昇格できて。本当に勝利の女神ですよ、あなたは!」

「僕にとっては君達が勝利の女神だよ」

「女神に祝福のキスを」

シャクマはロランのほっぺにキスをする。

しかし、ロランにとって、シャクマのキスは子犬にほっぺをなめられているような気分にさせるものだった。

彼女の小柄な体格も合間って、ますますそう感じさせた。

ロランは彼女の頭を撫でてやり、他の3人は生暖かい目で二人の様子を見守った。

「ううっ、ロランさーん」

その後もシャクマは同じことを繰り返し言って、ロランにしがみつき続けた。

その間、ユフィネは無表情でチビチビお酒を飲んでいたし、モニカは大人しく後ろの方で困ったように微笑んでいた。

しばらくするとシャクマは酔いつぶれてしまい、ロランの膝を枕にして眠り込んでしまった。

「あーあ。こいつったら。一応上司なのに。失礼しちゃって。すいませーん。毛布貸してくださーい」

ユフィネがシャクマをロランから引き剥がして、介抱する。

「あれ? 天井が下で床が上? おかしいですねぇ。世界が真っ逆さまですよ」

シャクマは長椅子に寝転がりながらうわごとのように言った。

「モニカ、こっちへおいで」

ロランがそう声をかけるとモニカは遠慮がちにロランの隣に座る。

「3人とも凄いね。ダンジョンを攻略するなんて」

「いえいえ、ロランさんのおかげですよ」

「君がタートル・ドラゴンにトドメを刺したんだろ?」

「ええ、でもいいのかなって思っちゃいます。こんな風に持ち上げられちゃって。ほとんどロランさんのおかげなのに」

「そんなことないよ。ダンジョンを攻略したのは、君の努力と実力の賜物だ。君は栄誉を受けるにふさわしい功績をあげたんだ。もっと誇らしげにしていいんだよ」

「そう……ですかね。でもロランさんがそう言ってくださるなら、そうしよっかな」

「ああ、今はまだ周囲の変化に戸惑いを受けているかもしれないけれど、やがてはしっくりくるようになる。それまで待てばいいよ」

「ロランさん。幹部への就任、改めておめでとうございます」

シャクマをどかしてロランの隣に座って来たユフィネが言った。

ユフィネは肩と膝がくっつきそうな距離までロランの側に近寄る。

「私は初めから、ウィリクよりもロランさんの方がいいと思ってましたよ。ウィリクさん、あの人ったら本当に平凡なんだから。その上、負けを認めず逃げ出しちゃって。みっともないったらありゃしない。それに比べてロランさんの男気ときたら」

「はは。ありがとう」

「ねえ、ロランさん。来月の育成計画、もう決まってるんでしょ?」

ユフィネは探りを入れるような目でロランの目を覗き込んで来た。

「さあ、……どうしてそう思うんだい?」

「今後、『金色の鷹』との対立が激化していくことが予想されます。ロランさんほどの人が何も考えていないとは思えません。既存の部隊の強化から、新しい部隊の創設まで色々と考えているのではありませんか?」

「君に隠し事はできないな。その通りだ。色々と考えているよ」

「やっぱり。一体どんな計画を考えているんですか?」

「それはまだ言えないよ。まだ細部を詰めていないのもあるし、君達に聞かせるに相応しい内容でも時期でもないこともあるしね。ただ色々仕掛けようとしている、とだけ」

「えー。いいじゃないですか。聞かせてくださいよぅ」

ユフィネはロランの腕をとって少し甘えるような口調で言った。

普段から誰に対してもドライな態度を見せる彼女にしては珍しい仕草だった。

「ダメだよ。大人の事情もあるんだから」

「ええー、私だってもう大人ですよ。試してみます?」

ユフィネはますますロランにくっついて、ますます腕を絡ませて密着してくる。

ロランの二の腕にはさりげなく彼女の胸が押し付けられた。

ロランは苦笑した。

「はは。そういう意味じゃないよ。別に君のことを子供と思っているわけじゃないんだ。経営上の話でね。守秘義務もあるし、部下にはあえて知らせない方がいいこともあるんだ。経営の話を聞かせてしまったがために、自分の仕事に集中してくれなくなっては困るだろう?」

「大丈夫ですよ。私、経営面の課題を聞いても、自分の仕事を疎かにしたりしません。冒険者としての成績も追求しながら、経営面でもお力になれます」

「なるほど。確かに君はそうかもしれないね。でも、そうだな。そういう話に加わりたいのなら、まずは君が『魔法樹の守人』の幹部になってからだね」

「つれないなぁ、ロランさんは。ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないですか」

「どうしたんだい? なんだか妙に絡んで来るね。君らしくない」

「では、ロランさん、率直に聞きますが、私はAクラスの治癒師になれますか?」

「ああ。なれるよ」

「本当? 嬉しい!」

「むしろ君にはそれくらいなってもらわなければ困るよ」

「じゃあ、来月は私の育成を優先してくださいね。今月はモニカを集中的に鍛えたんですから」

「もちろん、君にはもっと頑張ってもらうよ。今後は、『金色の鷹』との競争がより激しくなっていくんだ。君には今まで以上に頑張ってもらわなくっちゃ」

「はい。私、頑張ります。ゆくゆくはリリアンヌさんのように部隊長になって、いずれはロランさんの右腕になれるように!」

「うん。その意気だ」

「ロランさん。今回、ダンジョン探索をしていて、部隊運用についていくつか疑問に思ったことがあるんですが質問していいですか?」

「ああ、どうぞ。答えられる範囲でだけどね」

モニカはロランとユフィネが話している間、モヤモヤした気持ちでいた。

先ほどからロランはユフィネのことばかり構っている。

ユフィネがこんな風にアピールできる子だったなんて。

自分もロランに話しかけたいが、、ユフィネのように積極的にアピールするなんて、とてもできない性格だった。

(こんなことならずっとチアルちゃんと話していればよかったな)

モニカはしばらくいじけたような陰鬱な表情で二人の会話に耳を傾け続けた。

「では、高低差のある土地での布陣ですが……」

「高低差のある土地では、アーチャーの運用が重要になってくるね。でもそれは僕よりもモニカに説明してもらった方がいいかな。モニカ説明してくれる?」

モニカはロランに話を振られてパッと顔を明るくする。

今の彼女にとって、ロランに声をかけられることは、砂漠に滴る一滴の水、暗い洞窟に差し込む一条の光、飢えた者に施される一切れのパン、にも等しい天からの恵みだった。

すぐに息急き切って話し始める。

「はい。高低差のある土地において、アーチャーの運用で気をつけるべきことは、日差し、風向き、建物の構造、敵との距離、そして味方との距離です。高所を占拠すれば射程が伸びるので味方との距離は軽視しがちになりますが、どれだけ高所を占拠しても地上部隊から孤立してしまっては敵の標的になりやすいため、う、ゲホゲホッ」

「あはは。そんなに急いで喋らなくても大丈夫だよ」

「あっ、すみません。私ったらつい……」

モニカは顔を赤くして俯いた。

「ちゃんと最後まで聞いてあげるから。ゆっくりしゃべってごらん」

「はい……」

(ロランさん。私のことちゃんと気にかけてくれてたんだ。やっぱり優しい人)

その後はモニカも身を乗り出して、ユフィネと競い合うようにして会話に加わった。

ロランは二人の間でバランスをとって間違いが起こらないように気を遣った。

リリアンヌはというとその間、ずっと3人の会話には口を挟まず、グラスに入れたブドウ酒をゆらゆら揺らしながら、余裕を漂わせた雰囲気で二人の少女がロランの気を引こうとする様子を眺めていた。

「おーい。今回の影の殊勲、鑑定士ロランはどこだー?」

一人の酔っ払った男が大声を上げた。

戦士(ウォーリアー) の男だった。

それをきっかけに酒宴の中心で騒いでいた連中が、ロランを探し始めた。

「おっ、こんなところでしっぽりやっていたのか。ダメじゃねーか。お前も騒がなくちゃ。ホラ、こっち来いよ」

「我らが鑑定士に乾杯!」

「これからも頼むぜ」

ロランは大男達に引っ張られて中央で叩かれたり、引っ張られたり、お酒を飲まされたりして揉みくちゃにされる。

「いや、参ったな。あんまりお酒には強くないんだけれど」

ロランは酔っ払って酩酊しながら子供の笑い声と机の上をドタドタ走る音を聞いた。

チアルが上気した顔で机の上を走っていて、ランジュが追いかけているようだった。

「こら、テメッ。待ちやがれこのガキ。結局飲みやがって」

「キャハハハハ」

周りの者達は二人を見てドッと笑い声を上げる。

ほとんどの者が面白がって、チアルのために皿や酒瓶をどかせたりしていた。

ロランは少し乱暴に扱われながらも、ようやく自分のやってきたことが認められ、報われる幸せを味わっていた。

それはようやく自分の居場所を見つけられた幸せだった。

やがて宴もたけなわであったが、解散の運びとなった。

参加者の中には心地よく酔っている者、酔いつぶれている者、ピンピンしている者など様々だった。

元気な者達は酔いつぶれている者を介抱して、帰路について行く。

幹事であるロランとリリアンヌは、酔いつぶれて道端で眠るような者が出ないように、全員がきちんと帰るのを確認するためにその場に残った。

モニカ達3人や、ランジュ達3人には先に帰ってもらう。

酔いつぶれているものについては、しばらく夜風に当たらせて回復するまで付き添ってあげた。

全員が最後まで帰るのを見届けると、ロランはリリアンヌを家まで送って行くことにした。

「楽しかったですね。ロランさん」

「ええ、おっと」

「あ、大丈夫ですか?」

リリアンヌはよろけているロランに肩を貸し与えた。

背の高い彼女は、ロランにとってちょうどいい支えになった。

「すみません。僕も少しばかり飲みすぎたようです」

「ふふ。いいんですよ。このまま帰りましょう」

二人は肩を貸し合いながら夜道を歩いて行った。

「大丈夫ですか? 気分は悪くありません?」

「ええ、むしろ久しぶりに仲間と言える人々と一緒に酔って騒ぐことができて、心地良い気分です」

「若い女の子達に囲まれてチヤホヤされていましたものね。みんな可愛らしい子ですし、ロランさんとしても満更でもなかったのでは?」

「ははは。そんなことありませんよ」

「今のロランさんなら選り取り見取りですよ?」

「やだな。彼女らは部下です。変な気を起こすことなんてありませんよ」

二人はリリアンヌの自宅まで辿り着いた。

「今日はありがとうございました。それでは僕はこれで……っと」

「ああ、危ないですよ」

リリアンヌはロランの手を取って再び支えた。

「すみません。いけないな。いつもあなたには迷惑をかけてばかりですね」

「いいんですよ。むしろもっと頼って欲しいくらい」

「そうも言っていられませんよ。もう人の上に立つ立場なんだから。もっとしっかりしないと」

「ストイックですねぇ。でも大丈夫ですか? そんな足取りでは家までたどり着けないでしょう? 少し休まれた方がいいのでは?」

「そうですね。その辺りの道端で少し夜風に当たってから帰ることにします」

「こんな寒空の下にわざわざいなくても。どうです? ここは私のお 家(うち) に上がって行っては?」

「えっ?」

ロランは思わずリリアンヌの方を見た。

彼女の顔は思っていたよりも近くにあった。

熱っぽく自分を見つめる瞳が飛び込んでくる。

彼女はいつの間にかロランの腕に自分の腕を絡ませていた。

そのままロランに体を預けて来る。

服の上からでも彼女の体のふくよかさと柔らかさが伝わってきた。

それはユフィネやシャクマのような少女とは違う、大人の女性の体つきだった。

ほんの少し顔を動かしただけで彼女の唇に触れてしまう。

ロランは反射的に顔を逸らした。

「ね、ロランさん。泊まっていってくださいよ。いいでしょう?」

「ダメですよ、リリアンヌさん。僕とあなたでは釣り合いませんよ」

「またあなたはそんなことを言って。あなたが私を強くしすぎたせいで、私は重責をずっと一人で背負ってきたんですよ。一人だけAクラスの重責を……」

「リリアンヌさん……」

「ちょっとくらい頑張ったご褒美をくれてもいいじゃないですか。ね、先生?」

ロランはリリアンヌに『先生』と呼ばれてクラクラしてしまった。

彼女は、未だに自分から指導を受けたことを覚えていて、ずっと感謝し、尊敬し続けてくれていたのだ。

そうして、今、身も心も自分に捧げてくれるという。

心は生徒だったあの時のまま、体はより一層女性らしく成長して。

ロランは目の前に広がった幸せに、前後不覚になってしまう。

彼女に導かれるまま、扉をくぐって、ベッドまで連れて行かれる。

二人を入れた家の扉は、翌朝まで開くことはなかった。