軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 伯爵の選択

急遽、生産計画の変更を余儀なくされた工房では、ランジュが忙しく釜の調整をしていた。

その日は銀を精錬しようとしていたため、窯の温度など何から何まで設定を変えなければならなかったった。

一方でアーリエは『霊光石』の原料の選別をしていた。

彼女は工員一人一人のレベルに合わせて、『霊光石』の原料を振り分けていく。

それぞれの箱に入った『霊光石』の原料を一つ取り出して、軽く火にかけたり、金槌で叩いたりしてその触感を確かめる。

(これはBクラス。こっちはCクラスにしかならない。これはAクラスだから私が全部やらないとね)

こうして選別された『霊光石』はそれぞれの工員のレベルに合わせて振り分けられた。

「アーリエさん、窯の用意できました」

銀用から『霊光石』用に窯の設定を変更したランジュが、部屋に駆け込んで来た。

「こっちも準備出来ました。すぐ、精錬に取り掛かります」

アーリエは工員達を指揮してその日のうちに『霊光石』50個を精錬した。

『霊光石』はそのポテンシャルを一つも欠かすことなく完成した。

翌日、ロラン達がダンジョンの前に『霊光石』を持って行くと、そこにはすでに準備を終えた『魔法樹の守人』の部隊が待っていた。

「ロランさん。話は聞きました。ダンジョン探索の準備、完了しています!」

「みんな、済まない。ダンジョンから帰って来たばかりだというのに」

「いいえ。ダンジョンを二つ取れれば、『金色の鷹』に打撃を与えられます。こんなチャンス滅多にありませんよ。『金色の鷹』に一杯食わせてやりましょう」

シャクマが意気揚々と言った。

「聞いてくださいロランさん。セバスタ隊の奴ら、あいつら私達に直接攻撃しようとしてきたんですよ!」

ユフィネが珍しく憤然として言った。

「このままじゃ気がおさまりません。お灸を据えてやらないと!」

「あはは。そうだね。……っと」

ロランはこんな時でも奥の方で大人しそうにしている少女の方に歩いて行って声をかけた。

「モニカ、『森のダンジョン』を攻略したそうだね」

「はい。どうにか」

「いや、君達の実力を侮っていた。まさかセバスタ達よりも先に攻略するなんて。凄いよ」

「そんな……マグレで攻略できただけです」

モニカは頬を赤らめて照れて見せた。

「ロランさん。準備できましたよ」

『霊光石』をアイテム保有士に配分し終わったユフィネが言った。

「よし。それじゃあ作戦を伝えるよ」

ロランはその場で会議を開いた。

「今回はリリアンヌ隊の支援が目的だ。全ては速さにかかっている。だからスピードを重視しつつ、アイテム保有士を守ることができ、なおかつダンジョンを踏破できる最小限の人数で部隊を編成する必要がある。それが今日ここに呼び出したこのメンバーだ。クエストもモンスターもなるべく無視して、最短距離でリリアンヌ隊の下へ、この『霊光石』を届けるんだ」

ロランはあらかじめ、戦闘力よりも探索速度を重視したメンバーを選りすぐって部隊を編成していた。

今回は、『森のダンジョン』で活躍したメンバーをベースに、モニカ、シャクマ、ユフィネと言ったエース格はそのままにして、比較的アジリティの低い者達は除外し、『俊敏付与』を使える支援魔導師とリリアンヌ隊のロージアンを加えておいた。

装備も全体的に軽装になっている。

しかしバランスは損ねていない。

これで最速のダンジョン潜行ができるはずだった。

ロランは日頃から、動員可能な冒険者とそのスキル・ステータス・装備をリストアップしておき、いざという時すぐに対応できるよう用途に合わせて編成のパターンをいくつも考えていた。

「基本的な戦術は変わらない。モニカの『ホークアイ』で最良の道を選び、シャクマとユフィネで戦闘支援する。いいね?」

「「「はい」」」

「よし。それじゃあ、行ってこい。頼んだよ」

モニカ達は早速、『鉱山のダンジョン』に潜り込んだ。

「私が道を案内します。こっちが転移魔法陣へと続く最短距離ですよ」

すでにリリアンヌ隊としてダンジョンを探索したロージアンは、部隊が以前通った道を指し示しながら言った。

21階層は遺跡のステージだった。

「いいえ、こちらの方が早いです」

モニカはロージアンとは違う道を指し示した。

部隊は当然のようにモニカの言う通りに進行する。

ロージアンは慌てた。

「ちょっ、そっちはまだ未探索の道ですよ。こんな時に勘で進んでは危険です。間違って行き止まりに当たってしまったら、時間をロスしてしまいますよ」

「いいから。モニカの言う通りにしな」

ユフィネが嗜めるように言った。

部隊は入り組んだ複雑な道に入って行く。

ロージアンが困惑しながらついて行くとすぐに見知った道に出る。

(こんなルートがあったのか。これがユニークスキル『ホークアイ』の威力っ……)

モニカ達は瞬く間に21階層を三分の一まで踏破する。

遡ること数時間前、ルキウスの下にも『魔法樹の守人』の支援部隊が、『霊光石』の調達を完了して、ダンジョンに潜入したという知らせが届いていた。

ルキウスは驚愕した。

「なっ。もう準備が完了したというのか?」

(バカな。我々よりも早く準備が完了するなんて)

『霊光石』が必要だと聞いたルキウスは、急いで『霊光石』を準備するよう指示したのだが、どこの工房もルキウスからの急な要求に即座に対応しきれず、それどころか渋るような態度を見せた。

ルキウスは規模と強権にモノを言わせて、傘下のギルドに現在行なっている全ての作業を停止させ、『霊光石』の精錬作業に全てのリソースを注がせたのだが、いかんせんフットワークの点で『精霊の工廠』に遅れをとってしまった。

「ええい。どいつもこいつも使えない! まだできたばかりのギルドなんぞに遅れを取ってどうする!」

ルキウスは会議室で気炎を吐いた。

(こうなったら、ダンジョン探索スピードで圧倒するしかない!)

「これは負けられない戦いだ。ここで『魔法樹の守人』に遅れをとっては『金色の鷹』の名折れだぞ! 最強メンバーを揃えて、何としても我々が先に攻略するんだ!」

ルキウスの考える最強のメンバーは単純明快だった。

冒険者ランクの高い者から順番に30名を選ぶ。

その面子には、Aクラス冒険者のセバスタを始めとして、『魔界のダンジョン』から帰って来たばかりのジル(彼女は攻略に当たって目覚ましい活躍をしたばかりだった)、普段は本部の片隅で金物を叩いているドーウィン、そしてコーター三兄弟も含まれていた。

まさにオールスターの様相を呈していたが、その際、スピード重視であるとか、組み合わせの相性や装備のバランスだとかは一切考慮されていなかった。

かくして鼻息も荒くダンジョンに潜り込んだ『金色の鷹』 最(・) 強(・) 部(・) 隊(・) だったが、その行軍は 鈍間(のろま) を極めた。

もともと、連携を無視した急造の混成軍だったこともあるが、それに加えて、『森のダンジョン』で生まれたセバスタとコーター三兄弟の確執が再燃したこともあった。

メンバーは隊列の配置や選ぶ道から、戦術、アイテムの保有比率まで細かなところで言い争い、揉めた。

ジルは焦りと苛立ちを覚えた。

(敵に先行されているというのに、いつまでこんな内輪揉めを繰り返しているんだコイツらは。このままじゃ敵を追い抜くどころか尻尾さえ掴めやしない)

ジルはダンジョンの先をキッと睨んだ。

遺跡のステージは建物が乱立していて、彼女の目の前にも背の高い建物が立ちはだかっている。

「おい、何してる? ジル?」

ドーウィンが怪訝そうに彼女を見た。

セバスタも彼女を見咎めた。

「ジル! 隊列から外れて何をしている。道はこっちだぞ。勝手な行動をするな!」

「道は私が作ります」

(見た目に騙されるな。所詮は土の塊。薙ぎ倒すことができれば、ゴーレムとなんら変わりはない!)

ジルは建物に向かって剣を振り上げる。

「ちょっ。おい、まさか……」

「みんな私について来い! うおおおおおお!」

剣は振り下ろされた。

けたたましい轟音と共に建物の壁は粉々に砕かれる。

ジルはそのまま、降りかかる瓦礫を物ともせずダンジョンの奥に向かって爆走する。

壁が立ちはだかるたびに破壊して進んだ。

「あーあ。無茶苦茶しやがって。装備直すの誰だと思ってんだよ。これだから脳筋は……」

ドーウィンはゲンナリして、苦情を言いながらも彼女の作った通り道を歩いて行った。

「すげぇ」

「みんなジルに続け!」

俄かに活気付いた部隊は我先にとジルの後を追い始める。

「チィ。余計なことを」

とある事情からあまり速く進みたくなかったセバスタは苦々しい顔で先を進むジルとドーウィンを追いかけた。

モニカは進軍しながら、後方から何かが猛烈なスピードで迫って来ているのを察知した。

(風向きが変わった? いえ、変わったのは背後の建物?)

『ホークアイ』で後方を確認すると、重装備の騎士が建物を破壊しながら文字通りまっすぐダンジョンを進んでいるのが見えた。

阻む者は誰一人いなかった。

ジルの猛り狂う進撃を前に、ダンジョンのモンスター達も恐れをなして逃げ惑った。

死の国からやって来た死人も、魂だけの意思持たぬ人形であるゴーレムも、オーク達さえも、建物の破壊音にギョッとしてその場から離れた。

(な、何これ。この人。建物を破壊しながら真っ直ぐ進んでる……。こんなのありぃ?)

瞬く間にジルはモニカ達に追い付いた。

モニカ達とジルは広い道で並走してお互いの姿を認め合った。

『魔法樹の守人』に戦慄が走る。

「あれは! 『金色の鷹』のジル・アーウィン!?」

「Sクラスのポテンシャルを持つ重装騎士!」

ジルは『魔法樹の守人』の部隊を抜かすと、傍の建物の二階に登り、尖塔を破壊してモニカ達の進路に瓦礫をばら撒いた。

「なっ、あいつ私達の進路を!」

ユフィネが唇を歪める。

「くっ。どうします? 瓦礫をどかせますか? それとも迂回しますか?」

シャクマがモニカに聞いた。

「迂回しよう。脇に部隊の通れる小道があるわ」

(進路はこれ一つじゃない。でも……スピードではあっちの方が上。こんなの……どうやって対抗すれば……)

「あーあ。こんなに露骨に道を塞いじゃって。冒険者同士の探索妨害は違法だよ。分かってんの?」

ジルの後ろから付いて来たドーウィンが呆れながら言った。

「私は建物を破壊しただけだ。他の冒険者を妨害する意図はない」

「またそんな屁理屈を……」

「それより剣が折れた。修理しろ」

「はいはい。やっぱりこうなるのね」

ドーウィンはその場で窯を取り出して火魔法で剣を鍛え直した。

モニカ達は隘路を部隊で行軍した。

(しめた! あそこには伏兵が潜んでいる)

ジルのいる高い位置からは、隘路の両脇の建物に、 弓矢を装備した死体(ゾンビアーチャー) が駆け込んで行くのが見えた。

案の定、道を進む彼女らの上から矢が降り注ぐ。

「ユフィネ! お願い!」

「オッケー。『広範囲回復魔法』!」

ユフィネが呪文を唱えると、魔法陣の道ができ、部隊は矢襖の中を回復しながら進んで行く。

さらに部隊の進軍に合わせて魔法陣は前へ前へと進んで行く。

「なっ、なんだあの魔法陣は? 動いている!?」

ジルとドーウィンは目を見張った。

(あの治癒師のスキルか? あんなスキルを開発できるのなんて……)

(スキルだけじゃない。ステータスと装備も考慮した上で、ミッションに最適化された部隊編成。間違いない。あの部隊を作ったのは……)

((ロランさんだ!))

二人は敏感にロランの影を感じ取った。

「チッ。セバスタは何をしている! せっかく道を作ってやったというのに。まだ追いつけないのか」

ジルは背後を苛立たしげに振り返った。

セバスタはいまだはるか後方をモタモタと進軍していた。

(今回の任務はアイテム保有士を最深部まで運ぶこと! いくら私が先行しても部隊全体が前に進まなければ意味がない。このままじゃまた『魔法樹の守人』に先を越されてしまうぞ!)

「ドーウィン! お前も早く……」

「ほい、直ったよ」

「うおっ」

ドーウィンはいつの間にか修復を完了させた剣をジルに渡す。

「ついでに建物を破壊しやすいようにしといたから」

「……どうしたんだ急に。いつになくやる気じゃないか」

「別に。これが任務だしね。それに……」

(流石にロランさんの部隊の前で腕が鈍ったかのように見られるのは本意じゃないしね)

「よし。行くぞ!」

ジルは髪にかかった塵を払うと、剣を構え、再び道を作ろうとする。

「待ってくださいお二方!!」

ジルが剣を振り上げて壁を破壊しようとした時、背後から声がかかってきた。

ジルがぎょっとして振り返ると、そこには一人の霊体がいた。

「これは……スキル『幽体離脱』?」

ドーウィンが霊体を訝しげに見ながら呟いた。

彼はスキル『幽体離脱』により魂だけダンジョン内に召喚された人間だった。

『幽体離脱』は、一定の条件下で、ダンジョン内の知り合いにアクセスできるスキルだ。

「ダンジョン内のどの辺りにいるか分かる」、「100回以上会話したことのある人間」といった条件を満たしている場合にのみ発動させることができる。

ジルは霊体を見て眉を顰めた。

「お前は……確かギルド長の側近の……。一体どうしてこんなところに?」

「ルキウス様より伝言です。ジルとドーウィン両名に命じる。至急、『金色の鷹』本部まで戻ってくるように」

「なんだと?」

ジルは驚きに目を見開いた。

「一体なぜ!?」

「理由は分かりません。しかし、これは厳命です! 両名は何を置いても帰還を最優先にするように」

「しかし……」

「どうしたお前達。何を言い争っておるんだ」

ジルが異議を申し立てようとすると、後ろから追いついてきたセバスタが会話に加わってきた。

「ん? お前はギルド長の側近じゃないか。こんなところで何をしている?」

「実は、ルキウス様よりジルとドーウィンを連れ戻すようにと命令されて……」

「何!? そうなのか? だったら早く戻るべきだ。ジル! ドーウィン! 何をモタモタしておる」

「しかし! 我々には『霊光石』をアリク隊に届ける任務が……」

「何を言っておる。ギルド長が直々に帰って来いと命令しているのであろう? だったら何をおいてもそれを優先すべきだ。ここで命令に逆らえば組織の紐帯に関わる。即刻、帰還しなさい」

「ですが……」

「ええい! こうしてモタモタしている間にも『魔法樹の守人』は先に進んでおるのだぞ! 任務に支障をきたしたくないのであれば、なおさらこんな不毛な言い争いをしている場合ではない。お前達はさっさと戻らんか!」

やむなく二人は来た道を引き返して街に帰還する。

(あれ?)

ダンジョンを進んでいたモニカは異変に気付いた。

「モニカ? どうしたの?」

「なんか背後からのプレッシャーが弱くなったような……」

ジルとドーウィンが離脱した後、アリクに手柄を立たせたくないセバスタは、これ幸いとばかり、あからさまに部隊の進むスピードを遅くしていた。

縮んでいた両部隊の距離は、再び緩やかに開き始めた。

ダンジョンから帰ってきたジルとドーウィンは、休む間も無く、正装に着替えさせられて、馬車に詰め込まれた。

彼らがこれからエルセン伯に会いに行くのだと伝えられたのは、馬車が街を離れてしばらく経ってからのことだった。

ルキウスはエルセン伯から届いた手紙を懐に入れながら、馬車の中でニンマリしていた。

手紙には銀細工、錬金術ギルドのことで相談がある、と書いてあった。

(ようやく我々に頼る気になったか。と、なればロランはもう用済みということかな? 何れにしてもエルセン伯の支援さえ取り付けることができれば、あの口うるさい出資者供も用済みだ)

ルキウスは自分を押さえつける出資者達にこれ以上遠慮しなくてよいことを考えると、自然と嬉しさがこみ上げてくるのであった。

一行の馬車が屋敷に着くとすぐに会食の席に呼ばれた。

ルキウスは自分の他にジルとドーウィンも同席させた。

エルセン伯はジルを一目見て、その美しさにハッと息を呑む。

「彼女は?」

「ご紹介します。彼女は『金色の鷹』に所属するBクラス冒険者、ジル・アーウィンです」

そのままエルセン伯はジルのことをまじまじと見てしまう。

(なるほど。これが噂に名高い女騎士のジル・アーウィンか。ルキウスが気にいるのも分かる。確かに魅力的な女性だ。いやそれどころか、これほど美しい女性は世界広しといえども二人といないだろう。とてもモンスター蠢くダンジョンをいくつも踏破した冒険者とは思えぬ。若い頃であれば全てを投げ打ってでも彼女を手に入れようとしたかもしれんな)

そればかりか、歳をとった今となっても、ちょっとした弾みさえあれば彼女に全てを捧げてしまうかもしれなかった。

ジルの美しさには、それくらいの引力が備わっていた。

彼女は憮然としていたが、それでもその美しさに一点の 翳(かげ) りも差すことはなかった。

ジルがジロリと睨むと、エルセン伯は慌てて咳払いする。

ルキウスはエルセン伯のその様子を見て、ほくそ笑んだ。

これで契約は取れたも同然だと思って。

「君を呼び出したのは他でもない。実は錬金術に関することで少々困っていてね。街中の錬金術ギルドに強い影響力を持っている君の力を借りたいと思ったのだ」

「しかし、それなら伯も高く評価しておられる『精霊の工廠』に頼めばよかったのでは?」

「無論、私もいの一番に彼らに声をかけたんだよ。しかしどうも今、彼らのギルドは銀が不足しているようでね」

「ほう。そうでしたか」

ルキウスは自分の方策が功を奏しつつあるのを知って、内心ほくそ笑んだ。

「新進気鋭といえど、まだ彼らは弱小ギルド。材料の調達に甘いところがあるようだ。そこで……」

「なるほど。弱小ギルドにありがちなミスですね。奇抜な製品を作って一時的に衆目の興味を引くことができても、原料の調達や管理が甘いため、安定した事業計画を立てることができない」

「うむ。流石に街一番のギルドを率いているだけあって計画の大切さをよく分かっている。そこでその君の豊富なノウハウを見込んで……」

「ええ。安定感があってこそ一流のギルドというものです。最近はちょっと始めてはすぐに行き詰って廃業するギルドが多過ぎる。さんざん市場を荒らしておきながら、迷惑は顧みず決して責任を取らない。正直なところこのようなギルドの存在には、我々も手を焼いていましてね。一方で我々は安心ですよ。信頼できるギルドとのみ取引し、堅実な経営をしているため、ちょっとやそっとでギルドの屋台骨が倒れることなど決してありえません」

「うむ。流石に街一番のギルドを率いているだけあってつながりの大切さがよく分かっている。大したものだ。そこでその君の人脈を見込んで……」

「いえいえ。この程度のこと大したことではありません。ただ、当たり前のことを当たり前にできない人間が多過ぎるのです」

「なるほど。至言だな」

エルセン伯は先程から自分の話を遮って露骨にアピールしてくるルキウスに若干うんざりしていたが、我慢して、貴族らしい鷹揚な態度を保ち続けた。

「それで、話を戻すが、先程言った錬金術の件で困っていることというのは、実は、今度、また銀細工の品評会が開かれるのだ。以前のような市民でも参加できる開放的なものではなく、貴族同士の身内で開くものだが、爵位を持つ者が一人につき一名銀細工師を紹介することになっている。そこで私も銀細工師を一人出場させたいと思っているのだが……」

「お任せ下さい。それでしたらここにいるドーウィンが絶品の銀細工をご用意させていただきますよ」

「ほお。彼がドーウィンか。街一番の錬金術師と聞いているが……」

「まさしく。その通りです。彼の手にかかれば鉄クズも宝刀に早変わりですよ」

「それは凄い。しかしロランによると銀の不足は街中で起きているということだが。君のところでは大丈夫なのかね?」

「はい。我々は街中の錬金術ギルドを傘下に収めております。銀など我々の保有している倉庫に有り余るほど転がっていますよ」

「おお、そうか。それは良かった。」

エルセン伯はホッとしたように表情を崩した。

これで目下の問題は解決できると思って。

「ではあらためて君に頼みたい」

「はい。何なりとお申し付けください」

「『精霊の工廠』を支援して欲しいのだ。彼らに銀を供給してやってくれ」

「はい。お任せくださ……えっ!?」

「おお、やってくれるか」

「えっと……ちょっと待ってください。『精霊の工廠』に銀を供給……と言いましたか?」

「ああ、その通りだ」

「それを我々がやると?」

「だって可哀想じゃないか。せっかく育ちつつあるギルドだというのに。材料が無いばかりに上手くいかないなんて」

「えっと、いや、しかし……」

ルキウスは思わぬ展開に言葉に詰まってしまった。

「ん? どうしたんだい?」

「いや、そのなんと言いますか。我々にも色々ありまして……」

「あれ? もしかして君らって仲悪かったの?」

「あ、いえ、決してそのようなことは……」

「なら。いいじゃん。助けてあげなよ」

「いや、しかし……その、業界のしがらみと言いますか……」

「銀は有り余るほどあるんだろう?」

「それは……、はい」

「なら、いいじゃないか」

「えっと、あ、はい」

同じ頃、ダンジョンではモニカ達がダンジョンの最深部に到達して、リリアンヌの元に駆けつけていた。

リリアンヌは無事、霊光石50個を受け取って、ボス『 鎧を着た幽霊(アーマード・ゴースト) 』を倒し、ダンジョンを攻略する。

『鉱山のダンジョン』は『魔法樹の守人』のものとなった。